ベリアル 第八戦 その②
あまりに予想外の言葉に面食らうアリスだが、攻撃の手は止めない。
両手の大剣を振るうと能力も糞もなしに敵少女にたたきつけていく、上右左と連続で腕を振るう。 しかし敵少女も武器の軽さと身のこなしを活かし軽いステップを踏みつつ大剣をかわしたり凌いだりしていく、
その間、二人は叫び続ける。
「私がどうして生きているかがあなたに何の関係がるんだぁぁぁぁぁぁ!!!」
「私は知りたい。 人は皆、生きる理由があるから生きている、私はそう確信している。 だったら、私は今生きているあなたの理由が知りたい」
「知るかぁぁぁ!! 私は生きたくて生きてるんじゃない!! 私は死ぬことばかり考えていた、私は未練なく死ぬために生きてるんだ!!!」
「そんなのあり得ない!!」
「――ッ!! あんたに何が分かるっていうんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そう叫び、今まで以上に重い一撃を放つ。 やはり戦闘の腕と武器の重さではアリスの方が上だった。 その一撃を受けきったのはいいものの、衝撃を殺し切れずバランスを崩してしまう少女。
その決定的隙を逃さず、アリスは残ったもう一方の腕を振るうと、大剣で敵少女を切り裂く。
左肩から右わき腹にかけてがきれいに切り裂かれる。 それは見事なもので、敵の少女を即死させるのに十分だった。 アリスは再び勝利を確信し、笑みを浮かべる。
その次の瞬間、敵少女の死体が粒子化すると、辺りに舞い散る。
「な――っ!!」
あたりに舞い散った粒子は近くに浮いていた小さな水晶の周りで渦巻くと、ゆっくりと人の形を形作っていく。
そして、五分も経たないうち、さっき殺したはずの少女が再びそこに現れる。
「まだまだ!!」
「蘇生した!?」
敵少女は再びアリスの隙をつくと、その左腕をレイピアで突く。
完全に隙だらけだったアリスはその一撃を受けてしまい、鋭い痛みが腕を走る。 「うッ」と小さな声で呻き、大剣を取り落とすがその程度で止めることができるはずがない。
残った右腕を振るうと、その大剣で再び切り捨てようとする。
それを後ろに下がってかわした敵少女は、レイピアの先をアリスに向けつつ行った。
「あなたのことなんてわからない。 でも、人は生きる理由がなくては生きられない」
「じゃあ、あなたにはあるっていうの!!」
「ある」
「なに、言ってみな」
「私は幸せになりたい!!!」
「ハァッ!? 世迷い事を!!」
アリスはそう叫ぶと何とか再生した左腕をかざすと指を鳴らす。
しかしその攻撃は敵に予測されており、あっさりとかわされ直線上に会った木々を消失させるにとどまった。
敵少女はレイピアを構え、回り込むように走るとアリスに攻撃を仕掛けようとする。
それに対してアリスは小回りの利く武器に変形することにすると大剣を手斧に変え、もう片方の手にも同じ手斧を握りこむ。
その次の瞬間、間合いに入った敵少女は腕をまっすぐ伸ばし、レイピアでアリスの胸元を突こうとする。 その攻撃を手斧でいなし、少し後ろに下がると距離をとり、構え直し、再び正面から打ち合う。
それでも二人は黙らない。
「私は不幸だった」
「だから何だ!!」
「だから、私は生きて見せる!! 生き抜いて見せる!! そのためなら、どんな犠牲だっていとわない!!」
「だったらここで殺してやるよぉ!!」
「私は家族をこの手で殺した!!」
「――ッ!!」
一瞬、アリスに隙ができる。 その隙を見逃さず、敵少女はレイピアで切りかかる。
反応が遅れたアリスはギリギリのところでかわすも、右頬に鋭い傷跡をつけられてしまう。 だが、そのお返しとばかりに手斧を振るうとまっすぐ伸ばした敵少女の右腕を切り落とした。
「あぁ!!」
「爆散しろっ!!」
腕が落とされ怯んだ敵少女に向かって手斧を二本とも投げつけるアリス。
しかし、それはすぐに気を取り直した敵少女が横に飛んでかわしたせいで命中せず、ただ地面に突き刺さって爆発。 いたずらに地面を抉るだけの結果となってしまった。
アリスはすぐに二本の剣を顕現すると握りこみ、敵少女に向かいあう。
それと同時に、敵少女の声がアリスの耳に届く。
「あなたは生きたいはずよ!!」
「何を言ってる!!」
「違うの?」
「違う!! 私は死にたいんだ!!」
「じゃあどうして今、あなたは生きているの!!」
「――ッ!!」
絶句するアリス
しかしすぐ気を取り直すと反論する。
「妹のためにっ!!」
「だったら、それがあなたの生きる理由なのよ」
「え…………」
「それは建前にしか過ぎないんじゃないの?」
「…………違う……」
「人はみんな生きたいもの、その「妹のため」というのがあなたの生きる理由じゃないの? そのためにあなたは生きてるんでしょ?」
「…………死んだ、マリアは死んだ……………だから、違う………」
「だったらなおさらよ、あなたは建前がなくなっても今、生きてるじゃない。 それが何よりの証拠よ、あなたが生きたいっていう。 そうじゃないの?」
「違う………違う」
「……分かった」
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う」
「あなた、もうすでに自分で気づいているのね」
「ちがぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁうっっ!!!!!!!!!」
アリスはそう叫ぶと腕を伸ばし、指を鳴らす。
次の瞬間、完全に油断していた敵少女をも巻き起こんで空間削除が行われる。 これなら粒子一つ残さない。 そう思っての攻撃だったが、残念なことに再び敵少女は復活した。
水晶を中心にもう一度人の形をとり、アリスの目の前に現れた。
アリスは両目からとめどなく純粋な涙を流しながら、その敵少女を睨み付ける。
その視線を受けて敵少女は言った。
「私の能力は犠牲蘇生。 人を殺しその人間の生命エネルギーを抽出した水晶体を生み出し、死んだらそれを中心に再びよみがえることができる」
「…………」
「お父さん、お母さん、お姉ちゃん」
「……それが、何?」
「私は家族を殺して、水晶体を生み出した」
「…………へー」
「私は後悔はない。 私は!! 人殺しになってでも!! 絶対生きてやる!! もう死んでたまるか!!」
「……もういいよ」
「幸せになる、私はこの十四年の人生を取り返すために!! 殺してやる!! それの何が悪い!!」
「…………、もう、疲れた……」
アリスは弱々しく地面を蹴ると、敵少女に向かって行く。
敵少女は隙だらけのその姿を見るとカウンターでとどめを刺すつもりでレイピアを構えると、まっすぐその先をアリスに眉間に向ける。 緊張した空気が足りに満ちる。 おそらくこれが最後になる。 二人とも何となくそのことを悟っていた。
決着には一秒もかからなかった。
アリスはあっという間に自身の間合いに入ると同時に敵の間合いにも入った。
先に腕を振るったのは敵少女の方だった。 それはそうだ、待ち構えていた敵少女の方が攻撃が早いのは致し方ないというものだ。
まっすぐ、何の迷いもなくレイピアを突き出すと、アリスの眉間をつらぬいた。
かと思われた。
その寸前、アリスは姿を消した。
「あッ!!」
「さよなら」
影中潜行を使い、敵の渾身の攻撃をかわすとそのまま後ろに回り込む。 そして、剣を振りかぶり、元の空間に姿を戻すとそう宣言して剣を横に振るった。 今までで一番疲れ切ったかのような振り方で
しかし、それでも人の首を切り落とすには十分だった。
アリスは
勝利した。
でも……
何のために?
アリスはよく分からなかった
「さぁ、終わらせようか」
クライシスはそう呟いた。
フィナーレの始まりだ。