今日も頭の上を爆弾が飛んでゆく。おかしな音をたてて飛んでゆく。
どこへ行くのか知らないが、ゆらゆらぐらぐらと頼りなく飛んでゆく。
あんな飛び方で目的地に行けるのかしらんと思い眺めてると少し速くなって飛んでゆく。
いつの間にか爆弾は人混みが激しい交差点でふわふわと居心地が良さそうに漂い始めた。
気に入った標的を探しているのか、ただ風に揺られていたいだけなのか
爆弾は気まぐれにふわふわと宙を浮いている。
やがて爆弾は漂う事に飽きたように一人の男の人へ目掛けてゆるやかに落下していく。
男の人は奇妙な音に気づいて頭上の爆弾をちらっと見たけれど逃げようともしない。
自分に爆弾が落ちてくるとは思ってもいないらしい。
彼も毎日のように爆弾が飛んでいるのを見ているのだ。
そしてその多くの爆弾は大抵は何も無い所で爆発する事も知っている筈だ。
爆弾が人の上に落ちてくる事なんてほとんど無いといってもいい。
天文学的数値に近いといえば近い。
だから彼は逃げなかったのだろう。忙しそうに交差点を渡りはじめた。
そんな彼に爆弾は飼い主にじゃれつく子犬のように嬉しげに近づいていく。
そして遂に彼の頭に着地する。
大袈裟な爆発音。悲鳴。人だかり。
気まぐれな爆弾は一瞬にしてそれを作り出した。
「怖いわ。こんな事ってあるんですね。」
「もう少しこの人の近くにいたら一緒に吹き飛んでたよ」
「ていうか運ないな、この人」
野次馬たちは爆発した男の人の運の悪さを面白そうに話し合った。
そうやって自分たちの幸運を再確認しているようだった。
誰もが「自分には爆弾は落ちてこない」と信じながら。
僕はなんとなく怖くなって空を見上げた。
空にはいくつもの爆弾がゆらゆらと退屈そうに浮かんでいた。