第13章 飛竜の眷族
「それにしても、何なんだよこの飛竜の数はよ。」
マルスの拳が飛竜の顔面を抉る。
「分からん、これも王石の影響なのか?」
ロイドの剣が飛竜の体と翼を切り離した。一行は多数の飛竜に行く手を阻まれ、なかなか進むことができずにいた。
「本来、飛竜はドラゴンとしてのプライドがあるから、こうやって大勢で群れるなんてことはしないはずなんだ。この光景は異常としか思えないぜ。そもそもこの火山に飛竜なんていなかったしな。」
ラッドは言った。
「やはり、誰かがこいつらを操っているということか。」
ロイドは察した。
「それにしても、こいつら何とかならねえのか?これじゃあ、親玉に会う前にヘトヘトになっちまうぜ。」
マルスは飛竜を相手にしながら呟いた。この灼熱の暑さの中での戦いは、一行の体力を思ったより蝕んでいるようだ。
「確かに、一匹ずつ相手にしてるんじゃ埒が明かないね。なんとか飛竜を一箇所に集められないかな?炸裂弾で一気に殲滅しよう。」
ワトソンはドレッドノートを取り出し、弾を込めた。
「だったら、足の速いケルベロスに任せとけ!!いけ、ケルベロス、奴らを挑発して来い。」
ラッドが笛を吹くと、ケルベロスは飛竜の方へ走って行き、咆哮を上げて威嚇した。これに怒った飛竜たちは一斉にケルベロスに襲い掛かってくる。
「よし、いいぞ、そのまま奴らを連れて来い。」
ケルベロスは飛竜たちの攻撃をかわしながら、こちらへとおびき寄せる。
「今だ、グレネードブレット!!」
弾丸を放つ直前にケルベロスは横に飛んで避けた。発射された弾丸は飛竜の群れの真ん中めがけて飛んで行き、轟音を上げて爆発した。
「キシャアアアアアアッ」
飛竜たちは甲高い雄叫びを上げながら炎に包まれた。
「よし、これで雑魚共は居なくなった。別の群れが来る前に、さっさと親玉を張り倒しに行くぜ!!」
マルスは走っていった。
「俺たちも急ぐぞ!!」
一行は火口へと足を急いだ。
「だんだん、暑くなってきたな。火口は近いようだ・・・。」
ロイドは額の汗を拭った。陽炎で周りの景色が揺らめいて見える。
「遅いぜ、お前ら。あれが火口だ。」
マルスは一足早く火口付近に着いていた。この暑さも全く平気なようで、底知れぬ体力だ。
「火口に何か居るな、巨大な・・・飛竜か・・・?」
火口には岩場が広間のように広がっていて、そこに巨大な怪物のシルエットが陽炎越しに見えた。
「あれがここの親玉だな、いくぜ!!」
マルスは一人で突撃した。
「馬鹿、勝手に行くな!!しょうがない、俺たちも行くぞ!!」
ロイドたちは後を追った。
岩場には巨大な飛竜が佇んでいた。大きさは違うが、全身灰色の鱗で覆われ、強靭な爪と翼を持っているのは普通の飛竜と同じであった。一つだけ違うのは、この飛竜は額に王石をはめ込んでいた。
「おい、お前がここの親玉だな!!」
マルスは叫んだ。
「何奴ダ?」
「貴様の額にある王石を渡してもらおうか。」
ロイドは大剣を飛竜の額に突きつけた。
「ナルホド、コレガ目的カ?王石ハ、メフィストフェレス様復活ノタメニ必要ダ。貴様ラ人間ノ手ニ渡シテナルモノカ!!ドウシテモ欲シケレバ、力ズクデ奪ッテミヨ!!」
飛竜は翼を広げ咆哮を上げた。
「いいだろう、奪ってやる!!」
ロイドは剣を構えた。
「我は王石の守護者『ヴァルカンドレイク』。竜族ト人間ノ違イ、見セテヤロウ!!」
ヴァルカンドレイクは一声上げると、翼を広げ飛び上がった。そして、大きく息を吸い込むと、空中から灼熱の炎を吐き出した。
「マジックシールド!!」
ジョアンの作り出した魔法壁がブレスを防いだ。
「どういうことなんだ?飛竜はブレスを吐くことなんかできないはずだぜ。」
ラッドは驚いた。
「我ハモハヤタダの飛竜ではない。王石ニヨッテ炎ヲ操ル力ヲ手ニシタノダ!!」
ヴァルカンドレイクはそう言うと、詠唱を始めた。
「フレイムバースト!!」
すると、ロイドたちの周りから多数の熱線が照射され、それは集約される。
「これは、火の上級魔法!!」
ユリアは叫んだ。
そして、集約された熱線はロイドたちの中心で爆発を起こした。
「ぐわああああああ」
一行は全員爆発に巻き込まれ、倒れた。
「くそ・・・。こいつ今まで戦ってきた守護者とは桁違いの強さだ・・・・。」
ロイドは剣を地面に突きたて、立ち上がった。
「やれやれ、見てられないね~。」
突然どこから声が聞こえた。見ると、断崖に人影が見える。
「ヘンデル!!」
ユリアは叫んだ。
「何?ヘンデルってベルゼルグを出るときに会った、あの少年か。」
ヘンデルは詠唱をしながら、崖からロイドたちのいる岩場へと飛び降りた。
「ブリザードストーム!!」
すると、ヴァルカンドレイクを取り囲むように突然吹雪が発生した。
「グオオオオオオ!!」
ヴァルカンドレイクは氷漬けになってしまった。
「これは氷の上級魔法、あんたいつの間にこんな魔法を・・・。」
ユリアは驚いた。
「君とは素質が違うんだよ。僕は天才魔術士なんだから。」
「相変わらず、感じ悪いわね~。ところで、何でこんな所にいるのよ?」
「僕は封印された究極魔法を探してるところで、ガストラングを目指してたんだ。そしたら、偶然君たちが無様に倒れているところを見かけたから、助太刀してあげた訳だよ。」
ヘンデルとユリアが話していると、後ろから物音が聞こえた。
「己、我ハコノ程度ノ魔法デ倒レンゾ。小癪ナ真似ヲ・・・。」
ヴァルカンドレイクの周りの氷は溶けていた。
「さすが、火山の神ヴァルカンの名を冠するだけはあるね。相手にとって不足なしだ。」
ヘンデルはそう言って銀の杖を構えた。
「おい、どこの餓鬼だか知らんが、出しゃばってんじゃねえぞ。あの程度の爆発なんか屁でもねえ。」
マルスは立ち上がって言った。
「僕も何とか戦えるよ・・・。」
ワトソンも立ち上がった。
「現時点でまだ戦えるのは、ヘンデル・ユリア・ワトソン・マルス、それに俺か・・・。何とかいけそうだな、今度はこちらの反撃の番だ!!」
ロイドは剣を構えた。
「マダ足掻クツモリカ?イイダロウ、消シ炭ニシテクレルワ!!」
ヴァルカンドレイクは翼を広げ、ただならぬオーラを放出し始めた。全身が赤く輝いている。
「ヴォルケーノストライク!!」
すると、火口からマグマが噴水のように何本も湧き出てきた。
「塵ノ欠片モ残サン、燃エ尽キルガイイ!!」
ヴァルカンドレイクが指をロイドたちのほうへ向けると、合図に合わせてマグマが襲い掛かってきた
「こいつ、マグマまでも操るのか・・・。」
ロイドは目の前の光景に目を疑った。
「ブリザードストーム!!」
ヘンデルの作り出した吹雪がマグマの波を包み込むが打ち消されてしまう
「だめだ、食い止められない。流石の僕でもマグマを凍らせるのは無理だ・・・。」
ワトソンは魔法銃を引き抜いた。
「なんとか襲い掛かるマグマの間をかいくぐって、奴に直接ダメージを与えられれば、攻撃を中断できるかもしれない。」
ワトソンは目を凝らして隙を窺った。
「今だ、ウォーターブレット!!」
発射された水塊は見事にマグマの間をすり抜け、ヴァルカンドレイクに命中した。
「ヌウウ!!」
術者の集中が断たれ、マグマはその場に落ちた。
「奴の攻撃が止まった、一気に畳み掛けるぞ!!」
ロイドはヴァルカンドレイクに向って走って行き、目の前でジャンプした
「パーディションブレイド!!」
空中から全体重を乗せ、剣を脳天に突き立てた。
「グオオオオオオオ!!」
ロイドが離れると、今度はユリアが詠唱を始めた
「サンダーストーム!!」
雷雲が頭上に発生し、多数の稲妻がヴァルカンドレイクに降り注ぐ。さらに、突き立てられた聖剣イングラクトがその伝導率を増していた。
「ヌオオオオオオ!!」
ヴァルカンドレイクはうめき声を上げた。
「ブリザードストーム!!」
今度はヘンデルの吹雪がヴァルカンドレイクを氷漬けにした。
「止めだ、食らいやがれ!!」
マルスは走りながら気を拳に集約した。
「一・点・集・中・拳!!」
渾身の正拳突きが氷漬けになったヴァルカンドレイクを打ち砕く、その瞬間氷はバラバラに崩れ落ちた。
「やったぜ、化け物をぶっ倒した!!」
マルスは拳を天に突き上げ、勝利の雄叫びを上げた。
「マルス、いくらなんでもやりすぎだぞ。王石まで粉々になってないといいが・・・。」
ロイドは氷の破片の山を探した。そして、見事に中から王石が出てきた。
「これで4つ目だな・・・・。」
ロイドは王石を腰の袋に入れ、地面に転がっていた聖剣イングラクトを背中の鞘に納めた。
「う~ん、私、たしか戦いの最中に倒れてしまったのですわ。」
ジョアンは目を覚まし、立ち上がった。
「あれ、敵はどこにいったんですか?」
「これだぜ。」
マルスは氷の破片の山を指さした。
「はあ、これがあのモンスターなんですか?」
ジョアンにはどうやったらこのような物体にになるのかさっぱり分からなかった。
「やめろよ~、くすぐったいだろ・・・。」
ケルベロスはラッドの頬を舐めていた
「そういえば、テストは!!」
ラッドは目を覚まし、飛び起きた。
「やっと目覚めたか。テストの結果だが・・・、俺としてはまだまだなんだが、一応合格だろう。正式にお前を俺たちの仲間として認めることにする。」
「本当か!!やったぜ、ケルベロス!!」
ラッドは嬉しそうにケルベロスに抱きついた。
「そういえば、お前は誰なんだ?」
マルスはヘンデルに尋ねた。
「紹介が遅れたね、僕は天才魔術士の『ヘンデル・コリンズ』。ユリアの幼馴染さ。」
「何が天才魔術士よ!!私と同じ見習いの癖に!!」
「うるさい!!僕はさっさとこんな試練突破して晴れて一人前の魔術士になるんだ。そして、封印されし究極魔法を手に入れる。」
「封印されし究極魔法って、終末戦争期に大賢者ヘリオスが編み出し、その強大な威力故に禁忌とされ封印された魔法でしょ。そんなものの封印を解いちゃだめよ!!」
「君にとやかく言われる筋合いはないね。僕はこんな所で油を売っている時間は無いんだ。それじゃあね、アディオス!!」
ヘンデルは後ろ向きに手を振りながら去っていった。
「相変わらず、嫌味な奴ね。」
ユリアは目くじらを立てた。
「それで、これからどうするの?」
「この火山を越えれてガストラング帝国に入る。」
こうして、一行はガストラング帝国を目指した。
第13章 完