書きます、官能小説。
第14話「第6話掲載後、第7話掲載前」
バケモノ。この人は、バケモノだ。
第14話「第6話掲載後、第7話掲載前」
「これ、第7話。まずは読んで」
あおいから第7話を渡された。
おかしい。みひろは、本能、つまるところ右脳で察した。
今まではネタ集めをしてから渡されていた。しかし、今日はいきなり、渡された。
どういうことだろう。
そんな疑問は、読み始めてすぐ、消えた。
「これは、なんですか?」
「ん、全部読んだ?」
「まだ途中までしか読んでいません。これは、なんですか?」
この展開について、あおいから直接聞きたかった。
「第7話。加悦が高校時代の同窓会に出て、そこで元カレと出会う話だよ」
「それはわかります。この展開は、いったいなんですか?」
「つまり、そういうことだよ」
そういうこと。さも当然のように、答えた。答えられた。
この作家は、コトの重大さに気づいているのだろうか。
まさか、加悦と元カレの官能シーンが書かれるなんて。
「私は、最終的に、読者のことは裏切らない」
あおいは、淡々と言った。
「でも最後には、というだけの話し。途中までの展開は、いくらでも裏切る。いくらでも上げて、いくらでも落とす。それが、この第7話だよ」
「だから、元カレと……なんですね?」
ただ読んだだけなら完全にアウト。しかし構成と展開的にはセーフ。しかしみひろには、どう贔屓目に見てもセーフではなかった。ブラックゾーン。多少薄いだけの、ブラックゾーンだった。
「この第7話は、作家の私と今まで読んできてくれた読者との、勝負なんだ。今まで私は、加悦のことをすごく魅力的に書いてきたつもり。性格も、外見も、そして昴に対する気持ちも。それなのに、この話ではぽっと出の元カレ、マオトコとの絡みをそんな形で書いている。
すると、読者はどう思うだろうか。読者1人1人に、加悦を想い浮かべてもらえていたのなら。
加悦に対して、ショックを受けるかもしれない。苛立ちを感じるかもしれない。または、マオトコに対して殺意が湧くかもしれない。私に対しても、失望するかもしれない。
でも、それがいい。ここでの最悪の反応は、何事もなく普通な展開として読み流されること。加悦のことを無視されること。この反応が何より悪い。これは私の作品が駄作だという証明でもある」
「ですが、もしこの話で幻滅して、そこで読むことをやめられたら」
「それはこんな展開でもなお続きが気になる、そう思わせることのできなかった私が悪い。ちゃんと受け入れる」
「反応がなければ?」
「それは微妙なところだけど……まあ、反応を書く価値もない、と受け取ろう」
「うう……」
どれだけ高いハードルだろう。非難されることを成功と思うなんて。
それにしてもこの展開はあんまりだ。もしアニメやマンガならネット上で炎上するだろう。作者は刺されるかもしれない。出版社は燃やされるかもしれない。
おそらくあおいは、みひろのような反応を待っている。この展開を拒絶するような、反応を。しかし、それを真正面から勝負として書くだろうか。この人には、恐れとかはないのだろうか。
「まあ続きを読んでよ」
「はい……」
さらに続く悲しい展開。それは後編まで続き、そして終盤。ようやく安心できた……のも束の間。
「えっ……ええ!?」
「そう、それが、第7話の真骨頂。ぽっと出の元カレよりも恐怖を与える、展開だよ」
「え、ここ、ここで……?」
「そのラストは、マンネリガールの中で最大の恐怖を書いたつもり。ここで読者には恐怖を感じてほしい。というより、感じさせる。これぐらいできないとプロではないし、作品じゃない」
バケモノ。この人は、バケモノだ。
このプロ意識、どんだけなんだろうか。ごくごく無難な展開をして静かに終われば、それなりの評価をもらえるだろうに。これが、作家と編集の意識の差なのか。
「もう、何も言いません。これでいきましょう。私は読者が反応しやすいよう、どうにかがんばってみます」
「ありがとう。助かるよ」
この作家を信じるしかない。いや、読者を、読者の中の加悦を信じるしかない。
作家の担当とは、これほどつらいものなのか。みひろは、自分の立ち位置の重さを感じていた。
「で、今日のネタ集めは……?」
「あー、もうここまで書いているから、特にないんだけどね。そうだなぁ、もし、昔の男と肌を重ねるような経験があったのなら、聞かせてほしいなぁ」
つまり、自分の尻軽さを話せということ。あおいはバツの悪そうな顔をしている。ネタ集めとはいえ、申し訳ない気持ちなのだろう。
さて、どうしようか。妄想ならいくらでも語れる。しかし、最悪の場合、マンネリガールは破綻するかもしれない。ここは、じっと黙っておくところだ、きっと。
「いえ、ありません」
「そ、そうだよね、みひろさんに限って、そんなことないよねっ」
なぜ嬉しそうなのだろう。
★第6話フィードバック
「さあ、始めますよ、あおいさんっ」
「何そのテンション……」
『回想ktkr』
「けーてぃーけーあーる?」
「キタコレ、の略ですね」
「きたこれ? ミラノコレクションみたいな感じ?」
「……これだからリア充は」
『なんという初々しさ』
『キスだけでもエロい』
「あれ? なんかウけが良かった?」
「そうですね。今回は連載当初と同じぐらいの反応を頂けました」
「へえ。回想ってあまり人気出ないって聞いていたから、ちょっと意外」
『加悦が何を考えてるのかいまいちよく分からない』
「んん、これは『加悦が自慰中に考えていること』なのか、それとも『昴に対する気持ち』なのか、どちらだろう」
「たぶん後者かと。ちなみに、これは後編掲載後に頂いたものです」
「読み返してみると、たしかにぜんぜん書いてないね……反省、猛省」
「で、今回はちょっと興味深い反応を頂けました」
『まったく男ってやつは、最初の一線を越えると急に気が大きくなる』
「これはっ」
「どうでしょうか、なかな」
「そう、たしかにそうだよねっ。男の子って、一回でもいっしょに寝ると、急に大胆になるよねっ」
「え、あ」
「最初は手を握るのにもいちいち許可を求めてきたのに……それが、人のいないところではすぐにキスを迫るし、家の中ではお尻とか撫でてくるし。ひどいときなんて、朝起きたらパジャマ脱がされていたときもあったんだよっ。どう思うっ?」
「ど、どうって……」
「でも無言で肩を抱き寄せてくれたり、真顔で恥ずかしいセリフを言ってくれたり……嬉しいことも、あったけど、さ」
「…………」
気がつけば、みひろの目からは、清い涙がこぼれていた。
「ど、どうしたの?」
「どうも、してないです……! 泣いてませんよっ」
「な、泣いてるよっ」
「泣いてねーよ、悔しくなんてねーよ!」
(……ああ、それにしても)
(マンネリガールは全8話。次で7話目)
(こんな時間も、あとわずか、なんでしょうね……)
★おまけ1「あみだくじ」
「という企画があるそうだね」
「ど、どこでそれを……」
サブタイトルから繋げていなかったか? ああ、おまけだしいいか。みひろは目の前の不条理を受け入れる。
問題は、その企画をあおいが知っている、ということだ。
「詳しいことは、まあ"http://neetsha.com/inside/main.php?id=9310&story=35"を見ればわかるけれどさ」
「今日はメタがひどいですね」
「これ、私も参加していいんだよね?」
来たか。前々から企画に興味がありそうな様子だった。それがこのタイミングでピークになったのだろう。
「えー、ほら、あおいさんは連載されていますし」
「連載中の人も参加してるじゃん」
「あー、そうっすね」
「参加したい」
「ちょ、許してあげてくださいよ。なんだか大変なことになっちゃうんですから……」
「参加したい!」
みひろは困ってしまった。放っておいたら大変なことになる、かもしれない。
今、言うしかない。
「決まりとして、1人1回まで」
「あ゛?」
だめだ、怖くて言えない。
★おまけ2「夏目あおいのなぜなにかきかん」
「えーと……これでいいのかな?」
「用意ができたら、BGMをスタートっと」
(何か小粋なBGMが流れているとでも想像しておいてください)
「夏目あおいのなぜにっ」
「……噛んだ。もう一回」
「夏目あおいのなぜなにかきかんーっ」
「このおまけは、皆さまからいただいた質問に、私、夏目あおいが答えるというコーナーです」
「はい、ここまでカンペ通り。では質問、行ってみよー」
『あおいさんの胸のサイズを教えてください』
「…………」
「なるほど、こういうコーナーか……」
「Bカップっ」
「…………」
「ぎりぎり、Bカップ」
『マンネリガールの最終話はどうなるんですか? あと、次回作とかありますか?』
「お、ようやくそれらしい質問」
「マンネリガールはねぇ……次で第7話、全8話構成だから、もうちょっと我慢して待てばいいと思うよ?
次回作は……どうだろう、まだ考えてない」
『好きな体位はなんですか?』
「…………」
「……相手の顔が見える、正常位」
『編集のみひろさんのことは、どう思いますか?』
「ときどき変だけど、立派な編集だと思うよ。ネタ集めにも協力してくれるし、感謝感謝」
『今まで経験した男性の人数は?』
「……黙秘」
『男性の好きな仕草はなんですか?』
「後ろから声をかけて、くるっと振り向く動きかな」
『女性同士というのに興味はありますか?』
「…………黙秘」
『「キミは処女?」と言っていたころから比べると、ずいぶん女の子らしくなったのでは?』
「そう? 気のせいじゃない?」
『初体験はいつですか?』
「……大学生」
『読者に皆さんに向かって、一言どうぞ』
「えっと、夏目あおいです。はじめまして。マンネリガールという作品を連載させていただいています。
私にとって、初めての官能小説ですが、自信はあります。どうぞ、よろしくおねがいします」
『なんだか、新人AV女優へのインタビューみたいでしたね』
「うるさいなー」
★おまけ3「茜みひろのなぜなにかきかん」
「あー、てすてす。まーいてす、まーいてす」
「じゃ、始めますかね。あ、メタ発言多めなんで、気をつけてください」
(もしよければ"http://www.youtube.com/watch?v=7G5GASlRDWU"をBGMにお使いください)
「茜みひろの、なぜなにぃかきかん」
「このおまけは、皆さまからいただいた質問に、私、茜みひろが答えるというコーナーです」
「なお、タイトルコールはいつもと違う、アダルトな雰囲気を出してみました……あら? カンペがあったんですね」
「では、さっそく質問のほうにいってみましょう」
『みひろさんの胸のサイズを教えてください』
「んー、第1話で言っているんですが……」
「88、58、83の、Gカップですよ? いかがですか?」
『マンネリガールの最終話はどうなるんですか? あと、次回作とかありますか?』
「うーん……ハッピーエンドとは聞いていますが、第7話を読む限り、どうなることやら……
次回作はなんとも言えません。あおいさんの気持ち1つですね」
『好きな体位はなんですか?』
「ヴェアヴォルフ。あの笑顔は反則です……ん、漢字が違う? シャラップ」
『作家のあおいさんのことは、どう思いますか?』
「立派な人ですよね。プロ意識って言うんでしょうか、すごすぎますね」
『今まで経験した男性の人数は?』
「あ゛?」
『男性の好きな仕草はなんですか?』
「鬼畜メガネが(長いから省略)」
『女性同士というのに興味はありますか?』
「ありません」
『あおいさんのこと、本当に男の娘に見えたんですか?』
「あのときはどうかしていたのかもしれません。むしろ今は男装させたいですね。執事の格好をしてほしいです!」
『初体験はいつですか?』
「1人カラオケは高校生のころですね」
『読者に皆さんに向かって、一言どうぞ』
「どうもどうも、みひろです。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
かきかんも残りわずか。どうか最後までお付き合いください」
『いい人、見つかるといいですね』
「うるせー!」