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30・愛里と桜子さん

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うわっ!!!!

僕は恐怖のあまり目を瞑り、制止しようととっさに手を上げた。

と、指が何かに絡んだと思ったら
「ぎゃっ」っと声がした。

目を開けると、振り上げた僕の手が愛里さんのチューブトップブラをずり上げている。

小さなピンクの点が二つプルンプルンと踊っている。

ほどよきお胸があらわになる。

愛里さんは
「く、くそぉぉぉおお!!
よ、よくも!!よくも!!やったなぁぁぁあああ」と叫び胸元を抑えてしゃがみこんだ。

「い……いえ、誠にゴメンなさい、たた単なる大事故なんです、忘れますから……許し……」

突如!!

バッ!!と僕達の間に影が割り込んで手を広げた。

え?さっ桜子さん!!??

桜子さんは僕に正対し
「ま、牧野さん!
何があったか知らないけれど、この娘は親戚の娘なの。
許してあげて!!お願いだから殴ったりしないで!!」と言った。

「ゆ、許すって!!いや逆ですよ!!殴ったりしてませんよ!」

桜子さんは
「え??でも苦しそうに胸を抑えて倒れてるじゃない!」と言う。

いやーそれはブラがめくれて……おっぱいがポロリで……

桜子さんの後ろの愛里さんが涙目で口をぱくぱくさせている。

(シャベッタラ、コロス!!)と唇が動いている。

桜子さんは
「いい?牧野さん落ち着いて!
手を出しちゃダメ!!」

僕は
「えーっと、その…」と言いよどんでいると、愛里さんが僕を拝んでいる。

「その……ちょっと差し出した、僕の手が……」愛里さんはブラを直しながらウンウンとうなずく「えっと、たまたまみぞおちに……?」大きく肯いた「……みぞおちに……当たっただけです……」と言い終わると、安堵の表情を浮かべ両手で僕を拝んだ。

桜子さんはクルッと踵を返して愛里さんに向き直り

「愛里ちゃん!大丈夫?」

「だっ大丈夫……峰打ちだからよ」

「?????
いい、この人はね、格闘技をやってて凄く強い人なの。
もし本気で反撃されたら無事じゃすまなかったのよ。
あのホムセンジョーカーみたいに一撃で殺されてたかもしれないし」

いや、そんな……ジョーカーさんも殺してませんよ?

愛里さんは僕を指差し
「あ!!!ま、まさか!!!
#イケメン格闘家……?!!!」と叫んだ。

桜子さんは微笑んで
「それは……あたしの口から言えないけど」と唇に人差し指を当てた。

言ってますよ、それ……

愛里さんは
「そ、そんなすごい方だったとは……
そう言えば……ウチの木刀を全部かわしてたし……
サッ!サーッセン!!!
失礼なことをして!!!!!」と言って腰を90度に曲げて頭を下げた。

「いいよいいよ、僕は愛里さんの誤解が解けたのならいいから」

「そ、その…愛里サンじゃなくて愛里って呼んで下さい!!!
Twitterであの動画見てから#イケメン格闘家の大ファンなんです!!!
舎弟……いや舎妹にして下さい!!
ぜひ愛里って呼んで下さい」

「いや今の時代、年下でもさん付けで丁寧語で接するのが………」

「お願いです!!!!お願いです!!!!お願いです!!!!お願いです!!!!お願いです!!!!お願いです!!!!」と言うたびに頭を何度も下げる。

「……じゃ愛里……」

「っしゃぁあ!アザッス!!」と照れながら微笑んだ顔は紅潮していた。

愛里さんじゃなくて愛里は
「じゃその……牧野クンって呼んでいいすか……いいですか?」と手を恥ずかしそうにクネクネと組み直しながら聞く。

うん、と答えるしかなさそうだ。

僕は
「けど桜子さん、よくここがというか事情が分かりましたね」と聞いた。

「駅前交番から電話があってね。
牧野さんが連れて行かれて、族のコが返り討ちにされるかもしれないから説得してくれって言われて。ちょうど駅前近くにいたから探して見つけ出したというわけ」

愛里は自身を指さし
「え?じゃアタシを救うために?」と驚いた。

桜子さんは愛里を優しく抱きしめて
「そうよ、どうしたの? こんな事して」と聞いた。

愛里は小さな子のようにグスグスと泣きながら
「だって……ミキちゃんはゲーム配信者になるって抜けちゃうし、モーちゃんはVTuber活動にハマっちゃうし、他のみんなは地下アイドルグループになるって地元を離れるし……うち一人のだけになって……だからなるべく存在感を示したくて……スミマセン…The・蹴邪姐をこんなにしちゃって……初代総長!!!」と桜子さんに言った。

え!?しょ、初代って!!!桜子さん!!


愛里とは駅前で別れ、桜子さんと二人で歩いて帰った。


「それにしてもあのコ若いのに院卒……大学院卒業なんてすごいですね」と聞くと桜子さんは

「ああ……!!
院卒って少年院卒業って事なの」

「え!?」

「とは言え愛里ちゃんはミエ張ってるだけなんだけどね」

僕は
「そうなんですか。
それと桜子さん、あの初代総長って……どう言うことなんですか?」と恐る恐る聞いた。

桜子さんは
「うーん……それはあたしの口から言えないな」と唇に人差し指を当てて微笑んだ。
30

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