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ラファエル

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 渚美幸の人生は終わりを迎えようとしていた。
 彼女は不治の病にかかっていた。 詳しい病名などは全く興味なかった、大切なところは彼女は大して長く生きることができないという事実だけが大切なのだ。 生まれてからほとんど家の外に出たことがなかった。
 生まれた時から病弱で、ずっと寝てばかりだった。
 学校にも通っているようでほとんど通っていなかった。 保健室が彼女の教室で、そこの先制が彼女にとっての先生だった。 布団にくるまっていることがずっとで、外で遊んだことなどついぞなかった。
 そんな彼女にも家族がいる。 両親と姉がいた。


 しかし、お世辞にも言い家族とは言えなかった。
 父親は病弱な美幸に興味などなかった、母親は美幸のことをいないものとして扱っていた。 その理由は単純、姉がとても優秀だったのだ。 姉は何かのモデルをやっていた、何のモデルかは知らない、誰も教えてくれなかったからだ。
 彼女は家庭でも冷遇されていた。
 毎日のように熱を出し、倒れるのでやがてまともに病院に連れていかれることもなくなった。 ベッドに縛り付けられているような生活と言った方が分かりやすいだろうか、まるで寝たきりの婆のように扱われていた。



 別にそれが嫌なわけで放った。
 もうそんなことどうでもよくなるぐらい慣れた。

 
 そんな美幸にも好きなものがあった。
 少女漫画やファンタジー世界を舞台にした漫画だ。 それを見ていると出てくるキャラクターがやけに幸せそうで、それが非常に羨ましかった。 美幸はそんな幸せなど味わった覚えがなかった。


 あそこまで屈託ない笑顔を浮かべたことなど無い。
 あんな楽しそうに生きたことなどない。



 あんな幸せそうな恋などしたことなかった。


 美幸は憧れた。


 自分もこんな幸せを味わうことができるのだろうか、


 幸せになりたい。


 幸せになりたいのだ。 自分はこれ以上ベッドから出ることのできない悲惨な人生など勘弁だった。






 ある日、今までで一番といっても過言でないぐらいの高熱を出した。 一瞬の間に意識が吹き飛ぶと、気が付いたら病院の集中医療室のベッドの上で寝ころんで、薄目を開けて天井を眺めていた。
 ふと気が付くと、誰かの話し声が聞こえてきた。
 どうやら医者と母親の話のようだった。
 内容は単純、あまり長くは生きられないということだった。 途切れ途切れであったが、
 「持って一年か二年」「もっといい病院に行ったら治せる可能性はあるが、それにはすごく金がかかる」というものだった。


 それに対する母親の答えはこうだった。
 「金がないので、残り時間を楽しく過ごすことにします」というものだった。 
 美幸は知っていた。 家族は自分のことが邪魔なのだ、わざわざ高い金をかけてそんな治療するよりも、そのまま死んでもらった方がありがたいのだろう。 知っていたが、悲しみのあまり涙が流れるのが分かった。



 悲しい


 本当に悲しい



 自分はこのまま幸せになることができないのだろうか
 美幸は一人でそんな言葉ばかりを思っていた。


 そして、自分の家族を見て酷い劣等感を抱いた、


 もう嫌だ。


 そう長くない人生だというのに、すぐにでも死にたくなった。


 そんなある日、彼に出会った。
 「やあ、魔法少女に興味ない? 君」
 「……何よ、あんた」
 「魔法少女になって戦ってくれたら、君の願いを何でも一つかなえてあげるよ」
 「……幸せにしてくれるの?」
 「何でもって言ったろう?」
 「……!!」



 最高だ。
 美幸は今まで以上に心が躍るのを感じた。
 もう迷うことはない。 契約した。

 「おめでとう!! 君は執着の名を持ったラファエルの天使を背負った魔法少女だ」

 執着
 自分は生に、幸せに執着している。

 それの何が悪いのか
 美幸には分からなかった。




 「さよなら」

 その言葉を最後に美幸の人生は終わりを告げた。
 どうして自分はあそこまで目の前の少女に話をしたのだろうか


 その理由は分かっていた。 どことなく自分に似ていたのだ。 あの少女の全てを諦めているところ、死にたがっているところ、何となく放っておけないようなオーラを出していたいたのだ。
 その結果こうなっても美幸には大して後悔はなかった。

 それでもこう思わざるを得なかった。

 果たして、自分は何のために生まれてきたのだろうか

 その答えが出ることが無いまま
 美幸の首は落とされ
 すべては終わった。







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