Neetel Inside 文芸新都
表紙

坂の短編を入れるお蔵
目覚めた人(新都社作家の後ろで爆発が起こった企画)

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 とある状況下において私が目覚めるまでの記録を記す。

 二十歳の誕生日、友人の田中と道路を歩いていると後ろから物凄い轟音が鳴り響いた。
 田中は振り返って表情を変えた。
「丸山! 伏せろ!」
「ははは、やなこった」
 私は死んだ。

 なぜあの時、私は田中の言う事をもう少し信じてあげられなかったのか。
 私は昔からそうだった。人の話を聞かなかった。
 私がもう少し人の話を聞く人間だったら、何かが変わっていたかもしれない。
 以上を踏まえてもう一度人生をやり直すことにする。

 前回の反省点を踏まえた結果、私は彼女を作る事が出来た。名を由利ちゃん。ちょっと不細工なのが良い。
 友人の田中とは度々一緒に道路を歩く仲である。それ以上でもそれ以下でもない。
 そんなある日、後ろからとてつもなくダイハード的な音がした。田中は何気なく振り返り、そして叫ぶ。
「丸山! 伏せろ!」
「えっ? 何で?」
 私は死んだ。

 聞くより先にまず行動すべきだった。私は行動力に欠ける部分がある。
 積極性に加え、すぐに理想を実現させる瞬発力が必要だったのだ。
 以上を踏まえてもう一度人生をやり直すことにする。

 誰にも負けない行動力と実現力を兼ね備えた結果、私はテログループのリーダーになる事が出来た。彼女はもちろん由利ちゃん。胸はDカップ。
 友人の田中とフジテレビに火炎瓶を投げつけようと一緒に道路を歩いていると、大気を震わせ熱風と共にとてつもない振動が僕らを襲った。
 田中は叫ぶ。
「丸山! 伏せろ!」
 私は素早く地面に倒れこんだ。
 私は死んだ。

 結局のところ私に足りなかったのは実力ではなく、運だったのだ。
 もう少し私に運があれば。

「丸山! 伏せろ!」
 私は素早く飛び込み前転しながら「運がいいから大丈夫!」と叫んだ。
 私は死んだ。
 
 力だ。
 力が欲しい。

 思わずよろめくほどの振動と共に鋭い熱風が辺りを包み込んだ。遅れて音が耳に飛び込んでくる。コンクリートが破壊されるのがわかった。
「丸山! 伏せろ!」
 私は振り返る。空気を燃やし、とてつもない風に圧された炎の塊が目の前に迫っていた。私を何度も殺した悪魔だ。
「無駄だ」
 私はそっと右手をかざす。
 すると見えない壁が私と田中を包み込み、熱風から身を守ってくれた。恐ろしい灼熱の炎に包まれる。しかし炎は我々を包み込む壁を打ち破る事が出来ず、やがて収まった。
 壊れた町と、焼け焦げた人々と、私と、田中だけが残った。物のこげたにおいが酷く鼻につく。
「丸山、ようやく目覚めたか」
 私は振り返る。
 金色の光に包まれた田中がそこにいた。
「貴様が神か」
 奴はゆっくりと頷く。
「じゃあ私は何なのだ?」
 すると田中は細い目でこちらをみた。聞くまでもないだろう? そんな顔。
「ああ、わかってるよ」
 私は薄く笑うと空をみた。真っ黒な煙の隙間から見える空は青かった。
「救世主だ」

 ──了

       

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