第六話『馬鹿な英雄』
「何者かによる爆破テロが原因かと思われる
今回の事件、未だに鎮火する事ができず
轟々と、ビルは燃え続けています。」
カメラ越しから視聴者へどんな状況なのかを必死に伝えようと
ニュースキャスターが喋っている映像が全国へと報道されている。
今回の事件、『ビル爆破事件』は日本では前代未聞の事件であり
日本中がその様子に、注目していた。
「警察の調べによると、ビルの中に取り残されていると
思われる人数は、三名。
あちらに見えますビルの経営者、河合氏の娘 ハルちゃんと
それに付き添っていたボディガード。
そして、遠くからだったのであまり正確には確認できなかったのですが
先程、飛んできた傭兵会社として有名な【JOAT】のヘリから
炎上しているビルへと飛び降りたJOATのエージェントと
思われる人物を含めた 計三名が、取り残されていると言われています。」
早口だが、分かり易くそして二度ほど同じ事を繰り返して
テレビカメラへとキャスターは、喋りかけ続けている。
「おっと!?今、今です。ご覧ください!!」
キャスターが、突然何かに驚く様にして大声で叫び
テレビカメラに見える様にして、ビルの入り口かと
思われる扉の場所を指差す。
それに、遅れぬ様映像を送り続けているカメラが
迅速に対応しキャスターの指先を追うようにして
ぐるん、と視点を一気に変える。
キャスターが走って、その指した場所の近くへと行くのが
鮮明に映し出される。
そうして、その映し出された場所の先には、
煤で汚れに、汚れた少女と
もう死んでいるのではないのだろうかと遠目に見ても
そう思わせられる程にボロボロになってぐたりとした男性。
そして、重傷を負っているかのように連想させられる
赤い血で全身塗れではあるがそれを苦ともしてなさ気に
取り囲む様に、迎え出た多くの報道陣と警察を見て
何だ、何だ ときょとんとしながら脇でその男性を
抱えている若い青年が其処には居た。
おどおどとしている様子もお構いなしに青年へと
先程、走っていたキャスターが駆けつけて
その場に居る全員、そしてテレビを見ている視聴者へと
呼びかける様にテレビカメラに向かいながら
「恐らく、彼が先程上空から降り立った
【JOAT】のエージェントなのでしょう。
そして、ご覧の通り!!
彼は見事、不可能と誰もが思った救出を成し遂げました!!」
煤で汚れている少女と脇に抱えられている男性が、
次に映し出される。
「例え、此れが傭兵会社としての仕事であろうとなかろうと
誰がどう言おうと私は、彼の事を『英雄』だと思います!!」
テレビには大袈裟に、賛辞されて戸惑いながらも照れている
青年の顔がアップで映し出されていた。
そうして、キャスターはそう言い終わると同時に
マイクを青年へと突きつけず脇に挟んで
ニッコリと笑いながら パチパチ、と拍手を青年へと送った。
それに、連鎖するように青年達を取り囲んでいた人々が
次々、と拍手を送っていく。
ある家庭では、良かった 良かった と言う老人が居れば
御前もこんな英雄に、なりなさい と息子に映し出された
映像を指差しながら言う親も居た。
そして、またある家では アイツ死んだ筈じゃ? と
幽霊でも見たかのように呆然とする若者も居た。
傭兵会社として名を馳せている【JOAT】の功績は、
有名ではあったが日本では其処までは知られてはいない。
一部の人間が、知っているか。
知っては、居るが名前を聞いた事があるだけ という物であった。
だが、この一件で全国民がその傭兵会社の名を知る事になる。
青年は、次々と送られる拍手に次々と頬を紅潮させながら
周りに応えるかのように何故か、グッと強くガッツポーズをした。
嬉しさの余り、グッと腕を上へと振り上げてしまう。
絶える事のない拍手を貰いながら、新人は
この時だけ、
「嗚呼、姉貴に虐待もとい鍛えて貰って良かった」と思った。
サイボーグとしての力もあるだろうが、
魔王《姉》の影響のせいか、先程の様な状況でも
落ち着いて行動する事が出来たのだろう。
そして、この時だけ、サイボーグになったからこそ
こんな事が自分にもできたのだと糞女に感謝する事にもした。
そして最後にもう一つ、絶大に照れながらも
――――――――――こんなのも悪かぁない。
そう思った。
だが、この数十秒後 脇に抱えた男が少女のボディガードではなく
この事件を引き起こした真犯人もとい殺人鬼 だと
告げなければならない事に気付き、最終的には円満に行った と
安心している警察官達の顔を再び、歪ませる事で
とても気まずくなる事を未だに照れ笑いしている新人は知らない。
世の中そう、うまくはできてはいない。 むしろ面倒な事ばかりだ。
「・・・・・・・・疲れた。」
とぼとぼと歩きながら新人はしみじみにそう思った。
TVの報道陣に、囲まれて「英雄」だのともてはやされようが
どれだけ多くの拍手を貰おうが、警官から言わせれば
「お疲れ様でしたー」と簡単に帰す訳にもいかないのだ。
何故なら、日本では滅多に見られない程の大事件であり、
加えてボディガードの男が生きておらずその上、ソレだと
思われていた人物が今回の事件を引き起こしたと思われる
犯人だ何ていうややこしすぎる事になっているからだ。
長いこと、取調べを受けてたので時間の感覚も分からなくなってる。
だが、何にせよ。 これでようやく俺の初仕事は終わったのだ。
後は、目の前にある出口の自動ドアを通ってそのまま
家に帰れば良い。
ヘリでどこまで飛ばされたのかは分からなかったが、
幸いにも取調べを受けた署と俺の家はそこまで遠くはないと
先程、警官から聞く事ができた。
「ふむ。ようやく出て来れたか。」
―――――――いかん、眩暈がしてきた。
よほど疲れているんだろうか? マジで身体が限界らしい。
サイボーグとやらになった筈なのに、痛覚は
肉体にも精神的にも以前と変わらずあるようだ。
「オイ、そこの―――――――。」
何やら後ろが騒がしい。 また事件でも起こったのか?
いや、そんな事を考えるより今にも倒れそうな自分の身を
案じたほうがいいか。
さっきからフラフラとしている事を考えれば
家に帰る事が先決だろう。
「ほう。私を無視するとはいい度胸を―――――――。」
―――――――ん?
ふと気付けば、背後から誰かに肩を掴まれているのが分かった。
何も思わず、反射的に肩を掴んでいる方へと振り向いた瞬間、
グサリ、と何かが突き刺さったかのようなおぞましい音が響いたのが分かった。
「む? 御前、痛くないのか?」
振り向けば、俺を死地へといきなり送り込んだ糞女が
俺の肩を掴んでいる事に気付いた。
「は・い? 何言ってんだ?」
ってか、何だ? コイツ、俺を迎えに来てくれたのか?
「いや、だから・・・・な? 何ともないのか?」
「・・・・? いや、何とも―――――――ッ!?」
視界がいきなり、グラリと揺らぐ。
それと同時に、身体が何処か自分の意思とは関係なく
何時の間にか前のめりに動いているというか
傾きながら落ちている事が分かった。
ちょ、おま―――――――。
ってか、何だよ。 俺、気絶・・・多い・・・n。
「お、おい!? 御前!!」
ブツリ、とそこで意識が切れて視界がブラックアウトした。