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VIP学園生徒会

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VIP学園の生徒会は、たまに暇である。

「はー・・・マンドクセ」

がらりと。
生徒会用に作り直された元廃教室の扉を開けて、そう言いながら会長が重役出勤してきた。
線を引いたような形の目を斜めに沈ませながら肘掛つきの椅子に向かう。

「会長、こんにちは」
「今日も面倒くさそうだな、ドクオ先輩」

一応のところ生徒会見習いである僕とクーは立ち上がって挨拶をした。
しっかりと定時に来て、二人だけで始めていた書類整理を中断しながら。

「おー、田中と恋塚(こいづか)か。お疲れさん」

声と逆に、手だけがビシィィイイイイッ! と良い角度で挨拶を返して来る。
いつも通りと言えばそうなので、僕とクーは普通に着席した。

「やれやれ。今日もまた、生徒の苦情を処理する仕事が始まるお・・・」
「まあまあそう言うなってやる夫君。
 これも生徒のため学園のため、役に立つ立派な仕事じゃないか。
 何なら、やる気が出るようにボクが応援してあげるよ。
 おっぱ────────フレー! フレー! やるお君っ!」

かと思うと、また扉が開いて人が二人。
肩を落とした、八角形っぽい頭部の人と、爽やかな笑顔で腕を振る人が入ってくる。
会長の一つ下で僕とクーの一つ上、二年生書記コンビのやる夫先輩と長岡先輩だった。

「おっ・・・? 見習いコンビも来てたのかお。相変わらず仕事がはえーおw」
「やあ、田中君に空(くう)さん。今日もご苦労様」
「「どうも(です)」」

二度、立ち上がって会釈。もう一度座って書類の山へ。

「相変わらずここは書類の山だお」

会長ほどではないが面倒くさそうに席に着いたやる夫先輩が、
書類に目を通し始めた瞬間に噴き出した。

「ジョ、ジョルジュ、ちょっとこれ見るおw」
「んん? 何だい?」

差し出された紙面に、長岡先輩が目を落とす。

「これはまたおっぱ・・・いや、何とも青春だね」
「だお?
 『彼女に告白したいけど自信がないので、何かいい方法を教えて下さい』だっておw
 あるあ・・・ねーおww そんなもんがあったらとっくにおれが使ってるおwww」

まさに外道。
青春男児の告白というか相談に爆笑しながら、やる夫先輩が机をばんばん叩く。
その音に混じって、またまたがらり。

「おっおっおw
 ツン、幾らなんでも鶏肉に混じってゴキをフライするのはドジとはいわな」
「ちょっ、ちょっとブーン皆がいるのに何言うのよ!?」

ωみたいな口元で笑う男子生徒と、
頬を赤くしながら彼の顔を鷲掴む縦ロールな髪型の女生徒が入って来た。
VIP学園生徒会の名物カップル、内藤 ブーン先輩とツン先輩だ。
役職は副会長と会計である。

「「ブーン先輩、ツン先輩、こんにち────」」
「ちょw ツン、この場合塞ぐのは顔じゃなくて口だおw
 しかも塞ぐんじゃなくて掴んでるおww それなんてアイアンクローだおwww」
「あっ! やだ、ごめんなさいブーン!」

馬鹿ップル二人、お取り込み中。
僕とクーは互いに目配せして着席する。
黙って見ていると目が生暖かくなりそうだったので、書類へ集中。
生徒会正役員五名+見習い二名が勢揃いしたので、ようやく仕事へ没頭できる。

「おっおw 皆、遅れてごめんだお」
「ちょ、ちょっとブーン! まだ許したわけじゃあないんだからねっ!
 もう・・・・・・あ。皆、遅れてごめんなさい」
「まあ、なんつーか・・・相変わらずだな」

謝る二人を会長がニヤニヤと見詰めながら、席に着くよう促した。
会長用の椅子以外は割と普通なので、
何となく気恥ずかしそうな二人がガタガタ鳴らしながら椅子に座る。

「んじゃ、皆揃ったことだし、適当にやりますか」

揃った面子を見回した会長の一声に全員が顔を上げた後、
学園中────正確には高等部────の生徒から寄せられた苦情やら行事の準備やらへの処理に戻る。
書類との睨めっこを開始すると、会長の溜息の気配が伝わってきた。

「はー、マンドクセ。最近、平和と暇が続いて────」

ばん、と扉が開く。



「た、大変だモナー!」



メンバー揃い踏みの生徒会に、訪問者が吶喊してきた。
物凄い勢いで扉を開け、室内へと突っ込んでくる。
と思ったら、器用にも扉をスライドさせるための溝に爪先を引っ掛けてすっ転んだ。

「はまちっ!?」

主に見習いである僕とクーが磨き抜いた床へ顔面からダイブする。

「い、痛いモナ・・・」

起き上がって顔をさする両手の上に、ピン、と三角形に固まった髪の塊が二つ立った。
獣耳にも似ているが、違いと言えば穴がないことぐらいか。
小柄を覆っている女子用の制服、の主に下が捲れたりしなかったのは不幸中の幸いだろう。
御前 萌奈(おまえ もな)。
一つ上の先輩で、ドクオ先輩達とは腐れ縁らしい、生徒会の外部協力員である。
その萌奈先輩は一頻りモナモナ言ってから、はっと顔を上げた。

「た、大変だモナ!」

ちょっと鼻血が垂れていた。
取り合えずティッシュを渡すついでに主語を尋ねようと腰を浮かせると、背後から声が飛ぶ。

「誰かと思えばモナーじゃねーか。一体どうしたよ?」
「ドクオっ、た、たたっ大変モナよ!? D棟で邪気眼使いが暴れてるモナっ!」
「あん?」

漸く肝要な部分が補足された叫びに、驚愕、と言うよりは困惑に室内の空気が固まる。

「D棟・・・つったらオメー、ギコのいるとこじゃねーか」
「そうだお。モナー、ギコはどうしたんだお?」

ギコ。
というのは萌奈先輩同様にここのメンバーにとっての顔馴染みで、
主に高等部D棟で治安の保守に手を貸してくれている人の呼び名らしい。
見習いの僕とクーはまだ会ったことはないけれど、
VIP学園ではA棟から始まって段々と生徒の危険度が上がっていき、
Dと言えば最悪から二番目。
彼は話を聞く限り日常的にそこで奮闘しているらしいので、かなりの実力者のはずである。
あと、萌奈先輩とは似たような髪形の人物らしい。

「そ、それがその・・・ギコは友達に会いに行くって言って、昨日からいないんだモナ」

萌奈先輩は、申し開きと言うより、どこか悲しそうな顔で声を落とした。

「おやおや。
 ギコ君も、遅くなるなら一言伝えてくれればいいのに。相変わらず罪な人だね」
「モナーちゃんも苦労するわね。気持ちは分かるけど」
「おっおっおw ツン、それどういう意味だおww」
「っはー、マンドクセ」
「あるあ・・・・・・って、ギコならあり得るおw」

何故か納得したような皆さん。

「うむうむ」

クーまで頷いている。
言葉の裏が読めていないのはどうやら僕だけらしい。

「んで、どうするよ?」

と、垂れ目なまま真面目な顔つきになった会長が尋ねた。

「んー。田中に任せればいいと思うお」
「それがいいわね」
「うん、賛成かな。妥当だと思う」
「おれは今日も書類の山との格闘を始めるお」
「んじゃ、それでケテーイっつーことで」

素晴らしい満場一致。

「・・・はい?」

あっと言う間もなく僕が行くことが決定した。

「おいおい、そんな不満そうな声だすなよ。これも見習いには恒例の試練なんだぜ」
「そうだお。例年、生徒会ではこういう事態で新人に経験を積ませるんだお」
「邪気眼使いと言っても、ギコ君がいない隙を見計らって暴れ出しただけだと思うし」
「キミならD棟の生徒くらいは問題ないと思うよ」
「むしろこれくらい出来ないと生徒会失格だお」
「えっと・・・それじゃあ、行くのはお前モナー?」

慣例には弱い日本人。ついでに、不安がりつつも縋るような萌奈先輩の声。
何と言うかこう、反抗したら自分が悪者にされそうな空気がある。
横の幼馴染に救いを求めると、太陽の微笑で返された。

「なに、心配することはないさ田中。田中が一人では不安だと言うなら私も一緒に行こう。
 戦闘中の応援から怪我の治療まで、何でも任せてくれ」

退路はなし、か。

「はぁ・・・分かりました。それじゃあ、ちょっと行ってきます」

床へ向けて重く首を落とす僕。
最近は平和だったのにな、と言いたくなるのをどうにか堪えた。

VIP学園の生徒会は、たまに暇である。
そして、実は主に忙しいのだ。
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