~第四章~「別れ」
レキ・フォン対モンスターの群れ十匹との戦闘が始まった。
まずはモンスターの数を少しでも減らさなければ、あっという間に囲まれてしまう。囲まれてしまえば攻撃を避けるのはとても困難だ。
「レキ! まずはザコから片付けて数を減らすぞ!! このままでは思うように動けん!」
「わかった、じゃ行くよ!」
レキとフォンは二手に別れ、囲まれないよう常に動きながらモンスターをかく乱つつ、大トカゲのモンスターから順番に倒していくことにした。
「ハッ!!」
攻撃をかいくぐり、フォンが気合いとともにトカゲのモンスターに一撃を喰らわせる。
受けたモンスターは、あっけなく叫び声を上げてその場に倒れた。まさに一撃必殺である。ちまちまと倒している余裕はない。ザコは迅速に、一撃でケリをつける。
しかし今度は背後から、あの骸骨のモンスターが、例の危険な剣を振り下ろして来た。——ヤバい! フォンは振り返ってそれを剣で受け止める。
——ガキィン!!
……やれやれ、危ないところだった。
寸前で攻撃を受け止めたフォンが安心したのも束の間、剣を受け止めていることで彼の動きは止まってしまった。そこへさらに背後から大トカゲのモンスターが襲いかかる。
「チッ……! まずい!」
フォンは一瞬焦ったが、その攻撃はフォンへと届かなかった。
「ギィアア!!」
叫び声とともにモンスターが倒れる。
いつの間にかフォンの後ろへと回り込んでいたレキが、同じく一撃でモンスターを倒していたのだ。
レキはそのまま動きを止めず、次のトカゲのモンスターへと向かって行く。
フォンは後ろに跳び、骸骨のモンスターの剣を振りほどいた。しかし、モンスターは勢い余ってそのまま剣を振り下ろす。
さっきまでフォンが立っていた所には巨大な剣が突き刺さった。
「あの邪悪な剣さえ気をつければ、あとの攻撃は少しくらい受けても仕方がない……」
モンスターの数が多いため、全ての攻撃を避けきることはできなかった。
襲い来るモンスター達に、レキもフォンも多少の切り傷をうけている。
しかしそんなことを気にしている余裕はなかった。
レキが三匹目の大トカゲのモンスターを斬りつける。
そいつは叫ぶ間もなく崩れ落ちたが、さらに近くにいたガーゴイルのモンスターがレキへと襲いかかって来た。
その攻撃は頬をかすめたが、なんとか避けることができた。
しかし、いつの間にかドラゴンに囲まれてしまっていることに気づいた。二匹のドラゴンはレキに向かって激しい炎を吹き出してくる。
「……うわっ!」
なんとか体制を立て直し、横に跳んでかわしたがドラゴンはそれを読んでいたようだ。レキがかわした方へと、鋭いかぎ爪を向けてさらに襲いかかって来た。
——キィン!!
今度はフォンが、レキの前でドラゴンの攻撃を受け止めていた。
「大丈夫か!? レキ!」
「……うん、ありがと! フォン」
フォンが力を込めて剣を振り抜き、ドラゴンを振り払った。
モンスターの数が多いのは厄介だったが、レキとフォンのコンビネーションはなかなか良かった。
「キミと組むと、やりやすいな」
背中合わせに立ちながら、フォンがつぶやく。
「オレもそう思ったよ」
レキが前を向いたままで小さく笑った。
「……フッ、どうやらキミとはなかなか気が合うかもしれん」
フォンも軽く笑顔を見せると、二人は再びモンスターの群れへと飛び込んでいった。
それからも激しい戦闘が続いた。
しかし、多少の攻撃は恐れずに特攻することで、モンスターの数を確実に減らすことができた。
この中で一番のザコモンスターである大トカゲは既に五匹とも片付け、またその間にガーゴイルも一匹だけ倒す事に成功しており、残りは骸骨のモンスターとドラゴン二匹。そしてもう一匹のガーゴイルをあわせて全部で四匹だけになっていた。
そんな状況を確認しつつフォンは一息つく暇もなく、残ったガーゴイルに向かって突進する。
こいつを倒せば残り三匹だ。そうなればかなり動きやすくなる。
「グギャア!!」
フォンの攻撃を受け、これまでの戦闘ですでに深手を負っていたらしきガーゴイルのモンスターは、例の如く一瞬のうちにその場に崩れた。
間髪入れずに今度はドラゴンが炎を吹き出してくるが、フォンはそれをなんとかかわす。その向こうではレキが骸骨のモンスターと戦いながら、もう一匹のドラゴンにも注意を払っていた。
骸骨のモンスターはかなりの強敵だった。巨大な剣にもかかわらず、それを恐ろしいほど速く振り回して攻撃を仕掛けてくる。
かすっただけでも危険な呪いの剣を振っているため、うかつには近寄れない。
さらに厄介なことに、そのモンスターは魔法を使うこともできた。
「—ダーク・ウォール……—」
地の底から響くような声でモンスターが魔法を唱える。黒い闇の波動がレキに直撃した。
「くっ……!」
激しい衝撃がレキを襲う。なんとか体制を立て直そうとしているところに、骸骨モンスターが邪悪な剣を振り下ろしてきた。
——ギィィン!!
……なんとか防いだ。が、モンスターはさらにギリギリと力を込めてくる。
この体制で倒されたら、やばい。
レキは剣に、持てる全ての力を込めた。お互いの力が激しくぶつかりあう。
どちらも一歩も引かなかったが、重なりあった剣はゆっくりと、モンスターのほうへと押し出されはじめた。
そのことにモンスターが一瞬動揺する。レキはそこでさらに力を込め、モンスターの剣を振り払った。
そのまま、もう一度骸骨のモンスターへと突撃する。モンスターに防御の体制をとる時間を与えてはいけない。途中でドラゴンが邪魔をするかのようにかぎ爪で攻撃を仕掛けてきたが、そんなことは気にしていられなかった。
レキはドラゴンに右肩を切られながらも、骸骨のモンスターめがけておもいっきり剣を振り下ろす。モンスターは剣で受け止めようとしたが、予想外にレキが速かったことで間に合わず、頭に直撃を喰らった。
「ウグッ……ガ」
頭蓋骨にピキピキっと亀裂が走る。レキがさらにもう一撃うち込もうとしているところに、またもやドラゴンの邪魔が入った。
「キシャー!!」
激しい雄叫びを上げながらドラゴンが炎を吐き出す。
「こっちだ!」
レキはギリギリのところまで引きつけて、それをかわした。するとドラゴンの炎はレキの代わりに骸骨のモンスターに直撃し、燃え上がった。
「ウギャアァァ!!!」
すさまじい叫び声をあげて、モンスターは燃えながら地面に崩れ落ちた。しかし、まだ邪悪な気配は残っている。完全にやられてはいないようだ。
レキが再び近づこうとすると、骸骨モンスターは最後の抵抗に、辺りかまわずむちゃくちゃに剣を振り回し始めた。
「コノ……ママデ……ハ、済マサン……!!」
もう勝負はついていたが、激しい炎に焼かれながら、モンスターはしつこく剣を振り回し続ける。
しかし、それがレキに当たることはなかった。モンスターの攻撃はすでに全く的を射ていない状態だ。ただ厄介なのは剣をむちゃくちゃに振り回しているため、モンスターに近づくことができない……。
その時だった。振り回されていた剣が、勢い余ってモンスターの手からするりと離れ、吹き飛んでしまった。
レキはその剣が吹き飛ぶ方向を見て、目を疑う。なぜなら剣が飛んでいく先ではフォンがもう一匹のドラゴンと戦っている真っ最中だったのだ。
「フォン! 危ない!!」
レキは弾かれたように走り出した。
フォンはドラゴンとの戦闘に集中していて気がついていない。このままではあの邪悪な剣がフォンを貫いてしまう……!
「フォン!!!」
レキは叫ぶと同時に飛びかかり、フォンをおもいっきり突き飛ばした。
「……なっ! レキ!?」
突然つき飛ばされたフォンは何がなんだかわからなかった。が、レキを見てすぐに状況を把握する。
どうやら自分めがけて骸骨モンスターの攻撃が飛んできていたらしい……。そしてそれに気づかなかった自分を、レキがかばったのだ。
レキの右腕には、あの邪悪な剣が深々と突き刺さっていた。
フォンをかばうのに夢中で、自分までは間に合わなかったのである。
「うッ…!!」
レキが右腕を押さえ、がくりとひざをつく。
「レキ!! 大丈夫か!?」
とても大丈夫そうではなかった。剣からは不気味なオーラが漂い、それがすべて傷口から体内へと流れ込んでいる。
「くそっ!!」
フォンは刺さっている剣を急いで抜いた。しかし傷口には相変わらず邪悪なオーラがまとわりついていて、体の中に少しずつ入っていくのを止めることができない。
フォンはサッと青くなった。この傷は一刻も早く適切な治療をしなければ手遅れになってしまう。
しかし今、そんな余裕はない。まだ戦闘中であり、そもそもこのモンスター達を倒してしまわないと生き残ることはできないのだ。
だが負傷のレキをかばいながら、残りのモンスターを相手に一人で勝つことができるだろうか……。
「……オレもまだ戦えるよ」
フォンが考えを巡らせている間に、レキは痛みに耐えながら右腕を押さえ、再びよろよろと立ち上がる。
「んなっ!? 無理をするなレキ! そんな状態で戦えるわけがない……! それに動くと呪いが体に回って死ぬぞ!?」
「今ここで倒れていても、どうせやられるだけだ……!」
レキは負傷した右腕で剣を持ち、それを左腕で支えながらなんとか剣を構えた。
「しかし……!」
フォンは言いかけたが最後まで言うことはできなかった。ドラゴンが炎を吹き、その炎が二人をわかつ。
幸いなことに、残るモンスターはドラゴン二匹だけとなっていた。
骸骨のモンスターは剣を放った後、炎に焼けて力尽きていたのだ。
フォンは一刻も早くドラゴンを倒さなければと、全神経を集中させる。
しかし、こちらのそんな状況を知ってか知らずか、ドラゴンは炎を吐き散らし、なかなかフォンをよせつけようとしない。
「くそっ! こんな時に限って……!!」
フォンは焦った。
炎が止むのを待っていられない。このまま飛び込んでやろうか……。
そんなことを考えていると、ほんの一瞬、ドラゴンの炎が途切れる瞬間があった。
フォンはその一瞬を見逃さなかった。迷わず、ドラゴンの懐へと飛び込む。
ドラゴンが慌ててかぎ爪をフォンに向かって振り下ろしてきたが、フォンは構わずにそのまま飛び込むと、渾身の一撃を腹部へと撃ち込んだ。
「クゥッ……!」
フォンも背中に攻撃をくらったが、ドラゴンは叫ぶ間もなくその場に倒れた。
急いでレキの状況を見ると、もう一匹のドラゴンに同じく一撃を放ったところであった。負傷していながらも、いざ戦闘になるとその動きはあまり衰えていない。
しかし、それはかなり体に負担をかけていることになる。
「レキ!」
ドラゴンが地面に倒れるのと同時に、ついにレキも意識を失い、その場にドサリと倒れ込んだ。
「しっかりするんだレキ!」
フォンはレキに駆け寄り、呼びかけたが反応はない。右腕の傷はかなり酷くなっている。一刻も早く治療しなければ、このままでは危険だ。
フォンはレキを抱えると、背中の痛みも忘れ、はるか前方にいるリオーネ達を目指して全速力で走り出した。