Neetel Inside 文芸新都
表紙

玉石混交のショートショート集
第一回ビニール傘争奪戦(作:藤山芸者)

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 大学での食堂でいきなり見知らぬ女子に話しかけられた。
「それ、私の傘じゃない?」
ぎょっとした。この傘は雨の日に魔がさしてコンビニの傘立てから適当に盗ったものだ
ったからだ。学校の近くのコンビニだったのでこういうこともあるのかと後悔した。言
い逃れなければ窃盗犯のレッテルを貼られてしまう。認めればラべリングは完了する。
「どこにでもあるビニール傘だよ? これは僕のだ」
「でもそれ…その、シール…」
 見ると確かにオレンジ色の丸いシールが取っ手に貼り付けられている。上の咽と舌が
変なかすり方をして舌打ちが出来損なった。
「僕もこうやってシールを目印にしているだけだ。これは僕のだ。言いがかりをつける
な」
まだ言い逃れようとしたのは、自分が盗みをしたという実感がようやく沸いてきて怖く
なったからだ。
「返して!」
女は息を荒げた。それはそうだ、こんな苦しい言い訳をされたら怒る。
 しかし怒り返せば泥沼、騒ぎが大きくなれば沼底。
 落ちていて拾ったと言ってしまえば、そのまま傘をこの女子に渡して去れるだろう。
だが、勝敗で言うならそれは完敗になる。
「いい加減にしてくれ! 盗った所を見たのか? 証拠は? 君の被害妄想だよ」
まずいことを言っているのは自分でもわかっていた。これはスリルを味わう行為ではな
く、自分を肥溜めに投げ落とす投身だ。
「証拠…そう、コンビニであなたを見た。コンビニの防犯カメラにだって映っているか
もしれない」
背筋が凍った。額がねじられたような感触が目に降りて眼球が乾いた。女がヒステリー
を起こせばまだ水掛け論に持っていけたかもしれないが、この女は声こそ荒げたものの、
頭は冷静であり落ち着いた考えができている。
 冷静ならば何故、傘一つでここまで自分に詰め寄るかが理解できない。理解する気は
なかったが。
 自分の常識では傘一つでここまで騒ぎ立てるのは異常だと思う。実際自分が傘を盗ま
れたとしてもほっとけるはずだ。もちろん五百円をぽんと渡せるわけではない。が、盗
まれたら諦めがつく額だ。
「そうだ。一緒にコンビニに行こう。」
行動力のある女はいい女だが、自分に都合がいい女というわけではないのか。価値観
を蹴飛ばされた。
「いいよ」
 大丈夫ではないが、ここでこう言わなければ女は笑う。妄想のの女は声をあげて笑い
既に責める姿勢を見せている。目は笑っていなかった。
 自分がコンビニの店内にいる映像は映っているだろう。しかし、外の傘立ての様子は
わからない。運試し、スリルに結び付けようとするのは自己弁護の脳が既に回り始めて
いるということで負けの思考。いよいよ肥溜めが近くなってきた。
 女は証明されるのが自明と考えている。女は結論が嫌いな生き物ではないのか?価値
観を蹴っ飛ばされた。
「今認めてくれるならこれ以上何も言わない」
「今謝るならこれから何も言わない」
 そんなことはなかった。当然互いに既に台詞を用意している。たくさんの罵倒の台詞
を。弾奏の中に薬きょうは満杯だった。
「…撃てる!」
「何が?」
つい口に出したのは自分がエイリアンマウスという病気だからだ。ちゃかしながら説明
すると女子は笑った。油断を誘う愛想、または自分の会話センスの勝利。
 
 外は雨が降っていた。だから盗み攻め立てられている。負けの思考。
「傘がないので入れてください」
「いいよ」
傘を盗んでよかったことは雨を避けられることだけだと思っていたが、女子と相合傘を
できるという特典がついてきた。これだけでも傘を盗んでよかったと負けの思考。弱腰
になったものだ。
 しばらく無言で歩く。雨の音はサアアアアアア。車の音はオオオオオオ。心の中はア
イオエウアグケキ。
「アイオエウアグケキ」「!」
 沈黙に耐えられなかったからだ。
「あらぬ疑いなんだよ、だから動揺もするし発狂もする」
「発狂はしてもいいけど場所を選んでください。迷惑…で、う」
「……どうしたの?」
女子が泣き出してしまった。

泣かしてしまったのだろうか。
「うえええええええええええん、え~ん」
耳で聞いた声なら怨霊の咆哮だが、女の子の声は勝手にそう脳内変換された。嗚咽が聞
くに堪えないのだ。
「…大丈夫?戻って保健室行く?」
体調不良だったらこの傘は僕のもので、病室のベッドが彼女のものになる。
「…ぅ、なさい。ごめ……ぃ」
「菜採米?」
「ごめんなさい」
何故だろう謝っている。さっきまでの確信に満ちた表情はどこ吹く風だ、になっている。
「ごめんなさい!」 
こちらの顔を本当に申し訳なさそうに上目遣いで見ている目や、肩を震わせる小動物の
ような仕草が何かを疑わせる。
状況がわからず、自分が言うことも取るべき行動もないだろうということで沈黙した。
アイオエグケキ。
 女子はひぐひぐしたまま、今差している傘の下ろくろの部分を指差した。
「あ…」
そこには女子の名前らしきものがはっきり書いてあった。負けた。
「どうして…」
食堂の時点で言わなかったのか。と続けようとして、自分が自白するのを待ったのか。
と自己完結しようとして、結局分からず答えを待った。
「本当にごめんなさい」
今知りたいのは謝罪の意味で、僕に求めず自分で言うのはどういうことか。僕がごめん
なさいという言葉も知らないから教えてあげるよという意味なのだろうか。僕を馬鹿に
しているのか。頭が混乱している。
 しかし、次に女子が鞄から置き傘を取り出し言った一言で全てがわかった。

「その傘はあげてもよくて、でもきっかけがほしくて―」
僕の答えは…。


つり橋効果。接近密着。相合傘既成事実。
とんだ狂言だ。彼女が僕に求めた「許すか許さないか」は。僕の犯行がコンビニの防
犯カメラに写っているかどうかの確立に似ている。
 
 

     




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「第一回ビニール傘争奪戦」採点・寸評
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1.文章力
 30点

2.発想力
 40点

3. 推薦度
 30点

4.寸評
 これはちょっとダメですね……
 なんというか、全てがズレていると感じました。文章の上滑りっぷりも、登場人物が人間と思えないところも全てが。
 創作は読者に共感してもらってナンボだと思うし、もう少し読者に歩み寄って欲しいものです。

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1.文章力
 50点

2.発想力
 60点

3. 推薦度
 50点

4.寸評
 途中までは文章も読みやすく興味を引かせる展開でしたが、途中、特に終盤の展開と文章は正直期待はずれでした。
 急激に読みづらいキーワード、言い回しが増え、驚きも薄い終わり方。
 トータルで見て及第点からは落ちます。最初の雰囲気でそのまま持っていった方が良かったかも。

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1.文章力 35点
2.発想力 65点
3.推薦度 30点
4.寸評
 まず、文章に粗がありすぎます。誤字も多く、気になってしまいました。それと、盗みをした事を隠す主人公に惚れる彼女が理解できません。というのも、二人の掘り下げが一切ないのです。恋情を絡めるのは少し無理があると思いました。

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1.文章力 55点
2.発想力 40点
3.推薦度 55点
4.寸評

 全編において中途半端に見えてしまった作品。
 この主人公は謂れの無い疑いをかけられているのではなく、罪の自覚のある状態からの言い逃れという状況だ。
 なら、女子の追及をどうしのぐかといった掛け合いを見せ場にするのかと思いきや、あっさりと目撃されていたことが発覚してしまう。
 シールが貼ってあることや、名前が書いてあるのに気付かなかったというオチもややお粗末だが、それよりも後半、恋愛モノのように路線変更をしたかと思いきや、あっさりと終わってしまった展開は唐突と言わざるを得ない。
 作者がどこを見せたかったのかも良く分からず、オチのようなものも無かったように思う。

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1.文章力 30
2.発想力 30
3. 推薦度 40
4.寸評
 読了後に思ったことは「第二回もあるのかな」というもので、それはまた読んでみたい。
 ストーリーも嫌いではないのだが、面白いまでいかず。

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各平均点
1.文章力 40点

2.発想力 47点

3. 推薦度 41点

合計平均点 128点

       

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