さて。少女に蓋をした俺ではあったが、何も性的な快楽を与えてやったワケじゃあない。
マア当然だろう。彼女は憎むべき存在で、異性としての甘い感情なんざ、持ち合わせていないのだから。
ではどうしたという。
俺は少女に、何をしたというのだ。
「ア、ア、ア、ア、ア、ア…………」
磔刑された霊長目の女。
今それには、人間性がカケラもない。
形を変えてしまったのだ。
ロボットのよう……或いは、時代背景に溺れた、情報のように。
「……やあ、気分はどうだい?」
話しかける。
「ス、バ……すば…………素晴ら、しい……」
言葉が返ってきた。
フム。
会話が出来る。
要するに、アレもまだまだ人間というコトだ。
アア……モノとは内容的にみて壊れにくい。
どれだけ狂ってしまっても、一が一であるのは、宇宙においての真実だろう。
「お…………お金……お、金……」
切れた口を大きく開けて、彼女は再び、喋り始める。
鳴き声と呼ぶに近いか。
ソイツは只管「金」を求めた。
「……計画、的…………マネー……」
「…………ホウ?」
「そして…………返済……プラン…………」
立派なもんだ。
マアきっと、大脳辺縁系への侵食が進んだに違いあるまい。アア。
俺の突き刺した触手とは、つまり多細胞生物の細胞情報を改竄する「バグ的要因」のそれなのだ。
「キャッ……シュ……キャッシュバック…………シス、テム……」
黄色いカラダ。これもまた生物。
ハハ……小一時間ほど前は普遍的な人間だったというに。
まったく、弱い。
筋肉を鍛えるならば、ヒトは同時に、細胞を強化すべきだった。
進化過程での怠慢。言わば銀河を無視する「安心」なのか。
「…………」
“お金で買えないモノはない”
本当に……アノ言葉が、懐かしい。
……。
「………………キミは、誰だい?」
言いながら、彼女を捕らえる四つの金具を外した。
もうこれは必要ない。
理由なぞ、明白だ。
「……お金」
「お金という名前なのか……?」
「お金…………違う……ワタシ、名前、ない……名前、知らない……」
「そう……忘れてしまったんだナ……」
「忘れ…………忘れ、た……?」
「アア」
壊したのは俺。けれど、作り直したのも俺さ。
プログラム全てが俺色に染まったのだ。
最早コイツは、俺のモノ。
「キミは……怪獣だ……」
「…………怪、獣」
「ウン……とってもキュートな、怪獣なんだ」
「…………」
「……俺が、名前を付けてあげよう」
アア……。
この記念すべき、生命の誕生に。
二人の門出を呪う…………誓いと、愛を。
「今日からキミは……“コイン快獣、カネゴン”だ」
そして、我々は地球を飛び立った。