第2章 魔術士の村
門を抜けると目の前には草原が広がっていた。しかし、エルロード王国は北方に位置し、冷涼な気候のため昔、このあたりは針葉樹林で囲まれていた。これも天然の要害として機能し、エルロードが難攻不落を誇った所以でもある。だが、終末戦争で森林は焼き払われこの辺りは焼け野原になった。気候のため植物はなかなか育たず、かろうじて現在は草本だけが生えている。この殺風景な光景も戦争の爪あとを物語っている。
「昔のエルロードは緑豊かな自然に恵まれ、とても美しい国だったと言われていたらしい。今ではこのような有様だ・・・・・。戦争というものは虚しいものだ・・・・・・。」
ロイドはこの景色を見ると、ふとそんなことを思ってしまう。しばらく草原を眺めた後、ロイドは気を取り直して草原をゆっくりと歩き出した。
「とりあえず、南にある『魔術師の村 ベルゼルグ』へ行ってみるか。」
ロイドはそう思うと、南方を目指して歩いていった。・・・・・・・・・
あれから、どのぐらい歩いただろうか。草原は夕闇に染まりつつあった。するとロイドの目の前に広い草原の中に佇む、小さな村が見えた。
「ベルゼルグだ!!」
ロイドは村へ足早に向かった。
魔術士の村 ベルゼルグ
「魔術士の村 ベルゼルグ」はビュリック共和国との国境近辺に位置する辺境の小さな村で、古くから魔術士たちの隠れ里であった。そのため、めったに来客はなく、ましてや夕暮れ時だというのに、今日の村はいつもよりにぎわっていた。
「この賑わいは何なのだろうか? まあ、今日は宿をとるとするか。」
ロイドは近くの宿屋に入っていった。宿屋にはいると女中がでてきて、たいそう驚いた顔をした
「これは騎士団長様、このような所になんの御用で?」
ロイドは魔法騎士団長であるため、この国では名は知れ渡っていた。
「公用でな、ここに立ち寄ったんだ。とりあえず部屋を頼む。」
「はい、只今。」
「ああ、そうだ。今日の村は何故こんなに賑わっているんだ?」
ロイドは女中に質問してみた。
「実は明後日は村の年に一回の儀礼の日なのです。その・・、村の風習で16才になった魔術士を旅立たせる日なのです。だから一週間前からいろいろと祭りが行われているのです。詳しいことは長老に聞いてみてください。」
「なるほど、もしかしたら冒険の仲間が見つかるかもしれないな・・・・・。」
ロイドはそう考えたので、明日長老の家へ行くことにした。そして祭りの歓声とともに夜は更けていった・・・・・・・。
翌日
ロイドは長老の家へ向かっていた。長老の家はベルゼルグのはずれにある小高い丘の上にあった。しばらく丘を上っていくと、レンガ造りの古い家が見えた。
「あれが長老の家か・・・・・。」
家に着くと、ロイドはドアをノックしてみた。しばらくして、
「はい、どちらさんでしょうか?」
そう言って、あごひげを蓄えた老人が出てきた。
「これはこれは、騎士団長殿ではないか。」
老人は開口一番、そう言って驚いた。
「あなたが、長老だな?」
「いかにも、わしが長老じゃ。」
「実は、尋ねたいことがあってな。」
「まあ、立ち話も難じゃ、あがってくだされ。」
ロイドは中へ通された。そして、ことのいきさつを話し始めた。
「なるほどのう・・・・・・・。」
ロイドがすべてを話すと、長老はうなだれながら考え始めた。
「だから、優秀な魔術士を仲間にしたいんだ。頼む!!」
ロイドは必死で説得した。すると、
「分かった。わしに1人心当たりがある、明日村の広場へ来てくだされ。」
「協力感謝する。」
そういってロイドは宿へ戻っていった。
旅立ちの儀礼 当日
早朝、ロイドは祭囃子の音で目が覚めた。朝早いというのに、村ではあちらこちらに屋台が立ち並び、たくさんの人々でごった返していた。村全体がお祭りムード一色といったかんじである。ロイドは部屋を出ると、女中に聞いてみた。
「そんなにめでたいのか今日の儀礼は」
「それは、年に1回の日ですから。それにこの儀礼は、見習いの魔術士が一人前になるための最後の試練でもあるのですだから、いろいろと重大な意味があるのです。」
「なるほどな・・・・・・。」
ロイドは宿代を払い、村の広場へと向かっていった。
ベルゼルグ 村の広場
広場にはたくさんの魔術士たちがいた。ロイドが長老を探していると、
「騎士団長殿ーーーーっ。」
後ろから長老の声が聞こえた。振り向くと長老とその横に魔術師の少女がいた。彼女は茶色の長髪で、小柄な身体に桃色のローブをまとっていた。
「長老、この娘がその魔術士か?」
「いかにも。ほれ、騎士団長殿に挨拶しなさい。」
すると、少女はロイドの前へ出てきた。
「ユリア・マーレックっていいま~す。よろしくね~。」
「ロイド・アルナスだ。」
そして、ユリアはロイドをじろじろ見ると
「なんだかあんた暗そうね~。」
こんなことを言った。
「暗いとは何だ!!失礼な奴だな。」
ロイドは長老に尋ねた。
「こんな生意気で軽そうな娘が、本当に優秀な魔術士なのか?」
「ユリアはおてんばで能天気だが、持っている潜在能力はかなりのものじゃ。まあ、我慢してくれ。」
しばらく、ロイドとユリアがもめあっていると、
「やあ、ユリアじゃないか。」
遠くから別の男の声がした。
「ヘンデル!!」
「ヘンデルって誰だ?」
「ヘンデル・コリンズ。私の幼なじみよ。」
ヘンデルは長身の銀色の長髪で青いローブをまとっていた。そしてこちらに向かって歩いてくると、
「こちらの騎士団長さんは君の仲間かい? まあ、僕は君と違って優秀だからね、仲間なんて要らないのさ。 まあ、せいぜいがんばってくれよ。」
そのようなことを早口で喋り、
「じゃあね、アディオス!!」
後ろでに手を振りながら、去っていった。
「いつ見ても、感じの悪い奴ね!!」
ユリアは眉を吊り上げてそう言った。そうこうしているうちに旅立ちの儀礼は始まった。
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儀礼も終盤をむかえ、最後に長老による祈りの言葉が捧げられた。
こうして旅立ちの儀礼は終わり、ロイドとユリアは長き冒険へと、旅立っていった。
第二章 完