4日目-1
駅前のマックで、薫は金髪の女と話しこんでいた。
「で、この前は何でカラオケサボったわけ?」
薫はシェイクをすすりながら、頬杖をついた。
「あー、…あの時ね。あのね、バイト先の人に誘われたの」
「えっ、バイト?薫が?」
「そう。そんな意外みたいな顔しないでよ…」
たしかに金髪は目を見開いていた。オーバーリアクションではある。
「いや、だってあんまり自分から人と関わろうとしないじゃん…やっぱお金目当て?」
「違うよ。私だって相手を選ぶってだけで、完全に孤立したいわけじゃないし。興味のあるところにはどんどんぶつかっていくつもりだよ」
「その向こう見ずさで事故らないといいんだけど…」
やたら保護者ぶるこの金髪は、ゆかりと言った。
「ゆかりはすぐそうやって私を子ども扱いする」
「だって長い付き合いじゃん。その間一人も友達増えてないでしょ?チャンスは転がってるのに。かなとかあすかとか、いつも遊んでるけどみんないい子だよ、仲良くなれるよ」
だから相手を選んで、といいかけたけれど、こらえた。その辺は弁えてる。
「そうだね」気のない返事をする。
「はあ」ゆかりはため息をつく。
いつもため息を吐かれている気がするな、と薫は思う。
「それで、どんなバイトなの?」
「えーっとね…なんていえばいいんだろ」
「また怪しいやつ?」
「またってことはないでしょ、何だろうなあ、送迎サービス?」
「は?」
「わかんない。まだ2回しか仕事してないし」
「送迎って。子供?おじいちゃん?」
「おっさんとお姉さんかなあ」
「おっさんとお姉さん」
「うん。おっさんの方がメインでお姉さんは雑用だったみたい」
「ええ…全く想像がつかないんだけど。えっちい奴じゃないよね?」
「そりゃもちろん。でも、うーん、いや、あれはないか」
「どういうこと?」
薫は少し言葉を選ぶ。「えーっと、お金を貰って、それでサービスしてるかもしれない」
「キャバクラ的な?」
「そこまで露骨じゃないけど。お話に乗ってあげてる感じかな」
「でもえっちでもキャバクラでもない」
「そういう仕事だってあるでしょ。男の人だって別に性欲だけで生きてるわけじゃないよ」
「いやーあいつらは99%性欲だね。…」
ゆかりが毎度の彼氏の愚痴を始めたので、薫は思考スイッチを切った。
金髪はよく彼氏の愚痴を嬉しそうに話す。色々文句を言うが、結局仲直りして、彼氏は偉い、という話に落ち着いてしまう。
3回目くらいでやっとそれに気が付いて以来、聞き流すようにしている。
どうしてゆかりは私にばかり話すのだろう。私がモテないからだろうか。
モテないから、見下される心配もせず、気楽に話せるのだろうか。
薫はそんな想像を頭から振り払う。ネガティブになるのはよくない。
私は信頼されているのだ。気の置けない友人なのだ。そう考える。
「あ、ごめん。そろそろバイトの時間だから」
「マジ?引き止めちゃってごめんね」
「いいよ。じゃ、また学校でね」
「うん」2人は手を振って、別れる。