一面に広がる白い世界。白い日差し。白い砂浜。白い波。
「海だー!」
シズクは海にきていた。
「ねえ、海だよお? シズクー」
ルーがシズクを呼ぶ声がする。シズクは彼女のほうをみて目を細める。
結局のところ、ビーム砲でルールーを焼ききることはできなかった。ルールーの体のほとんどを盾に変化させ、それでビームを遮っているうちに、光線上から離脱し事なきを得たわけだ。
盾にした体を完全に跡形もなくなっていたことから、あのまま攻撃を受け続けていれば死んでいただろう。とっさの機転の勝利ということだ。
それほどの攻撃だ。敵も味方も誰もがルーは死んだと思ったことだろう。そのことは都合のいいことだった。あのままルーを戦場に残しておくことは彼女にとっていいことではない。
連れ出すにも脱走兵扱いよりも死亡の方がよかった。
コックピットに薄皮が一枚ほどになったルールーを撫でながら、シズクはそんなことを考えていた。
シズクの旅の目的である雪 だが、北部はルーのいた国の勢力圏であるため北上を断念せざるえなかった。
「楽しいねえ」
ルーは水に足をつけてはしゃいでいる。
「楽しいことはもっともっとあるんだよ」
ルーが波に足をとられて転んだ。きょとんとした後にケラケラと笑う。
「本当?」
「僕といっしょに遊ぼうか」
ルーは満面の笑みを浮かべて、力いっぱい頷いた。
「どこに行きたい?」
「海!」
ルーは間髪入れずに答えた。初めての海。肌に触れる水の冷たさ。舌に触れる塩辛さ。体に触れるよせてはかえす白波。その全てがルーには新鮮で楽しく、面白く、おかしかった。
「……来てるだろう」
ルーはもう海のこと以外頭にないといった様子だ。
「海! 海! うーみ!」
そんな彼女をみて、シズクはふっと息をつく。自然に笑がこぼれてくる。
どうやら彼が雪を見るのはまだまださきになりそうだ。けれど、今まで以上に楽しい放浪になるということを彼は気づいていた。