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だれよりも(作:パチ)

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「月野 恵」

 今や名前を知らない人は世界中を見渡しても、、今生まれたばかりの赤ちゃんぐらいしかいないほど知られた、お前の活躍ぶりを俺は新聞を読んでまた知った。
「・・・女子水泳、全種目記録更新。これで63種目のスポーツ公式記録塗り替え、次に挑戦するのは何か!?・・・・相変わらずだな」
 新聞の見出しを見て、俺はいつもどおり半ば呆れながらも、次の活躍ぶりを期待しながら新聞を閉じる。
 今、ちょうど真夏の昼。昼飯は早めに食べてしまった。今日は休暇で外回りで直射日光と戦うことも無い。
 今日は一日、家でのんびり過ごそうかと横になると、急にあくびが出た。多分昨日の残業のせいだろう。
 寝てつぶすのも悪くない――――そう呟いたとたんに、意識は超特急で走り去った。


 気が付くとそこは見覚えのある町並みだった。はて、どこだったかと思い出そうとすると横から声をかけられた。
「コウちゃんの夢ってなあに?」
 声のしたほうを見ると、つやのあるランドセルを背負って髪を肩まで伸ばした女の子がいた。そのクリクリした目と愛らしいえくぼを作った顔を見て、それが小学生の恵だということを思い出した。
「僕の夢はねぇ・・・ウルトラマンみたいなヒーローになって悪い怪獣を倒すことだよ」
 もっとも子供らしそうな夢を語っているのは、紛れも無く自分「空本 浩」の声だ。コウちゃんというのは漢字を音読みしたあだ名だ。

 と、そこまで思い出して、ようやく自分は過去の夢を見ているということに気が付いた。
 近所から漂ってくる、晩飯用に準備しているカレーの匂いが蘇って来るほど鮮明な過去。
 俺と恵は小学校のとき知り合った。
「えー、コウちゃん知らないのー?ウルトラマンはねー、テレビの中しかいないんだよー」
 恵は子供ながら子供の俺に真実を伝えた。サンタクロースが一日に世界中の子供達にプレゼントを届けている、というのを本気で信じていた子供の俺は大きな衝撃を受けたようだ。
「そうなんだ・・・・。んーと、。・・・・それじゃあ、僕は何になればいいと思う?」
 子供の自分は動揺して必死に夢を考えようとして、何も思いつかず恵に夢を託した。

「そういうときは”びっぐ”になるって言えばいいんだよ」
「”びっぐ”?」
 聞きなれない言葉に思わず、人差し指を立てて自慢げな顔をした恵に聞き直した。
「うん。この前おとーさんが言ってたの。男は”びっぐ”にならないといけないんだって。」
 そう言われた子供の俺はしばらく考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「それじゃあ僕、”びっぐ”になるよ!」
 そのあとも俺は空を見上げながら”びっぐ”という単語を大声で連呼していた。・・・意味も分からず、ただ、その響きを楽しみたくて。
 それから、視界はまた恵のほうに戻った。
「それで、恵ちゃんの夢はなんなの?」
 恵が聞いてきたように、俺もそう尋ね返したらしい。恵はそれに照れくさそうに笑う。
「わたしの夢はねー・・・・・・・
 

 ――――そこで、夢は途絶えた。
 寝ぼけた頭を覚まそうと頭をしきりに振る。時計を見ると針は2時を指していた。昼寝としては微妙で中途半端な時間だったが、もう一度寝ようとも思わなかった。
 洗面所に向かい、顔を洗って眠気を落として部屋に戻るが、何も過ごす方法を思いつかない。DVDでも借りてこようかと思ったが、日光で照らされ暖められた車内の空気のムワッとくる熱気を思いだし、止めた。自転車など論外だ。
 なんともなく家でボーッと過ごしていると、いつの間にか昔のことを思い出していた。

 小学生のことは夢で見たものしか覚えていなかった。むしろ夢でやっと思い出したようなものだ。自分が”ビッグ”になるのを目指していたなんてことも、覚えているはずが無かった。
 その後の俺は中学、高校と何事も無く、友達とバカ騒ぎを繰り返していた。特に上がらず下がらず普通に過ごしていた。
 いや、明日のことなんてどうにでもなるという甘い考えをもった典型的にバカだった。

 一方、恵は中学の二年辺りから才能を開花させ始めた。
 漢検、英検、数検などの資格を一級近くまで取得し、そろばんや書道、文藝、はたまた芸術などの分野で名前が取り上げられるようになった。勿論成績はいつもトップだった。
 高校は有名な進学校に進み、また名を馳せた。そして運動でも、有名になり始める。

 確実に自分を高みに押し上げようとするその姿にメディアは湧き上がり、全国は恵に目を向け続けた。
 そんな中、俺は歯がゆさを感じていた。
 俺の心には応援したいという気持ちと単純な羨ましさがあった。でも、素直にそれを喜べない自分もいた。
 そのときそれが何故か分からなかった。

 それから恵とは、とんと会うことは無かった。
 俺は何度も就職活動を繰り返し、今の事務系の仕事に必死こいて働いた。
 その間恵は、ありとあらゆる分野で功績を残し、今や人間国宝に選ばれるほどになった。
 
 
 俺と恵の距離は、はるかにそして段違いに遠くなった。
 
 追いつこうなんて思わないし、いまさらそんなことができるはずも無い。
 自分は一観衆としてただ応援することしかできないと言うことも自覚している。


 それでも・・・またあいつと話してみたいと思っている。
 聞きたいこともたくさんあった。

 資格をとろうとしたこと
 運動を頑張ろうとしたこと
 あらゆることの一番を目指そうとしていること


 そして
 あのときの夢は何だったのか・・・


 ピンポーン

 チャイムがなった。
 頭にあったことを全て押しのけて、玄関へと向かう。
 所詮、叶うはずも無いことだ。このまま消えてしまってもいい。
 またチャイムが鳴る。すこし急いでいるのは新聞の代金回収で来たからかもしれない。ボサボサの頭をかきながら、今出まーすと言ってドアを開けた。
 だが、次の瞬間俺は目を見開くことになる。

「久しぶり」
 そんな風に短く挨拶をしてから、相手は白くてきれいな顔に愛らしいえくぼを作った。
 それは今日の新聞で見たのと紛れも無く同じ、恵だった。
「恵・・・・なんで?」
「そろそろ、コウちゃんが私に逢いたくなると思ってね」
 恵は短い語句から答えを出して返事を返す。
「だって、世界で一番の占い師だもん」
 不適な笑みを浮かべる恵に、そんなこともあったなと俺も釣られて笑った。

 恵を部屋の中に入れて、椅子に座らせた。アイスココアを持っていってやるとありがとうと微笑んでくれた。
 それから二人で話し合った。と言っても俺の方は特に話すようなことも無かったので、つど恵の話に相槌を打っていた。

 気が付けば窓から月の光が差し込むほど時間が経っていた。それに気づいたときに、はっと隅に片付けていた疑問が頭に浮かんだ。
「そういえば、なんで今のようになろうと思ったんだ?」
 前から聞きたかった疑問。誰もが知りたい疑問。

 ―――なぜ、そんなにも頑張れるのか

「それは、私が一番負けず嫌いだからだよ」
「へ?」
 予想外の言葉に気の抜けた声を出してしまった。
 恵はクスクスと笑った後に話を続けた。
「・・・・コウちゃんは小学生の頃、二人で夢を言い合ったのは覚えてる?」
 小学生の頃・・・まさか昼に見た夢の『夢』の話じゃないよな、と思い適当に
「ちょっと、思い出せないな」
 とお茶を濁しておいた。
 それを聞いて、恵はふぅとため息をついた。
「やっぱりかぁ。・・・あのときコウちゃんの夢は”ビック”になる、だったんだよ?」
 それを聞いて俺はドキッとする。恵が今日見た夢をなぞるように話し出したからだ。よほど驚いた顔をしていたのか、恵が大丈夫?と声をかけてくれるほどだった。

「私、それをずーっと覚えてて、コウちゃんは忘れてたみたいだけど。中学生の時にね、帰り道でコウちゃんと話してたときに、その話が出てきて『そんなのムリだし、くだらない』ってコウちゃんが言ったの覚えてないよね?」
「・・・・・・残念ながら」
「その言葉に、・・・バカらしいけど、カッとしちゃったんだ。何でか分からないけど、『コウちゃんがやらないなら、私がやってやる!』って決心しちゃったの。それで色々頑張ったらここまで来れた。」
 まさか、自分の夢と一言で恵の人生を決めてしまったなんて、信じられなかった。隣に記者がいたとしても記事にするか迷うだろう。
 だが恵はでも、と続けた。
「後悔はしてないよ。今考えてみるとコウちゃんの夢は私の夢と繋がっていたから」
「恵の夢って?」
 俺が尋ねると恵は照れくさそうに笑う。そこに子供の頃の恵が重なった。

「コウちゃんの一番のお嫁さん」

「それが私の夢」
 口元にいつものえくぼを作って、はにかむ恵。それを見て呆然とする俺。
「そんなのムリだ。だって俺とお前とじゃ、全然・・・つりあわない」
「私と一緒にいれば、いやでも有名になるけど。」
「そんなんじゃ・・・・・」
 何を言いたいのか自分でも分からない。決心がつかない。
「もしかして、私じゃ、だめ?」
「だめって、訳じゃ、ないけど・・・」
 

 俺は・・・・
「恵に迷惑をかけてまで”ビック”になりたくない」
「迷惑だなんて・・・・」
 抗議する恵の手で止める。
 俺は心を決めた。
「俺は、俺の力で今までの分まで頑張って”ビック”になる。それで俺がお前を受け止められるぐらい”ビッグ”な器になったら、今度は俺からお前にもう一度プロポーズする。だから・・・それまで待っていてくれないか?」
 恵は今まで一生懸命努力してきた。そこに中途半端に生きてきた俺がぶら下がると重荷にしかなれないから


 恵は・・・
「わかった。・・・・・いつまでも待ってるからね。今度は絶対忘れないでよ!絶対幸せにしてよ!!」
 こんな俺に、目に似合わない涙を浮かべて、笑顔でそう言ってくれた。

  
 追いつこうなんて思わない。いまさら追いつけるわけもない。

 ただ、側に居れれば・・・・・俺は満足だ

「一番、幸せにするさ」



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「だれよりも」採点・寸評
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1.文章力
 50点

2.発想力
 40点

3. 推薦度
 60点

4.寸評
 負けず嫌いパワー凄すぎる。
 ヒロインがちょっと天晴れすぎますねえ。子供向けとしてもちょっと……
 自分はこのヒロインのことを好きになれませんが、主人公はいいなと思えます。ちょっとした男気を感じますね。
 文章の書き方は、もう少し勉強された方がよろしいかと……

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1.文章力
 70点

2.発想力
 70点

3. 推薦度
 70点

4.寸評
 「そ…そんなバカな話があるか!」というのが率直な感想で、イイハナシダナーとは思えませんでした。あり得ない話ではな…いやあり得ない。
 文字数の中ではよくまとめたと思います。また天才は変人なところがありますので心情的には理解できます。さすがにあり得ないとは思いますが。
 あり得ないのであれば、フィクションと割り切って伝えたいテーマをより前面に押し出せればよかったかと。
 推薦度は個人的には60ですがこういう話が好きな読者さんは多いと思いますので70にしてあります。

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1.文章力 10点
2.発想力 20点
3.推薦度 40点
4.寸評
 きちんと小説の禁則処理をしましょう、とまでは言いません。ですが、もう少し読みやすい文章であって欲しかったです。
 内容に関しても、ヒロインが何故それほどまでに主人公に惚れているのかが謎です。話が飛躍しすぎていて、ついていけませんでした。

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1.文章力 15点
2.発想力 25点
3.推薦度 15点
4.寸評

 序盤いきなりの読点ニ連打を筆頭に、誤字、脱字、日本語的におかしい表現が、ちょっとここでは言い切れないほどに多く目に付いた作品。
 ここまでいくと、推敲しなければお話にならないレベルだ。文章力を判断する以前の問題に見える。作者には今後、見直しを徹底することをお勧めしたい。
 物語の方はというと、ごく普通の少年が有名人の幼なじみに羨望と嫉妬を抱き、再会をきっかけに自分も努力を始める、というもの。
 オーソドックスなラブストーリーではあるが、幼なじみの能力がインフレしすぎていて現実感がなさ過ぎる。ファンタジー的な要因が絡んでいるのではないかと勘ぐってしまったくらいだが、その実ただの努力のおかげだという。これは現実恋愛ものの設定として、流石に突拍子がなさ過ぎる。
 また、そのできすぎな幼なじみが主人公に惚れた理由も明記されておらず、登場人物に全く共感することができない。
「ビッグ」になった幼なじみに追いつくために努力をするのかと思いきや、「いまさら追いつけないだろうから側にいれれば満足」などという中途半端な決意を主人公がしているのもその理由の一つだ。
 全体的に、この作者は小説を書きなれていないのだろうという印象を強く受けた。基本を固め、自分の文章を何度も見直してみて欲しい。それで見つかるものはきっと多いはずだ。

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1.文章力 20
2.発想力 20
3. 推薦度 20
4.寸評
 読む側個人としては、あまり句読点がどうのと細かい事を言いたくない。
 でも正直、読みにくかった。砕けてはいるのだが、パラパラだった。
 ストーリーこそ嫌いではないものの、終盤辺りに女性らしさが感じられない。

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各平均点
1.文章力 33点

2.発想力 35点

3. 推薦度 41点

合計平均点 109点
123, 122

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