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ベリアル 第六戦 その①

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 次の日の朝
 アリスは学校の屋上に来ていた。
 一瞬だが変身をして空中浮遊能力を利用すると屋上まで上がったのだ。 



 ここで死ぬ。




 生き続ける希望が生まれたと同時に、アリスが生き続ける理由もなくなった。


 ならば死のう。 



 ここから飛び降りようじゃないか


 アリスは学校の屋上に張り巡らされている柵の上に立った。 この間と同じようにそこから世界を見下ろしてみる。 今まで以上につまらない世界がそこに広がっていた。 アリスの目には、色彩のない町しか映っていなかった。
 今日はやけに静かだった。
 それと同じぐらい町にも活気がなかった。 本当に静かで、まるで町中の人間が動きを止めているかのようだった。


 しかし、そんなことアリスには関係ない。
 今から地獄へと旅立つのだ。 全く問題ない。
 アリスが飛び立とうとしたとき



 「久しぶりねぇ、アリス」


 「!! 宝樹!!!???」



 アリスが驚き顔を上げる。 どこから声が聞こえて来たのかよく分からない、きょろきょろとあたりを見渡して、どこから喋りかけてきているのか探る。 ところが、すぐに宝樹はアリスの前に姿を現した。
 どこからかというと
 それは下からだった。



 宝樹はまるで一国の女王様のような煌びやかな麗装を身にまとっていた。 今までの魔法少女の物とは違い、アクセサリーのようなものも大量につけていた。 さらに、美しい空色をした美麗ながらも上品なドレスだった。 だが、アリスはびっくりするぐらいその姿が醜く見えた。
 また宝樹は宙に浮く黄金色の椅子に座っていた。 それもまた大量の装飾がなされており、ぱっと見で見える限りダイヤやエメラルド、サファイヤや大量の宝石がより一層美しくなるよう飾られていたが、やはりアリスは好感を持てなかった。
 それはゆっくりと高度を上げていくと、ちょうどアリスを見下せる位置で動きを止める。




 そして、そのままびっくりするぐらい嫌な、今まで見たことが無いような恍惚の笑みを浮かべながら言った。
 「ハハハハハハハハ、自殺でもするつもりだったのかしらねぇ? ま、そんなことさせないわよ!!」
 「……は?」
 「あなたは私が飼い殺しにしてやるわ」
 「はぁ?」
 「さぁ、『こっちに来なさい』……」
 「!!」


 アリスは全身をねっとりとした嫌なものが覆うのを感じた。 それは初めて戦った魔法少女の張った結界内に入った時と似たような感触だった。 ということは、アリスの全身を魔力が覆っているのだろう。
 しかし、そんなことは関係なかった


 アリスの思考は真っ黒だった。

いったいこいつは何様なのだろう。
 自分の人生をめちゃくちゃにする片棒を担いだ挙句、今はようやく死ぬことができるようになったアリスを邪魔するかの如く、目の前に現れてその醜い面を歓喜の笑みで大きくゆがませている。
 こいつはどこまで自分の邪魔をする気なのだ。
 そう考えると、燃え盛る火山が爆発するかの如き勢いでアリスは殺意が湧いてくるのを感じた。


 いつ死ぬにしろ
 どこで死ぬにしろ


 こいつだけは絶対殺してやる


 アリスはそう決心した。


 そして、自分の顔を人を殺せる、因縁の相手を殺せるという歓喜に歪ませながら言った。


 「変身」


 黒いオーラがアリスを包み込み、自身の周囲をまとっていた魔力を消し飛ばした。 そして、それを超えるレベルの魔力で織った麗装をまとう。 そして、槍を顕現するとそれを宝樹に向かって投げつける。
 それを見て驚いた宝樹は高速で椅子を浮かばせると槍をかわす。
 そして驚いたような顔をして言った。


 「アリス!! あなたも魔法少女!?」
 「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!! ハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


 大笑いを始めるアリス
 そして、大剣を一つ顕現すると宝樹が全力で引くほど歪んだ顔をしながら言葉を続けた。
 「ハハハハハハハハハハハハ!!!!! もう死んでやろうかと思ったら、いい手土産が来たねぇぇ!!!!! 冥土の土産にあんたの生首持って行ってやろうかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 「フッ……やれるものならやって御覧なさいよ」
 「ハハハハハハハハハハハハ!!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! 腕切ってやろうかぁ!! 足切ってやろうかぁ!! それとも腹切ってやろうかぁ!!!!」
 「狂ってるね、まぁ、どうでもいいけど」


 宝樹はそういうと、どんどん後ろに向かって飛んでいく。
 アリスは大剣を携え宙を飛ぶと宝樹に向かって行く。 その間、結界をゆっくりと張り戦闘準備を整えていく。
 一方の宝樹は椅子に座った姿勢のまま腕を大きく広げると、大声で命令した。
 「お前たち『飛べ』!!」
 「――ッ!!」






112, 111

  





 宝樹は声を発すると同時に学校の周囲にある塀の外、そこに集まっていた何かが宙を舞うとまっすぐアリスの方に向かってくる。 驚いたアリスはとっさに空いていた左腕を何かに向けると指を鳴らす。
 するとそのなにかが掻き消えた。
 それと同時に、アリスはそれが何なのかを理解した。
 「人間?」
 「この程度で驚かれちゃ困るわねぇ……『来なさい』」
 「――ッ!!」


 今度は周囲にある木々が根こそぎ宙に浮かび上がった。
 そしてそれはそのまま滞空すると、まっすぐアリスの方に向かってきた。 ぱっと見で約十五本、それだけの樹木が、アリスの周囲を取り囲むようになっていた。 宙に飛んで逃げることはたやすいが、それよりも先に消した方がいいように思われた。
 アリスは大剣を横に持つと、そのままクルクルと回転する。


 すると結界内を斬撃が広がり、四方八方から向かってきていた木々を切り裂き、無力化する。 どういう訳かその木々たちは切られたと同時に重力に引かれて落ちていった。
 「ハハハハハハハハハハハ!! 今度はお前だ!!!」
 アリスはそう叫び、宙を飛ぶ宝樹に焦点を合わせて指を鳴らそうとする。


 それを見ても宝樹はほとんど動揺せず、小さな声で命令を飛ばした。
 「『そこまで飛んだらあなたは自由』よ。 落ちなさい」
 「――ッ!!」
 アリスは異変に気が付いた。
 一気に自分の周囲が影に覆われたのだ。 まるで一気に雲が辺りを満たしたかのように。 驚いたアリスは顔を上げると、宙を見上げる。 するとそこには日光を遮るようにして巨大な岩が見えた。
 それはそこそこの速さでアリスの真上までくると、動きを止める。
 そして、万有引力の法則に乗っ取り、まっすぐアリスに向かって落ちてきた。
 「くそぉ!!」
 「フフフフフ、かわせるかしら?」
 「舐めるなぁ!!!」


 アリスは宝樹に向けていた腕を上にあげると、岩に向けて空間削除を放とうとする。
 予想通りのその動きに宝樹は笑みを浮かべると、さらに命令を飛ばす。
 「『行きなさい』下僕ども」
 「なっ!!」
 隙をついて大量の人がどこからともなく飛んでくると、アリスにしがみついてくる。 腰に手を回したり、腕にかみついてきたり、上から覆いかぶさってきたりとアリスの動きを止めようとしてくる。
 腕を上げていたせいで隙だらけだったアリスは完全に動きを止められてしまう。 何とか抜け出そうにも、うまいこと行かない。 右腕は無理矢理抑え込まれて大剣を動かすことができない。 左腕も上にあげた格好のままどうしようもない。
 何とか振りほどこうにも、人の数が多く、力も尋常ではないほど出ている。
 「くそっ!! くそっ!!」


 まとわりつく人間どもをアリスは睨み付ける。
 人々は皆白目を剥いたまま、まるでゾンビのように執念深くまとわりつく。
 「『死んでも離すな』」
 「……くそぉっ!!」



 大岩は一瞬たりとも止まることなくアリスの上に落ちていき……
 ドゴォォォン
 そんな地を揺るがす轟音と共に大岩は宝樹の支配下に置かれた人々と共にアリスを潰した。 グチャリという肉が潰れる音が小さく聞こえてくる。 宝樹は思いっきり口元をゆがめると笑いながら言った。
 「勝った!!」



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