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デブシマ2話『ブラックジャック』

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「で……ここはなんの卓かな」
「ブラックジャックです」
 ディーラーは澄ました顔を作ってルール説明が必要かどうか尋ねた。
「結構! いりませーん。そんなことよりポテトが食べたい」
 びしっと片手を挙げておどけるシマを見てデブチィは眉をひそめた。酔っているのか、それとも素面なのか。
 ただのカモにしか見えないが、どこか不安でもある。自分を食いに来た同業者だろうか。
「ずいぶん勝ってるねぇ」
 シマは運ばれてきたポテトの先端をかじりながら、チップの山を指で突いた。
「せっかくだから勝負と行こうよ」
 そら来た。デブチィは身を強張らせた。
「勝負?」
「そう。わたしたち二人が勝ちまくっちゃったら、このカジノ、潰れちゃうかもよ? 可哀想じゃん」
 ディーラーはシマに精一杯の微笑みを向けた。シマも無防備な笑顔を返す。
「だーかーら、今から一時間でどっちが多く儲けたか競おうよ。負けた方は、今日の稼ぎをカジノに返却する。どう?」
「……おまえ」
 デブチィは相手にしか聞こえない小さな声で言った。
「このカジノの回し者だな」
「どうかなぁ」
 手に持ったグラスを回して氷を涼しげに鳴らす。
「いいだろう、受けて立つ。でなけりゃ俺は消されちまうんだろう」
「ふふふ……さあね」
「俺が勝ったら、黙って俺を帰すんだぜ」
「いいよ。おーい、持ってきて!」
 シマが後ろを振り返って叫ぶとカジノスタッフの男が台車を押してきた。
 その上にはチップの正方形ができている。
 デブチィは目を見張った。シマのチップは彼の側にある量とほぼ同等だった。
 谷底を覗き込んだ時のような気分がデブチィの背筋を這い登ってくる。
「それじゃ、始めようか」
 最初のカードが配られた。
260, 259

  

 そのテーブルにはシマとデブチィ以外には誰も座っていなかった。
 数時間前までは何人かいたのだが、あまりにもデブチィが勝ちまくったため、客同士のやり取りではないのに皆スロットやポーカーの方へ行ってしまった。
 誰だってツキ男の喜ぶ姿なんか見たくないものだ。
 シマの席はデブチィの右隣なので、彼よりも早くカードが配られる。
 カードシューから放たれたバイシクルのカードが、滑らかにテーブルを渡りシマの手元で止まった。
 ハートのJとQ。
「幸先いいなァ」と唇を緩ませた。
 ブラックジャックでは絵札はすべて10としてカウントされるため合計20。
 対するディーラーのフェイスカードはスペードの8。
 客はディーラーの表にされたフェイスカードと自分の手札を見て張りを考える。
 デブチィは8と9で17。
 シマは手のひらを下にして水平に振った。
「ステイ」
 デブチィはそれを見て机をトントンと人差し指で二度叩いた。
「ヒット」
 お……と観衆がどよめいた。
 一見すると17からヒットするのは無謀のようだが、ブラックジャックではディーラーは17以上になるまでカードを引き続けねばならない。
 だからディーラーがバストしない限りこの手は負けなのだ。
 そして今回ディーラーの札が8である以上、絵札を引かれたら18。
「どっちにしても、たぶんわたしの勝ちだけど!」
 そう言ってシマはヘラヘラ笑った。
 そのあけっぴろげな態度がますますデブチィの猜疑心を湧き起こさせる。なにか裏がありそうな気がしてならない。
 ディーラーがカードシューからデブチィのカードを放つ。
 6。バスト。
 デブチィは肩をすくめた。
「まぁ、いいさ」
 こんな初戦で勝負の行く末が決まったような顔をされてたまるものか。
 デブチィはぐっと歯を噛み締めた。
 結局、その回はディーラーは19で、シマの勝ち。
 デブチィの巨体を見上げながらシマはからかうように囁いた。
「このまま押し倒してあげる」
 その発言を聞いて若いディーラーが顔を赤らめたので、逆にシマの方が目をまん丸にしてしまった。
 デブチィはその間、一言も漏らさずにカードシューの中身を微動だにせず睨みつけていた。
 その向こう側が見通せるかのように。
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