Neetel Inside 文芸新都
表紙

ある日の日
史樹

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飛び出した史樹は、その場で硬直した猫を抱きしめる。
急いで戻ろうとするがもう、間に合わなかった。
「史樹!」
史樹と車がぶつかる寸前、史樹の首に付けていた丸い玉が光った。
光は、史樹の体を包むように光り始め。
史樹は、スッと車の方を向いた。史樹の目は、両目とも金色になっていた。
車の方に片手を向ける。
車は、史樹の手に当たった瞬間ピタッと止まった。
運転手は呆然として史樹を見ている。
猫を抱きしめたまま、立ち上がりエミの方へと歩き出す。
史樹を見てエミは。
――あの目の色に、あの光、もしかして
エミの目の前まで来た史樹は。
「後は、お願いね」
「え?」
史樹の口から声は。
「ルカさん?」
史樹の目は、元の色に変わった。
「あれ?俺・・・」
史樹は、いつ自分が抱えている猫を助け出したのか首を傾げる。
「あの、エミさん」
「えっ何?」
「俺どうやって助けたの?」
「な、何言ってるの道路に飛び出してすぐに猫を抱えて戻って来たじゃない」
「え、そうなの?」
「そうよ、じゃ早く行くわよ」
そう言って信号を渡って行く。
「待ってエミさん」



家に戻った二人。史樹は、助け出した猫を自分の部屋に置いた後いつもの4人で夕食を食べた。
夜。史樹と美夏が寝てからエミは、ユミに今日のことを話した。
「それって」
「うん、多分あのペンダントにルカさんがいるんだと思う」
「それで、史樹様に車がぶつかる瞬間に体を借りてルカさんが出て来たってことね」
「おそらく」
二人が話をしていると。
「二人ともまだ起きてたんですか?」
目を擦りながら史樹がやって来た。
「もうそろそろ寝ようとしてたんだ」
史樹の顔を見て笑顔を見せながらエミが言う。
「そうですか・・・」
史樹は、眠そうに冷蔵庫のところまで行き中を開け飲み物を出し。
カウンターにコップを置き牛乳を注ぐ。
すると、下からぴょんとカウンターの上に史樹が助けた猫が乗っかった。
黒猫は、お座りをしながら尻尾を振りながら青色の瞳で史樹を見つめる。
史樹は、飲みながら黒猫の頭を撫でてやる。
その光景を見ていた二人。
特にユミは、自分以外に猫が史樹に撫でられているのが悔しいのか、ずっと黒猫を見ている。
飲み終わると史樹は、自分の部屋に戻って行った。もちろん黒猫も史樹の後に続く。


朝。学校へ向かう史樹、ユミ、美夏。
玄関を出て行く際に。
「行ってきます。エミさん」
「行ってらっしゃい」
エミの隣には、黒猫がお座りしている。
史樹は、かがんで黒猫に。
「必ず帰って来るから」
そう言うと。
「にゃ~~~」
返事をするように鳴いた。
史樹たちは、学校へ向かった。


学校に着くと教室には、すでに直輝とラ―スが来ていた。
「よっ史樹」
「おはよう」
「おはよう、二人とも」
席に着く史樹。隣に座るユミ。直輝とラ―スは、史樹の机の前にやって来る。
「史樹昨日何してたんだよ」と直輝。
「えっ!まぁ~のんびりしてた」と史樹。
「のんびりしてたってサボってたのかよ」とラ―ス。
「・・・・・・」
黙ってしまう史樹。
「まぁ~いいや」
軽く溜息をしながら直輝が言った。


午前中の授業は、のんびりとしていた。が、昼が近付くにつれて史樹は、頭が痛くなり始めていた。
昼休み。史樹の頭痛が激しくなり痛みに耐えることができず、片手で頭を押さえて保健室に向かった。
史樹の後ろ姿を直輝、ラ―ス、クラスに来ていた美夏、まーちゃ、涼華達は、心配そうな顔をしていた。
ユミは、保健室に向かう史樹を支えながら一緒に歩く。
保健室に着くと先生はいなかった。
とりあえず、史樹をベットに横にするユミ。
「すいません、ユミさん」
「いいんです。それより、大丈夫ですか?」
「まだ、痛い・・・」
心配そうに史樹を見つめるユミ。
その直後。今までで一番の痛みが史樹の頭を襲った。
「ぐっわああああああああああああああああああああああ」
史樹の叫びとともに史樹は、意識を失った。

     

意識を失った史樹をユミは、急いで職員室に行き先生を呼び。
ユミとともに保健室に来た先生は、救急車を呼んだ。
数分後。救急車が来たが以前、史樹の意識は戻らないまま。
ユミは、救急車に乗り込もうとするといつの間にか直輝たちが集まっていた。
一緒に乗り込もうとする直輝たちをユミが止めた。
ユミは、言った。「行くのはわたしだけでいい」と。
そう言い残しユミは、救急車に乗り病院へ。


病室に運ばれた史樹は、目を瞑ったまま起きない。
医者の話によると意識を失ったのは、強い頭痛からだと言う。
もう一度同じような事があると史樹の脳に、麻痺が起きてもおかしくないと言われユミは、愕然とした。
史樹の隣で座っていると美夏の連絡で息を切らせながらエミがやって来た。
エミを見たユミは、泣き出しエミに抱きついた。
泣きつくユミの頭を優しく撫でるエミ。
そのあと、史樹を見て。
「・・・史樹帰って来て」


「ここは・・・」
史樹は、白い空間に一人でいた。
周りには、何もなくただどこまでも白い空間が広がっている。
前に歩く。歩いても歩いても何も史樹の目の目には、何も出てこない。
膝を付く史樹。
どうすれば、ここから出れるのか。
その時だった。
「史樹・・・」
不意に後ろから聞こえてきた声。どこかで聞いたような声だった。
声がした方に振り向くとそこにいたのは。
「私を覚えてる?」
「春・・・美?」
白い服に身を包み黒い髪を揺らし背中からは、真っ白い翼を生やした春美だった。
「そう、私は春美。史樹の幼なじみで・・・恋人だった」
目を瞑って静かに言う。春美の言葉は、優しさを感じられた。
「史樹・・・ここどこだか分かる?」
何も言わず首を振る史樹。
「ここは、貴方の記憶の中」
目を開けて史樹を見ながら言う。
「記憶を失ってからというものここは、真っ白なの」
史樹に歩み寄りしゃがみこんで春美は、史樹の額に自分の額をくっ付けてる。
春美は、史樹に小さな声で言った。
「史樹・・・目を閉じて」
言われるまま史樹は、目を閉じた。
史樹が目を閉じると春美は、翼を上に伸ばし優しく翼で史樹を包み込むと春美が。
「今から史樹の記憶を少しだけ思い出させてあげる」
すると、春美の体が光り始め光は、史樹を包み始める。
光に包まれた二人は、その中で。
「これは・・・」
下を見るとカメラのフィルムみたいなのが大きく二人の下を通過して行く。
「これは、史樹が失った記憶のほんの一部・・・私が蘇られいるの」
史樹と春美が初めて会ったこと。二人で遊んだこと。親に怒られる史樹。春美の家に泊まったこと。春美が引っ越ししてしまったこと。
春美が帰って来たこと。恋人同士になった時のこと。春美が死んでしまったこと。
春美は、自分が生きていた時のことを史樹の頭の中に蘇らせて行く。
すると、史樹は。
「思い出したよ」
史樹の目は、記憶を失う前の目つきに戻っていた。
「でもね史樹。これは、すべてじゃないの」
「分かってる。まだ、一部なんだろ?」
「そう」
「今の俺が覚えてるのは、お前が・・・死んだところまでだ」
「・・・」下を向く春美。
「当然、お前が死んだ先にも記憶があるんだろ?」
「そう」
この時春美は、悔しがっていた。
出来れば、史樹の記憶をすべて蘇らせてあげたい。
だが、それは出来ない。
「一つ聞きたい」
「何?」
「今の俺、つまり記憶を失くしている今の俺は、どんな奴なんだ?」
「とても・・・いい奴だよ」
「そうか・・・あともう一つ。全部記憶を戻ったら今の俺の時の記憶は、どうなるんだ?」
「記憶を取り戻したら今の史樹の記憶は、史樹に蓄積せれるの」
「そうなんだ・・・」
軽く笑う史樹。
「今の俺・・・どんな奴なんだろ」
「それは、記憶が全部戻ったらのお楽しみ」
軽く笑うと光が消えた。
少し前まで真っ白だった史樹の記憶の中は、春美とのすごした記憶がシャボン玉のようなものに、包まれてあっちこっち漂っていた。
「ありがとう春美。お前のおかげで少しだけど思い出すことができたよ」
史樹の言葉を聞いた春美は、史樹を見て抱きついた。
「は、春美?」
「少しだけこうしてていい?」
「・・・ああ、いいよ」
優しく抱く史樹。
「史樹・・・まだ私のこと好き?」
「好き・・・だけど今は」
「・・・そう」
目をつぶる春美。
しばらく、すると。
春美は、史樹から離れる。
「そうよね、私のこと今でも好きなはずないよね」
笑っているが泣きそうだった。
「ごめんな・・・」
首を振るう春美。
「謝らなくていいよ・・・」
下を向いて泣くのを堪えるが。
膝をついて座り込み涙がこぼれた。
「っ!」
史樹は、何も言わずに春美にキスした。
春美の唇は、震えていて冷たく涙で濡れていた。

       

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