学校へイこう!
「走れ、風のようにィィィィィィィ!」
朝のロスなんて気にせず、自転車を全力疾走させる。
クーはというと……なぜか頭にのっかっていた。
よく安定して乗っていられるな、と思うが……そもそもクーは妄想なわけで。
物理法則とかけ離れてるから、そりゃー重くもないし安定もするか。
感触は、人間というより水の入ったビニール袋を乗せているような感じだ。
「あなた様は、なかなか素早いのですね」
「任せろ、競輪選手もまっつぁおな速度を実現できる!」
「流石はあなた様、流石はあなた様」
「二回言われると馬鹿にされているみたいだ……」
本気を出して走っていた甲斐もあり、定刻通りにいつもの道を通ることができた。
なんとか間に合いそうだ、信号で待たされる最中、ようやく一安心する。
冷静になってみれば、先ほどまでの状況がつらつらと頭に、映像としてよみがえってきた。
クーはどこからどう見ても人間に見えるのだが、元は単なる俺の妄想である。
だから人の着る服なんかは着せる事はできないし、まず幼女服も持っていなかったから困り果てていた。
するとここで、クーから実際はあくまで俺の妄想であるからか、結局妄想でなんとかなると言われる。
『あなた様の願望機が私ですから、念じてください』
つまるところ彼女の言いたい事は、今安定しているのはあくまで人間としての体だけ。
なのでここに、服も体の一部として妄想してくれれば付け足されるそうな。
んな事くらいで本当になるのか半信半疑であったが、このままでは困るのは真実。
冗談半分に、目を閉じて念じるように思い描いた服装を、幼女に当てはめ終わって目を開けてみる。
すると、確かにそこには思い描いた通りに白いワンピースを着た幼女が居た。
なんというか、それで本当に目の前の子は俺の妄想なんだなっと確信させられた。
そんな朝の風景。
「あなた様、赤になりました」
「ああっとまずい。行かなくちゃ……って赤かよ! 青の時教えろよ!」
「青は先ほど過ぎました」
「冷静に報告するな! 青は進め、赤が止まれってのは分かってるだろ?」
「イエス。しかし、私はこうやってあなたと一緒にいる時間を、もっと楽しみたかったのです」
「ドッキーン。……それなら仕方ないな」
「そうなのです」
あれ? 本当に良いのだろうか?
いや、よくない。(反語)
というか、流石俺の妄想だ。
畜生、やはりこいつは俺の妄想だ。
だがそれは、頭に幼女を乗っけた状況なのに、なんの反応も示さない。
親含めて街の人間を見れば、分かって当然の話だった。
邪気眼は、邪気眼使いにしか分からない。
今だって俺は、独り言を信号待ちしながら喋っている危険人物というのが、衆目の認識だろう。
だが俺にとっては、確かにココにある世界なのだ。
本当はないなんて思えるはずが、なかった。
~
「あの信号のせいで~俺の予定調和がー!」
「ボーっとしていたあなた様に責があると判断します」
「その通りですけどね!」
無機質なチャイムが、教室までの階段を走る俺の耳に聞こえる。
階段二段飛ばしなんて当然、むしろ今の俺は風となってものの数秒もかけずに走破する。
運動会なんかでもこのくらいの加速ができれば、俺も少しは活躍できたろうにな。
それなら、由華にもカッコイイとこ、見せられるしな。
「残念ながら、遅刻確定ですね」
「チャイムはまだ鳴り止んで無い!」
見る人が見れば、何をそんなに必死なっているんだ、と笑うだろう。
しかしいままで皆勤を守っていると、守りたくなるというもの。
そんな事を思っていると、やっと教室の入り口が見えてきた。
先ほど鳴ったのはまだ始業の予鈴だったのか、廊下には暢気に出歩いてる生徒が見える。
「こちとら必死こいてるのに、暢気なもんだ」
尚も加速しながら愚痴っていたが、それが拙かった。
何故なら真横から、丁度突っ切っている教室から人が飛び出してきていたからだ。
「ウッディ!?」
「ぬぅおっ」
加速する俺の体に、誰かがぶつかった。
体はその速度を殺しきれず、尚も俺の体を加速させていく。
「ぶふ」
そうして結果、俺は背中からコンクリートの壁にぶつかった。
鈍い音。
次に、痛みがやってくる。
思えば、昨日の戦いよりもダメージ量が高い気がしてならない。
流石の妄想も、リアルには勝てないようだ。
顔も腹も腕も、全てを壁に叩きつけたからか、全身が痛む。
「痛い。廊下を走るなんて、なんてけしからん奴だ」
ぶつかってきたヤツが倒れただろう先に、視線を移動させる。
「うううう、痛ぇ」
どうやら俺とぶつかって跳ね飛ばされたヤツは、ぶつかった拍子に後ろにはね飛んで後頭部を打ったらしい。
俺よりも痛そうに後頭部を押さえている。
気まずいわー。
「だ、大丈夫かい?」
向こうの方が痛そうなので、ついつい紳士的に対応してしまった。
「ああ、大丈夫。少し打っただけみたいだ」
すると男は、すぐに人の良さそうな和やかな笑みを受けべると、立ち上がる。
「本当にそう言えるのか!?」
「え?」
「もしかしたら見えないモノが見えるようになったり、記憶を失ってるかもしれないだろ!」
「と、突然何を言い出すんだよ」
当然のように狼狽する男。
「そうなっても俺は一切の責任を負わないから、そのつもりで! じゃ!」
それだけ言って、足早に立ち去ろうとする。
「まぁまぁ、そう急がないでよぉ」
ものの、たるい話し方の男に、知らず止められていた。
「ありがとう、彼を捕まえてくれて。僕は背野 徳道(せの とくみち)」
出てきて突然名乗った男は、ワカメみたいな髪型の癖に、なかなかの美形男子だった。
身長も俺より少し高く、見下ろされている感が敗北感を覚えさせる。
「げぇ、徳道」
やってきた徳道に、気のよさそうな男は愕然とした顔で叫んだ。
「そして彼は茂名 準平(もな じゅんぺい)君。なぜか僕から逃げるからさぁ、困ってたところなんだよねぇ」
嫌がる準平に、有無を言わさず抱きついた徳道は淡々と説明をする。
「そら逃げるだろ! こうやって抱きついてきたらぁ!」
「ああん。つれないねぇ、だがそこがまた」
「気色悪い! 必要以上に近づくな!」
にぎやかだ。
「どうも大丈夫そうだから、俺はとっとと教室へ行かせてもらう」
目の前の人物はそこはかとなく、男と男で愛を育むという、BLのケがある奴だと見て取れた。
これ以上は関わりたくない。
「ああ、逆に引きとめる感じになってごめんねぇ」
「それじゃ」
挨拶もそこまでに、さっさと教室へと向かう。
体感的に長く感じたが、先ほどのやり取りには数分も掛かっていなかった。
ウチの学校にはオカしな奴が多いと思っていたが、まさかホモまでいるとはな。
あの出会いは、人には色々いるのだと、改めて思う切欠となった。
~
「彼も、邪気眼使いだね」
内藤の姿が教室へ消え。
その姿を目で追っていた徳道が呟いた。
「頭に乗っかってる幼女なんて、邪気眼能力と見た方が逆に正常だもんな」
未だに引っ付かれていることを、呆れ半分に無視しながら、応じる。
「人の姿をしている邪気眼、か」
「君と似ているなぁ、と思ってねぇ」
「気になるのか?」
「ここで、あんな形で会うのも……何かの縁だと思う。彼には、強い何かを感じるよ」
去った内藤の幻影を追うように、遠い目をして徳道は言った。
「そのままあっちの人に乗り換えてくれない?」
「そんなことしないよぉ、僕は君一筋だからねぇ」
「寄るな! だからくっつくな!」
またベタベタとくっついてくる徳道に、嫌がる準平。
二人は、周りの生徒たちから白い目で見られていることなどお構いなしに話していた。
最も、そんなことを気にする二人でもないので、関係はなかった。
なにせ邪気眼は、邪気眼使いにしか分からないのだから。
「任せろ、競輪選手もまっつぁおな速度を実現できる!」
「流石はあなた様、流石はあなた様」
「二回言われると馬鹿にされているみたいだ……」
本気を出して走っていた甲斐もあり、定刻通りにいつもの道を通ることができた。
なんとか間に合いそうだ、信号で待たされる最中、ようやく一安心する。
冷静になってみれば、先ほどまでの状況がつらつらと頭に、映像としてよみがえってきた。
クーはどこからどう見ても人間に見えるのだが、元は単なる俺の妄想である。
だから人の着る服なんかは着せる事はできないし、まず幼女服も持っていなかったから困り果てていた。
するとここで、クーから実際はあくまで俺の妄想であるからか、結局妄想でなんとかなると言われる。
『あなた様の願望機が私ですから、念じてください』
つまるところ彼女の言いたい事は、今安定しているのはあくまで人間としての体だけ。
なのでここに、服も体の一部として妄想してくれれば付け足されるそうな。
んな事くらいで本当になるのか半信半疑であったが、このままでは困るのは真実。
冗談半分に、目を閉じて念じるように思い描いた服装を、幼女に当てはめ終わって目を開けてみる。
すると、確かにそこには思い描いた通りに白いワンピースを着た幼女が居た。
なんというか、それで本当に目の前の子は俺の妄想なんだなっと確信させられた。
そんな朝の風景。
「あなた様、赤になりました」
「ああっとまずい。行かなくちゃ……って赤かよ! 青の時教えろよ!」
「青は先ほど過ぎました」
「冷静に報告するな! 青は進め、赤が止まれってのは分かってるだろ?」
「イエス。しかし、私はこうやってあなたと一緒にいる時間を、もっと楽しみたかったのです」
「ドッキーン。……それなら仕方ないな」
「そうなのです」
あれ? 本当に良いのだろうか?
いや、よくない。(反語)
というか、流石俺の妄想だ。
畜生、やはりこいつは俺の妄想だ。
だがそれは、頭に幼女を乗っけた状況なのに、なんの反応も示さない。
親含めて街の人間を見れば、分かって当然の話だった。
邪気眼は、邪気眼使いにしか分からない。
今だって俺は、独り言を信号待ちしながら喋っている危険人物というのが、衆目の認識だろう。
だが俺にとっては、確かにココにある世界なのだ。
本当はないなんて思えるはずが、なかった。
~
「あの信号のせいで~俺の予定調和がー!」
「ボーっとしていたあなた様に責があると判断します」
「その通りですけどね!」
無機質なチャイムが、教室までの階段を走る俺の耳に聞こえる。
階段二段飛ばしなんて当然、むしろ今の俺は風となってものの数秒もかけずに走破する。
運動会なんかでもこのくらいの加速ができれば、俺も少しは活躍できたろうにな。
それなら、由華にもカッコイイとこ、見せられるしな。
「残念ながら、遅刻確定ですね」
「チャイムはまだ鳴り止んで無い!」
見る人が見れば、何をそんなに必死なっているんだ、と笑うだろう。
しかしいままで皆勤を守っていると、守りたくなるというもの。
そんな事を思っていると、やっと教室の入り口が見えてきた。
先ほど鳴ったのはまだ始業の予鈴だったのか、廊下には暢気に出歩いてる生徒が見える。
「こちとら必死こいてるのに、暢気なもんだ」
尚も加速しながら愚痴っていたが、それが拙かった。
何故なら真横から、丁度突っ切っている教室から人が飛び出してきていたからだ。
「ウッディ!?」
「ぬぅおっ」
加速する俺の体に、誰かがぶつかった。
体はその速度を殺しきれず、尚も俺の体を加速させていく。
「ぶふ」
そうして結果、俺は背中からコンクリートの壁にぶつかった。
鈍い音。
次に、痛みがやってくる。
思えば、昨日の戦いよりもダメージ量が高い気がしてならない。
流石の妄想も、リアルには勝てないようだ。
顔も腹も腕も、全てを壁に叩きつけたからか、全身が痛む。
「痛い。廊下を走るなんて、なんてけしからん奴だ」
ぶつかってきたヤツが倒れただろう先に、視線を移動させる。
「うううう、痛ぇ」
どうやら俺とぶつかって跳ね飛ばされたヤツは、ぶつかった拍子に後ろにはね飛んで後頭部を打ったらしい。
俺よりも痛そうに後頭部を押さえている。
気まずいわー。
「だ、大丈夫かい?」
向こうの方が痛そうなので、ついつい紳士的に対応してしまった。
「ああ、大丈夫。少し打っただけみたいだ」
すると男は、すぐに人の良さそうな和やかな笑みを受けべると、立ち上がる。
「本当にそう言えるのか!?」
「え?」
「もしかしたら見えないモノが見えるようになったり、記憶を失ってるかもしれないだろ!」
「と、突然何を言い出すんだよ」
当然のように狼狽する男。
「そうなっても俺は一切の責任を負わないから、そのつもりで! じゃ!」
それだけ言って、足早に立ち去ろうとする。
「まぁまぁ、そう急がないでよぉ」
ものの、たるい話し方の男に、知らず止められていた。
「ありがとう、彼を捕まえてくれて。僕は背野 徳道(せの とくみち)」
出てきて突然名乗った男は、ワカメみたいな髪型の癖に、なかなかの美形男子だった。
身長も俺より少し高く、見下ろされている感が敗北感を覚えさせる。
「げぇ、徳道」
やってきた徳道に、気のよさそうな男は愕然とした顔で叫んだ。
「そして彼は茂名 準平(もな じゅんぺい)君。なぜか僕から逃げるからさぁ、困ってたところなんだよねぇ」
嫌がる準平に、有無を言わさず抱きついた徳道は淡々と説明をする。
「そら逃げるだろ! こうやって抱きついてきたらぁ!」
「ああん。つれないねぇ、だがそこがまた」
「気色悪い! 必要以上に近づくな!」
にぎやかだ。
「どうも大丈夫そうだから、俺はとっとと教室へ行かせてもらう」
目の前の人物はそこはかとなく、男と男で愛を育むという、BLのケがある奴だと見て取れた。
これ以上は関わりたくない。
「ああ、逆に引きとめる感じになってごめんねぇ」
「それじゃ」
挨拶もそこまでに、さっさと教室へと向かう。
体感的に長く感じたが、先ほどのやり取りには数分も掛かっていなかった。
ウチの学校にはオカしな奴が多いと思っていたが、まさかホモまでいるとはな。
あの出会いは、人には色々いるのだと、改めて思う切欠となった。
~
「彼も、邪気眼使いだね」
内藤の姿が教室へ消え。
その姿を目で追っていた徳道が呟いた。
「頭に乗っかってる幼女なんて、邪気眼能力と見た方が逆に正常だもんな」
未だに引っ付かれていることを、呆れ半分に無視しながら、応じる。
「人の姿をしている邪気眼、か」
「君と似ているなぁ、と思ってねぇ」
「気になるのか?」
「ここで、あんな形で会うのも……何かの縁だと思う。彼には、強い何かを感じるよ」
去った内藤の幻影を追うように、遠い目をして徳道は言った。
「そのままあっちの人に乗り換えてくれない?」
「そんなことしないよぉ、僕は君一筋だからねぇ」
「寄るな! だからくっつくな!」
またベタベタとくっついてくる徳道に、嫌がる準平。
二人は、周りの生徒たちから白い目で見られていることなどお構いなしに話していた。
最も、そんなことを気にする二人でもないので、関係はなかった。
なにせ邪気眼は、邪気眼使いにしか分からないのだから。