Neetel Inside ニートノベル
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夏の日の午後
4話「やりきれない午後」

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 とても、楽しい夢を見ていた気がするが、花火をしていた相手が誰なのかはわからない。
だが、実際の出来事であることは確かだ。でも、よく思い出せない……。いや、別に無理して思い出す必要もなさそうだし、いいか。

 時計の針を見ると、午前の7時30分を指していた。あと30分すれば朝食の時間だ。佐藤さんが見られる。
今日はどんな服を着てくるのかな?っと思って楽しみになった。僕は手早く着替えをすまして、自室を出た。

 それから20分後。佐藤さんがねむたそうにテーブルにやってきた。メロンソーダのような緑と白のまたしてもしましまだった。
佐藤さんはしましまが好きなのかもしれないと思った。佐藤さんの髪はぼさぼさ気味だったが、それもまたよかった。かわいい。

 佐藤さんと一緒に食べる朝食のトーストは、格別においしかった。あまりにもおいしかったので、2枚目のトーストを食べてしまいました。笑。

 朝食のあと、佐藤さんと僕はそれぞれの部屋(妹の部屋と僕の部屋)に戻った。それから何分かしたあと、
自室のドアを叩く音が聞こえた。しめきってる自室は(エアコンをつけていたが)とても暑く感じたので、
ドアの叩く音に反応してみることにした。ドアを開ける。向こうには、母親でなくてあろうことか佐藤さんが立っていた(!)。

 何かをして欲しいようなふいんきをかもしだしていた佐藤さんは、申し訳なさそうに僕にこう言った。
「あの…、パソコン使いたいんですけど…いいですか…? 」
「いいですけど…何に使うんですか…? 」
「いや、何でもないです。すみませんでした……」
僕はひきとめた。佐藤さんがとても困っているような顔をしていたから。
「あの…、チャットしたいんです…ネット友達と…」
「はぁ…、わかりました!じゃあじゃんじゃん使っていってください!変なサイトは見ないと思いますけど、見ないでくださいね!
あと、履歴も見ないでくださいね! 」
佐藤さんのクスッっと笑う声が聞こえた。うれしかった。
「ありがとうございます…」
「あの、もしなんなら僕部屋から出てきましょうか? 」
「いや、それは悪いですし…」
「いやいや、遠慮しないでいいですよ! 」
「じゃあ…お言葉に甘えて…」
嬉しそうな顔で、佐藤さんはウインクをした。顔が一気に赤くなるのを感じた。
僕は、ものすごい速さで外出をする準備をはじめた。5分後に家を出た。
「いってらっしゃい」
と、玄関で佐藤さん。「いってきます」と僕。
僕は、自転車の鍵を自転車に差し込んだ。

 行くあてもないのに、僕は自転車をこぎはじめた。その様子はまるで「青春の1ページ」であるかのように思えた。
 ただひとつ違うのは…、僕には友達がいないことだ。いや、正確には「いた」だけど。
  
 僕は、全速力で自転車をこいだ。まわりの景色は、最初はとてもきれいに見えたが、だんだんきれいに見えなくなってきた。
 汗を、かいていた。やりきれない感情と、あの時の後悔に僕は襲われた。ちくしょうめ。

     


 自転車をゆっくりとこぎながら、僕はあのときのことを思い出していた。



 それは、今から一年前。僕がちょうど中学3年のときだった。僕には、友達がいた。
 男と女でひとりずつ、「賢二」と「香奈」。

 賢二は、僕が小学一年からの友達で、大親友である。でも、わけあって今は会ってない。

 香奈は、僕が中学一年の時に出会った友達で、ちょっと変わり者だけど、きれいである。でも、わけあって今は会ってない。


2人と会っていないわけ…、それは3人とも別々の高校に行ったからとかそんな薄い友情じゃない。というと、
喧嘩別れでもしたのか…と思われるかもしれな。でも、違うのだ。

 一年前のあの夏の日の夜に、3人は約束したのだ。

 「7年後、大学を卒業したあといつもの場所で会う。中学卒業したら、それまでは会うのは禁止」

なぜそんな悲しい約束をしたかというと、香奈に進学を優先して欲しかったからだ。
香奈は、将来化学者になることを夢見ていた。その夢…に近づくために、香奈は東大に入りたかった。東大に入ったからといって化学者になれる
とは限らないとは思うのだが…。だから、香奈は東大に入るために偏差値の高い進学校に行かなければならかった。
それはすなわち、香奈が東京に行ってしまうことを意味していた。
でもその夏の香奈は、偏差値も高くなく、その進学校の問題の半分を解くことすらままならなかった。
だから僕と賢二は、悔しくて悲しいけど決心して、香奈のために約束をすることを誓った。
香奈にその約束のことは、花火をする前にメールで言ってあった。
「三人でこうするのも、これで最後だぞ。でも7年経ったら、いつものあの場所で会おう、それまでお互い会うのは禁止。
受験勉強に集中しよう。この夏が正念場だから、一緒にがんばって高校生活をエンジョイしよう! 」
って。

あれから、賢二とはメールもしていない。当然香奈とも音信不通である。

 そう、あれから一年が経ったのである……。
 まだ、一年しか経っていないのである……。

 賢二と香奈には悪いけど、今僕はものすごく会いたい。会いたくても会えなくて、悲しくてやりきれないのだ。
 でもだ、会ってしまうと約束をやぶったことになってしまう。約束をやぶることだけは、絶対にしたくない。
 約束をやぶらないのが、僕にとって唯一「他人に自慢できること」だからだ。でもだ、今は自分の自慢できるところを
捨てでも会いたい。でも、約束をやぶるのは嫌だ。だから会えない。

 自転車をこいで、どこまでも続く雲ひとつない青い空を見ながら、僕はこの半年を振り返った。


 4月。入学式。僕と賢二と香奈は、別の高校に入学した。賢二と香奈は無事、第一志望の高校へ合格できた。
でも、僕は勉強をしていなかったから、地元じゃ「偏差値の低い学校」といわれる学校に、うれしくもないのに合格した。入学した。
でも、だ。僕は「偏差値の低い学校」に期待していた。なぜなら、「偏差値の低い学校」というのは、入りやすい学校というのを意味するからだ。
入りやすい学校なら、中学で出会ったことのないような、もっとおもしろかったり変な奴に出会って、賢二と香奈に負けないような青春を
満喫できると思っていたからだ。

 でも、僕の予想は外れた。
 「偏差値の低い学校」にいたのは、まさに日本社会を象徴するような「同じような人ばかり」であった。
 僕は絶望した。この学校に入学した自分の浅はかさに腹が立った。でも、どうにもならない。
「進学先は注意して決めなさいよ~」
という教師の言葉を思い出した。その日から僕は一変した。
クラスでは、暗いやつだといわれるようになった。最初はものすごくへこんだが、すぐにどうでもよくなった。
さっさとこの高校を卒業したくなった。授業もなにもかも、どうでもよくなった。友達なんて欲しくないと思ったし、友達なんてできなかった。
日に日にやりきれなさが増していった。休日も外に出ることは少なくなり、次第に部屋から出ることも少なくなった。
一週間学校に行かない時もあった。でも、欠課届の手続きがめんどくさいことを思いだしたので、次の週からは
ちゃんと学校に行くようになった。その時からだ。僕に話しかける人間が減っていった。
 入学当初は、ちょっと女子としゃべったりなんかして「フラグktkr」と一人舞い上がったりなんかしてたけど、
今じゃ誰一人、クラスの中心的集団に属してる女子さえ僕に「業務的な連絡」さえしてこない。ようは、そこどいてさえも言われないのである。
 それも最初はへこんだが、次第にへこむのもめんどくさくなって、どうでもよくなった。
 男子は…というと、業務連絡をたまにしてくるくらいである。でも最近は、その業務連絡でさえ反応することもめんどくさくなった。ちくしょうめ。



 ちくしょうめ、ちくしょうめ。やりきれない。
 しかも、最近はそのやりきれなさに加えて、自室であんまりだらだらしてるもんだから、
 「何かやらなければならないけど、それをやる気力もなくて、それが何なのかわからない」から来る、
正体不明の不安が加わった。もう、毎日最悪だ。生きてるのが辛い。そのせいで、間食の量が増えたことも事実だし、
まばたきをするときに右ほほがひきつるようになってしまった。しかも、最近は左ほほもひきつるようになってきている。辛い。

 やりきれないのだ。賢二と香奈に会いたいのだ。でも、約束したから会えないのだ……。


 ふと、我に返った。
 香奈と賢二が、公園でしゃべっているのが見えたのである。

 なぜだ? なぜ約束を破って2人で会っている?


 僕は疑問に思ったと同時に、とてもやりきれない感覚に襲われた。
 心の中から、そしてのどから、何かが込み上げるような気がした。でも僕は歯を食いしばり、つばを飲み込んでそれを戻すしかなかった。


 2人は、キスをした。
 会話を聞いた。

 2人は、付き合っていたのである。

 そのとき、僕は瞬時に理解した。

 
 香奈と賢二は付き合っていて、僕はまわりにそれを勘ぐらせないための、
 ようはカモフラージュだったのである。僕は利用されていたのだ。

 

 結局は、友達なんて、今も昔もいなかったのである。自分の馬鹿さ加減に絶望した。

 僕は、無我夢中で来た道をこいだ。

 でも、こいでもこいでも一向に家は見つかりもしない。
 
 とても、遠くの場所まで来てしまったのである。
 
 暑さとやりきれなさがマッチして、これはこれは壮大な絶望感を生み出していた。

 家に帰ってもやることはない。でも、家に帰る以外やることなんてなかった。
 
 僕は無我夢中で、来た道をこいだ。太陽は容赦なく僕の体を焼きつける。

     


 家に帰ると、笑顔で佐藤さんが僕を出迎えていた。でも、ちっともうれしくない。
僕は鬼のような形相で聞いた。
「佐藤さん、部屋はいってもいいですか? 」
「いや、今はちょっと…」
「大丈夫、ヘッドホンして大音量で音楽聞いときますから…」
「わっ」

 僕は強行突破を行った。佐藤さんがパソコンでどんなチャットをしていたかは気になるけれども、そんなことはどうでもいい。
僕は、乱暴にヘッドホンを探した。まわりにあったCDケースの山は、邪魔だったので全部倒した。佐藤さんは驚いたような顔をしていたようだが、
今の僕には関係ない。ヘッドホンだ、ヘッドホンが欲しい。大音量で、好きな音楽がおもいきり聞きたい。
僕は、ヘッドホンを探しだした。色はオレンジだ。そのあとジーパンのポケットから携帯と変換プラグを取り出して、ヘッドホンにつけた。準備完了。


 それから。




 すっぽかされたように泣いていた。

 男のくせに、僕はおいおいおいと泣いていた。ちくしょうめ。

 なぜ、俺だけこんな思いをしなければなれないのだ…っ!

 神様はいじわるだっ!!! 賢二も香奈も、俺をだましやがって!!!

 くそう…、ちくしょう…。やりきれない…。どうしてなんだ…。どうしてなんだ…。

 …。…。



 

       

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