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voL.16「ドラフト・ウォーズ~エヴィンカーの帰還~」

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 のこすところ学校も卒業式だけとなった筆者と春日くんはそれから毎日のように店にかよった。そんなある日、ジャクロ先輩が「ドラフトしない?」と声をかけてきた。デュエルスペースに大量のパーマネントをならべながらきたるべき高校生活について語っていたわれわれはピックしたカードはそのままくれるということもあって二つ返事でokした。さらにこち亀を立ち読みしていたモルツもくわわって4人で卓をかこむと「合意とみてよろしいですね?」と店員がつくえの下からあらわれて「それではドラフトォ、ファイトォ!」と開始を宣言した。
 使用するパックは発売されたばかりのネメシスで、ジャクロ先輩が闇の財力で購入した3パック×4人ぶんのカードがぐるぐると卓をまわりはじめる。それまでスタンダード一筋だった筆者にとって初のリミテッドとなるが、デュエリスト・ジャパンの記事で「とにかくクリーチャー除去と飛行がつよい」と真木孝一郎氏が口をすっぱくして言っていたことを思いだしながら筆者はドラフトにのぞんだ。そんなわけで筆者のファーストピックは《破滅の印章(NE)》となり、さらにとなりから渡されたパックにも《破滅の印章(NE)》がはいっていた筆者はその後も《不純な飢え(NE)》《ベルベイの怪鳥(NE)》《戦場の怪鳥(NE)》などつぎつぎと流れてくる黒の優良カードをピックしつづけた。けっきょく卓内で黒をあつめたのは筆者だけであり、競合する相手がいないこともあってほぼ黒単に近い強力なデッキを組むことができた。おのおのデッキを構築したわれわれはそれから総当たり戦をおこなったが、土地事故の心配がなく2枚の《破滅の印章(NE)》をかまえる筆者がほかの3人を圧倒して初のドラフトを制した。リミテッドの基本をさずけてくれた真木先生に敬意を表しながら筆者はありがたくカードを頂戴した(そしてこのときから12年後のM13のシールド戦でもこの教えは筆者を勝利にみちびいてくれた)。
 これが筆者にとって最初で最後のドラフトであるが、全体的にスタンダードよりデッキパワーが落ちることからそれまでリミテッドをなんとなく敬遠していた筆者にそのたのしさを教えてくれる貴重な経験となった。構築戦ではまず使用されることのないカードが活躍する可能性を秘めているリミテッドはMTGの大きな魅力であり、またMTGから身を引いてデッキを持たない元プレイヤーでも「どうだい、ひさびさにMTGでもしてみないか?」と仲間をさそって手軽にあそべる点もすばらしい(用意すべきものはひとり1000円ぶんのパックと土地カードと筆記用具だけだ)。
 もちろんスタンダードでもネメシスのカードたちはツワモノぞろいであった。《ゴブリンの太守スクイー(MM)》《リシャーダの港(MM)》がトップレアというまさかのメルカディア的展開にとまどっていた筆者たちにとってネメシスはじつに熱いエキスパンションだった。とくに《墜ちたる者ヴォルラス(NE)》《隆盛なるエヴィンカー(NE)》の2体のエヴィンカーの登場は筆者の黒い血をふたたび湧きたたせ、《死の奈落の捧げ物(NE)》はスーパー《不吉の月(5th)》として黒ウィニーの復権を大いに期待させてくれた。天使マニアの春日くんは《まばゆい天使(NE)》のフォイルをもとめて宿敵とたたかいつづけたが、その神の手をもってしてもリアルにまばゆい彼女にめぐりあうことはできなかった。
 いっぽうトーナメントシーンのほうはといえば《果敢な勇士リン・シヴィー(NE)》が「リベリオン」を一気にトップメタに押しあげ(リベリオンときいてこのデッキを思いうかべるのが一般的なMTGプレイヤー、ガン=カタを思いうかべるのが一般的な映画好き、そして武器マニアの富豪と神父を思いだしたあなたはかなり古参の新都社通だろう)、《パララクスの波(NE)》《パララクスの潮流(NE)》は数あるコンボデッキのひとつでしかなかった「補充」を凶悪なまでに強化した。圧倒的なボードコントロール力を手にいれたこの「パララクス補充」はその後ずっとメタの中心に君臨しつづけるのだが、《打ちすえるマンティコア(MM)》《流動石の監視者(NE)》を使いたいがために「ポンザ」で例の大学での大会に再挑戦した筆者は初戦でこれにあたって見るも無残にたたきのめされてしまった(そのときの相手が例の大学生3人組の最後のひとりだったのだが、デュエル前に「最近はどんなデッキが流行ってるんですかね?」「補充がヤバイらしいねぇ」と何食わぬ顔でこたえていた彼が4ターン目に《パララクスの潮流(NE)》をプレイしながら「補充でしたー」とたのしそうに言ってきた顔はいまもわすれることができない)。
 ちなみにネメシスのトップレアといえば《からみつく鉄線(NE)》というこれまたじつにいぶし銀なカードで、これをスポイラーでみた時点で「こいつはまちがいなくクるね」と確信していたプレイヤーはMTGセンスにあふれているとまで言わしめる1枚となった(《リシャーダの港(MM)》のつぎにあってこれときたので「もしかしてタップできるカードがヤバイんじゃないか?」と考えた多くのプレイヤーたちがつづくプロフェシーで登場した《冬月台地(PR)》を買いあつめ、のちに〝冬の夜の悪夢〟と呼ばれるMTG史上もっとも凄惨な事件をまねくこととなった)。 
 そんなマイナスのイメージがつきまとう史上最低とも名高いプロフェシーがこのあと満を持して登場するのだが、その発売をまたずに筆者と春日くんはしばしのあいだMTGをはなれることになる。けっして発売前から負のオーラをはなっていた恐るべき予言におののいたわけではなく、高校進学という転機をむかえたことで環境が大きくかわったためである。思春期の男子にとって重要なこの時期にカードゲームなどにかまけている時間もお金もなく、筆者のおこづかいの使い道はおのずとファッション的なものへ移行していった。春日くんとべつべつの学校になったのも要因のひとつだろう。そんなわけでまったくもって残念ではあるがプロフェシーについてはとくに語るべきエピソードはない(たのしみにしていただいていたであろうコメ欄57さんにはせめてもの罪滅ぼしに筆者からプロフェシーのパックを3つほど送らせてもらおう。ぜひいいカードを引いてほしい)。
 というわけで次回は死に目にあうことができなかったウルザ・ブロックを追悼しながら「MTGについて少し話そうと思う」も一段落としたい。
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