毒色3号電脳プシューケ
迷路街
迷路街という街がある。
そこはその名の通り、迷路、いや迷宮とも言える、複雑な作りをしているという。
まず不思議なのは、入口に入ると、すでにそこは出口で、街の外に出てしまう。
じゃあどうやって入るのか、それを知る者はいない。
いや、実際いるにはいるのだが、いかんせん皆、街の中に入ったきり迷ってしまい、中々出て来れない。
過去に一人だけ、街への侵入に成功し、脱出した学者がいたが
「あそこは入るべきではない。だから私はあの街の入り方の一切を公表しない」
と、頑なに口を閉ざし、もう35年が経った。
結局、どうやって入ればいいのか?
そもそも、この街には誰がいて、何があるのだろうか?
・・・†・・・
気がつくと、僕は迷路街にいた。
なんでここが迷路街かと分かったかというと、目の前の看板に「迷路街8丁目」と書いてあったからだ。
「親切にどーも・・・」
噂には聞いていたけど、たしかにここは得体が知れない。
二つに分かれた道の真ん中に立っている。
矢印の形の立て札に
←駅前交差点 ・ メトロノーム博物館→
と書いてある。
左には昇り階段が、右には道が続いていて、遠くに女性が立っている。
どっちに行こう。
とりあえず誰かと話がしたい。
右を選ぶ。
・・・†・・・
「やあ、君も迷っているのかい?」
女性に声をかけた。
「いいえ」
「ここの住民だったかい」
「いいえ」
「意味がわかんないよ。ちゃんと答えてよ」
「頭の悪い人ね。ここの住民ではないけど、迷ってはいないってことよ」
「ああ。旅行者かなにかってことね」
「いうなればそうね」
やけにツンデレな女だ。
いや、こいつは絶対にデレない、そんなタイプの女だな。
だからツンか。ツンツンめ。
「君の名前は?」
「ツンツン」
僕は腹を抱えて笑った。
笑い過ぎて殴られた。
「失礼ね」
「いやごめん。あまりにもピッタリな名前だったから」
「ふん!」
「ところで、僕はこんな街に用なんかなくて、早く外に出たいんだけど、どっちに行けばいいか知らないかい?」
「そんなの、簡単よ」
「もったいぶらずに早く言えよ」
「ごめん、嘘よ。意地悪したくなっちゃっただけ。だって、あんまり笑うんだもの・・・私だってこの名前気にしてるのよ・・・」
なんだ、様子が変だぞ。
「そ、それはごめん。謝るよ」
「いいのよ」
彼女が、ツンツンがふっと笑った。
こ、こいつ意外と可愛いぞ・・・
「ねぇ・・・私と一緒に出口を探さない・・・?もう一人は嫌・・・」
「ああ・・・いいぜ(キリッ)」
・・・†・・・
まあ、そんなアニメかファンタジーみたいな出会いからもう5年も経つんだが、
まさかあんなツンツンだと思った彼女が、今じゃデレデレと呼びたいくらい
ラブラブな恋人になっちまってね。
出口を探すどころじゃないんだよ。
実は・・・彼女に子供が出来ちまったんだ。
無理に歩かせると体に障るから、俺たちはとうとうこの街に家を借りて、
この街で一緒に暮らすことになったんだ。
なるほどね、これが迷路街か。
どういうカラクリかは知らないが、一度入ったら最後、
もう二度と外へ行く気にもなれなくなるらしい。
奇妙なことに、俺がこの街の外にいた時、
俺が誰で、なにをしていて、どこに住んてたかっていう記憶が、全然ないんだ。
思い出せない夢みたいにさ。
何かあったんだろうくらいには分かるんだけど、そんな感じだ。
まあいいよ。
とにかく俺は幸せさ。
いつか、君も来るといいよ。
イイ街だぜ、迷路街。
10年後。
骨と皮だけになった彼の死体が、迷路街の出口に捨てられていた。
何があったか・・・・・・それは「外」の人には誰にも分からない。
真実を求めて、また一人、中を目指す。
しかしそれ以来、生きて還ってきたものはいない。という噂が流れている。