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エデンの蛇

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「ってか、あれ? 魔法少女増えとるやん?」

 現れた魔女は20代くらいの見た目をしていた。

「うわーーん!まじょーーぉぉ!!」

 きびは泣きながら糸目のお姉さんに駆け寄って行った。涙で前が見えなかったのか、途中で転んでしまった。

「なんや、なんや?」

 出会った魔女に連れられて喫茶店に入って話をする事になった。
 注文した飲み物がそれぞれ運ばれると、きびがこれまでの事をお姉さんに話した。

「なんや、あの番組魔女を呼ぶために流したんか! 普通におもろそうやから聖地巡礼がてら来てしもうたわ」

「ルシアンが魔女にもヲタクがいるからって頑張って作ったの」

「はは! せやね。魔女は人間界の娯楽好きやねん! うち、変身ヒーロー物が好きでな特撮とか魔法少女物とかつい追いかけてまうねん」

「お姉さんの力で町の時間をもとに戻してもらえないでしょうか?」

 しろが言った。お姉さんが申し訳なさそうな顔をする。

「あー。そうしてやりたいんやけど、うちはオリジナルの魔女ちゃうで?下っ端の下っ端や。魔力もそんな強うないんよ」

「オリジナルの魔女?」

 きびが首をかしげた。

「魔女は魔女じゃないの?」

 あらせが言った。グラタンのエビをふーふーと冷ましている。

「私達はまだ魔女に会った事ないんです」

「せやったんか、オリジナルの魔女ちゅうのはなー。蛇の鱗うろこの化身なんよ。蛇の剥がれ落ちた鱗から生まれたのが、オリジナルの魔女」

「……あの男の子も蛇って言ってた。蛇って魔女の事だったんだ」

「何で蛇が魔女になったの?」

 あらせが質問した。

「なんや、何も知らないんか? では、教えて差し上げましょう」

 お姉さんがコホンと咳払いをすると、魔女について話してくれた。

「……この世の遥か彼方にある魔女の園エデン。そこにはかつて2匹の蛇が住んでいた。名前をリリスとイブと言う。2匹はエデンの禁断の果実であるりんごを守る役目を神様から仰せつかった。でも、イブは好奇心からそのりんごを食べてしまった。りんごを食べたイブは蛇の鱗うろこが剥がれ落ち2本の脚が現れ人間になった。イブがりんごを食べる事を阻止出来なかったリリスは神様から罰を受けた。リリスは石に変えられ、石化したリリスは苦しみと悲しみから鱗が剥がれていった。その剥がれ落ちた鱗は人の形となり新しい命となった。それは女の形をしていたため魔女と呼ばれた。これがオリジナルの魔女。魔女界で最も魔力の高い者たちや」

「オリジナルじゃない魔女がいるなら他の人達は? レプリカって事?」

 しろが言った。

「おー!なかなか鋭いな。オリジナルから見たらうちらはまさにレプリカや。そんなレプリカがどうやって生まれたか、歴史の教科書にも載ってる話や…………今から何百年も昔……オリジナルの魔女がエデンを離れ人間界を旅したその時、魔力の無い者たちの存在を知った。それは人間達も同じだった。やがて噂や空想が広まって、人間界は魔女に恐怖した。人間達は魔女は身近に居ると信じ、魔女狩りが各地で行われると、人々は人間の女達に魔女として謂いわれのない濡れ衣を着せ沢山の方法で苦しめた。それを知ったオリジナルの魔女達が、魔女狩りの犠牲者にもう一度生きるチャンスを与えた。魔女としてな。それで人間から魔女になる子が増え、時が経つに連れだんだんと魔力も薄くなっていくようになった。でも、ごく稀に魔力の強い者が生まれる時がある。魔力の強い者は蛇の眼を持ち蛇眼の魔女と呼ばれる」

「む、むずかしい……」

 きびは頭がパンクしそうだった。

「きびちゃんしっかり」

「まぁ、オリジナルの次に強いんは蛇眼の魔女あたりやな。個人差はあると思うけど。うちはその下やからあまり力になってあげられないねん。ごめんな。ただ例外もあるで。君達が持ってる水晶玉を使つこえば蛇眼クラスの強さだって手に入る。かも……これも個人差やけど」

「魔女達が狙われてるの。石化された魔女達を戻してあげたいの。どうしたらいいですか?」

「あのシェディムとか言う男の子の事か?さっき固まってる町の人達見たけど、あれもしかしたら呪いやないかな?」

「呪い?」

「呪いの力は厄介なんよ。魔法は想いの強さで効き目が変わる。恨みや憎しみは力が増すんや」

「それで町の人達もとに戻せなかったの?」

「…………じゃあずっとこのまま?」

「んー。力で塗り替えれば町も人も戻ると思うで……ただ、問題は魔力の強さや。魔女を集めるか、君達が強くなるしか今んとこ解決策はないやろな」

「そうだ、魔女界には行けないの? ルシアンが魔女の道標があれば行けるって」

「魔女の道標! あんなんビンテージ物やで! 持っとるとしたら多分魔女狩りの当事者達くらいやで! ……ただ人間界のすぐ側にも魔女がおる世界があってな、エデンを超高級レストランに例えるならこっちはジャンクフードを取り扱うとるファストフード店のような場所があんねん」

「じゃ、そこ行こーよ」

 グラタンのマカロニをフォークで刺しながらあらせが言った。

「そこなー。一見さんお断りなんよ。それに魔女以外にも多数追ってな……うちの知り合いが1人そこにおるんやけど……」

「「「けど?」」」

「場所がゲームの中の世界なんや……」

「「「ゲーム?!」」」

「ど、どうやって行くのそれ……」

「流行りもん好きやからな~人気のネットゲームやればその知り合いと連絡出来るかも……」

 しろがある事を聞いた。

「その人の力はどのくらいなんですか?」

「うちより強いから安心してや。けど、極度の面倒くさがりやねん。協力的とは言えんけど、まぁこっちはうちに任せとき!引っ張り出してくるさかい」

「お姉さんありがとう!」

 きびが目を輝かせて言った。
 お姉さんが微笑んだ。奥にいる定員さんを呼び追加注文をした。

「おっちゃーんケーキ3つ! うちからのご褒美や。今日はよお頑張ったなぁ」

 
 お姉さんはテーブルに置いてあっる紙ナプキンにペンで電話番号を書き出した。
 差し出された電話番号が紙から剥がれ、空中に文字が浮き出し3人の水晶玉の中に数字が飛び込んだ。
 
「これうちの携番。しばらくこの町にいるさかい何かあったら連絡してや」

 そう言ってお姉さんは伝票を手に喫茶店を出て行った。
 残った3人はケーキを食べながらほっとした。

「本当に魔女が来てくれたね」

「でも、力弱いってオレ達より弱いのかな?」

「一緒に戦うにはリスクがあるわね。1人でも奴らに取られたくはないもの」

「つまり、オレ達があのお姉さんを護らなくちゃならないってことじゃん?」

「私たち力を付けなくちゃ、これから先厳しいかもね」

「でも、仲間が増えたのはやっぱり嬉しいよ!」

 きびは嬉しそうに微笑んだ。

「きびちゃん…………。いちごあげる」

「オレのも」

 きびのお皿にショートケーキのいちごを置いた。

「そうね。今は喜びましょう。魔女との出会いと今日の勝利に」

 しろはソーダの入ったグラスを手に取った。きびとあらせも自分達のグラスを手に持って掲げる。

「「「カンパーイ!!」」」


 魔女のお姉さんは今日泊まるホテルの部屋に入った。ベッドに倒れ込むとゴロゴロと寝そべっる。

「時間が進まない町……か……んふふ!会社行かなくていいやんけ!! ぐふふ!! 夏のイベントの製作も余裕やん! どないしよーずっとこの町いたいわー!」

「なに呑気な事言ってんだよー!」

 お姉さんのメガネが1匹の妖精に変わった。妖精は手のひらサイズのぬいぐるみに似た姿で紫色の謎の生物だった。

「フィカス。ごめん、ごめん。つい嬉しくなってしもたわ」

「はやくご主人様の所に帰してくれよ~!」

「師匠も困ったものやで、ペット行方不明なのに探しにも出てこんと飼い主失格や」

「ペット言うな!」

「うち、そないゲーム上手くないねん。期待せんといてや」

「ゆーてる場合か!」

 お姉さんはスーツケースの中からタブレットPCを取り出してゲームのアプリを開いた。ゲームはモンスターを次々と倒す今流行りのサバイバルゲームだった。

「さぁ、大暴れと行こうや」

 彼女もまたホテルに引きこもるのだった。
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