トップに戻る

<< 前 次 >>

一日目。゜

単ページ   最大化   

「――っ」
 一瞬、理解が出来なかった。生臭い臭いが鼻についたかと思うと、そこにあるのは夥しい数の眼。それらは一見無造作に配置されているが、眼たちはある一点を見つめていた。
「ベットの上……」
 そこは人の形に『汗』のような黒い染みが残されていただけで、本人の姿はない。
 ピンポンと軽快な電子音が船内に響き渡り、はっと我に返る。
『………………』
放送が繋がったノイズがざらざらと流れるばかりで一向に放送はなされない。いや、それどころか誰かこの件を船員に伝えたのだろうか? 自主参加でもある今回の修学旅行に乗り合わせた教員は田口、前島、近藤、上田の四人だったはずだ。
『目てキ地にとウ着まで後、しばラクぉ待ち下さイ』
不気味な機械音とも人声ともつかない声色が船内に木霊した。
嫌な予感はどうやら的中しそうだった。

午前七時二十八分。
「なに……これ……」
 突然の放送に騒ぎ始める生徒達。
「みんな静かにして!」
 ある生徒の言葉は喧騒の中に霧散し、猶も放送は続いた。
『ザザ――ザアァ――だ』
 今度は逆にその奇っ怪な音声ともノイズともつかない放送に息を呑む。
『げぇ――ム…ハジ――ま…るゥ』
 喉を潰したような声が聞こえた後、ブツリと切れる放送。
「きゃあああああぁぁぁぁ」
 叫びだしたのは南子だった。誰もが蒼白な面持ちで現実を理解しようと必死な光景だった。
「みんな、とりあえず各自の部屋へ戻るんだ。決して一人になるな」誰かがそう言った。
 走ってもどってきた近藤は息を切らして言った。20年前の噂が脳裏によぎった。
 とにかく乗組員を捜してこの事態の打開策を考えるしかない。一刻も早く船から下りなくては。近藤は頭の隅にそんなことを考えながらまだ一人見つからない教師を捜しに走り出した。

午前七時三十分。
とある一室に朝会をさぼった四人の影があった。
「ゲームだってよ。向こうは完全にお遊びらしいぜ」
 東条の顔が戦慄に弛む。
「ああ……予想通り、最悪な展開だな」
「後悔してるか?」
東条は自分が誘ったことを後悔しているのだろう。しかし、俺がいなければ俺は何も出来ないまま、最も最悪の結末を迎えたに違いない。
「むしろ、来て良かったな。お前らまで失ったら正直笑えない」
 すでに事件は起きたと見えるこの状況。四人は最悪のケースから最善のケースまで大学ノートが埋まるほどの計画を立てた。そして、今回のケースはその中の最悪のケースに近かった。
 俺は何故こんな自体が起きているのか不思議でならなかった。
「怖いよ……英ちゃん」
「こらあ、甘えるならそっちでしょ!」
 寄ってくる舞の肩を掴んで180度回転させる。
 その瞬間、俺は愕然とした。
「どうした? 西本、真っ青だぜ?」
 俺の脳裏は舞のピリオドを鮮明に感じ取っていた。シ、死という羅列文字が脳裏を一瞬にして染め上げる。
「東条、船員を捜そう」
「どうした? 急に」
 西本の只ならぬ態度に東条はまさかと感じていた。
 踵を返して飛び出す。
「二人は部屋に鍵をかけて、ノートの手はず通りに!」
 そう言い残して東条は走った。
「……英ちゃん。私、死んじゃうのかな」
 英美はどきりとした。あの西本の顔は今までに見たことがないものだったし、西本の超能力的な力も知っていた。だが、どうしてかその考えはすぐには信じられなかった。
「大丈夫、大丈夫だから」
 舞はノートの端に書かれた「人数が減った時の対策」という文を見て泣いた。
 英美は嗚咽を漏らし始める舞を抱きしめて祈った。

 七時五十分。
「いたか?!」
「何処にもいねぇ」
22, 21

  

廊下の待ち合わせ場所で俺は東条と収穫無しで落ち合ってしまった。
 俺はきつく唇を結んだ。船員がいないということは既に死んでいるか、事件に巻き込まれた可能性が高い。
 そうなるとこの船の舵は誰も握っていないことになる。最も最悪のケースがこれだった。
「幸い、嵐は収まって船は自動操縦っぽいが……」
「し、西本!」
 東条の背中から現れたのは筑ノ瀬玲奈の姿だった。完全な私服で長い髪を束ねて言った。
「あなた達を探していたわ」「何か知ってるのか?」
 玲奈は朝会で起きたことの端末を伝えると、場所を変えると言って歩き出した。
「恐らく、最悪のケースである漂流や遭難はしない」
 歩きながら玲奈が小さく言った。
「どうして、言い切れる」
「船長室が船の操作室となっているのは知っている? そこに進路が出ていた。それとブリッジに出るともう島がすぐそこまで見えてる」
「つまり、この船は『もう既に』目的地に着いていると言って良い」
ほら、と言って指さす窓の斜め先には確かに陸がある。しかし、港ではない。土と木しか見えないその光景に息を呑んだ。
「パニクってて全然気づかなかった」
「ぃぁ……ゃ……」
何処からかの声に俺と東条は息を止める。
「ごめん、ここ私たちの部屋」
玲奈が先に入ってしまう。入り口でどうしていいものか迷っていると、手招きしている玲奈。
招かれるまま入ると、そこにはつい一日前まで普通に生活していた南子の変わり果てた姿があった。
 すらりと伸びた髪は掻き乱れ、目線は常にぐるぐるしている。
 毛布にくるまって何度か嘔吐したのか部屋は少し酸の臭いがしていた。
「これは……一体」
 俺も東条も全て予想外であったことに言葉を失った。
「南子は昨日の夜、あの大きな揺れが起きた後いずみが怪我をしたのをきっかけに保冷剤を取りに行ってからおかしくなってるわ」
 音のする方を見ると川原いずみは部屋の流し台のところで何かを洗っていた。
「そして、今日の事件とあの意味不明の船内放送を機に……この有様」
「玲奈ちゃん、南子ちゃんが三回も……」
 いずみが流し台から戻ってくると二人を前に言葉を飲んだ。
「邪魔してる」
 東条が手を挙げ、俺は普通に挨拶した。
「お茶淹れますね」
「いい、これから部屋を移動する。さっきの話しの続きも全員が集まったところでする」
 玲奈はそう言うと自分よりも頭一つ分は大きい南子の腕を自分の肩に回して立ち上がらせた。
「私がやるよ。玲奈ちゃん」
 いずみはよろよろとした足取りで玲奈に近づく。
「いや、俺らがやる」
 東条が察したのか南子に近づこうとすると玲奈は声を荒げた。
「駄目、南子は今私たち以外が近づくと取り乱すから」
「そ、そうか……」
 さすがの東条も玲奈の剣幕にはたじろいだようだった。反対側にいずみがまわって南子の肩を支える。いずみの疲労は高いようで、よろよろと覚束ない足取りで歩みだそうとする。
 それにつられて玲奈の足取りも不安定になる。
「やっぱり、見てられないよ」
 そう言って俺はいずみの肩を持った。
「ごめんなさい」いずみは突然肩を持たれたことに抵抗があったのか、軽く俯きながら言った。
東条も合わせて俺の肩を持とうとする。って、何でよ。
「馬鹿、反対いけ」
「悪い、背丈が……」
 俺は東条とさほど変わらない身長だから、どっちに行っても同じではないかと思うが、大方さっきの剣幕に尻込みしているのだろう。
「東条、こっちに来なさい」
「……オーケー」
 せっかく玲奈の肩が持てるのに全然嬉しそうじゃない東条が玲奈の腕を背負う。
「これならいけるみたいね」
「玲奈ちゃん。荷物はどうする?」
「後で取りに戻ればいい」
「ご、ごめん」
「何で謝るの」
24, 23

  

「何か、怒ってるみたいだったから……」
「……別に怒ってない」
椎名いずみという少女は小声で、俺にも謝っていた。
「変人集団みたいだな」
歩いてる途中、東条が玲奈に謝っていた。

午前八時二分。
英美と舞の部屋には合わせて七人がいた。ベットの上で南子の様子が落ち着くと簡単な自己紹介をして六人は腰を下ろした。
「結局、船員さんは見つかったの?」
 舞が俺らに訪ねた。首を横に振る東条。
「じゃ、じゃあ遭難しちゃうんじゃないの」
 舞は恐る恐る聞くが、その心配はないと玲奈が開口し始めた。
「この船はもうすぐとある島に着く、それはもう一部の窓からも見えるんだけど、降りる準備がいるわ。これから奴の言うゲームが始まるんだと思う」
「で、黒幕は誰かってわけだ」東条は後に続ける。
「あの人数、船員を消そうと思ったら単独では無理があるし、常にジャックなんかの対策はあるし、船員達自体が自主的に消えたと考えるのが最も自然」
「うそ……それって」いずみは息を呑んだ。
「仕組まれてる」
「だろうな」
 いずみは蒼い顔をしながら困惑している。まさか、東条の言っていたことがこうも早く展開すると思っていなかった俺は南子を一瞥するとあまり長々と意見交換している時間がないように感じた。
「単刀直入に提案する。島についてから脱出するまで、俺はこれからこの七人で行動したい」
「先生は?」
 英美が訪ねる。
「役に立たない」玲奈が一蹴する。それに西本と東条が頷く。
「他の子達も入れて大人数の方が安全じゃないかな」舞は心細かった。いずみも頷く。
「まず、この七人で行動する理由だが、俺と東条の連携は取りやすいし、玲奈は状況判断が得意だ。南子は犯人と接触している可能性がある。いずみは南子の体調管理に必要だ。いたずらに人数を増やすのは返って行動しずらい」
(私たちは?)英美がそんな顔をしたが舞が首を振って静止させる。
「もう他の奴らは動き始めてるよ」東条は冷静に現状を伝える。
「どういうこと?」英美が言った。
「これはゲームだって放送が流れた時、田口の一件で死体が見つかっていないのを良いことに解釈が細分化されたんだ。IQ指数が高いこの青緑高等学園じゃ、これくらいのイタズラゲームは本当にちょっと手の込んだタダのゲームとしか解釈していない連中が多い」
「そう。そういった意味でも賛成。女子だけじゃ出来ないこともあるし、私たちだけだと南子の負担もある」
 玲奈はそう付け加えて賛成した。
「わ、私もみんながいいなら……南子ちゃんもこんなだし……」
「決まりだな」
 そういうと俺は舞を一瞥して部屋を後にした。
「行ってこい」
 東条は舞にそう言うと玲奈と二三言葉を交わして共に部屋を出た。
「ベット少し貸してね?」
 いずみがおどろおどろした調子で英美に聞いてくる。
「いいよ、いいよ。私たちは充分休んだしね。そんな気遣いはあの男二人だけにやらせればいいのよ」

午前八時六分。
 俺と舞はブリッジに来ていた。
 嵐は過ぎ去り、晴天の光が二人を包む。二人は白銀を思わせる水平線の彼方を見つめる。
「悪い」
「ここからじゃ島は反対側なんだね。ほら、建物の裏に島が見えるよ」
「……本当にどうしていいかわからない」
俺が苦渋の表情でそう告げると舞はおっとりとした様子で、
「いいよ。どうせ足引っ張っちゃうし」
「よくなんかない」手すりを握りしめ、俯く。
「田口先生の死期は分かってたの?」
「俺、あいつ嫌いだから顔すら合わせてない」嘘だ。本当はこの船に乗る前から何かあることは薄々気づいていた。だから、一人だけ反対してでもみんなが行かないようにしようとした。けれど……。
 自嘲にも似た笑いが俺からこぼれる。
「黙ってた?」
「ごめん」
26, 25

  

 舞は不思議そうな顔をする。俺は顔を上げて微笑む。
「最初は田口だった。きな臭い修学旅行だったから一人だけ反対してた。けど、何かそうやってこの力に振り回されてる自分がどうしようもなく惨めになって、結局止められないまま来ちまった」
こんな大事になるなら、と今頃後悔しても後の祭りだ。あの時は本当に田口だけだったし、油断してしていたのかもしれない。
「私のは分かっちゃってる……?」
「……うん」
 俺は舞の眼をしっかりと捕らえて言った。
「そっか。じゃあ、目を瞑って」
「え?」
 舞の調子が突然軽快になったので不思議に思った。
「いいから、いいから」
 そっと目を閉じると舞は続けた。
「私の目、見える?」
「いや、全然」気配が遠くなるのを感じた。
「私が修ならきっとこうするから……」
 嫌な悪寒がした。
「――ま」
 目を開けるとそこには目を瞑った舞の顔があった。
「――っ」
 唇に当たる感触は舞のものなのだろう。困惑する頭の中でそれだけは冷静に把握できていた。ゆっくりと体を離す彼女を見送る。
「やっぱり、上手くいかないや」
 ころころと笑う舞は何処か寂しげな表情。
「ごめん……」
 俺にはこれが精一杯だった。
「そんな顔しないで、ちゃんと私の最期を……」
 そこまで言いかけて舞の頬に雫が流れる。
「そばにいる」
 そっと近づき舞の頬から優しく涙を拭う。舞は体重を預けて何度も頷いた。

 午前八時十六分。
突然、大きな揺れと共に空気が凍ったのが分かった。それは舞台への到着であり、ゲームの始まりでもあると感じていた。
「この先は何が起こるかわからない」玲奈が呟いた。
 その時、あの船内放送が鳴った。
『――この船ハ目的地に到着致しまシた』
 声だった。それも何処かで聞いたことのある声だ。
「東条!」
 東条はある場所へ走り出していた。
『ゲームのステージは館です。船を甲板から下船されましたら道なりに沿ってお進みになられた後、館内にてお待ち下さい。ルールを説明致します』
 ――おおお。歓喜にも似た声が部屋の各々から上がる。本当はゲームかレクレーションなんじゃないだろうか。一瞬そんな考えが脳裏をよぎる。しかし、もう消えている人間がいるだけで充分な証拠だった。
【船長室】と書かれたネームプレートの奥にその機具はあった。
「蓄音機だけ置いていきやがったか」
 東条はその機具を蹴ると放送はぷつりと停止した。わっと外が騒がしくなり、甲板へ出ていく連中が列を作っていた。
143人、それが今回この修学旅行に参加した人数だった。東条は軽く舌打ちをし、踵を返した。

午前八時二十分。
皆、荷物をまとめている。船内に残って良いことはあまりない。
「舞、それ荷物多すぎ」
 両肩に通った長ひょろいバッグが舞のものじゃないのは誰が見ても明らかだった。
「何だそれ」
「船内回って集めた使えそうなものだって……玲奈ちゃんが……」
 露骨な嫌がらせ。中身は懐中電灯(単三電池を使う旧式)の物やライター、モンキースパナやバリ(こんなものどこから持ってきた)ハンガーや食器用ナイフだ。
「玲奈は?」
「先に南子を連れて甲板へ向かったみたい」
 申し訳なさそうにいずみが俺に答える。
「さ、行こうぜ」
 東条は背中と肩にバッグを担いで言った。皆も準備が出来たのか誰が先頭になるのか指示を待っているようだった。
「行くか」
28, 27

  

 西本が舞に目を配りながら部屋を出て、みんながついてきた。
「やっぱり重いよ……」
「「捨てろ」」「捨てなさい」「捨てた方が……」
 鈍い音が地面に伝わり、一同はその重い空気を背中に外へと急いだ。

午前八時二十六分。
――ザ、ザ、ザ。
 ようやく、大地に足をつけることを許された143人の中に一際慎重に歩く集団があった。
「おい、あれ西条寺じゃないか」
「ああ」
彼らの集団の先頭にいるリーダーの名は西条寺 駿(さいじょうじ しゅん)IQ指数172の優等生を鼻に掛けたような奴。
 後方を歩く俺と東条とは犬猿の仲だ。
 中学時代、誰よりも一番であった西条寺にとって俺の成績は西条寺を抜き始める。
 西条寺は初めて学年トップを後退した時、手の内が白くなるほど拳を握りしめていた。
『西条寺と西本の順位がついに入れ替わったな。名前も修に駿じゃあんま違和感ねえな』
 誰かが言った。しかし、この台詞がその時、西条寺の何かに対する烽火を上げたのだろう。
俺の存在は西条寺にとって排除すべき存在となったらしい。
事ある事に知略を巡らし、策謀を立てて間接的に追い込まれる俺は正直どうしていいものか迷っていた。
 そこで東条が現れた。東条は俺に一切の労をさせず、あっさりと凌いでみせた。
 教員まで手駒にしていたと聞いたのは、暫く経ってからだった。それがあのオカルトグッズ事件なのだが……。
 しかし、それから俺の方は大人しくすることにした。学年のトップは東条に譲り、俺は学年で常に10位前後になるようした。
 結果として西条寺は俺の沈静化に成功しているはずなのだが、何が不服なのか、西条寺はままならない様子で、未だに絡んでくる。
「西本様、今回の事件どう思われます?」
「うわ、ちょ、何だよ。お前、相ヶ瀨じゃねえか。西条寺の差し金か?」
「東条様、あなたには伺っておりません。西本様に個人的に見解をお伺いしたいだけです」
 後ろから頭を覗かせて来たのは西条寺側近の一人、相ヶ瀬 愛(あいがせ あい)だ。IQ指数は確か155程度で中学の頃はアイアイと呼ばれていて結構人気者だったのだが、今は打って変わって西条寺たちとつるんでる。
「どうせ西条寺に報告するつもりだろ」
東条が愛との距離を半歩開いて言った。
「有益な情報であれば吝かではありません」
「別に、お前達より詳しいことは知らないと思う」
「そうですか。『俺は』ではないんですね」
愛はそう言うと軽くお辞儀をして、西条寺の元へと足早に立ち去った。
「何なんだあいつ」
悪態つく東条の他に怪訝な顔をする五人。皆には内緒だが、以前俺はあいつに少し告げ口をしたことがある。別にだからどうということはないのだが、恐らくそのせいで今回も何か知っていると踏んだのだろう。
「何かむかつくな。俺もあいつのところ行ってくるわ」
東条が自分の荷物を英美に投げ渡し、腕をぶんぶん回しながら歩いていく。
「ちょ、ちょっと東条! あんたこの私に荷物もたせんじゃないわよ!」
 英美が慌てて追いかける。
「おい、西条寺」
「?」
西条寺は別段取り乱す風もなく、ゆらりとこちらへ向いた。
「そこの相棒にこっちの事情を探らせようとするなんて少し、度が過ぎるんじゃないのか」
 西条寺の横からずいと出てきた大柄の男が寂声で前に出る。
「な、なんだよ。お前は」
 表情の読めない顔。微笑みに似たその顔は微動だにすることない。
「健二、お前は少し下がれ」
「分かった」
 健二と呼ばれた男は睨みも威嚇もせず、目線だけ外さず後ろへ下がる。
「東条か」
 西条寺駿は前髪を指先で撫でるように払うとわずかに上目に睨む。
「お前の愛坊(相棒)がこっちの内情を探ろうとしてやがったぞ」
「そうか。それはつまらないことをしたな」
西条寺はあっけらかんとして言った。
「話しはそれだけか?」
 西条寺は踵を返す。
30, 29

ゆの舞 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る