書きます、官能小説。
第10話「第2話掲載後、第3話掲載前」
「メイド服は脱がない、だっけ?」
「ディモールト良し! そのとおりです!」
第10話「第2話掲載後、第3話掲載前」
この日、みひろはあおいから大事な指示を受けていた。
『ウチに入ってからがスタート』
みひろは合鍵を使い、ゆっくりとドアを開ける。
『キミの思うように、審査してほしい』
「た、ただいま帰りました」
「おかえりなさいませ、ご主人様」
そこには、メイド服を着たあおいがいた。
(これは難しいところですね。私の年齢だとぎりぎり『お嬢様』かもしれませんが……うーん、まあ、良しとしましょうか)
足元から頭まで、しげしげと眺める。
(たしかに日本で、しかもマンションならしかたないかもしれませんが……さすがに素足はひどい。
スカートが短すぎる。これだから市販のものはっ。やっぱり私が作ったもののほうが良品ですねっ。
……やはりメイド服は貧乳がいいですねぇ。
んんん? なんですかその首の黒い……首輪っ!? リア充御用達のアクセサリーですか? そんなものはメイドには不要っ!
あとメガネっ。気に入ってもらえているのは嬉しいのですが、メガネのメイドは認めませんよ!)
みひろ(ご主人様)の判定は基本的に減点式。満点からどんどんと点数を引いていく。
「紅茶が飲みたいです」
「ん、はいはい」
(かしこまりました、でしょうが! 素が出ましたね?
このやるせない気持ちは……ああ、メイド喫茶で「いらっしゃいませ」と言われたときと同じですね)
あおい(メイド)は台所に立ち、お湯を沸かし始める。
(さすがに、用意しておけ、というのは酷ですね)
しばらくすると紅茶がやってきた。お茶うけなのか、クッキーもあった。
(紅茶がおいしい。このクッキーも。ここで出てくるものって、どうしてこんなにおいしいのでしょうか……)
ちらりとあおい(メイド)を見る。同じように座り、紅茶を飲んでいる。
(贅沢は言いません。主人の向かいで食べるな、とかそんなことは言いません。ただ、ただ……脚を組むのだけはやめてください。バリボリ食べるのもやめてください)
「さて、一旦はこんなところにして」
あおい(メイド服を着ているけれど、雰囲気は普段どおり)はメモを片手にみひろに問う。
「私のメイドはどうだった?」
みひろ(普段どおり)は全体的なところから細部まで思い出し、正直に答えた。
「すばらしいです。ちゃんと理解できているようですね」
「ふふふ、そうだろう」
みひろはあおいから受けた指示の、最後を思い返す。
『私の演じるメイドが、一般人が認識している程度のメイドかどうか、判定してほしい』
「たしかに普通の人なら『お嬢様』『旦那様』は使いません。『ご主人様』一択ですね」
「さすがに素足はないかなーとは思った。あとレースの手袋はあったほうがいいかな?」
「そうですね。ですがメイド服とセットでは売っていないでしょうけど……それにしても、やっぱり市販のものは安っぽいですね」
「素材がひどいよね。市販で買う、という設定を、誰かに作ってもらう、としようかな」
その後、みひろは黒いストッキングの着用や首輪などの不要なアクセサリの除外、そして「ヘッドドレス」ではなく「カチューシャ」という名称だと助言した。あまり言い過ぎると玄人好みのメイドになってしまうのでほどほどに。
「そうそう、もし知っていれば教えてほしいだけど」
「はい?」
「メイドの夜伽……もちろん官能小説に載るような内容だけどさ、どんなことすればいいの?」
「…………」
ホームグラウンドだった。
「特別なことはしませんが、相手を思いやる、そう、奉仕が必要です」
「女性優位ってこと?」
「うーん、少し違いますね。自分の欲求を満たすのではなく、相手に満足してもらう、そんな気持ちが大切です」
「それは口でしたり、む、胸でしたり、とか?」
「そ、そうですね」
あおいの目がみひろの胸を見る。
ああ、また体験談を語っているように見られている。
……んん? 胸の話しは以前したような気がするけれど……?
「体位は騎乗位がいいのかなぁ」
「そうですね。ですが、何より大事なことが」
「メイド服は脱がない、だっけ?」
「ディモールト良し! そのとおりです!」
「キミは突然テンション変わるよね……となると、こんな感じで良さそうだね」
あおいは第3話を渡した。
「私のメイド観に問題はなさそうだから、ほぼこのままでいくよ」
「これは昴くんの視点ですか?」
「今回はそうしてる。せっかく加悦がメイド服を着ているんだから、彼氏さんからの感情を伝えたいなと思って」
「なるほど」
みひろの経験だと、多くの連載物の小説は視点が変わらない。もし変わるとしたら、がらりと別人物の一人称に変わることが多い。けれどこれは、基本は三人称で、たまに昴の一人称が入る、あまり見ない構成だった。
(たいていの人は読みにくいと感じるのでしょうけど……これがあおいさんですからね)
それにしても、作中のメイドの加悦はやけに可愛らしく感じられた。男性視点だからか、奉仕をしている姿がとても卑猥で、少し恥ずかしくなってしまった。
そして、読み進めていくと。
「え、あら……これは」
「ふふふ、このダメなメイドなら、ぜんぜんアリじゃないかな?」
「うぐ」
終盤、加悦は言ってはいけないことを言っている。通常のみひろ基準では一発で不合格だったのだが。
「たしかに……これは、認めるしかありません……」
「なかなか魅力的に書けたと思っているよ」
「うぐぐっ」
とてつもなく悔しかったけれど、ひとまず第3話は大丈夫だろう、みひろはそんな確信を得ていた。
★第2話フィードバック
「では、第2話のフィードバックをしましょうか」
「う、うん」
あおいは前回と同様に鼓動を高鳴らせた。
「反応の数こそは減りましたが、まあそれなりに良い感じではあります」
「ん、んん、そうなんだ」
何度かうなづき、あおいはメモをとる。
「反応の量としては、いいの? 悪いの?」
「普通ぐらいです」
「あ、そうなんだ。なるほどなるほど。まあ2話目以降はそうなるもんだよね」
あおいの様子に、みひろは考えるところが多くあった。
(モチベーションは……下がっていないようですね。ちょっと心配でしたが、取り越し苦労でした。
読者の反応を見る限りは悪くないように感じますが……固定読者以外からの反応はないように感じます。あの場所からの反応もありませんでしたし。
……様子見をする時期ですかね。悪く考えるのはそれからですね。私もアピールする方法を考えたほうがいいかもしれません。編集部で報告するというのも、一つの手ではありますね)
「そうですそうです、今回はこんな反応がありました」
『上品かつ官能的なエロシーンの書き方を伝授してくれるエロい人およびあおいさんを募集してます』
「こ、これはいったい……」
「ある筋から入手したつぶやきです」
あおいはとにかく戸惑っていた。よもやこんな指名があるとは思ってもいなかった。
「これを言った人はどんな人?」
「我が出版社の小説の作家ですよ」
「な、なるほどぉ……この人の性別は?」
「男性です」
「ふむ……なら、私じゃなくて、同性の作家に訊くのをおすすめするよ。性別によって感じ方、考え方が違うからね」
「わかりました。そうらしいですよ? 返事が遅くなって申し訳ございません」
「……誰に言ってるの?」
この流れに、あおいはついていけなかった。
「あとですね、実は我が出版社関係でラジオがありまして」
「ラジオって、あのラジオ?」
「ネット上の、作家や読者によるラジオです」
あおいにはよくわからない話しだったが、もう何も言わなかった。
「で、それが?」
「なんとマンネリガールが紹介されたんです!」
「え? ほんと?」
「本当です。掲載されたらすぐに読みますとか、何かと一緒に読んでみたらどうでしょう、と紹介されたんです!」
「うわ、すごいじゃないか!」
「そうですよぉ、これはあおいさんの力量ですよぉ」
「そう、そう? ところで、何かってなんだろう?」
「何かは何かですよ」
★打ち合わせ
「全体の流れを考えなおしてみた」
「え? 変えるんですか?」
「うーん、何て言うか、思っていた以上に加悦や昴の存在が大きくなってきて……もうちょっと魅せようと思ってね」
「はあ……」
「で、こう考えた」
『第1話:昴の家。マンネリと感じた加悦が次回に向けて気合を入れるような内容。
内容は正常位。
第2話:環境を変える、ということで舞台はラブホテル。加悦には声を出して喘いでもらう。
内容はバックでガスガスと。
第3話:衣装を変える、ということでメイド服。脱がさない。
内容は騎乗位。加悦が主体で。でも視点は昴寄り。
第4話:?????
第5話:加悦が夜寝ていると、侵入者に強姦されるという話。
実はその相手は昴で、なんちゃってレイプゴッコ、みたいな。
第6話:初めて1つになったことを思い出して自慰。
第7話:加悦が同窓会に行く話。元カレがそこにいる。ちょっと気持ちが動きそうになる。
彼氏さんからの、何らかの行動で我に変える、みたいな。
第8話:第7話のことを引きずったまま。昴に気持ちを再確認。めでたしめでたし』
「第4話は未定ですか?」
「いや、こんな感じ」
あおいは別の紙をみひろに見せた。
「ん、んんんん~?」
「こういうのって、需要があるらしいね」
「ですがこれは……うーん、少々無理があるような……」
「まあ4話はサービス回というか、番外編というか。うまく構成考えて、話の流れに影響を与えないようにするから」
「うー、うーん……」
「それよりも、第6話と第7話が入れ替わっているのに気づいてほしい」
「気づいてますよ」
「考えてみれ第7話が1番盛り上がるところだから、あとのほうがいい気がする」
「まあそうですね」
それよりも。みひろは第4話について考える。
「うーん。しかし、これは……」
★おまけ1「あおいが主人で、みひろがメイド」
「解雇だ」
初日の挨拶。初対面で、みひろが挨拶をするよりも早く、あおいはそう言った。
「え?」
「だから、解雇だ」
「え? え?」
わけがわからなかった。が、このままではマズいとはわかった。
「ど、どうしてですか!?」
「キミの外見だよ」
ぎりっ。あおいの厳しい目が、みひろを睨む。
「その短いスカート。太ももまでばっちり見えているじゃないか。
そしてそのガーターベルト。な、なんと破廉恥な……
細い腰。なんだそれは、瓢箪のくびれか?
自己主張の強すぎる胸! なんだそれは、どうやったらそう育つ?
しかも胸元を大きく開けるなんて! 改造にも程がある!
禍々しい首輪。キミはメタル好きなのか?
その……えーと、ツインテール! 不衛生だろうが!」
「伊達メガネはスルーですか?」
「伊達なのか! とっとと外しなさい!」
ぜえぜえと肩で息をする。目の前のみひろは、何から何まで不合格だった。
「第一印象は大事だと思いまして」
「今あげたこと、どうにかしなさい」
「ですが、胸と腰は」
「解雇」
「ひょっとしてコンプレックスを」
「解雇!」
★おまけ2「あおいが執事で、みひろが主人」
「……おかしいよね?」
「いーえ、おかしくありませーん」
怪訝とした様子のあおい。そんなあおいを見てニヤニヤとするみひろ。
「これ、男性用だよね?」
「いいえー、女性でも大丈夫なんですよー」
ボーイッシュな女性が男装をしている。そんなことが現実で起きている。みひろからすれば夢の実現でもあった。
普段はかわいい男の子がメイド服を着て男の娘になる、それがみひろの好みであったが……これはこれで、ありだった。
「で、私は何をすれば」
「ボク口調でお願いします」
「ぼ……僕は、何をすればいい?」
「生きててよがっだ……!」
「泣くほどのことなのか……?」
★おまけ3「企画応援1」
「あおいさん。我が出版社では、いろいろと企画をしているのです」
「へえ、それは興味深い」
「小説作品の挿絵FA企画というものがありまして」
「FA?」
「小説作品に対して挿絵を贈る、という企画です。読者ページに投稿場所ができるんです。また、作品のレビューも行われています」
「へぇ、おもしろそう」
だけど。と、あおいは続ける。
「私は絵が描けないから、あまり関係ないと思うけど?」
「こんなことをしている、ということを教えたかっただけですよ」
「ふーん。まあ、マンネリガールは官能小説だし、難しいだろうね」
「タグもつけてな」
「タグ?」
「いえ、何でもないです」
★おまけ4「企画応援2」
「お題くじ?」
「そうです。我が出版社の小説部門では、ランダムで選ばれたお題で小説を書く、という企画があるのです」
「へー。それはおもしろそう!」
「現在は第2回目なのですが、第3回目はアミダくじで各アルファベットの単語26個からランダムで選ばれ、それがお題になったりするんです」
「ほー、楽しそうだね」
「これは小説の作家はもちろんのこと、マンガ家の方、読者の方、自由参加なのでぜひぜひ参加してみてはいかがでしょうか?」
「私も参加していいの?」
「え、えー……?」
「なぜ言いどもる?」
「その、あおいさんはいろいろと……距離感が微妙というか……設定的な意味できついというか……」
★おまけ5「企画応援3」
「恋愛漫画企画?」
「はい。エロ・グロ・BL・ガチホモ・百合、純愛・両想い・片想い・妄想・失恋・ストーカー、獣姦・宇宙人・多種族姦・擬人化などなど、とにかく『恋愛』がテーマの企画です」
「ほほー」
「締切は10月31日、掲載は11月3日です。追加分は11月7日までage更新で……詳しくは編集部の恋愛企画漫画スレッドをご覧ください。
もう締切が近いので参加は難しいかもしれませんが、ぜひ読んでコメントして、みんなで盛り上がればいいなぁと思います」
「そうだね。なかなか素敵な題材だから、大いに盛り上がるといいね」
「それにしても、今日は何かと企画の話題ばかりだね」
「旬のネタと言いますか、感謝の気持ちと言いますか、いろいろあるんですよ」