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3-1『あの日のこと』

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 僕はあのころ(高校1年生の後半だそうだ)、おかしくなっていた。
 
 そのときのことを友人に聞くと、僕はずっと何かをつぶやいていたらしい。
 
 ……覚えていない。記憶がないから、らしい、としか言えない。
 
 本当に、覚えていないんだ。本当に、本当に。
 
 
 
 あとから知ったことだけど、母親はほうぼうに相談(どこそこの医療機関や市民なんちゃらセンターとかだろうか)していた。父親は無関心ながらも気づかっていたようだし、何より妹が鬱陶しいぐらい心配してくれた。
 
 僕は、僕が思っている以上に深刻な状態だったんだろう。
 
 いよいよ通学すらできなくなりかけたころ、母親は1つの結論に行き着いた。
 
『息子に無理をさせすぎた』
 
 今になって思えば、たかが人一人に(しかもこの僕なんかに)あれだけ詰め込もうとしていたんだ。しかも「やればできる」という言葉と共に。
 
 
 
 そしてあの日。母親は泣きながら謝ってきた。頭を下げ、ボロボロと涙をこぼしながら。
 小柄な母親がもっともっと小さく見えた。
 
 僕はそんな母親を見て、思った。
 
『ああ、この人も人間だったんだな。
 こんなにも傷ついて、泣きじゃくって、反省しているなんて。
 良かった。この親はちゃんと人間だ』
 
 そのころの僕は、母親を宇宙人やらお化けやら、人外のように見ていたようだ。
 それがこの出来事で、ちゃんと人間として見るようになった。
 
「もういいよ。気にしてないから」
 
 これで母親が救われるのなら。僕は優しく、そう言った。
 
 
 
 言ってしまったんだ。
 
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