本当のところを打ち明けてしまえば、西戸は、あまり唐黍を好かない。
ただ、唐黍と言う一物体が、夏の風物詩の頂点近くに位置している以上、
それを食わない限りは、季節を解せぬ無精者と指さしされるようで、
せめて一度くらいは口にしない限り、妙な罪悪感に苛まれ続けるのであった。
今日、三人が囲んでいる卓子には、図らずも、
唐黍が山に盛られた皿が載っている。
隣の家の者が、夏だからと、頗る勝手な理由をもって、
二十本ばかり送りつけてきたのだった。
親切心は嬉しいが、大の男子三人がその処分をするには、少しばかり苦労がかかる。
かと言って早く食わねば、虫が湧いて悪くなるばかりである。
この二十本は今日の内に片付けねばならぬ。
軽那と結津が、青い顔をして取っては食い、食っては取っているところ、
西戸は何の気もなしに、一本を取り上げてそれを見つめてみる。
縦にしたり横にしたりして色々構えを変えつつ、丹念に観察し始めた。
黄と白の奴が一面にはびこって、艶やかな光を宿している。
一見、それらは行儀良く並んでいるようではあるが、
それぞれ、実が充分に詰まって苦しいほど膨れ帰り、
ぎゅうぎゅう言ってお互いにお互いを押し競饅頭して、
今にどれか、耐え切れなくなって破裂するのではないかと見えた。
何となく、人間の世に似ていると思った。
どいつもこいつも、不要なほど自己主張を強くするから、
むせ返るほどに太った挙句、互いの領地を侵略し始める。
それならばいっそ、多少やせ細っていても、
穏やかに生き延びるほうが楽な話であろうと、
皿に盛られた内で最も下部に位置し、他の者に押しつぶされている、
実も芯もいまいち貧弱な一本を見やった。
「食わんのか。」
軽那はもう五本片付けた。大変な豪傑である。
しかし、歯の間に食いかすが挟まっているのが見え、少々格好が付かない。
「西戸君が参戦してくれなきゃ、僕らは白旗を揚げるしかない。
唐黍を好かないのは知っているが、そこを曲げて頼むよ。」
結津の顔はいつも青い。
その上、無理に唐黍を食わされた為、今日は更に青い。
また、彼が手にした唐黍の実の黄と、
彼の顔の青さとが、色彩面において対極の反映を示すので、
更に更に、余計に青く感じる。
この発見に至って、西戸は思わず噴出す。
それでは一本だけ、と、少しばかり逡巡した後、
先から観察の対象になっていたものにかじりついた。
どうせ食べるなら、やはり実が丸々太って、滋養分の多そうなものに限る。
例の貧弱なやつは、野良猫に、食うか食わぬか試しにくれてやる事に決めた。