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「COLORS」FLOW

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動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=H7cykKMpp_I

コードギアスOP
https://www.youtube.com/watch?v=iZ2iJypqK1M


 娘のココは最近塗り絵にはまっている。漫画家やイラストレーターなども使用するマーカー、「コピックスケッチ」のエントリーモデル「コピックチャオ」を使用して、購入してから毎日色塗りを楽しんでいる。
「コピックスケッチ」は全358色に対して「コピックチャオ」は180色。性能は変わらないがインク量と色数を減らして値段を抑え、初心者でも入りやすい仕様となっている。とりあえず初心者セット12色とココが自分で選んだ10色ほど。後からもう10色追加した。

 一昨年あたり、コロナ禍で家にいる時間が多くなった時に、ネットで拾った塗り絵画像を印刷して、色鉛筆で塗るということをやっていた。絵そのものを描くよりもハードルは低かったが、長続きはしなかった。
 今年二月から通い始めた放課後デイ・サービスに、元漫画家志望の先生がいるらしく、目の描き方や色の塗り方、ハイライトの入れ方などを習って帰ってきて、お絵描きブームが二年ぶりぐらいに再燃した。四年生に進級してからはお絵描き友達も出来たらしく、クラブ活動も四年生の後期の選択では「漫画家クラブ」に入ろうとまで言い出すようになっている(現在は手話クラブ)。実際に漫画をあまり読むわけではないが、You Tubeで絵の描き方や色の塗り方系の動画をある程度見てはいるようだ。

 コピックについてもそういった動画か、元漫画家志望の先生から教わったものだろう。
「コピックが欲しい」とココが突然言い出したのは、心の傷の手当てのためかも知れなかった。GW中、近所に家族で出かけた帰り、ココは自分の自転車をうまく駐輪場に停めることが出来ず、先に隣に停めていた私の自転車を倒してしまった。たまたまそこに通りかかった、同じアパートの階上に住む同級生とその友達に「あいつ何してんねん、きもっ」と言われたのだという。ココとしては必死に自転車と格闘している最中にそんな言葉を投げつけられたことで、強いショックを受けてしまった。
「いじめ110番っていう紙あったやろ、あそこに電話かけていい?」と言い出した。
 私は帰宅途中で寝てしまった息子の健三郎の寝床を作るために、先に家に入っていたので現場は見ていなかった。だからどのような空気で、どのような温度で発された言葉かは分からなかった。
「それくらいのこと気にするな」で済ませるのは愚策だとは身に染みていた。
「いじめ110番」系の電話番号の書いた紙を紛失していたので、妻が調べている間、ココを久しぶりにハグすると、143cmに育った重みをずしりと感じた。自分など毎日のように自殺して当然の言葉をかけられ続けていた時期もあるし、暴力もいくらでも振るわれてきた。という話をしたところで、逆効果である。
「とりあえず甘いもの食べな」
 私がそう言うと、ココはペコちゃんキャンディを食べ、「マイクラやろう」と言って私にゲームを付き合わせた。サバイバルモードでボコボコにされた。その後、子どもからの相談を24時間365日受け付けているところの人と、しばらく話をして、いつの間にか落ち着いていた。
 その後出た言葉が「コピックが欲しい」だった。

 幸い翌日も休日だったので、近隣でコピックが売っている場所を調べて、また皆で出かけた。健三郎にもプラレールの「ジェームス」を買うことにもなった。子どもの日関係のプレゼントも特に用意はしていなかったので、ちょうど良いとも言えた。

 というような経緯で、ココはコピックで塗り絵を始めた。好きなキャラクターを挙げてもらい、印刷して渡す。
「アーニャ」
「スパイファミリーか」
「こみさん」
「誰、コピックのこと?」
「違う、コミュ障のこみさん」
 調べてみると、「古見さんはコミュ障です」という漫画の主人公のことらしかった。タイトルは知っていたが未読なので、娘がコピックを擬人化でもしたのかと思ったのだ。

 初日に熱中し過ぎたためか、翌日首が痛いと言い出したので、百均でタブレット置きの台を二台買ってきて繋げ、そこにB4クリップボードを置けるようにした。下を向かなくても描けるので首は痛くならない。やや猫背の姿勢になってしまう気はする。画家が使うようなイーゼルもちょっと考えていたが「そんなのはいらない!」と跳ね除けられたので、買わなくて良かった。

 コピックは何度でも重ね塗りが出来るので、薄い色から濃い色へのグラデーションを一色で出来る。私が塗り方を調べて教えようとすると、既に知っていたらしく、ココはどんどん塗り進めていく。次の日にまた「学校に行きたくない。この間ひどいこと言った子に会いたくない」とか言い出さないかと心配したが、朝になれば何かあったことなど忘れたかのようで、朝食を食べる前にコピックでの塗り絵に熱中し始めていた。いつの間にかココの中に「学校に行かない」という選択肢が無くなっていたかのようだった。季節は移ろい、人の気持ちも変化していた。親としてはまたいつ不登校になるかと心配してしまうが、家でいるより学校にいる方が楽しそうだ。

 私は絵が苦手で、色彩感覚もろくなものではない。私の母は「幼稚園で全然お絵描きを教えてもらえなかったから」と言っていたが、そればかりでもないだろう。小学校五、六年生の時の担任は、美術の水彩画の授業の時に、「赤・青・黃」の三原色しか使うことを許さなかった。それらを混ぜれば全ての色が作り出せるのだといって。絵の具セットに入っていた他の多彩な色は一切使わないままの二年間だった。他の子は知らないが、私はそれがたまらなく嫌で、この歳になるまで、色を作るわずらわしさの記憶を持ち続けている。
 一本のネギを描く授業があった。私は先端のわずか数センチの部分の色を、自分の納得のいく色に混ぜることが出来ず、二時間でほとんど描き進められなかった。

 絵を描くことも色を塗ることも苦手なまま大人になったが、漫画「ギャラリーフェイク」の影響で、絵の鑑賞自体は好きになり、一人で美術展に行くこともあった。館内を何周もして、印象の変わっていく絵を眺めた。気に入った絵の前で長い間色々な角度から絵を眺めた。自分で描くことは諦めていたため、どのような絵も驚愕と憧憬の対象であった。画集や美術展のカタログは、どん底時の古本屋への売却から生き残ったものがいくつかあり、ココにも見せたが、裸婦像を気味悪がられただけだった。

 健三郎が、我が家のプラレールトーマスシリーズに新たに加わった仲間「ジェームス」に大量の貨車と客車を引かせてこき使っている。ジェームスはトーマスの仲間であり、赤い車体に過剰な自信を持っている。私は息子の健三郎が「ジェームス、参上!」と叫ぶ度に、メタリカのボーカル&ギター、ジェイムズ・ヘットフィールドの顔が浮かぶ。

「いただきます」
「いただきマスター・オブ・パペッツ(メタリカの3rdアルバム)」
「いただきメタリカ」←今ここ
 私が一人「いただきメタリカ」と言っても家族は皆スルーしてくれる。

「学校楽しい」と何もなかったかのようにココは言う。
「今のクラスに好きな男子はいない」とも。いまだに一、二年生の時に支援学級で一緒だった男子のことを好きなのだという。二年末に急に転校してしまったので、会うことは出来ない。ファーストキスはほっぺに済ませているというから、淡い初恋の記憶は永遠に美しいままで残されている。

 色とりどりのコピックチャオを手に取りながらココが色塗りを楽しむのを見ながら、色に関する曲があったなと検索してみる。「コードギアス 反逆のルルーシュ」のOP曲だった、FLOW「COLORS」が出てくる。私が一番アニメを観ていた時期の記憶が蘇る。次に塗り絵用にプリントアウトする絵を探している最中、ルルーシュの絵をココに見せてみるが即座に「嫌!」と断られる。黒がメインだし塗り絵としては楽しくないか。
「可愛い女の子のキャラがいい!」
 ルルーシュは結構うっかり者で可愛い所もあるんだが、と思いつつ、私はまた「スパイファミリー」のアーニャの画像を探し始めた。

(了)
152, 151

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