「さて、バカンスは終わりだ」
シズクは軽くももをはたいて立ち上がった。
波打ち際で水と遊んでいるルーは不満が一杯につまった目でシズクを見た。
「なんでさあ? 私はまだ遊びたいのに」
「お腹空いたか?」
シズクが訊く。ルーはお腹に手を当てて少し考えた後、うなずいた。
「なに食べるう? オムライスがいいな。ケチャップでルールーを描いてさ」
昨日もオムライスをレストランで食べたのを忘れたのだろうか。アシナガの絵の描いてある。
シズクは渋い顔をしてルーを見た。何もオムライスが嫌だというのじゃあない。レストランに入ってスパゲティでも頼めばいいのだから。
そういう理由ではなかった。
「お金がない。でも、お腹はぺこぺこです。どうしますか?」
「? うー、ん?」
ルーは首をかしげてから、腕を組んで頭を悩ませる。そして、また首をかしげた。
まったくというわけではない。二、三日の蓄えはある。
けれどシズクたちの命が三日で尽きるというわけではない。お金を稼ぐ――仕事を見つけなければならなかった。
もともとシズクは立ち寄った町々で仕事を見つけて、貰ったお給金で放浪を続ける。それの繰り返しをしてきた。
ルーと会う前に立ち寄った町には長いこといた。だから、本当なら、もう二月、三月はお金の心配はいらないはずだった。
ルーの服を買った。パイロットスーツ一枚なんて、はしたないのはいけないからだ。
旅をするのだからルーのための日用品もいろいろと買った。
そして何よりルーはよく食べる。成長期ということも関係しているのだろうけれど、それだけではない。ルーは元気だ。シズクの何倍も。いつもはしゃいでいて、楽しんでいて、一日の終わりには燃料が空っぽになってバタンキューなほどエネルギーを使っている。
そういうわけだから、よく食べる。
こんな風に使えばお金がなくなるのは当然のことだった。
「だから働きます」
ルーはよくわかってない風だ。首を傾げている。
「まず手始めに!」
ルーの様子はほっぽらかしておく。
シズクはビシッと指を指す。砂浜に屋台をだしているおっさんを。おっさんに近づくと交渉に入る。
ルーはまた遊びを再開した。遊びながら時折、シズクと屋台のおっさんに目を向けた。
しばらくして、シズクがルーの方に向き直って、∨サインをした。交渉がうまくいき、働かせてもらえることになった。
「って、見てないし……」
あまりにシズクの話が長いので、ルーはとっくに飽きて波打ち際を走り回っていた。
この娘とお金を稼ぐのは大変だぞ、とシズクは思うのだった。