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12『ビタミンだいまおう』  作:学

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 あたしの体には、ビタミンKがたりないっておいしゃさんが言っていた。
おなかの中にいる「さいきん」さんが、ちゃんとはたらいていないんだって。
だからあたしはグータラな「さいきん」さんのせいで、キライな納豆やほうれん草ばっかり食べさせられる。
納豆やほうれん草には、ビタミンKがたくさん入っているんだよって、ママは言っていた。
でも、納豆なんてネバネバして口の中がきもちわるくなるし、くさいし、キライ。
ほうれん草はもっとキライ。にがくって、とても食べられない。

 でも、たいへんざんねんなことに、今日のばんごはんもあたしだけほうれん草のおひたしがつけられていた。
しかも、ほうれん草はてんこもりだった。きのう少ししか食べなかったからだって、ママは言った。
ひどい。ひどすぎる。これはぜったい、ほうりつで言うところの、じどうぎゃくたいに決まってる。
ママはあたしがいやがることをして楽しんでるんだ。ママはひどいひとだ。
 ごはんを食べないわけにもいかないので、あたしはほうれん草の山から少しだけはしでとって、口にはこんだ。
やっぱりあのにがいあじが口の中いっぱいに広がって、あたしははきだしそうになる。
でもがまんして、のみこむ。でもまだあたしの口の中には、ほうれん草のにがいあじがのこってる。
あたしは何もしゃべれなくなった。目からなみだがながれた。はなみずも出た。しょっぱいあじがした。

 もういやだ。もうがまんできない。
もし、今日のばんごはんのほうれん草をぜんぶ食べたとしたって、明日もほうれん草が出るんだ。
そんなの、たえられない!
「さいきん」だとか、ビタミンKだとか、そういうわけのわからないものはもううんざりだ。
 このいえを出ていこう。
もうにどと、ママの作ったおりょうりなんて食べてあげないんだ!
あたしはそう心にちかって、なきながらげんかんへ歩いて行った。

 くつをはいてお外へ出かけようとすると、ママにつかまえられて、むりやりだいどころにもどされた。
あたしはひっしになってイヤがったけれど、ママのおにのような力にはかてなかった。
ママはおこって、きのう食べなかったんだから、とか、あなたのために言っているのよ、とか、早口でしゃべる。
でもあたしはすでに、こんごいっさいママのおりょうりは食べないと決めていたので、もういちどお外へ出ようとした。
ママは、もうしらない、かってにしなさい、とどなりごえをあげた。
 あれはただのヒステリーだって、パパが言っていた。ヒステリーをおこすのはみっともないって、言っていた。
ママはみっともない。
だからあたしのほうが正しいに決まってる。
はなみずをふきすぎて、ふくのすそがベトベトになってきもちわるいけれど、それをスカートでふいて、ドアのかぎをあけて、あたしはひどいいえとママにさよならした。

 お外はまっくらだった。どうろには明かりがついていたけれど、お空はまるで色がなくなってしまっていて、ぽっかりとあながあいているみたいだった。
まっくろいお空を見ていると、よくわからないばけものが出てきて、つれさられてしまいそう。
こわい。
まっくらなお外は、なにも見えない。なにが出るかわからない。こわい。こんなにこわいだなんてしらなかった。
 あたしはそれでも、いっぽずつお外をあるいた。まわりをよくちゅういして、いっぽずつ。いっぽずつママからはなれる。
いつものこうえんについて、ブランコにすわると、どこからかさけびごえみたいな、なきごえみたいな、ぶきみなこえがきこえた。
だれのこえだろう?
あたしはからだをちぢこませて、なるべくおとをたててばけものに見つからないようにして、ずっとそのこえをきいていた。
 しばらくして、そのさけびごえは、かぜのおとだとわかった。おひるのこうえんでもきいたことがあったから。
でも、おひるのときはちっとも気にならなかった。ちっともこわくなんてなかった。
まっくろいお空の下では、まるでゆうれいかあくまがないているようにきこえる。

 あたしはこわくて、こわくて、しかたなくて、またないてしまった。
お外はさむくて、とてもがまんできなかった。
ストーブのついたいえにはいりたい。でもいえには、ヒステリーをおこしたママがいる。
 あたしはどこにもかえれない。
かなしくて、なみだがどんどん、どんどんながれた。
あたしはきっと、まっくろでさむいこうえんのブランコの上で、このままひとりぼっちで、くらやみから出てきたばけものに食べられて、しんでしまうんだ。
 なにもかも、ビタミンKがわるいんだ。
ビタミンKがあるから、あたしはキライなほうれん草を食べなくちゃいけない。
ビタミンKがあるから、ママはヒステリーになる。
ビタミンKがあるから、ビタミンKがあるから。あたしはビタミンKにころされてしまう。




「だから、ビタミンKをやっつけてください」
あたしは、おねえさんにそうつたえました。
おねえさんは、「おきゃくさまそうだんせんたーだから、ビタミンKはやっつけられないよ」って言った。
ひどい。
おねえさんも、ママとおなじで、ビタミンKのてしただったなんて。

 あたしがいえでをしたよる、ママはすこしやさしくなって、いえにいれてくれたけれど、つぎの日にはまたほうれん草を食べさせられた。
だからあたしはまたけついした。ビタミンKをやっつけてやる。
ママもおねえさんも、みんなみんな、ビタミンKのてしたになってしまっている。
ビタミンKは、なんてひどいやつなんだ!
いつかかならず、あたしのせいぎのパワーで、ドカーンって言わせてやるんだから!
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