トップに戻る

<< 前 次 >>

きらいになってもいいですか(作:リヒト)

単ページ   最大化   

 浩介は、本気で優のことを想っている。彼女のことを誰よりも愛している自信がある。
 浩介にとってこの感情は本物だ。今までに付き合っていた誰よりもそれは強い。故に、この想いを優に伝える事が出来ないでいる。そして、それで良いのだとも思っている。
 優を困らせたくないからだ。
 優は浩介と同じ二十歳で、短大に通っている。
広告チラシのモデルのバイトをしているだけあって、周りの男性のみならず女性からもちやほやされる。気さくな性格がさらに好感をあげている。つまり、傍目にはパーフェクトな女性であり、浩介にとってその存在は、ミューズといっても過言ではない。浩介はただ、彼女の笑顔を見ているだけで、彼女と同じ空間を共有しているだけで至福を得る。
 優と浩介は友達として、よくデートをする。勿論誘うのは浩介の方だし、社交的な優はデートを特別なものだと思ってはいない。他の男性と比べれば、浩介のアプローチは控えめなので、むしろ他の男とのデートよりも神経を使わない。浩介と遊んでいるときは本当に楽しんでいるのだ。
 そんな優の気持ちを、もし浩介が知ったならば、きっと複雑な思いをするだろう。浩介は普通に思われるために精一杯の努力をしているからだ。優に彼氏がいるのかどうか知らない。そんな野暮なことを聞いたら、言葉の裏にある自分の感情を悟られるかもしれないから。そして、そんなことは知りたくなかった。
 二人で遊んでいるとき、優の携帯電話はひっきりなしに鳴る。その大半が、彼女の周りにたかってくる男どもだということは会話で判断できる。楽しい時間が一時的に寸断されるたびに、浩介は悔しくて唇をかむ。だが顔には決して出さないし、電話の相手など興味がないようなそぶりをする。優と一緒にいるとき、浩介の携帯電話は切ってある。
 優の誕生日の四日後、二人はデートをした。浩介は誕生日プレゼントを用意していた。
 洒落たフォトスタンドだった。
「ごめんね、おくれて。誕生日おめでとう」
 誕生日に、スケジュールが空いているはずもないので、あえてずらしてデートに誘ったのだった。
「ありがとう、すっごく嬉しい。大事にするからね」
「お気に入りに写真を入れてちゃんとつかってね」
 自分の写真じゃないことを分かってて、浩介はそんなことを言った。
 数日後、浩介は優からお返しのプレゼントをもらった。だが喜べなかった。優は律儀なので、相手が誰であれ、必ずお返しをする事を知っているからだ。中身は感謝の言葉と、これからも仲良くしようと書かれている手紙だってことは分かっている。
 封を開けたときの浩介の落胆ぶりは凄まじかった。
 風の中には、プロのカメラマンが撮ったと思われる優のモノクロのポートレートが入っており、そしてその写真に優の直筆で、
「きらいになってもいいですか?」
と、書かれてあった。
 それ以来、自分から優にアプローチすることはないだろうと浩介は思った。

 三ヶ月たったある晩、浩介の電話が鳴った。優からだった。
 戸惑った挙句、浩介はようやく電話を取った
「ねぇ。ぜんぜん連絡してくれないじゃない、どうしたの」
「ああ、ごめんね。結構忙しかったから」
 浩介はこれまでのように役者になった。
「・・・浩介くんは彼女いるの?」
「え・・・いないよ」
「好きな・・・人とかは?」
「なに、どうしてそんなこと・・・」
「だって、浩介くん、全然私のこと気にしてないみたいだったから・・・」
「そんなこと、ないよ」
「じゃ、どうして返事をくれないの?」
「返事?」
 浩介には何のことだかさっぱり分からなかった。思い当たるのは一つ、あの写真だった。思い出すのも辛かった。
「私のこと、嫌い?」
「嫌いだって、あの・・・写真のこと?」
「うん」
「だって、あの写真・・・」
「浩介君ぜんぜん私のこと分かってない。だって、そうでしょ。・・・好きじゃないと嫌いって言えないじゃない。嫌いになれないよ。・・・私、今まで自分から告白したことないから、素直に言えなくて・・・分かってよ。写真をプレゼントした事が、私の精一杯の表現だって。フォトスタンドをくれた浩介君にだからこそ、その写真をあげたんだって事」

 事実上、二人は付き合うことになったが、浩介は今までのように優にやさしく接している。デート中に電話が鳴っても優をとがめることはしなかった。今は彼女を信頼しているからだ。相変わらず野暮な事を聞くことはしなかったが、浩介にはひとつ、聞かなくてもわかっている事がある。
 プレゼントしたフォトスタンドには、自分の写真が入れてあるということを。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「きらいになってもいいですか」採点・寸評
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.文章力
 65点

2.発想力
 60点

3. 推薦度
 50点

4.寸評
 短くまとまってるのはいいんですが、まとめすぎの印象です。
 この内容だと短くまとめてしまうと、ちょっと食い足りない。もっと尺を伸ばしてもったいぶらないと、どんでん返しも効果薄です。あっさり目の文体もさらに空腹感を煽ります。短く、あっさり書かれた作品に良いものもたくさんありますが、この作品はそうなっていないように思います。もうちょっと脂っこくというか、濃い文章の方が良かったのではないでしょうか。
 最後になりますが、主人公の性欲の薄さに首を傾げてしまいました……

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.文章力
 70点

2.発想力
 40点

3. 推薦度
 50点

4.寸評
 文章は及第点だと思います。ただ、イマイチ…。単純にいい話ではあると思うのですが、私の恋愛経験が乏しいからでしょうか肝心の中盤から終盤にかけてが盛り上がりませんでした。また、投稿作としての発想という点でもイマイチだったと思います。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.文章力 60点
2.発想力 40点
3.推薦度 40点
4.寸評
 嫌いになれる=好きである ということなんでしょうか? ちょっと無理があるような気がします。そんな写真を送られて、落胆しない人はいませんし、それを全然分かってないよ、と言われるのもおかしな話です。付き合ったのに、まだ他の男性との電話をデート中にする優に、ちょっと疑問を感じますし、浩介の心理描写ももっと深くしてみてもいいかもしれません。
「きらいになっていいですか」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.文章力 75点
2.発想力 50点
3.推薦度 65点
4.寸評

 主人公の現状を淡々と解説するような、序盤の文章は面白かった。
 憧れの人物に対しての主人公の行動を丁寧に理由つきで描いており、感情移入しやすいと共に、後半にあるであろうカタルシスに対する期待を引き上げるのに十分な役割を果たしていたといえる。
 しかし、その後半に対しては少々期待外れを感じてしまった。
 表題になっているセリフの意図は、読者からしてみれば終わり方も含めて予想がついてしまうため、丸分かりだ。ならそれをどう魅せるかが勝負どころだと思うのだが、この作品ではそれを、我慢し切れなかったヒロインが全て暴露するという形でしてしまった。これは方法として非常に安易だ。
 ヒロインのセリフは説明台詞っぽくなりすぎてしまうし、何も察することができなかった主人公にも独りよがりな印象が残ってしまう。雰囲気を重視する作品だと感じていたため、ここは本当に惜しいと感じた。
ここを別の形に変えるだけで、大分評価も変わったのではないだろうか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.文章力 40
2.発想力 40
3. 推薦度 40
4.寸評
 まず「面倒くさい女」だなと笑ってしまった。
 具体的に悪い点を上げると、好みでなかったという個人的な問題だけだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
各平均点
1.文章力 62点

2.発想力 46点

3. 推薦度 49点

合計平均点 157点
67, 66

みんな+編纂者一同 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る