Neetel Inside ニートノベル
表紙

仮面ライダーW(仮題)
彼が望むP/囚われた者 ⑥

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 そこは小さな物置だった。使われなくなった機材などがほこりを被った状態で積み重ねられている。その中に、照井は収容された。
 入口にはリストレインドーパントが立っている。その手にはアクセルに変身するためのベルト――アクセルドライバーが。照井から奪ったのだ。
「さて、あとはアクセルメモリだ」
 リストレインドーパントは言う。
「俺たちはお前の持つメモリの力が欲しい。さあアクセルメモリをよこせ」
 照井は考える。どうやってこの場を切り抜けるべきか、と。このままメモリを渡したら自分はこの場で監禁、最悪殺されてしまうだろう。それに彼らが企んでいると思われる悪事を止める手段も無くなってしまう。
「早くしろ!」
 ロープを鞭のようにしならせ、照井の身体を打った。激しい痛みが襲うが、照井は決して声を出さず、リストレインを睨んでいた。
「まあいい。渡さないのなら奪うまでだ。メモリだけじゃなく携帯電話なども奪っておかなければいけないからな」
 リストレインが近づく。
「分かった」
 照井はとうとう口を開いた。
「メモリを渡そう。携帯電話もだ」
「話が早いじゃないか」
 リストレインは再び立ち止まる。
 照井はポケットからアクセルメモリと携帯電話――ビートルフォンを取り出した。
「この二つが欲しいんだったな」
 照井はビートルフォンに挿入されているギジメモリ――ビートルフォンをカブトムシ型のメカに変形させるためのメモリだ――を発動させる。携帯電話からカブトムシへ変形。さらにその状態でギジメモリを抜くと、代わりにアクセルメモリを挿入した。
『アクセル! マキシマムドライブ!』
 ビートルフォンが炎に包まれる。そして加速の記憶により超加速。リストレインを弾き飛ばすと、そのままどこかへ飛び去って行った。
「貴様!」
 リストレインは弾き飛ばされて物置の外の廊下で倒れながら、叫ぶ。その隙に照井も脱出を図ろうとしたが、すぐにロープで捕まえられて再び物置に押し込まれた。
「ふざけやがって!」
 激昂したリストレインはロープを鞭にして何度も照井を叩いた。そうとうな激痛であるはずだが照井はやはり声も出さずに堪えている。
「アクセルメモリはどこに飛ばせた。言え!」
「俺に質問するな……!」
 リストレインはその言葉でさらに激昂。何度も何度も、執拗に照井を鞭打つ。
「さあ、言え! アクセルメモリはどこにやった!」
「二度も言わせるんじゃない。俺に質問するな!」
 照井は鬼のような形相でリストレインを睨む。その気迫に負けたのか、リストレインは身体から出していたロープを体内に戻した。
「ふん。言わなければ貴様はここから一生でられないだけだ。覚悟するんだな」
 そう言ってリストレインは物置に鍵をかけて去っていく。
「さて、どうしたものか」
 照井は高い所にある小さな窓を見上げた。小さい子供がやっと通れるような小さな窓だ。そこからは綺麗な星空が覗いていた。


「すまない。アクセルメモリはどこか知らないところに飛ばされてしまった」
 リストレインメモリの適合者である日岡は紫色のドーパントに先ほどの出来事を説明した。
「アクセルメモリは確かに欲しかったが、重要視することでもない。あれがなくても目的は十分果たせるわけだからな」
 紫色のドーパントは静かに言う。
「仮面ライダーに変身できなくさせただけでも十分だ。それだけで我々の目的の達成に大きく近づいた。あとは時間の問題だ」
「そうだな」
「ゆっくりと、その時を待てばいい。あの刑事も時間が立てば耐えられなくなってメモリの在りかを吐くだろう」


 夜、鳴海探偵事務所の扉がノックされる。大きな期待を込めて、「どうぞ」と亜樹子はそれを招き入れた。
「夜分遅くにすまないね」
 客人は風都警察署の刃野と真倉だった。
「あれ……竜君は? 二人だけ?」
 亜樹子は扉の外を見回す。が、そこには誰もいない。
「そのことなんだが……」
「何かあったの?」
「今日の捜査中、照井課長と連絡が取れなくなった。そっちにいるのかと思って来てみたが、その様子じゃいないみたいだな」
「どういうこと……」
「その……つまりだな」
 言いづらそうに刃野は言葉を濁す。
「照井課長も行方不明になったかもしれないってことだよ」
 それを見かねて真倉がはっきりと言う。刃野は「馬鹿野郎と」真倉の頭をはたいた。「まだはっきりしてねえだろうが」
「竜君も行方不明……」
「いや、まだそうと決まったわけじゃない。とりあえず、課長から連絡があったらすぐに教えて欲しい」
「……うん、わかった」
「それじゃ、俺たちはこれで」
 刃野と真倉はそう言って鳴海探偵事務所を後にした。


「刃野さん、どうして言わなかったんですか」
 真倉は思い出したかのように言う。
「今日の午後、課長とドーパントが戦っているときの目撃情報があったって」
 刃野は肩にかけたツボ押し器を握りながら、静かに言う。
「見て分からなかったか? あの所長の落ち込み具合を」
「それは俺も分かりましたけど」
「いつも明るいあの娘が今はあんなに落ち込んでる。そんなときに課長がドーパントと戦ってたなんて言ったら、どうなる? きっと課長はドーパントに負けてしまったって考えちゃうだろう」
「あ……」
 そこまで考えてなかったらしく、真倉は口を開ける。
「時には言わなくてもいいことだってあるんだ。覚えておけよ」
 そう言って刃野は手に持ったツボ押し器で真倉の頭を小突いた。
「今日の刃野さんは渋いですね」
「なあに、いつものことじゃないか」
「いや、いつもはださいです」
 刃野は声を出して笑った。そしてもう一度真倉の頭を小突いた。


 亜樹子は机の上でうなだれる。
「大丈夫だよね。竜君なら」
 一人ごちる。時計の音だけが事務所の中で鳴っている。
 だが、窓が割れる音により僅かな静寂は打ち破られた。驚いて起き上がると、亜樹子の机の上に黒い何かが落ちた。
 黒いカブトムシ型のメカ。メモリガジェットのビートルフォンだった。
「これは竜君の……」
 ビートルフォンを手に取る。どうしてこれがここに飛んできたのかと考える。ギジメモリの代わりにアクセルメモリが刺さっていることに気づき、答えがでた。
「このメモリを私に託したってこと……?」
 仮面ライダーへと変身するために必要なガイアメモリ。それをわざわざ手放して託したということは自分が変身できない状況にある、ということ。
 つまり、照井は今窮地に立たされている。亜樹子はそう考えた。
「どうして……どうしてこうなったの」
 絶望が視界に広がり、亜樹子はそのまま机の上に崩れ落ちた。

       

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