Neetel Inside ニートノベル
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春夏
*二年目、新しい季節*

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 * 二年目、バカップル。

 新しい、春の季節です。
 学年が上がり、高校二年生になった私は、先週誕生日も終えて、十七歳になりました。鳴海さんと知り合った日から、指折り数えてみれば、ちょうど半年が経った頃でしょうか。
「んー、いい天気」
「晴れて良かったですね」
 私達は、都心から離れた公園に来ています。随分と温かくなってきたし、今度の週末は、少し趣向を変えたところへ行こう、ということになったのです。広々とした花畑の上で、二人で青い空を見るだけ。心地の良い時間は、ゆっくりと過ぎていきます。
「こういうのもいいねぇ」
「次はサンドイッチ作ってきましょうか」
「あっ。それいいね。ピクニックだ」
「ふふ。なにか可愛らしい響きですよね、ピクニック」
「だよねぇ」
 鳴海さんは楽しそうに笑いながら、摘み取った小さな花を編んでいます。けれど形にならず、ぐちゃぐちゃと、不揃いになってしまいました。
「……あれぇ?」
「不器用ですね。貸してください」
 花畑から数本花を抜き、併せ、輪を作っていく。
「はい、できましたよ」
「さすが」
 鳴海さんは、両手で花の輪を受け取り、自分の頭に載せました。
「うーん、ダメだ。似合わん」
 すぐに言って、今度はそっと、私の頭に載せました。
「やっぱり、お姫様じゃないと」
 それからまた、不器用に手を動かして、小さな指輪サイズの輪を作ります。私も彼女に合わせて一つ、小さな指輪を拵えました。
「鳴海さん、交換しましょう」
「うん」
 私達は指輪を交換し、薬指に嵌めました。
 それは小さく華やかで、とっても綺麗。だけどいつの日か、枯れることのない銀の指輪を、交換したいとも願うのでした。
 
 本日も晴天なり。視界の端に映ったバカップルが、よく映えた。
(……私も、暇な女よねぇ)
 大学を卒業し、気楽なフリーター生活を続けていた今日。バイトが休みとはいえ、手製のカツサンドと、麻薬的な魅力のある漬物につられ、わざわざレンタカーを借りて、こんなところにまで来ている。それにしても、あぁ、漬物がおいしい。
「くぅ~~っ、おのれイケメン! 私も藤原さんとイチャイチャしたいのにぃ~~~っ!」
 かりぽり、ぱりぽり言わせながら、双眼鏡を抱えて離さない少女――一応、現役の女子校生――が、隣の助手席で呻きはじめて、小一時間ほどになるだろうか。
「あきらちゃん、そろそろ帰んないー?」
「なにを言ってるんですかっ! お漬物はまだまだありますから頑張ってっ!」
「……まぁいいけどね。ところで、君も大変ね」
 後部座席に座る、一人の格好良い男の子へ、声をかけてみる。
「いいえ、むしろ雪白様こそ、突然のお誘いに了承して頂いて、ありがとうございます」
 深々と、頭を下げられてしまった。少し古めかしい物言いで、なんだか武士っぽい雰囲気が漂っている。というか、車の座席で正座までしなくても良いと思うけど。
「時に雪白様、姫宮先輩、喉は渇かれませんか。よければそこの自販機で、お茶でも買って参りますが」
「あ、欲しい~」
「私も、奢るから買いに行こうか」
「いえ、お気づかいなく。どうぞこちらでお待ちを」
 隙なく言って、生真面目そうなイケメン武士は、ささっと立ち上がった。颯爽と自販機へ、パシリ……いや、向かっていった。
「あきらちゃん。ねぇ、一応、彼氏なんでしょ、慧くん、だっけ?」
「え? うーん……」
 彼女は双眼鏡から一端目を離す。
 それから「むむむむむ……」と何故か考え込んでいた。
「実は、その……よく、わかんない、です……」
 なんぢゃそりゃ。
 真っ赤になって、もじもじする可愛い子を前に、私は首を傾げるだけだ。

       

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