Neetel Inside 文芸新都
表紙

2P SG "THE GOLD"
Heart-Shaped-Signal Blues

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 深夜に降る七月の冷たい雨が、ゆらゆらと通りの真ん中を歩くタカハシに注いで、体温
を容赦なく奪っていく。彼は気にしない。光の無い瞳で、何処とでもなく真っ直ぐ前を見
ている。力の入らない動きとは裏腹に拳だけぎりぎりと握りながら。
「………」
 たまに口の脇からスースーと吐息を漏らすくらいで、彼の存在は雨の中では無いに等し
かった。彼自身が自分の存在をただそこに存在する雨に打たれるだけのモノにしようと、
そうしているように見えた。
 滝のように激しく、機雷のように身に刺さる雨がその体を濡らしているにも関わらず、
タカハシの喉はカラカラに渇いている。
「………」
 傍らの商店の雨樋からアスファルトに突き刺さるように流れる雨水の音が、空間を支配
している雨音の中でアクセントとなっている。
 タカハシは歩く、まっすぐ前に目を向けて。
「……!!」
 不意に目の前に人影が現われた。それを見たタカハシに、目に見える異変が現われる。
 傘を差した人影が、その顔を覗かせる。
「ぁ……」
 タカハシの口から、そう漏れる。
 顔を覗かせたその人は、背筋に沿って伸びる艶の無い黒髪のタカハシよりも幾分背の高
い、女性だった。タカハシを見つめるその目は、その表情は冷たさが幅を利かせている空
間の中に存在する唯一の“温度”に見えた。
 今まで表情の無かったタカハシの眉間にしわが寄り、その顔に生気が現われる。そのベ
クトルは決して生に向いているものには見られないものではあったが。
「……ぁぁ」
 再びタカハシの口から、そう漏れる。
 女性は黙ってタカハシに近付くと、彼を傘の中、女性の存在の“温度”の空間に入れた。
彼の肩がガタガタと震え出す。
「………」
 その“温度”の中に入ると、タカハシは女性に抱きついた。それはさながら“待て”を
かけられていた犬が許可を受けた時のそれのように。
「……っ……ぉ、俺何も出来なくてそれで………助けてくださいっ!!」
 己の言葉の殆どを端折ると彼は彼女に抱きついた。己の体を襲う水から開放されると、
彼の目からぼろぼろと、……零れ落ち始めた。
 タカハシは必死にしがみつく。今地面を濡らしているのは、雨水ではなく他ならぬ
「……帰りましょう、彼女が待ってます」
 女性は濡れたタカハシの髪を撫でると、柔らかくそう言った。
 雨音の響く世界に、もう一つの支配者が存在を表現しだした。



                   *



 彼の肩を抱えて歩いていると、彼はポツリと
「俺ぁ……本当に死神なんだな」
 一言呟いた。
 どういう意図があっての言葉か、それは知るところではないがその中に深い絶望がある
という事は分かる事が出来た。両拳に付いている夥しい血糊がその深さを物語るように。
 彼の意中の人の部屋に着き、シャワーを浴びさせて、その人の横に座らせる。半ば強制
的だった気もした。
 彼は彼女の横に座っていつものように彼女の手を両手で包むが、表向き感情を失った彼
女ですら彼の手を握った瞬間に彼の中で何かが起こっているという事を感じ取り、驚愕の
態度でそれを表現した。
「ごめんよ驚かして……でもここだけなんだ、一応の安全が確保されているのは」
 これまでの彼の発言でキーワードになりそうな単語は「安全」と、先程の「死神」だ。
自分の事を「死神」と言い、「安全」の反対となる単語は・・・
「危険……誰が一体」
 口の中で呟く。一応の安全の確保とはつまり、周囲を危険に巻き込む事を危惧していて……。
それであるなら、確かに彼にとって流れ着ける場所はここくらいのモノだろう。
「エリスさんは護りますよ……」
 白いワイシャツに透けて見える筋肉を纏った彼の背中は、いつもよりも細く見える。鍛
え抜かれた鎧を身に着けた屈強の戦士であっても、一切の倫理が通用しない世の闇の部分
で過酷な戦いをしていても、目の前にいる彼は紛れもない十三歳の少年なのだ。推測の域
を出ないが、自分が原因で自分に関わった人間に不幸が降りかかった事を強く気に病んで
いる、それを仕方が無いと片付ける程彼は大人ではない。つい最近まで彼の教育係であっ
た自分だからだろうか、何となく分かる……というよりは生まれてそれからの付き合いだ
からだろう、彼がそういう心境の変化を自分の前では素直に読み取らせてくれているのだ。
教育係と言えば穏やかだが、その教育は何から何までであった。身の周りの世話から、勉
強、スポーツ、料理といったいわゆる普通と言える事から、政治、軍事、諜報活動、サバ
イバル技術、そして格闘技や武器術……元SAS隊員の自分が教えられる事を、彼が生ま
れた直後に姿を眩ました彼の父親の依頼でその息子の体に叩き込んだ。依頼を受けた当初
は提示された法外な報酬の為にメイドをし、年齢に合わせ彼にキラーエリート養成の訓練
を機械的に施していった。だが、年月を重ねていき彼が育っていくにつれ……そして何処
かで自分に芽生えた罪悪感は彼に中途半端な人間の証明を植え付け……
「トモハラさん……」
彼は頭を上げてこちらを向いた。
「俺は恨んでないし、感謝してる……もうそんな顔をしないでくれよ」
「………」



                  *



 はっと目が覚めてみると、既に朝方のようだった。カラスの鳴き声がよく聞こえる。
頬にはよだれの跡と、顔を埋めていたシーツのしわの型が付いているのが、擦った指先
で感じられた。辺りを見回すと……
「……ふぅ」
 トモハラさんがいる。ソファの肘掛けに顔を埋めて眠る彼女の顔は、生まれてこの方ず
っと一緒にいる俺だが、今初めてお目にかかった。普通なら彼女は自室で寝る。親しい俺
であっても他人の気配の感じられる場所では絶対寝ないのが以前の彼女であった。多少の
驚きがあるが、“安きに危うきを忘れず”よろしく、少しでも俺が動けば彼女は鋭く身を
起こして昨日の今日の事だ、きっと俺を心配するに違いない。それが今尚、彼女の中にあ
る俺への贖罪の気持ちならば……
「そりゃねぇよ……なぁ」
 今の俺なら彼女に気付かれないよう気配を殺して行動出来る。怒りの鼓動すらも。
 父親にどんな思惑があったか、顔も知らない人間の事だ、知った事ではない。ただただ、
今を知って欲しい。ここに独り申し訳なさで潰れそうな人がいる事を。責任を問えるだろ
うか、はっきり言って俺にはその自信がない。もしかして彼女が苦しんでいるのは俺の責
任なのではないだろうか。殺し屋を始めた一年前、俺にはなんの疑問も無かった。そう育
てられたのだから、自分はそうとしか生きられないのだと。その時には既に彼女の中には
そういう『気持ち』があったのではないだろうか。
 エリスとの出会いで、彼女の中の『それ』は決定的なモノになったのかもしれない。
俺が炎天下に血まみれになったエリスを抱えて逃げ回ったあの日、トモハラさんはぼんや
りと俺に言った。
「もし、世界が嘘っぱちに見えて、あなたが何もかも消したくなったら……わたしはそれ
を可能とする力をあなたに与えたから」
「……??」
「その時はまず私の命をあげる」
「……アホらし、俺にはトモハラさんが俺に頼ってるようにしか見えねーよ」
 それが彼女を苦しめる結果になったのか、それとも……。
 でも俺は、彼女がいてくれて幸せだ。エリスがこうしていられるのも彼女のお陰なのだ。
窓の外を眺める。周辺のボロビルが朝陽に照らされて、反射する光が眩しい。視線をビル
の足元から上へと
「……!!」
 まったく、感慨に耽る事すら許されないのか。
「ファック!!」
 確かに“そこ”は“そう”なのだが、何も“こんな時”に……。
 体当たりして玄関を開け放って、階段を五段飛ばしで登っていく。窓と出口は反対方向
に位置し、隣のボロビルに渡るためには階段を降りるか、最短距離は屋上へ登りお隣様へ
跳び移る方法……通り一つを挟み高低差の無いそこへ。

カンッ   カンッカンカンカンカン

 いつもより踊り場四つ分は長く感じた階段を攻略すると、もはや用をなしていないタン
ク以外何もない、雑草の伸びきった空き地のような屋上が俺の眼前に広がる。そしてその
先に見えるお向かいさんには
「おぉ~い、待って……待てって」
 柵に駆け寄り……タイルの割れ目で一回転んでから、柵に身を乗り出してそこに見える
人影に呼びかける。“あんな事”があったお陰で、そのビルでは時々見る光景なのだが……
 自分でも分からない、でも飛び出してしまった。
 柵を跨いだ所から、ゆらゆらと体を揺らしながら下に広がる、見るからに硬そうな、汚
れたように真っ黒いアスファルトの地面を眺めていた人影が、その顔を上げて俺を見つめ
た。生気がまるで感じられない瞳を見つめる。
(まずいな、揺らぎが見えない時点で……死んでる)
 誰もいない場所で自殺しようと思っているヤツが、その直前に誰かに止められればある
程度の動揺が見えるハズ……。
(まるで動揺しないって事は………お構いなしかよ)
 なんだか先程までの誰かさんを見ている気がする。
「あっ!!」
 ぐらりと、そしてその漆黒の長い髪が舞い上がる。
「っか野郎!!」
 前のめりに、程なくして頭を下に、女性は落ちた。
「おりゃさっ!」
 乗り出した柵を一気に跳び越える。ほぼ自由落下のあの人には、ただ落ちるだけじゃ追
いつけないだろう。落下しながら、“傍ら”の外壁の出っ張りに足を引っ掛けて
「いっけぇっ!!」
 火事場の馬鹿力ってヤツだろう。外壁をえぐった感触を覚えながら俺は落下スピードに
脚力を加えて加速した。後の事をまるで考えなかったヤツがこう言うのもどうかと思うけ
どそれで追い付くとは思っていなかったから、その人の体に抱きついた時は俺自身、多分
生涯で一番驚いた瞬間かもしれない。
 長い長い特殊訓練のお陰で大した事で動揺したりはしなくなったし、これが小説だから
っていう都合の良いハナシだってワケでもなく、こんなに沢山の事を考えられるって
事は……今、俺のおかれた状況って

死に際の集中力?

 幸い、この女の人は落下中に失神してくれたらしい。暴れられないで済む。
 これじゃぁ共倒れか?当てが無いワケではない、賭けだけど。
 その次の瞬間だった。

シュッ

 空気を切り裂くような音が聞こえた次の瞬間には俺達の体は自由落下から逃れ、変わり
に横方向の動き、いわゆるターザンロープの状況で俺のさっきまで寝ていたビルの外壁に
猛スピードで振られていた。我が身に巻きつくロープは、先程俺がいた部屋の窓より
「ったく……仕事が粗いって」
 助けてくれたのだから感謝、感謝なんだが。

ガシャッ

 両足で外壁に“着地”する。ビル全体に強烈な振動が伝わったのを足の裏で覚える。
「助かりました」
 ロープをシュルシュルと巻き上げながら、トモハラさんが窓から顔を覗かせた。
「私、あなたの保護者ですから」
 あぁ、笑顔だ……救われた身だが、生きてて良かったって感じか?



     


「いやー寝ぼけ眼が一気に冷めたよ…」
 そう言って蒸かしたての肉まんに齧り付く彼の頬には、巨大なモミジ形のアザが…
「まったく。ちょっと無謀過ぎる……後先考えて欲しいですね」
 本当に……久し振りに心臓に悪かった。
「いやぁ~俺はトモハラさんなら絶対何かするって思ってたからー」
 今時にありがちな軽薄な抑揚のない声で彼はそう言う。
「それにしても…びっくりしましたよ」
「俺が人を助けているトコロを目の当たりにして…か?」
 既に彼の眼は数時間前のそれであった。そう育てた自分が言うのもなんだが、この眼とま
ともに向かい合ったりすると、まるで心を突き刺されたかのような感覚に陥る。
「………」
「……だから言ったろ。感謝してるって」
「……あなたは人間ですよ」
「よし、それでよろしい」
 片側の唇を吊り上げて、不適に笑う彼がそう言う。吊り上がったその頬を思いっきりつね
ってやる。
「生意気!!」
「痛ぇっ!痛タタタタッ!!トモさん二の腕が絞られてる!モゲるっモーゲる!!」
 あっと思い出して手を離す。こっちの頬は……
「まったく…引っ叩かれて、握り潰されて」
 正確にはつねる、だ。彼の被害妄想癖も私が仕込んだモノだ。
「親しい間柄では過剰賠償請求作戦はしなくてイイです。私相手では裁判も負け戦です」
 彼が大袈裟に平手で覆っている頬はというと、先程彼が邪魔をした彼女が
「まったくさ…やっぱりアレってお節介なのかなー?」
「…その綺麗なモミジは写真に撮っておきたいくらいです」
「ぶー」
「……正しいですよ。だから彼女はあなたを引っ叩いたんです。そんなモノですよ」
 香港映画も真っ青のタンデムバンジージャンプの三十分後、気が付いた彼女は涙をボロ
ボロとこぼしながら、ぎゃーぎゃーと喚き散らすと、力の限り彼の頬を張り倒して走り去
っていった。『頬はたかれたのぁ……あの時以来だな』彼は苦々しい顔でそう言った。
「……で、後追い自殺する人っていうのは皆あんな感じなのか?」
 テーブルに脚を投げ出した彼の手には一冊の雑誌があった。彼はそれに眼を通しながら
私に訊ねた。
「一概には……でも独りで物事を考えようとしない人が……予備軍ではあると思いますね、
特に最近は」
 三ヶ月前のよく晴れた夜明けに、一人の若者が先程のビルから飛び降りた。飛び降りた
のは当時人気絶頂のそのまた上にいた、とあるアーティスト。普段から人通りの無い場所
を狙ったのだろう彼の死体は、土地に居ついているホームレスが発見するまでに三日の時
間を必要とし…
「当時インターネットに流出した彼の死体の写真は、カラスやネズミ、野良犬にグチャグ
チャにされてて、刺青に、ビルの屋上に置かれていた靴と遺書、バッグによってやっと彼
と特定された……ふ~ん」
「その後は大変でしたね、マスコミや後追い自殺に押しかける人達…と」
「俺は静かに暮らせると思ってここにエリスの部屋を作ったのにねぇ」
 あれから一年だというのはしっかりと覚えている。彼も同じなのだろう。だからこそあ
そこまで素早く行動に移れたのだ。
「……ん?ちょっと待ってよ。なんで自殺するってのにバッグ持つ必要があるんだろ?」
 そう言う彼の膝の上では雑誌がその姿を消し、ノートパソコンが乗っていた。
「身元を確認させるため?いや、だったらあんな場所は選ばないよな。これから死ぬのに
バッグなんて使わないだろうから」
 ブツブツと呟く。こうなってしまうと彼は動かない。
「普通の外出に見せかけざるを得ない状況だったのか・・・もっと自然に考えれば・・・
当時の荷物にも怪しい点は見当たらない・・・」
 彼はノートパソコンを閉じて跳ぶように立ち上がった。
「ごめん、俺ちょっと出掛けるよ。後で連絡するね」
 風のように去っていった。
「落ち着かない人ですね、いつもいつも」
 私はわざとらしい苦笑でエリスと向かい合った。
 彼女の紅い目が少しだけまぶたに隠れた。


                  *


「本当に内緒にしてくださいよ…上にバレたら俺だってクビっすよ」
 スーツの似合わない撫肩の男はタカハシと暗い廊下を歩きながらそう言った。
「今回ばかりはクラタの遺言だと思ってさぁー大丈夫、バレねーバレねー」
 そう言うタカハシは、先程から目に付くバインダーを片っ端から漁って、目を通していた。
「あ…これ?」
 撫肩が摘み上げたブリーフケースをタカハシが素早く引っ手繰る。
「あっ…マジで内密にしてくださいよ~色々としがらみがあって捜査すら出来てない
んスから」
 およそ刑事とは思えない頼りない声でそう言うこの撫肩の男は、先日謎の武装集団に拉
致され、その命が危ういところでタカハシに助けられた。その武装集団とは、実は公安の
部隊で、彼はクラタの後輩だ。つまりはクラタの暗殺のためにナガタに化けられたのだ。
公安は完全な証拠隠滅のために彼も殺すつもりだったのだ。彼はタカハシに助けられ、事
の次第を知り(「聞かなきゃよかった」と本人談)、身を隠せというタカハシの進言を拒
んで今も、もとの役職に就き、日々の業務をこなしている。「さすがはクラタの弟子だな」
とタカハシは感心した。
「んで…その後身辺に目立った変化は無いか?」
 タカハシはブリーフケースから書類を一枚一枚取り出しながら彼に訊ねた。
「そーですね…特にこれといった事は」
(まぁ奴等ならそんな事感付かせはしないだろうけどね)
 彼の返答にタカハシは、敢えて沈黙を返した。
 事の次第とはいえ、公安内に編成されている特殊能力チームの事に関しては彼には伏せ
ている。それが裏目に出かねないが、クラタ曰く「奴ぁ青いんだよなぁ」との事なので、
無駄な正義感を燃やされて不憫な死を迎えられても困るから、タカハシはただ「どうやら
お上の事情らしい」と彼に言った。
 実は現在、公安特機が内偵捜査中であったナガタの不審死の調査に踏み出しているのを
タカハシは知っている。どうやら幸いにも、この撫肩の彼に関しては作戦の中で利用した
というだけで特に警戒をしているワケではないらしい、彼の身柄を確保し利用した事まで
は報告したそうだが、そこから先の殺すという事に関しては、タカハシがナガタと戦った
あの時点ではナガタのスタンドプレーの段階だったという事なのだろう。タカハシ自身が
命懸けで入手した情報であるため、現在彼は一抹の余裕を抱いている。
(とはいえ昨日今日の事もあるし、もう誰もヤバイ事にさせたくない)
 保護者であり、頼れる姐御でもある存在の胸で存分に泣いたからであろうか、彼の決意
はかなり堅いものに変わりつつあった。
「もう気付いたんだろうけど、この事件それだけ不審な点がありながら、ここ数ヶ月まる
で捜査が進んでないんスよ」
 クラタの後輩は天井に向かって溜息を吐きながらそう言う。
「う~ん、表立った妨害って言うよりは…」
「あらゆる情報を改ざんしている形跡が見当たるけど…どうも実態が掴めないって感じで
すよ」
「確かさ、彼のいたレーベルってかなり政界へのコネクションがあったよね」
 タカハシがニヤリとする。
「そうなんスよ…だからどのレベルでヤバイ事になるのかが」
「リーク系サイトではレーベルが葬ったとか言ってるよね」
「未発表音源の爆発的ヒットが狙いだったのか、もっと深いモノがあるのか…いずれにせ
よ、レーベルの金の流れや黒い部分に関して探ろうとするとどうも」
「間を読んで横槍がくるんだね?」
(自殺の妨害で思わぬ拾い物だな)
 タカハシは再び書類に目を落とす。
「コネクションそのものが問題なのか、それともコネクションで揉み消したのか…」
「後者なら都合がいいんですけどねー」
「いずれにせよ…あのレーベルは臭いねー」
 七枚目の報告書を隅までチェックすると、タカハシは遺留品が入れられている袋を摘み
上げる。何処にでもありそうな流行モノのスニーカー
「長者番付上位の若手常連だった割には…」
 庶民派だな、タカハシはそんな事を思った。
 成功は失敗以上に人を変えてしまう、大抵の場合は悪い方向に。その典型はシアトル出
身のあるロックアーティストだ。タカハシは以前読んだ雑誌の特集に書かれていた「成功
の代償」という特集を思い出した。夢を見て作った彼の曲は瞬く間に爆発的なヒットを記
録、彼は一躍世界のカリスマに祀り上げられた。成功がもたらした急激な変化は、田舎出
身の素朴な男の心を段々と蝕んで、遂に彼は二十七歳の若さで自らの頭に銃を向けて
「……彼の遺書とかってあるかな?」
 苦々しげな顔でタカハシが若い刑事に訊ねる。
 スターという立場を、スター自身が冷静に考えると、それは幻想を売っている仕事と思
うらしい。罪悪感と相反して周囲からのプレッシャーは売れれば売れる程にその身に圧し
掛かる。
「俺達が思っている以上に……おかしくなりそうな世界なんだろうな」
 ボソリと呟く。若い刑事が振り向いて
「何か?」
 そう言うが、彼はかぶりを振った。

     



「……というワケらしい」
 “捜査”の報告を終えて、彼は肩をすくめた。
「結局、詳しい事は分からず終いですね…」
「本当だよまったく。トモハラさん、俺なんか見落とししてるかな?」
 ソファーに腰を沈めて、ボソボソとそう言う彼。
「…動機が随分気になりますね。私の勘ですけど」
 努めて笑顔で私はそう答えた。なんだか話がダウナーの味を帯びてきているというトコ
ロが今の私には最も気になる事だった。昨日今日の事なのだ、未だに立ち直ってないだろ
う彼がこの事で感化されたら、そう思うとなお……。長く一緒にいる。彼の問題は彼自身
で勇気を出して踏み出さない事には決して好転しない。そこまで追い込んだのは誰でもな
い私なのに、味方である事の証明であるかのように彼に申し訳程度の笑顔しか送れない事
が歯痒い。
「そーなんだよ、彼の曲は俺もよく聴いてたけど、ライブも行ったしさ。あんなに人に影
響を与えられる人が、正気を保つのに死ぬ気でいなきゃいけない世界でもあんなに輝ける
ような人が・・・あんな理由で自殺なんてするワケがないよ」
 身を起こし、熱を込めて彼がそう言う。
 遺書によると自殺の動機は、元恋人が当時出版した暴露本らしい。彼との生活が、痴話
喧嘩の内容が、セックスライフが、膨大な枚数に克明に記されたその本は一部ファンの猛
烈な抗議を意に介さず、現在百数十万部を売り上げるベストセラーになっている。
「でも……レーベルが関係あるなら消されるべきはその女性ですよねぇ」
「だよな。彼女は現在も当時抗議活動をしていた熱狂的な彼のファンによる殺意の的だけ
どな……」
「本のセールスを伸ばそうと画策した出版社という線なら…」
「う~ん……政界との繋がりが大きいのはレーベルの方だからな」
「でも本のお陰で彼の未発表音源や追悼アルバムは驚異的なセールスを記録したでしょ
う?」
 私がそう言うと彼は眉間にしわを寄せて、腕組みして考え込み始めた。
「………」
 あーでもない、こーでもない、そんな事をうんうんと唸るように呟いている。
「……ねぇ、一つ訊いてもよろしくて?」
「んっ?…あぁどうぞ」
 彼が抑揚のない返事を返す。
「ここまで捜査するのは…どういった考えからでしょうか?」
 そう言うと、彼は肩眉を上げて
「世の中にスレると人は必要以上に物事を勘繰るようだね。特に俺達みたいな人にそれが
多いよ」
 厳しい口調とそう言った。
「トモハラさんが……さっきからずっと俺を不安そうな目で見てるのに、俺が気付かない
とでも?」
「………」
 彼の目が力強い。
「そう何度もこんなトコで自殺なんかされてたまるか…俺の心臓が幾つあっても足りない…」
 心臓が幾つあっても足りない、彼の言葉に意外にもホッとした。
「これがもし裏があるなら…こんなクダラねぇ死に方はあんまりだ。そしてそれを面白が
るような連中は許せない。そしてそんな彼を信じて、飛び降りるのだって…」
「………」
「なにより…もうエリスにそんなモノは見せたくないんだ」
 彼は力を込めて彼女を見つめる。
 彼の誠実さは全て、彼が愛する今にも消えてしまいそうな舞姫を護るためのモノなのだ。
彼が自ら死神になる事を決心したきっかけ……記録的な猛暑の夏の、血まみれで彼女を背負
って私に助けを求めてきたあの日…。
「トモハラさんありがとう」
「理由を訊ねる許可を」
「多分俺を見て、どうすれば良いのか…あなたはそれを悩んでいる。ありがとう、そう思っ
てくれる事…どうすれば良いのか分からなくてただ笑う事しか出来ないって苦しんでるみた
いだけど…俺はそれが一番嬉しい」
「……読心術は教えましたっけ?」
 こんな事を言うつもりはなかった。でも高々十と少し数えるような少年にズバリ胸中を見
破られた事に少し悔しかった。
「ちぇー相変わらずヒネくれてやがんの。トモハラさんが出来ない事俺に出来るワケない
じゃん」
 先程のクサい科白も何て事もないように、カラカラと彼は口を開けて笑う。
「……親の考えるよりも遥かに高いレベルで子供は親の心を感じ取ってるんだよ」
 今まで彼がその口で私を親と言っていただろうか。
「そそ、そんな感じで笑って」
 せめて彼が帰宅するまでは、我慢しよう。


                  *


「確かに興味深いね…こりゃさ」
 発売二週間で百五十万部を売り上げた内容も厚さも怪物的な本は、その量とは裏腹に世
間に与えた影響は軽いものだった。そしてその内容の中心である彼自身とその死すらも、
その本に肉を抜かれてしまったように思える。
「特に手掛かりになりそうな内容はないかもね…」
 この本を買うために六件の本屋に足を運んだ。爆発的なヒットのお陰で増刷が追い付い
ていないという店主の溜息混じりの愚痴が四件目で聞けた。品薄状態が続く現状に、出版
社への問い合わせが絶えず、ノイローゼを起こし休暇願を提出する社員が出たという噂も
聞く。
 そんな中、やっと目的の本を発見した書店で非常に興味深い話を聞けた。
「どうもねぇ…こういう本にしては初版の量が異常に少ないんだよねぇ」
 どうやら俺が持っている本は増刷に増刷を重ねたモノらしい。
「少ないの?だってこれ大手の出版社から出てるよ」
「だから今となっては、一応手に入るようになってるでしょ?」
 確かにあと四冊程平積みにされて置かれている。
「これだけセンセーショナルな本だけに、こんな大手が自費出版並の初版数で出版すると
は思えないんだけどねぇ……」
 この言葉に、何だか違和感を覚えた。
「そうだっ……ねぇ店員さん、これ初版はここにも流通したの?」
「ん?そーだな、流通ってワケじゃなかったっけな…今ね、書店と書店を繋いで流通状況
を店舗で詳細に確認出来るシステムを広げてるトコロなんだけどね、ネット通販専門の卸
書店で数量限定扱になっているトコロを少しだけ譲ってもらったんだ」
「それじゃぁ」
 俺は左手に見える店の奥に目を移した。
「販売する程の量じゃなかったから…保管してあるんですね」
 顔を寄せて声を殺す。店員の顔が一気に曇った。
(どういう事だ?)
「坊や、一体どうしてそこまで…?」
「偶然立ち寄った場所に貴重な初版本があるんでしょ?ファンとしては欲しくなるさ」
 嘘なのだがさらっと言っておく。店員の顔は晴れない。
「参ったなぁ…確かに店の金で入れた本だから、面倒だけど」
「本好きとして離すワケにはいかないんだね?」
 店員が黙って頷き、後頭部を掻く。
「見せてくれればいいからっ」
 もはや自称ファンはどうでも良いような発言。まぁ俺それどころじゃないんだけど。
「言っておくけど内容は一緒だからね」
「おー話分かるじゃん」
「手袋をする事、あと奥の机で読むこと、あと…店長が帰ってくるまでだから」
ね……、と言う頃には俺は店の奥にその身を滑らせていた。
「ほっ、他にも貴重な本はたくさんあるからね!…キズとか付けたら」
 店員の怒号が背中に突き刺さる。突然の怒号であったから驚いたのか、はたまたわざと
なのか、敢えて何も語るまいが、物色していた本棚の一列をドサーっと派手な音で落とす。
後ろで悲鳴が聞こえた気がした。誰の悲鳴かは…知らない。

     


「……というワケでして」
 タカハシが大袈裟に両腕を広げて、自分の収穫を話し終える。
「……何が望みだ」
 額を脂汗でテカテカと光らせた、金に塗れ私欲に魂を売り渡した人間の典型のような中
年の男は、手四つに組んだ頬杖に顎を乗せて、上目遣いにタカハシを睨み付けた。
「その判断の早さは、この業界で生きていくには必要不可欠なんだろうね……」
「………」
「生憎俺はお前からは何も得たくはないし……そして不慮の事故なんかにはハマらないぜ
社長さん」
 タカハシがそう言うと、社長と呼ばれた男は驚愕の表情を浮かべる。タカハシは良い気
味だと言わなくても相手に分かってしまうように、笑顔を、唇の端を上げて作った。
「アレはお前等にとっては事故だったんだろ、でなければあんな場所であんな事を起こす
ハズないからな。ずばり、現場に残っていた……彼の履いていたスニーカーのアンクルベ
ルト。遺留品の片方には付いてなかった……ミッドカットのスニーカーのアンクルベルト
ってあまり締めないんだよな、ブラーンとさせるのな。んで、俺が現場で見つけたこれ……
取れた跡を見れば分かるけど、手で引っ掴んでガツッとむしり取られたって感じだな」
「………」
「これなぁ、自然に取れるなら根元には折れ曲がった跡が残るんだよ。まぁ他の要素も十
分に考えられるんだけどさ、あそこの屋上の状態では……それが一番適切な判断だろうね」
「………」
 この男の身辺を調べる内に分かった事は、心臓がかなり悪いとの事だ。先程から自分を
睨みつけるタカハシに目を合わせず、苦悶の表情で顔を伏せている。
「それで、さっきも言ったが、あそこでお前は彼と……彼等と交渉をしていた、間違いな
いな?だがその交渉の途中、お前にとっては事故と言え、しかし利になってくれる事が起きた」
「………」
 男の顔は土気色の度合いを増し、頬杖にしている両手はガタガタと震えている。
「よっぽど突然の事だったんだろうな。今まで閻魔様でも近付きたくなくなるような悪行
の限りをしてきたお前ですら驚くようなね。まったく、人間何処で悪魔に魂喰われるか分
かったモンじゃないね……ましてや共食いなんて」
 そう言うと、タカハシは小脇に抱えた二冊の分厚い本を、左右の手に一冊ずつ持って男
に表紙が見えるように突きつけた。
「この二冊の違いを比べて……彼の死がお前以上に利になる人間がいるよな」
 タカハシは訊ね終わるとゆっくりと振り向き、僅かに開いた背後のドアの隙間から覗く
目を睨みつけた。
「彼と交渉をしていた時、その隣にいたアナタが」
 ドアの隙間から覗く目に向けてタカハシがそう言い放つと、驚愕の表情を隠せない、目
の中で瞳が踊りまくっている女が一人ゆっくりとドアを開けて姿を現した。その手には
オートマチック型拳銃が握られ、銃口はタカハシに向けられていた。
「やれやれ……受付の人とか守衛さんを昏倒させたのは間違いだったかな。ま、尾行され
てたのは知ってたけど」
「……まったくビックリね。こんなコに当てられちゃうなんて」
 女の声はすぐさま冷静さを取り戻して、さざ波も立たないような平静さで放たれた。
「名探偵と言って欲しいね」
「……そのベルト、一体何処にあったの?証拠隠滅でそこの会長さんもアタシも随分あそ
こを探したんだけど」
「あぁじゃぁ夜な夜なあそこを探し回ってたのはやっぱりアンタ達だったんだ」
 女の顔に二度目の驚愕が浮かぶ。もはやその顔は連日ワイドショーでアバズレ扱いされ
る言い訳がましい、彼の自殺の原因といわれている、頭の悪そうな元恋人の顔ではなかった。
ヒステリーと冷静の境界線を上手い事綱渡りする、女性に多いタイプの知能犯のそれだと、
タカハシは思った。だからこそ、今や蚊帳の外に追いやられてしまっている会長が下手な
態度を取れなかったのだろう、とも。
「どうやら、咄嗟に思い付いてすぐ行動に移したんだな。ちなみにスニーカーのベルトは
外壁に付いてる換気扇の出っ張りに上手い事引っ掛かってたよ。いやーこれが警察に見付
かってたら捜査妨害も虚しくみんな疑われてたトコロだね」
 タカハシは肩をすくめて、スニーカーベルトを小脇に投げ捨てた。
「しかし、あんたはスゲーよ。現場に残された遺留品や手口のずさんさから言って突発的
な凶行だったってのにも関わらず事後処理は素晴らしいね。念入りな脅迫……何より凄い
と思ったのは元々あった計画を全ておじゃんにしてまで、新しい思い付きを採用、そして
大ヒット間違いなしのエッセイを自費で出版したが……回収して新バージョンで増刷。そ
の手際は……ずばり個人レベルでは日本一の犯罪者だ」
 そう言い放ったタカハシを一瞥し、女はゆっくりと拳銃の照準を彼に合わせた。
「……褒めたって何もあげられないよ、まぁお金は別だけど。それとも大人の駆け引きの
真似して、さっきのは遠回しに金のために恋人を殺した女を罵倒してるつもり?」
 ふふん、と鼻を鳴らして女はそう言う。
「別に……俺も似たようなモノだし」
「は?」
「いやでも……俺はある意味、このエッセイ読んでアンタは直前まで彼を愛していたのが
何となく分かった事に、ちょっと救いがあるような気がするよ」
 タカハシには、目の錯覚だろうか、銃口がわずかに揺れたように見えた。
「……やっぱり子供ね」
「最近ね、そう言われるのが妙に嬉しいんだ」
 やはり揺れている。タカハシは確信した。
「……命令するぜ。真相を公表するんだ」
「却下。大体これ、あなたに利がないじゃない」
「これが自殺のままだと俺の実家の前でポンポンと人が飛ぶことになるんだよ」
 鬱陶しそうにタカハシは眉間にしわを寄せる。
「アンタが彼と最初にしたかったのは、この初版本に書いてある暗号の事なんだろ?増刷
時にカットしたこの部分を載せて出してくれよ。俺は……俺はこの文の内容がタイトルか
ら少し違うって意味が暗号のためだけじゃなくて……アンタ幸せだったんだろ?俺はそれ
を信じてる。幸せを隠してたら……アンタは一生救われないじゃねぇな」
 タカハシの拳が、掌から血が流れ出す程に力強く、握られている。そして彼の目は、雨
に打たれ打ちのめされた光のない、あの時の目からは想像も出来ない程に生命感をもって
いた。女は目を伏せて、それからゆっくりと顔を起こし
「彼は一人で交渉してくるって言ってた。アタシは無理矢理ついていった。彼は最後まで
自分のオンナの安全第一だった……」
 抑揚もなくそう言った。
「そういう男だよ」
 タカハシの記憶にある限りの彼は、そういう男だったのだろうと感じさせる言動を幾つ
かしている。
「彼を突き落としてから、暗号文は削除してやる、そっちの要求を全部呑む……一見何の
交換条件にもなってないのに会長さんは受け入れた。アンタよっぽど恐ろしく見えたんだ
ろうね」
 おそらくは交渉前に彼が彼女と仕掛けておいた保険のお陰なのだろう、交渉にならず二
人が消されてしまったら何らかのアクションが起こるように……タカハシの想像するとこ
ろはそんな感じだ。
「そういう事。会長さん、頭は回る人だったんだけど、イマイチ度胸がなくてね。危うく
護衛の人に殺されかけたんだよ」
「その護衛なら隣の部屋でぐっすり寝てるよ。それと……アンタが殺そうと思ってた会長
さん、俺とアンタがお喋りしてる間に失禁して、心臓麻痺で死んじゃったよ」
「なっ!?」
 タカハシの言う通りだった。
「心臓悪いとは聞いていたけどさ、まさか頬杖ついた状態で死んじゃったとはねー」
「………」
 まさに絶句といった表情を、女はしている。
「多分……コイツを殺すつもりであんたはここに来たんだよな?」
 女は表情こそ変えなかったが、無言でいた。タカハシはそれを肯定と解釈した。
「もっと深い何かがあるのか……それともあんたが俺の『そうあったらいいな』っていう
モノをやるつもりでここへ来たのか……もう俺は子供だからよく分からないや。けど俺は
そうあって欲しいな」
 そう言いながら、タカハシは首を傾げ、目を細めた。今やタカハシに向けられた照準はプ
ルプルと震えていた。
 だが次の瞬間、女はその銃口を己のこめかみに密着させた。下唇はぎゅっと噛まれていた。
「やれやれ……」


     



 目の前に目を固く、ぎゅっと閉じた女の人がいる。痺れる右手を左手で押さえている。
名前は……確か元モデルのレイコ。かつてのロックスターの恋人だ。
「うぅ……」
 彼女は唸るような泣き声を出して、その場にへたり込んだ。
「ふー……早撃ちで小さい的を射るのは久し振りだったから、成功してよかった……多分
次はもう出来ないだろーなー」
 間に合って良かった。全てはマンガのように上手くいかないモノだから……俺がマンガ
のキャラなら美味しいポジションのキャラなのだろうな。
「さすがにその右腕はしばらく動かないだろうけど……」
 俺はそう言いながら、彼女の背後に回り込んで吹っ飛ばされた拳銃を拾い上げた。密造
のトカレフはその銃身が俺の撃ち放った弾丸のお陰で派手にひしゃげていた。
(もしもの事もあってとか言われてトモハラさんに持たされたけど……あとでお礼しよ)
「勘弁な……殺し屋は辞めたけどね、アンタにはまだ生きててもらいたいんだ……」
 背中がびくん、びくんと震えている。これ以上は俺自身が見ていたら辛くなりそうだった。
俺はノースリーブから覗く彼女の肩の付け根部分を、親指でそっと押した。がくん、と彼
女は前のめりにその身を倒した。
「よっこいせっと……」
 彼女をおんぶする。さっさとズラかろう。まだ捕まって欲しくない。サイレンサーを装
着していたのだから警察はまだ来ないだろうが、さすがに護衛を思いっきりぶっ飛ばした
のでそれで警察が来るのは時間の問題だ。
 事務所の受付を抜ける。眠らせた受付嬢はまだ眠っている。
 外付けの非常階段を降りる。あまり良い階段ではない。おそらく防災にはあまり気を使
っていないのだろう。企業の自社ビルにしてはヒドすぎる。
 階段を降りきると、そこにトモハラさんがいた。背後には暖気の状態でスポーツカーが
待機している。
「あ……あのスミス&ウェッソンありがとう。役に立った」
「でも心配でしたよ……あまり早撃ちの精密度に覚えがなさそうでしたから」
「まぁね。でも……上手くいって良かった」
「それで……彼女は?」
 トモハラさんが俺の背負っているレイコを気にする。
「うん、彼女には生きてて欲しいんだ」
「……でも一体これはどういう」
 俺は肩から提げているバッグから彼女のエッセイの初版本を、トモハラさんに取り出さ
せた。それは今売り出されているエッセイとはその厚みに決定的な差があった。
「これは?」
「それはね、彼等が出そうとした本当のエッセイだよ。ある法則で変換していくと」
「していくと?」
「あの会長さんの持ってる黒い繋がりとかが全部書いてあるんだ」
「え……彼等って言いましたか?」
 文面に目を凝らしている彼女が顔を上げた。
「そ。それは共作だったんだよ、悪戯好きで素朴な一組の男女のね」
「世間に話題を振りまくためか……正義感から不正を公にしたかったのか」
「両方じゃねぇか?でも俺はそのリアル過ぎる暴力的な描写の暴露よりも、むしろ暗号が
隠されてる部分のためにこの本はあったんじゃねぇかって思うよ」
「『子供ね』とか言われませんでした?」
 思わず苦笑してしまう。やっぱり分かっちゃうんだな。
「言われた。でもさ、彼女がここに何しに来たのかを考えるとね……」
「そもそも、あそこでは何が起こったんです?」
 彼女が助手席のドアを開けてくれた。ゆっくりと、ゆっくりと背中の女を、背もたれが
倒れた助手席に寝かせた。本当に女の人の扱いには気を使う、こんな事をする人なんてそ
うそういないのだろうが……。
「あの時屋上では……交渉が行われてたみたいだね」
「と言いますと?」
「彼等が持っていたレーベルのもつ黒い繋がりを証明する資料と引き換えに……おそらく
は自由……が欲しかったんだろうね」
 そう言って、俺は助手席のドアを細心の注意を払って閉めた。まぁある程度の事じゃ起
きないのだが……そこは紳士的に。これもトモハラさんから教わった。
「で、彼は殺された、と」
「ああ……でも驚いた。あの会長さん、話を呑むつもりだったみたいだぜ。まぁはっきり
言って、彼から得られる金と彼を消すのに生ずるリスクを比べれば、そっちの方が利口だ
からね」
「で、彼女がハメた……そういう事ですか?」
 俺はわざとらしい溜息を吐いて、それからかぶりを振った。
「さーね……ハメるつもりがあったかどうかは俺にも分からないよ。でもまさか恋人を突
き落として、その場の全てを自分の利にしたっていう事実だけだよ。そういうのを悪魔に
魂を売るって言うのかな?」
 自分の右脳を眺めながら彼女は口を開いた。
「きまぐれ……でしょうか?でも、それだけだと恋人を騙した嫌なオンナってだけですが」
「それって『オンナの不思議』ってヤツ?」
 最近、学校に行けば、一日一回はこんな言葉を、俺は耳にする。ここまで過激なモノで
はないが、デートのドタキャン、別に喧嘩もしていないのに急にどうでも良くなって彼氏
をふってしまう、とか……そんな話を聞いて下校し、そういった話をトモハラさんに話す
と決まって「まぁ男の子にはあまりそういう事はないでしょうねぇ」というようなうやむ
やにするようなコメントと苦笑を返される。
「いや……オンナだからって言葉は性よりも個人を蔑視する、ひとりひとりの人間の名誉
の関係上あまり好きではないんですけどね、まぁ男性よりも女性の方が、思い立ったら即
行動、そういう面では相対的に優れていると……ごく個人の見解としては」
「妥当です。確かに面と向かって俺とお喋りしてた彼女の度胸は大したモノだったよ。凛々
しさすらあったかな」
「しかしこういう場合は断じて認めたくはないモノですね」
「でも人間には確実にこういった面があるようだ」
「………」
 二人して黙ってしまう。皮肉な話だが、人を殺す仕事の上で俺や彼女が重視しているの
はその的がどういう人間か、それを観察して理解する事で、場合によっては相手がこちら
に理解を示したトコロを無慈悲に仕留める・・・そんな、トモハラさんのスポーツカーの
ナビシートで昏倒しているレイコの今回の事となんら変わらない事をしていたのにも関わ
らず、彼女の思考回路は読めないし(俺達の場合は仕事だったワケだが)、人間を観察す
る事に重きを置く俺が多分一番『ひと』ってモノを分かっていない(「それはあなたがま
だ子供だからですよ」とトモハラさんは言う)。
「それにしても……」
 俺達はしばらく黙っていた。トモハラさんの運転する車で、既にエリスの待つあの家に
程近い交差点で信号待ちをしている。車に乗ってから、俺達はずっと黙っていた。喋る気
にもなれなかった。俺は、だが。
「イマイチ証拠能力に欠けますよね……この本だけでは」
 ミラー越しに俺を窺っている。
「どういう事?」
「少し頭を使えば、この程度では交渉には至らない事くらい、あの会長なら分かったと思
います」
 車中で読み物に集中するのは、俺にとって自殺に近い。こればっかりは幾ら彼女に鍛え
られても実にならなかった。渋々俺はバッグから例のエッセイを取り出し、開いた。
「ふむ……」
「ねぇ?」
 彼女の疑問はもっともだった。そしてその答えを俺はおぼろげに知っている。ただ、言
わなくても良いような事のような気がして言っていない。そして多分、それは助手席で寝
息を立てているレイコですら知らないハズだ。
 おぼろげとはつまり、確信に近い予想である、という事だ。
「あのさ……」
 ちょっと言葉に詰まる。どう言って、聞けば良いのかがちょっと分からない。
「トモハラさん、俺の事好き?もう大好き?」
 鏡越しに見なくとも、彼女の表情は不意打ちに驚いているのが分かって、言った自分で
も少し可笑しかった。
 トモハラさんの顔はすぐにニヤッとした、いつも俺をからかう時の笑顔に変わり
「何を今更」
 ピシャリとそう言った。
「あのさ……トモハラさんは俺の考えてる事とかって分かるの?」
「……目によりますね。先日のようなあなたの顔であるなら、ある程度の事は一瞬で。た
だ、あなたは元来男の人にありがちな『話さない人』でもありますから、それにも限界は
ありますけど」
「それでも分かるんだ……」
 俺の場合、それがイマイチ自信がないので当たり障りのない程度の部分で、トモハラさ
んや、そしてエリスのためになる事をしている。いわゆる思い遣りってヤツだろうか。
「……そのお友達は、きっとあなたの事を『死神』だなんて思ってませんよ。むしろあな
たに会いたがっているハズです」
「えぇ!?何いきなり話変えてるのさ?」
「お互い様です」
 再びピシャリと……。
「大変恐縮ですが」
 目が怒っている気がする。
「私がそのお友達だったら『で、それで?』と言いたいトコロでしょう」
「あ、あのさ……」
「ひとりで何でも背負い込む程、友達ってのは世話が焼けるモノでしょうか」
「え……えぇぇ」
「別にあなたの為に仲良くしているワケじゃありませんよ」
「おっほん……」
 思いっきり有り触れた、わざとらしい咳払い。
「堂々としましょ、ねっ」
 先日行った美容院で隣のバーさんが読んでいた週刊誌の記事を思い出した。
『女が嫌いな女の一位は説教臭い』
 今のトモハラさんは、相手が俺でもなければそのランキング一位の女優よりも高度なレ
ベルで説教臭いだろうから笑える。でも俺にとっては親代わりであり、頼れる近所の
オネーさんみたいな(これはサトシを家に呼んだときに、彼が偶然居合わせた彼女を見て
言った第一印象だが)存在だ。
「………」
 慣れない話をしたからだろうか、頬を赤らめて黙っている。
「それで、話戻すんだけど……」
「待ってました」
「ぶっ」
 思わず吹きだす。もうかなり遠慮がない分無理のある礼儀正しさが逆に漫才に思える。
「さっき会長さんのデスクからこんなモノをちょっぱって来まして……」
「デモCDですか?」
 俺の手には場末の電気屋で束売りされているような粗末なCD-Rがある。後々の都合が
良いように、歌詞カードもあった。
「そ。しかも、未発表の貴重な音源。加えて、インターネットへの流出を避けるためにマ
スター音源は厳重に保管されてて、多分今俺の手にあるヤツが唯一のカタチを持っている
それだろうね」
「それが何か?」
 トモハラさんがハンドルを大きく右に切った。そこは俺の住んでいるマンションの駐車
場だった。なるほど、エリスがいる場所に彼女を連れてはいけない。
 車を降りて、俺は助手席のレイコをおんぶする。その際に歌詞カードをトモハラさんに
渡した。
「ぶっちゃけ、音源の方は俺の趣味で取ってきた。ニルヴァーナみたいな感じで良い曲だ
よ。問題なのはずばり歌詞さ」

     



 私達はよっぽど非常階段に縁が深いようだ。女一人背負った彼を傍らに、渡された歌詞
カードを読みながら登って行く。管理人の不始末で灯りの消えかかっている暗い非常階段
はあまり読み物をするのには適さないようだ。
「あら……」
 思わず口から出た。本当に驚きだ。
「ね、まさかそんな事とは思わなかったでしょ?」
 背中の“荷物”を揺らし、背負い直しながら彼は言った。
「原盤が抹消されていなかったって事は会社も気付いていないよ……原盤がある以上今の
時代、必ず流出してしまう。そうすれば致命的だからな。そしておそらく彼女も知らない
んだよ、この事は」
そういう事なのだろう。これが偶然とは思えない。
「とは言え、これが彼女を守るモノとは……」
「確かに……」
 彼が苦々しい顔をする。どうやら背負っている彼女の寝息が耳元にかかるらしく、それ
に背中を震わせているようだ。
「彼女を殺せなかった理由があるワケだな」
 例のエッセイがいまいち決定的な証拠を示せそうにない理由としては、ある程度のコネ
クションがあれば、周到な根回しでこの疑惑を無き物にする事が不可能ではないからだ。
そうなれば彼女は生かしておいても仕方がない。
「……彼女を生かしておかなければならない理由があったのかも」
「それはカン?」
「殺せなかった理由よりは自然……そう思いません?」
「確かに」
 十三階まで登りきる。
「おー綺麗な夜景じゃのー」
ぼんやりと彼がそう言った。
「………」
「………」
 階下の夜景を無言で、二人で眺める。
「ま、その理由までは分からなくてもいいよ。彼女は殺されなかったんだから」
 踵を返して、部屋に向かう。もともと彼の目的は愛する彼女が静かに暮らせるようにす
る事なのだから。
「俺も初めて見た時はびっくりしたよ。偶然とは思えないだろ」
 例のエッセイに含まれた暗号の解読法を、彼がくすねてきた未発表曲の歌詞に置き換え
る事を、彼に促されるまでもなくやってしまった。
「しばらくはニルヴァーナとか……いわくのあるアーティストの曲を素直に聴けないかも
ね……歌詞に何か隠されてるんじゃないかって気になっちゃって」
 彼は部屋に入って、彼女をベッドに横たわらせるなりそう言った。
「驚きですね……まさかいきなりhttp…なんて始まり方は何かあると思っても予想出来ま
せんでした」
「既に各方面にリリースが告知されているこの曲……これはある意味賭けだね。そうだよ
なー危うく気付かれて発売が見送られるモン……」
 彼はおもむろに傍らの机の上に置かれたノートパソコンを引っ掴んで、私に突きつけた。
「何きょとんとしてやがんだ、らしくねぇな」
「ご自分でなさったら如何です?」
「いや、念のためさ。俺ぁインターネットを楽しむ程度だからね、いざというときには情
報の流出も有り得るだろうよ」
「承知しました」
 彼にはコンピュータに関する知識も植え込んだ。しかし彼には珍しく不得手な類だった
らしく、仕事柄必要な情報収集にもまるで活用していない。
 もし、彼が以前のような機械の如き殺人鬼のままなら(そう育てようとしたのは他でも
ない自分だが)、これも難なく独りの手でこなしていたのだろう。
「その間にと言っちゃぁなんだけど……飯でも買ってくるよ」
「お出掛けに?作ったら如何です?」
「たまには俗物も食いたいんだよ。それにこれを返さなきゃ」
 彼が掴み挙げて示したのは、例の本だった。
「初版の方ですね、借り物でしたか」
「まぁね。増刷版に大きめで似た色のマンガくっ付けてすりかえた」
 手癖の悪さを鍛えたのも、他ならぬ私だ。しかもこちらは今も昔も抜群のセンスを見せ
ている。ニヤニヤと笑いながらそう言うその顔はまるで子供だ。
「それじゃ」
 行ってきます、閉まるドアが邪魔してそこまでは断片しか聞こえなかったが十分だった。
以前は悪魔を育てていた。それは自分の想像の範疇の、特にその真ん中にある道だった。
だが今は……彼は個人の思惑の及ぶに至る場所になんて足音すら響かせない。少し前まで
は、それは彼が人間の証明を得たモノだと思っていた。以前は殺人鬼の類だった自分を鑑
みるに。
 しかし、彼は私のその見解を、その予想のつかぬ彼にとっては当たり前のような振る舞
いで、事如く二転三転させている。
(子供を見る目で言えば……ワルガキなのかも)
 笑いながら、アドレスバーに解読によって現われたURLを入力する。
 歴史に語られる英雄・偉人は、幼少の時分をワルガキとか、変わった子供などと言われ
ていた者が大半らしい。


                   *


「なるほどね……」
 摘み上げたピザを口の中に詰め込んで、タカハシがディスプレイを覗き込んだ。
「これは一体どういう事なんだろうねぇ」
 しきりに首を傾げて、タカハシはトモハラの顔を覗き込む。
「アップされたタイミングといい、件における騒ぎの内容から察するを申し上げれば……」
「うん……俺もそう思う。多分会長はこの存在は知っていたのだが、秘密が何処に隠され
てたかは知らなかったのだろう」
 殺されたアーティストの遺作の歌詞に隠された暗号が示したウェブサイトには、一連の
事件の内幕を知り得る者でなければ書き記せない、他ならぬ彼自身の手によって書かれた
メッセージと共に、膨大な量の、とあるデータが詰め込まれていた。
「これが彼の切り札だったんだね」
 親指の腹に付いたソースを舐めとり、齧り付くようにディスプレイを見ながらタカハシ
がそう言うと
「少々……疑問が残りますね」
 トモハラは溜息混じり返した。
 当初、タカハシが予想していたような悪質な要素は、そのウェブサイトからは発見され
なかった。その代わりというのか、そこに置かれていたのは
「時限爆弾だねーこれは」
「私達はこれを爆発前に発見してしまったわけですね」
 彼が所属していたレーベルそれ以上が極秘扱いしていた、いかがわしい金の流れの詳細
が事細かに記録されたPDFファイル、そして陽の下に晒せないような現場を収めた写真、音
声などのいわゆる裏情報で、その数はざっと数百点を数えた。
「これじゃぁ繋がりを持っていた政治家達は顔を青くしちゃうね」
「金の流れが記された資料には、どれも疑いの余地がないモノがありますからね」
「特にこの女装写真……これは是非流出して欲しいねー」
「しかし……というかやはり解せませんね」
「確かに。この曲がレコーディングされた時点で彼はこの事実を公開するつもりだったよ
うだが……」
 コーラを一飲みして再び口を開く。
「これじゃぁ彼等があの会長と交渉をする意味がない。ゆくゆくは二人共殺されちまう。
これじゃぁまるであの本が世に出ない事をはじめから分かっていたみたいじゃないか」
「………」
「多分これ……彼女は知らないよ」
「そうでしょうか?」
「この事実を事前に知らされていたなら、さっきみたいに拳銃片手に単身殴り込みかける
ような事はしなかったハズだよ。殺すならこの膨大な量のデータを使い脅迫して……呼び
出せるハズ」
 タカハシの摘み上げたピザから、サラミの切れ端が溶けたチーズを纏って床に零れ落ちた。
「やられたよ……薄々勘付いていたんだよ。おそらくはこの女装写真、あの会長が写った
これは彼女が撮ったんだ。彼のメッセージには『彼女の撮った写真も添付して』としか書
かれていないが、だから彼は彼女があのジーサンに殺されないと思ったんだ。アイツ等か
らすれば彼女を殺しては、そんな恥ずかしい写真が見付けられないまま、いつか流出して
しまう……」
「つまり彼は彼女の命はある程度の期間無事なのを確信して、このような行動に踏み切っ
たワケですね……それはつまり」
「彼は分かっていたんだ。彼女に殺される事を……」
 彼是数十分はパソコンと睨めっこしている二人は、ついにこのような結論を出したが、
その表情には納得というモノが微塵も存在していなかった。
「まるで恋人を」
「元恋人だね」
「……まるで元、恋人を掌で操っているような感じがして」
「俺も同感。まるで納得出来ないし、少々ムカついてるよ。でも……彼は命を賭けて交渉
に行って、そして命を賭けてウェブサイトを作って……つまりは彼女を守ったんだね……
格好はどうあれ」
 タカハシのベッドに横たわる、ロックスターの元恋人は、疲労からくるものであろう、
先程から熱を出している。この数ヶ月、彼女はあらゆるプレッシャーと真正面から闘って
いたのは否定のしようがない。
 二人は悩んでいる、彼女が起きたとき、この事実を知らせるかどうか。遅かれ早かれ彼
女は彼の、この『墓場』の存在を知る事になるのだが。
「救われねぇな……まったく」


       

表紙

ウド(獅子頭) 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha