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地球滅亡まで、あと十二時間!(作:黒糖)

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「今日の降水確率は、ゼロパーセント。ただし夜から、地球全体に、隕石が降り注ぐでしょう」
 
 
 平日、朝7時半のことだった。猶予は十二時間。ニュースキャスターは、訃報の知らせをする時のように、少し声のトーンを落として喋っていた。画面下に、テロップは出ていない。急な事で、作成が間に合わなかったのだろうかと、邪推してしまう。
「……今日は布団を干そうと思っていたんだが……どうしてくれる?」
 親元を離れて、一人暮らし三年目。実のところ、こんな風に、テレビに向かって愚痴を零してしまう自分が嫌だ。
 画面左上の時刻が進むのを見て、手に持った箸も再び動きだす。最後の卵焼きは、冷えてしまっていたが、美味かった。

 食べた皿を洗い終えた後、少し考えてから、やはり洗濯物を干すことにした。いい天気だったからだ。
「地球が滅亡するまでには、乾くだろ」
 ついでに、昨日までの衣類を洗濯機に放り込む、その時に気がついた。
「……やべ、洗剤切らしてた」
 地球が滅びる日に、こういう些細な買い出しが増えるのは面倒くさい。仕方なく部屋に戻り、メモ帳に書き足しておく。

『滅亡までに、ホームセンターで、洗剤を買っておくこと』

 朝の時間が過ぎていくのは早い。身嗜みを整えて、最後に腕時計を嵌めて時間を確認すると、八時半だった。大学の授業が始まるのは、九時十五分から。片道二十分で着くので、充分に余裕はある。
「さて、行くか」
 携帯を手に取って玄関に向かう。その時、着信があった。実家の母親から。出るべきか、少し迷う。
「…………はい、もしもし?」
「もしもしじゃないわねー。あんた、今、何しとるん。連絡もせんでからに」
「……何か用?」
 突き離すように言うと、電話先から、盛大な溜息が返ってくる。
「はぁ~~~、相変わらず呑気な子やねぇ。地球が滅びるって時に、母親に電話の一本も入れとかなって、思わんのかね?」
「うん、思わなかった。悪いけど今から学校行くから、一度切るぞ」
「馬鹿なこと言わんの。学校なんか言ってる暇があるなら、さっさと帰ってきな。後十一時間で世界が滅ぶのよ」
「いいよ、どうせ今頃、交通機関パニくってるだろ。時間内に帰れるか怪しいし、素直に学校行って授業受けてくる」
「あんたって子は……親不孝にも程があるわー」
「仕方ねぇだろ。流石に十二時間後って言われたら、どうしようも無ぇよ」
「……どうして姉弟でここまで違うかねぇ。詩織なんて、さっき電話があって、ずっとわんわん泣いてたのよ。ロケット嫌ぁ、宇宙嫌ぁ、暗くて狭いの怖い~~~~~! おかあさーーーーーーーん!! って、大変だったんだから」
「アレの閉所恐怖症は、末期だからな。じゃあ、また」
「あ、ちょっと……!」
 母親が姉のことを語り出すと、嫌でも長電話になる。強引に通話を終え、携帯を上着の中に突っ込んだ。鍵をかけて家を出る。

 表に出ると、あちこちから、ドドドドドド…………と、一軒家型ロケットが発進していく。今しがた出てきた俺のアパートも、早速隣の住人が飛び立ったらしい。部屋が分離して、宇宙を目指して舞い上がっていった。正直、まだ十一時間もあるのに、気が早い人達だと思う。人気が無くなって、いつもと違った静かな街の様子、閑散としていく大通、そして、やがては地平線の先まで見える街を巡らないなんて、勿体ない。
「今日の授業は、出席だけとって、サボるのがベストだな。何処行こうかな」
 自転車に跨って、サボリ先のコースを考えていた時だった。一通のメールが携帯に届いた。取り出して確認すると、今度は姉だった。家を出てからは、あまりやりとりをしていなかったが、今回ばかりは嫌でも予想がつく。

『件名:お姉ちゃんです! へるぷみー!!(T△T)クライノセマイノヤダヨー!』

『家帰るより、アンタのとこ行く方が速いから! 今から原付に乗って、ダッシュで行くからねっ! (>д<;)ノ』

 仮にも社会人が、顔文字使うなよ……。よく新卒でこの人材選んだな。ブラック会社に違いない。
 軽い頭痛を覚えつつ、適当に返信する。

『今更、一人で宇宙に行くのが怖くて、弟頼るとか、恥ずかしいから素直に死んどけ。それから無暗に顔文字使うな。二十四歳』

 即効で返信が戻ってくるが、無視する。ただでさえ窮屈な一人暮らしなのに、恐らくアレは、余計な私物を大量に持ち込んでくるだろう。天気予報が的中する程度には当たる予想に、溜息が零れた。せっかく終末の街巡りを画策していたというのに。
 仕方がないので、もう一通メールを送って、携帯を懐にしまう。着信拒否にして。

『家に来る前に、洗剤買っといて。家の鍵は郵便受けの中、錠前の番号は実家と同じ。以上』






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「地球滅亡まで、あと十二時間!」採点・寸評
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1.文章力
 70点

2.発想力
 80点

3. 推薦度
 85点

4.寸評
 ひょうひょうとした雰囲気が良いです。
 確かにいきなり「ただし夜から、地球全体に、隕石が降り注ぐでしょう」などとニュースで言われたらリアクションどうとっていいか分からなくなるような気もしますね。それにしたってマイペースな男です、主人公。
 隕石と洗剤のギャップ――非日常と日常のすれ違いっぷりを楽しませてもらいました。

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1.文章力
 40点

2.発想力
 60点

3. 推薦度
 40点

4.寸評
 作者様の前作に比べて著しく落ちた作品です。正直どうしたのという感じです。
 まず文章が説明不足です。特殊な背景に対して何か違和感のある人々、なぜかこだわる「洗剤」、その辺を読者に丸投げするのはあまりにも酷かと思います。
 発想力がプラスしてあるのは、何となく言いたいことは分かったのでこのテーマにおける潜在力は60点以上だと思うからです。洗剤力にこだわらなければよかったのでしょうけど・・・(おそまつでした

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1.文章力 50点
2.発想力 40点
3.推薦度 60点
4.寸評
 よく纏まってはいますが、面白いか? と問われると首を傾げてしまいます。設定が甘いのか、作者の意図か分かりませんが、こういう場面で淡々としているのは少し不思議に思えます。リアリティとシュールのバランスって非常に難しいので、どちらかに傾倒させてしまった方が、読者的にも納得しやすいのではないでしょうか?

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1.文章力 40点
2.発想力 40点
3.推薦度 35点
4.寸評

 地球が崩壊する、という話はよくあるもので、短編で似たようなコンセプトの話はそれこそ星の数ほどあるだろう。そんなありふれた題材をどう料理するのかと思えば、食材の下ごしらえだけしたものを出された気分になった。
 私は崩壊系の作品は大きく二つに分類されると考えている。登場人物が事態に動じる話か、動じない話か、だ。この作品はもちろん後者である。
 動じない話は、それでも隠せない日常の中の違和感や、崩壊が迫っているという緊迫感が主な(これもありふれているものだが)見所にできるポイントだろう。しかし、この作品にはそれら、ひいては見所と呼べるものが全く無かったのだ。
 住民が我先にと宇宙に飛び出していくという部分は、「世界全体の死」という崩壊系のキモとも言える部分を完全に潰してしまい、緊迫感などどこにもない。オチもなくスッパリと終わってしまい、私は初見で途中投稿なのではないかと思ってしまった。
 作者が何を書きたかったのかが良く分からない作品だった。

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1.文章力 40
2.発想力 40
3. 推薦度 60
4.寸評
 面白い。滅亡が日常的という背景がよい。
 この社会をイメージするとつい笑ってしまうし、家が上っていくシーンもよい。
 逆にそれは宇宙にとっての隕石だったりするのかな。

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各平均点
1.文章力 48点

2.発想力 52点

3. 推薦度 56点

合計平均点 156点
119, 118

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