こんばんは。
千世子です。
私がお酒好きというのは、皆さんもご承知の通りだと思います。何を今さら、ですね。
しかし残念なことに、私の周りにはお酒好きが少なく、何かと1人で行動することが多くあります。主に、お店選びのときですね。
カウンターのお寿司屋さん。
お蕎麦屋さん。
ショットバー。
そして、居酒屋。
おおよそ、友達に言えばヒかれるようなところも1人で行っていました(念のため言っておきますが、ホストクラブとかは行ったことはありませんよ)。
ですが、そんな私でも1人じゃ行けそうにない、そう思っているところがありました。
それが、立ち呑み屋。
「だから、立ち呑み屋に行きたいの」
「はあ、そうですか」
こんなときこそ、ステキな彼氏さんの出番ですね。
聞けば立ち呑み屋もちょくちょく行っているとのこと。うーん、ますますいい感じです。
「言っておきますが、あんまり落ち着ける場所じゃありませんからね」
「その辺は大丈夫」
私の持つ立ち呑み屋のイメージは……
・パっと入ってパっと出る。
・千円以下に収める。
・ハシゴの1つ。
そんなイメージを言ったら、「そこまで硬派じゃないですよ」と笑われました。
む、むー。
山崎くんに案内され、普段から使用している駅の地下街に行きました。ここの立ち呑み屋は、普段はフツーの街の酒屋さんで夕方から立ち呑み屋をしているそうです。
それにしても、お酒のスペースよりも立ち呑みスペースのほうが広いのですが……やっていけるのでしょうか。
腰より低いテーブルが並んでいて……本当にイスがありませんでした。
「ここは、向こうのカウンターのところで酒やつまみをもらってくる、後払い制なんです」
「へー、そうなんだ」
「テーブル番号を言って、好きなものをもらってきたらいいですよ」
どうやらソワソワしていたようで、「先、どうぞ」と言われました……
人の間をするする抜けていくと、ありますあります、小皿の類が。
トマトスライス、枝豆、たこわさ、塩辛、おでんなどなど。お酒もいろいろ、不釣合いにも感じるワインまで。
うーん。
ちょっと悩んで、とりあえず無難に頼んで戻りました。
「ただいまー」
「……ずいぶん控えめですね」
「そう?」
「それは……?」
「日本酒と塩辛」
私は両手の物を置いて答えます。
「え?」
「日本酒と塩辛、だよ?」
「それだけ……?」
「ちょっと日本酒足りないかもね」
何か言いたげでしたが、山崎くんは瓶ビールとおでん盛、砂ずり焼きを持ってきました。
……おでんがおいしそーです。
「おでん食べていいですからね」
……なぜ考えていることがわかるのでしょうか。
山崎くんが手酌をしたところでさっそく乾杯っ。
キュピ。
「くーっ」
ここで塩辛っ。
カパッ。
そしてお酒っ。
クッ。
「う、う~っ」
日本酒と塩辛、そりゃあ間違いない組み合わせっ。
「おでん、もらっていい?」
「どうぞどうぞ」
あむっ。
「ふはー」
牛すじ串をもらいました。うーん、口の中でトロけるようです。
「千世子さんのような人は、お酒の場では貴重な存在ですよね」
「な、なにがぁ?」
「水族館のペンギンみたいなもんです」
……良い意味で捉えておきましょう。
時間も経って、店内は混雑してきました。
「やっぱり、混んでくるもんだねー」
「そうですね……と」
山崎くんが私の肩に手を回して、引き寄せました。
「注意しないと、ぶつかりそうですね」
「う、うん。気をつける……」
私は少し離れて、まだ残っている塩辛をつまみます。
「…………」
「……」
かれこれ3杯目の日本酒をコクリコクリ。
「…………」
「……」
……さてさて。
「ちょっと大胆過ぎや、しないかい?」
「あ、すみません」
やっぱり。どこか不自然な気がしていたのです
とりあえずわき腹をつっつきながら尋問です。
「キミはー、見かけによらず大胆だねー」
「す、すみま、せん」
「なんだー? ムッツリなのかー?」
「め、めっそうも、ございません」
……しょうがない子ですね。
「そういうのは、帰り道にしてあげるものだよ」
年上の余裕を見せつつ言ったつもりですが、確実に顔は赤かったと思います……
今日は立ち呑み屋を十分に堪能できましたっ。これで苦手意識のあった立ち呑み屋も克服ですっ。
……むむ、これで私に隙はなくなったのかもしれません。
そして帰り道は……ちゃんと言った通り、できていました。
……えへへ。