トップに戻る

<< 前 次 >>

ペニスの歌

単ページ   最大化   

 話すことのできなくなった僕の声が、ちんちんから出てきた。
「僕に構わないでくれないか」と親に言うこともできた。
「どうしてそんなことをするんだい」といじめっこに聞くこともできた。
「君が好きだ」と好きな子に告白することも。

 口を動かさない僕の声が股間から聞こえることに、最初はみんな戸惑ったものの、「性器に発声器官を発見」というニュースを見て納得してくれた。僕と同じ時期に、声を失った人たちはそれぞれのちんちんやまんまんで話し始めていた。

 ちんちんは僕の口よりも雄弁だった。僕が心の奥底に隠して言うことのできなかった言葉たちを、表に吐き出してくれた。やがて言葉は歌となった。僕は下着のこすれる音が入らないように、下半身裸になって自分の部屋でちんちんの歌を録音した。その歌を配信すると、たくさんの人が聞いてくれた。公表していないのに、ちんちんボーカルだと察しているコメントも寄せられた。僕はそのコメントに「ちんちんの歌」と題した曲を発表して応えた。BANされるかとも思ったが、性器は発声器官でもあることが世間に知られるようになってからは、そのあたりの規制も緩やかになっていた。「ちんちん」という語を言ったり書いたりすることが規制されるのならば、「口」という語も同様であるべきだ、というわけだ。

 僕は他のちんちんボーカリスト、まんまんボーカリストとコラボしたりした。ちんちんで鉄琴を演奏する人からもコラボ依頼が来たが、それは違う気がして断った。やがて世界中のちんちんまんまんボーカリストたちが一同に集い、コンサートが開かれた。顔は隠して、性器だけが見える服装をして、大勢の人の前で歌った。僕らは濃いサングラス越しに、僕らの歌声で涙を流してくれる観客の顔を初めて目にした。つられて僕の目から涙がこぼれた。そして、嗚咽となって、僕の口からも久しぶりに声が発せられた。ちんちんは僕の作った歌を歌い続けていた。
24

山下チンイツ 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る