人生とは時に残酷な物で……
簡単に人の夢や希望を打ち砕くんだ。
「う、嘘……? 何で君がこんな所に……?」
「何でって、彼女は私の嫁になったからに決まっているじゃない。ねー?」
「ねー♪」
何という事だろうか。あの時私が救う事が出来なかった幼女が、目の前に立っている。
その事自体は喜ばしい事だけど、その幼女は私の敵として目の前に立っていた。
あの可憐な幼女が悪の道に染まってしまった。
実に辛くて悲しい現実だ。
幼女が悪に……悪ぶっている幼女……
あれ? 何か素敵な響きに聞こえなくもないような……?
「ほんと、最低でバカね」
「うぐ――っ!?」
さすが小夜子ちゃん。私のちょっとした邪な気持ちを瞬時に汲みとって、突っ込むとは……
「流石、私の嫁」
「断るわ」
早い! 早すぎる拒絶! ほんの一瞬だけでもいいから間を開けて欲しかった。
「あんた達何なの? わざわざ漫才を見せに来たの?」
「ち、違うわよ!」
「違う」
漫才を見せるなら、もう少し話を練ってからするわよ!
――って、そうじゃなくて、
「その娘を返してもらうわよ!」
ここで出会ったのも何かの縁。せっかくだから、あの時の屈辱を晴らさせてもらうわよ。
「返せって言われても、この娘は私の嫁であって、あんたの物じゃないわよ」
「確かにそうだけど、あんただって無理やりその娘を嫁にしたんじゃない」
幼女に無理強いをするなんて許せるわけがない。
「でも今はこの娘も私の嫁である事を認めてるわよ」
「う、嘘だっ!」
そんな事あるはずがない。あの可憐な幼女がそんな事を言うはずがないんだ!
「あなたが抱いているのは、過去の妄想でしかないのよ。ねぇ、そうでしょ?」
「うん。あの人気持ち悪い」
「くは――っ!?」
何という恐ろしい攻撃なんだろうか。私でなかったら今の攻撃は、死んでもおかしくはなかった。
「幼女、幼女って連呼してるあなたは完璧な変態よね」
「変態♪」
「 」
や、止めて! もう私のライフはゼロよ!
幼女に可愛く変態だなんて言われるとは、もう私は昇天してしまいそうですよ。
「メグミ。そろそろ正気に戻りなさい」
何処か遠くで小夜子ちゃんが必死に私を呼び止めている気がする。
でもね。小夜子ちゃん……私はもう――
「早く正気に戻らないと、この仕事辞めるわよ」
「―――っ!?」
そ、それだけは勘弁して! お願いだから私から逃げないで!
「待って小夜子ちゃん!」
「はぁ……お帰り」
「ま、まだ、辞めないよね……?」
「一応続けてあげるわよ」
「小夜子ちゃん♪」
よかった。本当によかった。
「結局、漫才をしてるじゃない」
「あははっ♪ 面白い♪」
むむっ! だから私達は漫才をしてるわけじゃないんだってば。
ただ純粋に愛情表現を……
そう。小夜子ちゃんとのめくるめく愛情表現を――
「メグミ。トリップするのは勝手だけど、相手に逃げられてるわよ」
「えへへ……♪ ――――っ!?」
気がつくとあの二人が消えていた。
「なんという逃げ足なの……」
この私でも追う事が出来ないなんて。
「いや、ただ単にあんたが妄想に耽ってたのが悪いんでしょ」
「そんなバカな!?」
まさか、この私が二度目の敗北を味わう事になるなんて。
しかも同じ相手に――
なんという屈辱。
なんという敗北感。
なんという情けなさ。
この借りは何時か――
そう。いつか絶対に晴らしてやるんだから!
「相変わらずメグミは暴走してるわね。これに付き合う方の身にもなってほしいわ」
小夜子ちゃんが、何やら小さく呟いているけど今は関係ない。
私は今、非常に燃えているのです!