29・ヤンキー愛里との遭遇!!
授賞パーティーの後は有志でどこかに飲みに行くようだが、僕は断って家に帰る事にした。
澪奈さんは明日は出張と言う事で一次会で帰ると言うし、藤咲希春(きはる)さんも気づけば一次会の途中で帰ってたし、楓ちゃんからも早く帰るように言われてるし、そもそも知らない人だらけの飲み会とかオタクでもないのに無駄にコミュ障キモ陰キャな僕には荷が重すぎる。
澪奈さんに見送られて電車に乗った。
ビューン
ガタンゴトン
駅に着き、改札を出るとバイクの爆音が聞こえた。
ブオンブボオンボォンボンブオン!!!
駅前ロータリーには、紫の特攻服に白のチューブトップブラをサラシのように着けた一人の少女が、木刀を肩に担ぎ股がったバイクのエンジンを唸らせている。
背中には
「西部連合 愛車童 The・蹴邪姐」と大きな刺繍が。
歩道を行き交う人たちが
「何あれ?ヤンキー?」
「レディースって言うんじゃね?一人だけど」
「あいしゃどう…ざ…けんじゃねえ?草」
「うわ、キッツ!クソ昭和!!」と口々に言う。
ヤンキー少女は
「オイコラ!!ナニ見てんだ!!ァア?」
と行き交う人たちにスゴむ。
見るなって方が無理でしょ!!
赤メッシュの髪で黒マスクをし、金縁のサングラスをかけている。
う~ダメダメ……僕はこういう人苦手なんだ。
目が合わないよう顔を伏せてバス停へと向かった。
少女はバイクから降りて歩道へと向かい
「何だよ文句あんのか!?」と誰かれなく因縁をつけている。
ひーお願い、こっち来ないでぇ……
周りの誰かが
「何あの格好、ミャンマーの富裕層?」と言ったが、その表現がちょっと面白くて思わず吹き出してしまった。
「あ!!!!!!?
おいコラ、そこスーツ!!オマエ笑ったろ!!
笑ったよなぁぁぁあ!?」と僕を木刀で差しながらやって来る。
モーセが割った海のようにサッと人が左右に逃げる。
僕は必死になって
「ちっ!違います!」と言った瞬間、後ろの誰かの「ちっ!迷惑なんだよ!」との声に被さってリップシンクロしてしまった。
「はぁぁあああ????迷惑だぁぁぁああああ!!テメェえ!!!!!!」
とさらに怒りを爆発させ
ガッ!
ぼくのネクタイを掴んだ。
「殺すぞテメエ、こっち来いよ。秒でYahoo!ニュース速報に載せてやっから」
えーやめて!死後に地獄の責め苦コメントを付けられる所に載せらたれたくない!!
助けを呼ぼうとしたけどネクタイが締まって声が出ない。
駅前交番を見ると、僕を少女声かけ魔と勘違いした中年警官と目が合った。
だがすぐに目を机に下ろしてスマホをいじり始めた。
え!!ちょっ!!いま見たでしょ!!
助けてよ、お巡りさん!!拉致の現行犯ですよ!!!
僕は引きずられて、繁華街の路地裏に連れ込まれた。
僕は
「ゲホッゲホッ!ヤンキーさん、ちょっと止めてよ」
「ウチはThe蹴邪姐14代目総長、大蔵 愛里(あいり)って名前なんじゃい!!!覚えとけよ」
彼女はマスクとサングラスを取ってすごんだ。
高校1、2年生くらいか……かなりの美形……なんて思っている場合じゃない、早く誤解を解かないと!
「じゃ愛里さん、笑ったのは他の人の言葉に対してで、迷惑と言ったのは僕の後ろの人で……つまり誤解なんだから許してください」
「はあ?コラ!!許せだぁ?
ちょっと顔面偏差値イイからって調子のんなよ」
顔面偏差値Eって……初対面でE判定下すとか言葉の暴力でしょ。
「オイコラ、財布出せ。金で勘弁してやる」
「いい……ですけど、300円しか入ってませんよ……」
「はあ!?テメエ!!!一人インフレか!?きょうび小学生ですらもちっと財力あんべ!!」と木刀を振り回した。
僕は思わず身を翻して避けた。
「オイコラ!!!
ウチはこー見えて院卒なんだよ!!!
ナメてったらブッ殺すからな」
い……院卒……?
す、すごい。こんな若さで大学院を出てるなんて!
人は見かけによらないと言うけど……でもこうして見ると確かにお顔は理知的に見える……
そういえば、異常に高知能な人は成長するにつれて反社会的な行動を取る事も多いと雑学系YouTubeで見た気がする。
こうなってしまったのも本人の意志ではないのかもしれない。
きっと話せば分かって貰えるはず。
「おいコラ!!ビビってんのか?」
「うん……ビビってるというか、凄いんだね。そんな若くてキレイで頭もよくて度胸もあるのに……けどそんな事してたらもったいないよ。
せっかくの才能に恵まれてるんだし」
「な、なんだ?急に誉めんなよ……き、キモチ悪いじゃねぇか……」
「キモチ悪いのは認めるけど」
「オメエが認める事じゃねぇんだよ!!」
「ご、ごめん。うん、でもかなり美人さんだと思うよ、けどそんな格好は似合わないんじゃ……」
「うるせぇえ!!てめえの価値観を押し付けんな!!」と木刀を振り回す。
「くそ!!さっきからチョコマカちょこまか逃げやがって!
次逃げたら本格的に殺すからな!!」
愛里さんは木刀を投げ捨てるとポケットからナイフを取り出した。
や、止めてなすって!!
「うっせええ!!」とナイフを振り上げた!