Neetel Inside 文芸新都
表紙

書きます、官能小説。
第13話「第5話掲載後、第6話掲載前」

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「キミの自慰……教えてほしい」
 
 あ、初期のノリだ。みひろは軽く目眩いを起こした。
 
 
 
 
 第13話「第5話掲載後、第6話掲載前」
 
 
 
 
「さて、第5話が終わったわけだけど。
 この話では、今まで一途で頑丈だった加悦の昴に対する想いがほんの少し揺らいでしまった。でもこれは“転”の入り口でしかない。
 次の第6話では、昔の営みのことを思い出させ、今の気持ちとのギャップを自覚させて揺らいだ心の表面を剥がし落としていく。官能小説的な内容はもちろんのこと、昔の新鮮な気持ちの営みと現在の倦怠感のメリハリを出したいと思っている。
 ここで加悦を弱めに弱めたところで、最高の盛り上がりどころの第7話に続く。この話の仕上がり方で第7話でのインパクトが大きく変わってくる、大事な大事なところなんだ」
 
 みひろはあおいの言葉に、ただ黙ってうなづいた。真剣な面持ちに聞き入っていた。
 
「というわけで」
 
 あおいは、言った。
 
「キミの自慰……教えてほしい」
 
 あ、初期のノリだ。みひろは軽い目眩いを起こした。
 
「たしか、以前いただいたプロットにも加悦が自慰をする話、と書かれていましたが……そのネタ集めですか?」
「そう。官能小説では男女2人以上の絡みばかりで、自慰の話というのはあまり見かけなかった。結局、男女の絡みが興奮するというのはわかるよ? それはわかる」
「まあ、そうですね」
 
 一概にもそう言えませんが。と、みひろは内心つぶやく。世間の需要は女性同士、というのが第4話で出ているからだ。
 
「でも、さっきも言ったとおり“転”の最高潮である第7話をより引き立てるために、いろいろ考えた結果が加悦の自慰だった。しかも、昴との初めての営みで自慰をする。これが一番だと思った。
 マンネリと感じている最近の営みと、すべてが色鮮やかに見えていた最初の営み。比べるまでもない。そんなギャップに、加悦はどう反応するのか。考えるまでもない。
 で、だ。キミの自慰のやり方が知りたいってわけ」
「は、はあ……」
 
 みひろは一番最初の質問のときのように、困った。今回は別に経験がないというわけではない。ただ単純に恥ずかしかった。
 
「ところで、加悦は具体的にどんな想像をしているんですか?」
「ああ、ごめんごめん。はい、これね」
 
 あおいは第6話を渡した。みひろはそれを読むうちに、顔を青くした。
 
「質問、させてください」
「ん? どうぞ?」
「これは、加悦と昴くんが初めて営みを行ったときの……回想で、加悦が自慰をする、というお話ですよね?」
「そうだよ?」
「昴くんは、加悦が初めて、なんですね。これを読むに」
「そうだね。俗っぽく言えば、童貞だね」
「そうですよ、ええ、そうですね」
 
 頭痛がする。みひろはこめかみに痛みを感じていた。
 
「加悦、ですけどね」
「うん」
「昴くんが初めて、ではないのですか?」
 
 この質問。この質問への答え1つで、読者の支持率が変わってしまうかもしれない。
 考えたくなかった。ヒロイン(というよりは主人公)が非処女だなんて!
 
「加悦はこのとき、非処女だよ」
「な、が」
 
 間違いではなかった。書き間違えではなかった! どこからどう読んでも加悦が昴の筆おろしをしている!
 
「なぜ、なぜ処女ではないのですか?」
「え、だってさ。外見の描写で、なんとなく加悦ってかなり美人さんてわかるじゃない? で、大学生でそんなんだから、高校生のころもそこそこ可愛かったと思うんだよね。となると、高校生の間に経験ぐらいあるはずだよ」
「ぐ、う」
「むしろ、昴の初体験が遅すぎるよ。だって大学3回生で童貞って。遅い遅い」
「う、うう」
 
 耳が痛かった。これ以上聞けば、心が折れてしまうかもしれない。血を吐いてしまうかもしれない。
 けれど負けるわけにはいかない。すべての読者のために退くわけにはいかない(と思い込んだ)。
 
「ですが、男性は女性の処女性を重視しているところがありまして……」
「そうだろうね。でもねぇ、処女ってめんどくさいって言うからね。男性側も痛いみたいだし。ある程度小慣れているほうが嬉しいらしいよ?」
 
 この発言が広まったら、きっと石を投げられるに違いない。
 むしろ投げたい。
 
「ということで、今回は加悦が昴の筆おろし、というお話。女性上位の話も需要があるはずだしね。まあこれはおまけで、さっき言ったとおり、どうしても回想を入れたかった。でもいきなり入るのも不自然だから、加悦の自慰に合わせてみた、というわけ」
「なる、なるほど」
「で、最後は第7話に繋がるような終わり方にしている。転から転へ矢継ぎ早に進めていきたいからね」
「そういえばこんな切り方は初めてですね。ありきたりな引きですが、それだけに不安に感じますね」
「せっかくの転、しかも最も盛り上がりどころの第7話直前だからね。読者にはひやっとしてもらいたいんだよね」
 
 いよいよクライマックス。そんな様子が伝わってきた。
 それはそれとして。
 
「どうして自慰の方法なんて訊いたんです?」
「ええ、えっとぉ」
 
 あおいは急にもじもじとする。その仕草が妙に可愛かった。
 
「やっぱり、ちゃんとネタ集めしないといけないし……でも、恥ずかしい、よね?」
「たしかに恥ずかしいですが……」
「うん、だから、今回は実体験をもとに書くね……」
 
 本当に恥ずかしがっているようだった。初対面で処女か非処女かを訊く人の羞恥心がイマイチわからなかった。
 
 

     

 
★第5話フィードバック
 
 
「さて……第5話の、読者の反応ですが……」
「うんうん」
 
『キツかった』
『引くわ!!!』
 
「え、え、え?」
「量、内容共に、今までで最も厳しかったですね……」
「なん、なんでっ?」
「良く言えば、描写があまりにもリアルすぎた、でしょうか。悪く言えば、読者はこんな話を期待していなかったかと。やはり、加悦と昴の純愛に需要があるようですね」
「そう、なんだ……」
「第4話の反応が良かっただけに、落差が大きく感じますね」
 
 あおいはうなだれる。
 
「おかしいなぁ……男性はちょっと乱暴にするのが好き、と思ってたのに。女性は愛されながらも乱暴にされるのがいいと思っていたんだけどなぁ……」
 
 しかし、反応に対して落胆しているわけではなかった。
 
「実体験だけど、手首をつかまれて押し倒されるの、ちょっと好きだったし」
「……oh」
 
 ああ、そう言えば。この人は、マゾの素質があったな。みひろは2回目に会ったときのことを思い出した。
 
「それにしても困った」
「どうしました?」
 
 
「これでキツかったとしたら、これから先の展開は直視できないかもしれないね」
 
 
 
 
「………………え?」
 

     

 
★おまけ1「茜みひろは容赦しない」
 
 
「自慰のやり方、教えて、ほしい」
 
 改めて、あおいの言葉を反芻する。
 
 何を言っているんだ、この人。これが率直な感想。
 何この人、かわいい。これがその次の感想。
 
 そして。
 
 逆襲するは我にあり。これが本音だった。加悦が非処女で、それ以外にも散々心をえぐられたのだ。ある程度は許されるだろう。
 
「あおいさぁん、ひょっとして、自慰、やったことないんですか?」
「あ、あるよっ、あるけどさぁ……」
 
 顔を真っ赤にする。話しの流れ的に「自分以外の自慰をやり方を知りたい」ということなのだろう。しかし、うまく誘導することでこちらの情報を何一つ出さず、あおいの口から「やったことがある」と言わせることができた。できたのだ!
 
「ほうほう。では、どのような方法をされているのですか?」
「ど、どうって……」
「ほら、いろいろあるじゃないですか。私はごく普通の方法ですが」
「そ、そうなんだ。私は、うつ伏せになってやる方法しかやったことない……これって、普通?」
 
 聞き出せた。どうやらうつ伏せでするらしい。みひろは「まあそういう方法もありますよね」と答えておいた。
 みひろは「ごく普通の方法」しか言っておらず、具体的にはどうするかは言っていない。チープの誘導尋問にも、冷静ではないあおいには効果的だった。
 
「それで、最近はいつやったんですか?」
「最近っていうか……うう」
 
 軽く一押し必要らしい。みひろはそっと、あおいの頬に触れる。
 
「ひゃっ」
「あおいさん、これも大事なネタ集めですよ? ちゃんと言わないと」
 
 ワイルドカード『ネタ集め』。これにはあおいも答えざるえない。
 
「最近、じゃなくて……マンネリガールを書いていると、たまに、こう、むらむらぁって」
「へぇ、執筆中に、ですか?」
「……うう」
「具体的には、どんなシーンですか?」
「そん、そんなことまで訊くのっ?」
 
 まだ押しが足りないのか。みひろは頬から、細い腰に手を移動させ、するっと撫でた。
 
「ひゃあっ」
「あおいさん。どんなイメージで性欲を催すのか、大事なところだと思うのですが?」
 
 それっぽいことを言う。しかし、動揺しているあおいは素直に答える以外の選択肢はなかった。
 
「その、昴が強気に加悦を愛撫してるところとか……自分で言うのもなんだけど、けっこう強気にされるのが好きみたい。第2話や第5話は本当にうまく書けたなぁと思ってる……」
 
 確定。この人はマゾだ。
 
「それで、そんなことを考えながら、あおいさんはどんなところを弄るのですか?」
「胸、とか、下腹部とか、だよぉ……」
「で、どんなことを考えるのですか?」
 
 みひろもテンションが上がってきたのか、ついにあおいは抱き締める。
 
「ほら、ちゃんと、教えてください」
「う、はぅ……」
 
 あおいは答えない。まだ足りないのか。みひろは苛立ちを覚える。
 が、そんな感情も、あおいの様子に一発で吹き飛んだ。
 
「う、うううううー……」
 
 半泣きだった。目には涙が溜まっている。やりすぎた、やりすぎた!
 
「あわわわ、ごめんなさい、ごめんなさいっ」
 
 みひろは謝りながらも、めんどうなマゾだな、そう毒づいた
 
 

     

 
★おまけ2「つまり、こういう感じ」
 
 
 少し前に日付が変わった。あおいはうっすらとまぶたにかかる眠気を振り払いながら、キーボードを叩いていた。
 現在連載中のマンネリガール。官能小説ということもあり、日が落ちてから書き進めることが多かった。つまり、夜のうちにどれだけ進めることができるかで推敲の時間も変わってくる。決して気が抜けない、時間を無駄にはできなかった。
 カタカタ、カタ。あおいの手が止まる。
 
「んー……んんっ」
 
 ぐいっと手を上に突き上げ、ストレッチをする。気づけば夜の1時。かれこれ数時間も執筆に勤しんでいる。
 まずは大まかに話を書く。『骨組み』と名称を与えている。そして少しずつ形を整えていく。これは『肉づけ』と呼んでいる。この肉づけが終われば飽きるほど推敲を繰り返す。
 あおいはこの肉づけの工程が好きだった。まだ生まれたばかりの話を育てていく。まるで親の気持ちだった。もちろん骨組みは文字に生命を与えるような神様の気持ちだし、推敲は刃物を研ぐような気分だった。そう考えると私は鍛冶師なのかもしれないと、あおいは思うときがあった。
 今回の話、第5話は加悦と昴によるレイプまがいの性交渉の話。終盤まで昴を他人のように表現し、加悦があたかもレイプされているような描写をする。そして最後は次回へ続くようなニュアンスを残して、終わり。
 ちょうど書いているところは、昴が加悦の膣内で果てたところ。避妊具をつけているとはいえ、膣内射精のような擬音語を書き、生々しさを表現する。
 
「…………」
 
 あおいは手を止めて考える。音だけではなく、2人の仕草でもっと生々しさを描写するべきか、それとも加悦の様子だけで悲壮感を出すのか。両方という選択肢はない。選択肢を1つに絞ることでそれは際立つ、そんな持論があるからだ。
 あれこれ考える。想像は発展し、加悦が様々な犯され方をする。多人数であったり、顔に射精されたり、本来の用途でないところで、したり。
 
「…………」
 
 あおいは体の異変に気づく。昂っている。官能小説の描写を考えて、欲情している。
 ふと、胸に手を触れた。ぴりりと微弱な電気が流れたような気がした。自分でも小さいと気にしている、胸。たしかに小さいとは思うけれど、感度は良いと思っている。
 普段からブラジャーはつけていない。直に胸に触れ、ふにふにと動かす。
 
「あう……」
 
 体に流れる電流がとても甘く、思わず声が出てしまった。堅いポイントを指で引っ掻くと、びりっと強い電気が体を走った。
 触れてしまった。我慢できない。あおいはふらふらと立ち上がり、ベッドに移動する。そしてぽすんと横になり、片手は胸、片手は下腹部を押さえた。
 
「んん……」
 
 今日はどんなことを考えようか。何かシチュエーションを考えるには少し疲れているし、過去の男性のことを考えるような気分にもなれない。
 そうなると、ここは執筆中の内容みたいなことを考えるほうがいいだろう。真っ黒な人形のシルエットに拘束されて犯される。そんなイメージ。
 想像する。作中の加悦のように、手錠で拘束され、衣服を破かれ、乱暴に愛撫される自分を。そして、抵抗むなしく挿入される、自分を。
 
「はぁ……はぅ」
 
 下腹部が熱い。胸の突起が堅い。自分でもわかるぐらい息が荒い。みっともない、まるで獣だ。でも、この快感には抗えない。
 突かれる。突き込まれる。荒い息と喘ぎ声が、耳の真横から聞こえる。近い。この空想の男の限界が、近い。
 
「う、あぁ……イく、イクぅ」
 
 びくんっ。膣が数度震え、汗が噴き出る。途端に吐き出る大量の息。とてつもない疲労感に、あおいはごろりと仰向けになった。
 気持ちはすっきりした。しかしこの疲労、しばらく休む必要がある。無理をせず、あおいはほんの少し、仮眠を取ることにした。
 
 

     

 
★おまけ3「今年のクリスマスは開催を許可してやろう」
 
 
 ああ、また今年もこの季節がやってきましたね。
 クリスマス。別に意識はしていませんが、不思議な苛立ちを感じるんですよね。
 イルミネーションだとか。プレゼントだとか。今晩どうする? なんぞかんぞ。
 
 浮かれやがって、リア充どもめ。出会い頭にメリークリスマスと言ってやろうか。
 
「顔怖いよ、キミ」
 
 あおいの言葉に、みひろは我に返った。打ち合わせをしていて、ふと話題がクリスマスの話しになり、つい意識がトリップしてしまった。
 
「あ、すみません。ちょっと考え事を」
「んー、クリスマスについて、とか?」
 
 図星。あまりにも図星だったので、首を縦に振った。
 
「まあ、クリスマスで騒ぐ世間ってバカバカしいよね」
「え!?」
 
 リア充(とみひろが思っている)のあおいからそんな言葉が飛び出す。みひろのテンションは上がってしまった。
 
「冷静に見てみれば、単なる平日なんだよ? それなのに世間はあたかも男女で過ごすことが当たり前にされていたり。まったく、バカバカしい」
「そ、そう、そのとおりです!」
 
 感激。よもや同じ考えをしているとは!
 
「で、では、今年は2人でクリスマス虐殺運動をしましょう!」
「なんだろうな、それ……でもごめん、予定あるんだ」
 
 あー、きた、きちゃったよ。あれか、彼氏と過ごすんじゃなくて、彼氏いない人たちが集まって行われるクリスマスパーティーってやつか? 来年は参加しないからねーそれ去年も聞いたしー、という、あれか?
 ケーキ1ホールを1人で食べたらそれで満腹になるって、知ってますか?
 
「お友達と過ごす系の予定とやらですか?」
「ううん。子ども会のボランティア」
 
 予想外。そして、邪念を吐いてごめんなさい。
 それにしても……ボランティア、とは……?
 
「どんなことをするんです?」
「サンタの格好してプレゼントを渡したり、いっしょにケーキを食べたり……て、どこの町内会もやってたりするよ? あんまり目立たないけど」
 
 サンタの格好。
 あおいさんの、サンタの格好。
 サンタガールなあおいさん。
 
 一口にサンタと言っても、様々な格好がある。南国のサンタは水着らしいが、それは今はどうだっていい。
 ミニスカートだろうか。ここは重要なところだ。キャミソールぽい感じだろうか。ちゃんと白い手袋はしているんだろうか。白いポンポンはついているだろうか。
 
「あの、見に行っていいですか?」
 
 考えてもわからない。しっかりじっくり見てみようじゃないか。
 
 今年のクリスマスは開催を許可してやろう。
 
 

       

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Neetsha