ベリアル 第六戦 その②
宝樹は腕を大きく上げ、高笑いを始める。
「ハハハハハハハハハハハハハハハ!! この力があればこの世界は私の物になる!! アリスも死んだ!!! 最高の日よ、今日は!!!」
「笑うなぁ!!!」
「んなっ!!」
バゴォォンという鈍い爆発音が聞こえてくると同時に、アリスを潰したはずの大岩が爆散した。 空高くまで岩の破片が飛び、再び重力に引かれて落ちていく。 そのうちのいくつかは宝樹の上にも降ってくるが、シールドに邪魔されて逸れていく。
爆煙がゆっくりと晴れていく。 すると、爆心地に立つ一人の少女の姿があった。
宝樹はその姿を見て、忌々し気に顔をゆがめた。
「アリスゥゥゥゥゥゥ!!」
「…………」
煙が晴れると、アリスの姿が露わになる。
麗装が大きく傷つき、ところどころ光の粒に変わっていた。 顔面の半分が焼けただれていて、眼球が飛び出ていた。 皮膚が醜く垂れてただでさせ酷い顔がより一層酷いものになっていた。
潰されたアリスはシールドが機能しているうちに、手にしていた大剣に爆破能力を付与させると、大岩を吹き飛ばしたのだ。 しかし、それは事実上の自爆だった。 大岩が壊れた代償に、アリスは全身に多大なダメージを負ってしまった
それでもアリスは笑っていた。
醜く笑っていた。
しかし、どういう訳か笑い声を出さずただひたすら不気味な笑みを浮かべつつ、何かぶつぶつと呟いていた。 遠くにいた宝樹は上手いこと聞き取ることができず、顔を思いっきり歪ませていた。
「クッ……」
一方のアリスは再び大剣を二本顕現すると両手に握りこむ。
そしてブツブツと呟き続ける。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
アリスはリミッターを外した。
前回の戦いでリミッターを外したアリスは無意識下でリミッターを外す方法を習得していた。 それに今は完全に意識がある状態で外した。 そのおかげで、前回のような暴走は起きずに戦闘を続けることができる。
アリスは剣を十本顕現する。 それを常に張っておいた結界内でファンネルのようにぐるぐると自分の周囲で回転させる。 すると斬撃が辺り一帯に飛び回り、周囲の物が次々と切断されていく。 残っていた岩の破片、ぎりぎり生きていて何とか立ち上がろうとしていた男
それらが切断されてゴロゴロと地面に転がっていく。
宝樹は危険を察知したので急いで後ろに飛ぶと、結界内から外に出る。 そして遠くからアリスの様子を見る。
アリスは焼けただれた皮膚を修復させるより先に、攻撃を仕掛けることにした。
弓を顕現すると、それに魔導光弾を装填し光の矢を生み出す。 そして照準をしっかりとつけ、矢を放つ。 高速で宙を切ると光の矢はまっすぐ宝樹に向かって行く。
「くそ!! 『私を守れ』!!」
宝樹は悔し気にそう叫ぶと地面を隆起させると自分の目の前に巨大な土の盾を生み出した。
アリスが放った光の矢は空中で分裂すると、何十本と数を増やし、一気に宝樹の作った土の盾に向かって襲い掛かる。 しかし、全てが宝樹に向かって行ったわけではなく、いくつかは楯をかわすように迂回するとその裏に隠れている宝樹を狙って行く。
それに気が付いた宝樹は驚いた顔をしつつも命令を飛ばす。
「チッ!! あなたたちも『私を守りなさい』!!」
すると今度はどこからともなく巨大な岩が四つ飛んでくると、それが宝樹の周囲を覆いつくす。 これで攻撃をしのぎ切るつもりだった。
それを見たアリスはにやりと笑って言った。
「甘い」
何十本もの光の矢が次から次へと土の盾や岩に命中していく。
すると、着弾すると同時に大爆発を起こしていく。 その爆発の威力はすさまじいものがあり、土の盾は一気に崩れていき、岩も一瞬のうちにボロボロになっていく。 あっという間に爆煙が周辺を覆って行く。
まるで雲のように爆煙が風に流れていく。
宝樹は何とか爆破を逃れることに成功していた。 最初の矢が爆破すると同時に一気に高度を上げると宙高くに舞い上がり、矢を全て回避したのだ。
そしてどす黒いオーラを身にまとうアリスを見て首を傾げる。
「おかしい……ここまで頭おかしいなんて……」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
魔力を感知したアリスは顔を上げると再び光の矢を顕現して宝樹を撃ち落とそうとする。 それを見た宝樹は学校の駐車場にあった車数台に狙いをつけると、再び自分の能力を発動し、支配下に置く。
「『行きなさい』!!」
命令すると車が宙に飛び上がり、まっすぐアリスに向かって飛んでいく。
しかし、全ての車は結界に入ると同時に切断されバラバラになり、地面に向かって落ちていく。 その間にも次から次へと切断されていく。 攻撃こそ最大の防御、車は一台たりともアリスに近づくことができずに破壊されていく。
宝樹は予想通りだったため、あまり悔しくはなかった。
その代わりに、今度は光弾をいくつか顕現するとその全てをアリスに向かって撃ちだす。
それもやはり結果以内に入ると同時に切断され、大爆発を起こす。
すると爆煙が再びあたりに立ち込める。 それがアリスの視界を遮る。
その隙に一気に加速した宝樹はそのまま町の方向へと向かって行く。 そこなら、自分の能力が今まで以上に発揮できる。 今の状態のアリスが相手でも十分勝機がある。 急がなくてはいけない。
最高速度で飛んでいく。 すると五分もしないうちに町の上空にたどり着く。
「ここなら!!」
宝樹は眼下に見えるビル二つに目をつける。
「『私に従いなさい』!!」
すると、ズズズズズという鈍い音が響き、ビルがゆっくりと上空に上がっていく。 しかし、大きいものなのでうまいこと操作することができない。 宝樹は全神経をそれに集中すると何とか宙に浮かばせようとする。
ゆっくりと、ゆっくりとだがビルが宙に浮かんでいく。 ビルから繋がっていた排水管などが音をたてて破壊されていく。
「よし!! その調子で!!」
宝樹はあまりにもうまくいっているので笑いが浮かんできた。
ビルはすでに地面から二mほどの高さまで上がっている。 この調子なら一分も経たないうちにビルを完全に支配下に置くことができる。 右腕を前に突き出したまま、魔力をい一気に与えていく。
その時
ガオンという音が響き、椅子の背もたれと共に宝樹の右腕が消失した。
「えっ――?」
一瞬、何が起きたのか理解できない宝樹
しかし肩から痛みが走り、宝樹の全身を蝕んでいく。 今まで味わったことのない焼き付くような痛みが脳天を貫く。 あまりの痛みに声が出ない。 歯を食いしばると、その痛みを何とか堪える。
だが温室育ちの宝樹が耐えられるはずがない。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「ハハハハハハハハハハハハ!!! いい響きだねぇ!!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!」
「アァァァァァァリィィィィィィスゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!」
宝樹は血で右半身を真っ赤に染めつつも、椅子を回転させアリスの方を向くと、近くにあるいくつかの物に目をつけると能力を発動する。
アリスも周囲で展開していた剣を全て魔力に戻すと、それらを一つの魔力球にして一本の大剣を作り出す。
「『アリスを殺せ』!! 私の下僕どもぉ!!」
すると町中にあった街灯や車が宙に浮かぶ。
それと同時に宝樹が支配下に置いた物が変形を始める。 命令に従い、アリスを殺すのに適した形へと変わっていく。 一瞬のうちに中世の騎士が使うような槍のような形になり、加速すると一気にアリスに向かって行く。
「チッ!! あなたたちも『私を守りなさい』!!」
すると今度はどこからともなく巨大な岩が四つ飛んでくると、それが宝樹の周囲を覆いつくす。 これで攻撃をしのぎ切るつもりだった。
それを見たアリスはにやりと笑って言った。
「甘い」
何十本もの光の矢が次から次へと土の盾や岩に命中していく。
すると、着弾すると同時に大爆発を起こしていく。 その爆発の威力はすさまじいものがあり、土の盾は一気に崩れていき、岩も一瞬のうちにボロボロになっていく。 あっという間に爆煙が周辺を覆って行く。
まるで雲のように爆煙が風に流れていく。
宝樹は何とか爆破を逃れることに成功していた。 最初の矢が爆破すると同時に一気に高度を上げると宙高くに舞い上がり、矢を全て回避したのだ。
そしてどす黒いオーラを身にまとうアリスを見て首を傾げる。
「おかしい……ここまで頭おかしいなんて……」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
魔力を感知したアリスは顔を上げると再び光の矢を顕現して宝樹を撃ち落とそうとする。 それを見た宝樹は学校の駐車場にあった車数台に狙いをつけると、再び自分の能力を発動し、支配下に置く。
「『行きなさい』!!」
命令すると車が宙に飛び上がり、まっすぐアリスに向かって飛んでいく。
しかし、全ての車は結界に入ると同時に切断されバラバラになり、地面に向かって落ちていく。 その間にも次から次へと切断されていく。 攻撃こそ最大の防御、車は一台たりともアリスに近づくことができずに破壊されていく。
宝樹は予想通りだったため、あまり悔しくはなかった。
その代わりに、今度は光弾をいくつか顕現するとその全てをアリスに向かって撃ちだす。
それもやはり結果以内に入ると同時に切断され、大爆発を起こす。
すると爆煙が再びあたりに立ち込める。 それがアリスの視界を遮る。
その隙に一気に加速した宝樹はそのまま町の方向へと向かって行く。 そこなら、自分の能力が今まで以上に発揮できる。 今の状態のアリスが相手でも十分勝機がある。 急がなくてはいけない。
最高速度で飛んでいく。 すると五分もしないうちに町の上空にたどり着く。
「ここなら!!」
宝樹は眼下に見えるビル二つに目をつける。
「『私に従いなさい』!!」
すると、ズズズズズという鈍い音が響き、ビルがゆっくりと上空に上がっていく。 しかし、大きいものなのでうまいこと操作することができない。 宝樹は全神経をそれに集中すると何とか宙に浮かばせようとする。
ゆっくりと、ゆっくりとだがビルが宙に浮かんでいく。 ビルから繋がっていた排水管などが音をたてて破壊されていく。
「よし!! その調子で!!」
宝樹はあまりにもうまくいっているので笑いが浮かんできた。
ビルはすでに地面から二mほどの高さまで上がっている。 この調子なら一分も経たないうちにビルを完全に支配下に置くことができる。 右腕を前に突き出したまま、魔力をい一気に与えていく。
その時
ガオンという音が響き、椅子の背もたれと共に宝樹の右腕が消失した。
「えっ――?」
一瞬、何が起きたのか理解できない宝樹
しかし肩から痛みが走り、宝樹の全身を蝕んでいく。 今まで味わったことのない焼き付くような痛みが脳天を貫く。 あまりの痛みに声が出ない。 歯を食いしばると、その痛みを何とか堪える。
だが温室育ちの宝樹が耐えられるはずがない。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「ハハハハハハハハハハハハ!!! いい響きだねぇ!!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!」
「アァァァァァァリィィィィィィスゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!」
宝樹は血で右半身を真っ赤に染めつつも、椅子を回転させアリスの方を向くと、近くにあるいくつかの物に目をつけると能力を発動する。
アリスも周囲で展開していた剣を全て魔力に戻すと、それらを一つの魔力球にして一本の大剣を作り出す。
「『アリスを殺せ』!! 私の下僕どもぉ!!」
すると町中にあった街灯や車が宙に浮かぶ。
それと同時に宝樹が支配下に置いた物が変形を始める。 命令に従い、アリスを殺すのに適した形へと変わっていく。 一瞬のうちに中世の騎士が使うような槍のような形になり、加速すると一気にアリスに向かって行く。
アリスはそれを見ても動きを止めることなく大剣を携えて飛んでいく。
「死ねぇ!!!」
「お前がなぁぁ!!!!!」
ズブッという嫌な音がする。 傷口から血が噴き出す。 アリスは口の端から吐血するも、そのまま突っ込んでいく。 次から次へと宝樹が支配する槍状の物質が全身をつらぬいていく。
それでもアリスは止まらない。
「ハハハハハハハハハハハハ!!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!」
一本の槍がアリスの左腕を持っていく。 右肺もつらぬかれ胸に空いた大穴から空気が漏れ出ていく。 グニュリと言う嫌な感触と共に右足の皮が筋肉やらと一緒にはがれていく。 右頬も大きくえぐれるとそこに空いた穴から歯が覗く。
あっという間に満身創痍だったがそれでアリスは笑みを崩さなかった。 アリスには勝機があった。
右腕を大きく振るうと大剣を宝樹に向かって投げつける。
それを見て宝樹は余裕の笑みを浮かべる。
「最後のあがき? ただでさえ醜い顔が余計に醜いわよ!! 下僕どもぉ!! 『私の身を守りなさい』!!」
すると宝樹の命令に従って、どこからともなく大量の人々が空を飛んでくる。 そして、肉の壁を作ると自分の前にもっていく。 何重もの肉の壁、これで完全に自分の身を守り切れると宝樹は踏んでいた。
それはアリスも同感だった。
なので、こちらも残った右腕をかざすと肉の壁に魔力を送り込む。
そして一言
「『爆散しなさい』!!!!」
「え―――っ!?」
目を丸くする宝樹
アリスの命令が届いた瞬間、肉の壁が爆散した。 バチャンという肉片や内臓が吹き飛んでいくと、大腸が尾を引いて飛んでいくのがよく見える。 まるで花火のように骨のかけらや美しい赤色をした肉片等が放射状に飛び去っていく。
その直後、アリスの投げた大剣がその花火を潜り抜けまっすぐ宝樹へ向かって行く。
咄嗟のことなので反応が遅れた宝樹は大剣をかわすことができず、下腹部を見事に貫き、そのまま椅子の背も突き抜ける。 それでも勢いは止まらず。大剣の柄が宝樹の体に引っかかり動きを止める。
心臓こそ貫けなかったが、完全に動きを封じられる宝樹
アリスは既に宝樹の能力を学習していた。 宝樹の能力は自身の魔力を何かしらの物質にまとわせることにより、その物を自分の発する命令に従わせることができるというものだった。 その命令がどんな無茶なものでも、逆らうことができない。 物質支配というのがその名前だった
「そんな……グフッ……」
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!! 無様だなぁぁぁ!! 宝樹真理ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
アリスは傷の修復をしつつ宝樹の前に浮く。
そして、一本の剣を顕現すると、その先を動けなくなった宝樹に向ける。 そして首元をいつでも突いて殺せるようにすると、宝樹に向かって勝利を確信した笑みを浮かべ、言葉を吐いた。
「ハハハハハハハハハハハハハハハ!! 口を少しでも動かしてみなさい。 この剣があんたを殺すことになるよ」
「くぅぅ……ガフッ」
宝樹は口から血を吹き出すも、じっとアリスの方を向いたまま目を一時もずらさなかった。 二人は初めて見つめあった。 どちらも本気で睨み合っていた。 小学生の頃からいじめる側といじられる側だったがこんな風に見つめあうことは今までなかった。
姿勢をピクリとも動かすとなくアリスは
しかし、どちらも怨嗟に満ちた視線で、もし睨み殺すことが可能だとしたらお互い相手を殺している。
お互い無言のまま時間が過ぎる。
そのまま悠久の時が過ぎるかと思われたが、アリスがゆっくりと口を開いた。
「お前」
「宝樹って……呼びなさいよ…………」
「うるさい」
アリスはそう言って首の皮を一枚切る。
すると一瞬怯えた顔をする宝樹だが、それでも気丈な顔を崩すことなく、アリスのことをにらみ続ける。
「あなた、どうして私をイジメてたの?」
「……なんであんたなんかに教えなくちゃいけないの」
「そ、じゃ、死ね」
「ちょっ……待っ…………
ヒュッと宙を切る音が静かな町に響く。
ゴロリという音がして宝樹の肩から上が膝の上に転げ落ちる。 それと同時に麗装と宝樹の座っていた椅子が消えていく。 すると、宝樹の死骸が重力に引かれてゆっくりと落ちていく。