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ep5.少女調教1 R-18注意

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 入学して以来、最初の金曜の授業を終えた。

 私立高校の授業は、他の公立高校に比べて随分と進んでいたので、最初は進度に合わせるに随分苦労した。鳩山の家に帰るなり、ユミコさんと一緒に家事をこなし、仕事が終わってからは次の日の予習に努めた。本当ならばその日の復習もしたかったが、とてもそれでは間に合いそうになかったので、仕方なく週末にやってしまおうと思っていた。どうせ予定もないのだから。

 とはいえ学校は思ったよりも楽しかった。女子校というから、陰湿なイジメや、煩わしい人間関係に悩まされることも、一応は覚悟していたが、思いの外過ごしやすい環境だった。所謂仲良しグループが極めて明確になっているせいかもしれない。それに鳩山ユキという存在は、やはりクラスの誰もが意識するところのようで、目下どの仲良しグループにも所属しないユキと、その腰巾着の私の扱いは、クラスメート達が手をこまねく所であるとも考えられた。そういうグループ的な付き合いはない代わりに、ユキに個人的に話しかける人の数はとても多かった。クラスの域を超えるどころか、先輩や中等部の後輩など学年を悠にまたぎ、挨拶をするだけの人も含めれば、この一週間で百人は軽く超えていると思えた。彼女らの視線は、だいたいいつもユキの隣にいる私を、ちらと通り過ぎていくものだから、つい意識してしまう。その度、彼女らの微かな不審を抱く表情に、余計な緊張を覚えてしまうことが多かった。

 それでもようやく一週間を終えたと思うと、身体が急に軽くなった。明日もまだ仕事はあるが、それも午後四時には終わる。久々にゆっくりしよう。

 数日暮らしても、まだ慣れない大きさのの湯船で疲れを癒し、自室に戻った。本当なら今週でため込んだ復習をやらなければいけないところなのだが、どうにもやる気が出ない。じっとしているのも落ちつかないので、部屋を掃除することにした。ざっと部屋を見渡すと、学校に通い始めて、徐々に取り戻した平常の感覚を表すように、部屋には生活用品が少しずつ増えていることに気付く。けれども物が溢れているわけではない。掃除もすぐに終わってしまった。整然とした部屋、そのベッドの上に転がってみても、安らぎよりも所在なさの方が意識に残った。

 彼女が訪ねてきたのは、そんな時だった。ノックの音に、ベッドから慌てて身を起こす。

「ジュン、いいかしら」
「うん、どうぞ」
「お邪魔するわ」

 扉を開けて入ってきたユキは、どうやら湯上がりらしく、頬は上気して桃色に染まっていた。絹のように光沢をもって流れる彼女の長い黒髪からは、ふわりと良い香りが漂っている。

「特別勤務時間、今から大丈夫?」
「……はい、お嬢様との契約ですから」

 一瞬の躊躇いの間に、頭を仕事モードに変えた。そうだった。私の自由な時間は、週に七時間だけ、彼女のに拘束されるのだ。私はそれに逆らうことは出来ない。そうすれば私は路頭に迷うかもしれず、そうなれば最早誰も私を助けてくれることはないのだから。忘れかけていた。この身は、一度捨てようと思ったものなのだ。

「ふふ、お仕事となると、ちゃんと敬語になるのね。ジュンのそういう生真面目なところ、私は好きだな」
「そうですか? 私は時々こんな自分が嫌になりますよ」

 少し苦笑して見せたら、ユキは「それは残念」と零して踵を返した。黙って部屋を出て行く彼女の後を、私も何の言葉も発しないまま続いた。

   *   *

 例の三階の部屋に入った。相も変わらず何もない部屋だけど、そのことが却って私を不安にさせる。生活感のない部屋が、これから行われるだろう非日常を想起させるから。

 私を部屋に入れるなり、ユキは鍵を閉めて、私を後ろから抱いた。厚みない寝間着の布地は、彼女の体温を明確に私に伝える。けれどどうして良いか分からず、動くことも出来ない。

「気持ち良いな」
「なにがです?」

 不意に呟かれた言葉に、私はゆっくりと聞き返した。

「こうやって抱き締めるの」
「……それはなにより」
「前も思ったのだけど、ジュンは抱き心地が凄くいい」
「抱き心地ときましたか」
「ええ、この身体は気持ち良い……」

 ユキはしみじみと呟いて、遠慮がちに私の身体をぎゅっと抱き締めた。どこか誘惑的で甘美な吐息が首元を這い、鼓動が早くなる。恋人のような甘い抱擁は、けれども私の心を犯すみたいに、暴力的な愛情に満ちている気がした。彼女の緩やかな拘束は、火照った身体の熱と、湯上がりの誘うような香りから逃がしてくれない。

「ベッドにかけていて」

 もう十分抱いて満足したのか、ユキは私に短く指示を出して、机に向かった。やはり引き出しから首輪を取り出して、私に手渡す。まだ身体には、先ほど抱き締められた感触が残ったままだ。そのせいか手に首輪に付けられている金属のリードが、妙に冷たく感じた。

「自分でかけなさい」
「……はい」

 言われるまま、革製の首輪を自分の首に巻く。出来るだけ、きつい位置で留めた。私自身に、これが仕事だと刻み込むように。それを忘れないように。

「苦しくない?」
「平気です」

 ユキの声は、さっきの命令口調に比べて、いくらか優しさが滲んでいた。それに気付いた瞬間、浮かびかけた感情に、私は気付かぬフリをする。今は仕事のことに集中するとしよう。少しだけ息苦しいけど、この首に蠢く違和感が、割り切った心を保ってくれるはずだ。

「約束、覚えてる?」
「はい。これを付けている間は、絶対服従、ですよね」
「そういうこと。つまりジュンは完全に私のモノってことね」

 ユキが微笑む。穏やかな学校の表情じゃない、あの場ではほとんど見せない嗜虐的な顔で。

 本当はもう一つの約束も覚えていたけど、私は口には出さなかった。唯一与えられた権利も、今の私にはいらないから。迷わないために、選択肢は少ない方が都合が良い。思索を狭めて、思考を止めて、私は彼女に従う。

 ユキがリードを手に持った。もう片方の彼女の手が、私の頬をそっと包む。少しだけ温度の低い手の感触が、くすぐったくて心地良い。優しく撫でられると、心がふやけてしまいそうになる。

「目、閉じて」

 けれど囁く声すら、今のユキは威圧的で、抵抗の意思など浮かぶ余地もなかった。暗闇の視界で、気配を察していると、そっとキスをされた。小鳥が啄むような、泡沫のように感触が消える、短い口付け。でもはっきりと知覚できるほどに、熱を帯びる。唇が。身体の芯が。

 ゆっくり目を開けると、ユキがじっと私のことを見下ろしていた。酷く嗜虐的な、同時に優しそうな瞳が、まっすぐに私を射抜いていた。心を見透かされるようで、つい怯えるように目を逸らしてしまう。

「嫌だった?」

 彼女からの質問に、沈黙で応える権利は私にはない。だから、私はなんとか言葉を紡ぐ。出来るだけ、自分の気持ちを正確に伝える。ただありのまま。思考しない方が、今は楽と。

「……嫌じゃないです」
「じゃあどうして目を逸らすの?」
「――……らです」
「ん?」
「恥ずかしかったからです」

 口に出したら、余計に恥ずかしくなった。私の顔は、今きっと赤く染まっているに違いない。ユキの方など見られるはずもなく、俯いていたら、不意打ち気味に頬にキスをされた。

「ぁ……」

 呆けた声が漏れてしまった。意図不明で予告なしのキスは、私の心を惑わすのに十分過ぎる。

「ジュンは可愛いなぁ……」

 ユキはそう言うと、私をベッドに押し倒した。私を押さえつけるように、彼女も四つん這いにベッドに上がった。私を真上から見下ろす瞳が、爛々と輝いている。そういえば、以前もこの目を捕食者のようだと感じた気がする。

 頬を撫でていたユキの右手が、私の左手を押さえる。そのまま指を絡まされた。恋人が繋ぐ手のようだった。

「ん……」

 キスをされる。さっきよりも、ちょっとだけ長い時間。早鐘を打つ心臓の音が、頭に響いて煩(うるさ)い。

「舌を出して」

 低いユキの声が、私の身体を一瞬硬直させた。躊躇いそうになった。けれど、おずおずと言われたように舌を出した。恥ずかしくて、少しだけ怖くて、目を閉じる。舌が外気に晒されたと思った刹那、ユキの舌に絡め取られた。

「ぁ……む……」

 重ねられた唇が、温かい。私を押さえつけ、支配するこの感覚が、酷く陶酔的な快楽を与えているようだ。熱に浮かされた思考と身体は、最早私の意思など関係なく、状況に順応しようとしている。

 ユキはゆっくりと私から顔を離した。目を開けると、彼女の綺麗な形の唇が、私達の唾液で濡れていた。興奮しているのか、端正なユキの表情が、普段とは比べものにならないほど色っぽい。さらに熱の籠もった彼女の視線で見つめられるから、従順な犬にでもなってしまいそうだった。

「……へぇ、ジュンもそんな顔するんだ」
「え?」
「欲情したみたいに、色っぽい顔つきよ。瞳まで潤ませて、本当に可愛い」
「うそ……」

 そんな表情をしているのだろうか。咄嗟に否定したくなったけど、ついさっき過ぎった自分の感情を、私は思い返してしまい、言葉に詰まる。

「今止めないと、今日は止まらなくなっちゃいそう」
「お止めになるんですか?」
「止めて欲しいの?」

 逡巡する。このままされるがままになってしまうのも考え物だけど、私に拒否権はない。

「……お好きにして下さい」

 消え入りそうな声しか出なかった。契約した瞬間から、こうなることはある程度予想はしていたけど、まさか自分がこんな返答をしてしまうなんて。これが私を犯すだけの男なら、今すぐ殺すか、死んでも構わないのに。だけど今は、この首にまとわりつく違和感が、私の全ては彼女のものだということを、思考に刻み続けている。私は、『彼女のモノ』であることに、抗えない。……違う。抗わなくても良いと、どこかで思ってしまっている。だから、好きにしてもいいなんて言葉は、もう彼女に対しての降伏宣言以外の何物でもなく……。

 そこまで考えたら、急に恥ずかしくなった。真っ赤になった顔を思いっきりユキから逸らした。ぐちゃぐちゃになった思考が、頭にまだ渦巻いている。だから考えるのは止めようと思っていたのに。余計なことを考えない方が、楽だと分かっていたのに。それもユキの問いが、私の自我を意識させるからだ。私は機械のようには従えないのだ。彼女に問われれば、答えを返さなければならないのだから。

 また不意に頬にキスをされた。ユキはちょっとだけ悪戯っぽい笑みを浮かべている。

「そうやって赤くなった顔を背けるのも可愛いけど、私の方も見て」

 そう言って、彼女は優しく頭を撫でてくれた。慈しむような手付きに、心をほだされる。反則だ! こんな、命令したり、優しくしたり……。仕事だと割り切っている気持ちが、揺らいでしまう。

 そして私は結局黙って彼女の言葉に従う。彼女の方を向いた瞬間、唇を重ねられた。その柔らかくて甘美な口付けに、私から求めてしまいそうになる。口内に入れられる舌に抵抗なんか出来ない。優しく愛撫するユキの舌に、私のを絡めて、受け入れてしまう。息苦しさに、閉じた左手が、押さえていたユキの右手を握り返す形になった。ユキにもきゅっと握られて、こんな時なのに安らぎを覚えてしまう。

「……ぁむ……ん……」
「ん……」

 吐息と、甘い声が零れていく。時折漏れてしまう水音に、欲情する気持ちを、私は否定できない。

 唇は離すと、二人の間に唾液が糸を引いた。淫靡な光景に、思わず陶酔してしまいそう。

「ジュン今凄いやらしい顔してる」

 言葉を返せずにいると、今度は首筋にキスをされてしまった。ゾクリと身体を駆ける刺激は、性の快楽のように甘い心地がした。幾度もキスをされ、鎖骨の辺りを吸われ、喉元にすっと舌の這う感触がした。ゾクゾクと、愛撫のごとに身体が熱を帯びるのが分かった。漏れしまいそうになる声を必死に押さえていると、不意にユキが愛撫を中断した。

「姿勢、辛くない?」
「大丈夫ですけど……」

 ベッドに掛けている姿勢から押し倒されたから、膝より下が浮いてしまっていた。

「ジュンを押し倒したままってのも興奮するけど、移動しようか」
「はい」

 ユキはベッドヘッドに背中をもたれさせ、開いた両の足の間に私を置いて、後ろから抱いた。あまり彼女にもたれてしまうと、胸を圧迫して苦しいかもしれないと思って、遠慮がちに身体を預けた。

「もっともたれても平気よ」
「苦しくなりませんか?」
「ジュンほどおっぱい大きくないもの」

 それにしたって小さくないと思うけど。でもせっかくだから、言われたとおりにしてみた。距離が近くなったせいで、余計にユキの匂いや息づかいを感じ取ってしまう。耳元を撫でる熱っぽい吐息が、情感を微かだが徐々に高めていく。

「そう言えば、ジュンは耳弱いんだっけ?」
「え……――っあ……!」

 気付いたときには、もう耳をユキの唇に挟まれていた。瞬間、はっきりと性感を自覚する。この前はそんなことはなかったのに。昂ぶった身体が、与えられる刺激を変質させてしまうのか。

 頬をユキの手がそっと押さえる。だから、もう顔を動かして耳を離すことは出来ない。耳の裏を這う彼女の舌が、少しずつ、私の身体を蕩けさせる。チロチロと舐められる度に、蓄積される快楽が切なくて、もっと欲してしまう。

「やっぱりここがイイの?」
「……うぅ……はい」

 恥ずかしくても素直に応えるしかない。でも出来るなら聞かないで欲しい。こんなことを言わされるなんて、恥ずかし過ぎる。

 そうしたら、今度は服の中に彼女の手が滑り込んできた。下着の付けていない胸を揉まれ、今まで感じたことのない感覚に、戸惑いを覚える。

「ジュンはおっきいよねぇ」
「……ん」

 全体を優しく揉まれると、ちょっとだけぞわりとした。同時に責められている耳からの快楽が、その感覚と交錯するようで、ぴくりと反応してしまう。

 ユキは慣れない私の反応を楽しむように、ずっと耳を舐めたり甘噛みしたりして責めたまま、胸を揉んだ。はっきり性感とは言い切れない微弱な刺激は、しかし徐々に私の感覚を侵し、満たされない身体が、鋭敏になって快楽を求めている気がした。

 今度は反対側の耳を責められ、胸も、いつの間にか勃った乳首を、指で転がされている。けれども、やはり得られるのは私をただ疼かせるだけのささやかな快楽で、ただもどかしさだけが募っていく。

「まだ胸は気持ち良くないかな?」
「……不思議な感じがします」
「そう。もどかしい?」
「……はい」
「もっと気持ち良くして欲しい?」

 素直に頷けずに、俯いてしまう。そんな私を急かすように、ユキがうなじにキスをしてくる。

「ぁ……」
「可愛い声。ねぇ、答えて。どうして欲しい?」
「…………」
「ほら、教えて。言えばシてあげるから」
「……もっと……欲しいです」

 本当は分かっているのに、口に出させて、私の羞恥心を煽るつもりなんだろう。だとしたら、その企みは十分過ぎるほど成功している。私はその恥ずかしさに身悶えしながら、同時に期待してしまっているのだから。

「良く言えたね。良い子だよ、ジュン」

 ユキはそう耳元で優しく囁いて、頬にキスをした。頭も撫でてくれる。まるで躾を守れた犬に対するご褒美のようだ。でも、私は彼女の上機嫌な声を聞いたら、なんだか嬉しくなって、それを気に留めることもできない。

「ちゃんと言えたご褒美に、たっぷり可愛がってあげる」

 ユキが呟いた言葉は、それだけで私をゾクリとさせるほど、艶っぽく支配欲に満ちた声だった。思わず身体を縮こませて、ユキの腕を押さえるように抱いた。

「手はそこから動かしちゃダメよ」
「え? はい……」

 リードをベッドヘッドに掛けて、それを掴んでいた手が私の下半身に伸びてくる。下の寝間着に手は潜り、そのまま下着の中に差し込まれた。そのまま、私以外は誰も触れたことない秘所に、彼女の指が這う。

「あら?」

 ユキがちょっと楽しそうに、私をからかうような声を上げた。理由は彼女の指が触れた瞬間に分かった。

「こんなに濡らしてたんだ」

 ユキの執拗な愛撫に身体が自然に反応していた。ぬめる指の感触から、私のそこが、ぐしょぐしょに濡れているのが、嫌になるくらいよく分かった。それだけでも十分に恥ずかしいのに、ユキがわざとそこで水音を上げさせるように指を動かすから、私はもうどうしようもなくなって、せめてもの抵抗に目を閉じた。スリットに沈み込むように、上下して音を出す指が与える快楽は、先ほどのものとは全く別種だった。もうそのこと以外は何も考えられなくなってしまうほど強烈な性感、ただ気持ちいいという快楽に、溺れそうになる。

「自分の濡れてる音は聞こえる?」
「聞こえていますから……お願いだから止めてください。恥ずかしいです……!」
「ふふ、そんなに哀願されたらもっとしたくなるな」
「そんな――っあ……!」
「でも、そろそろこっちも苛めてあげる」

 さっきまでの優しい口調が嘘みたいに、今のユキの声はサディスティックな響きに満ちていた。でも今身体が悶えているのはそのせいじゃない。ユキの指が私の一番敏感な箇所を捉えているからだ。先までスリットを責めていたせいで指に絡んだ愛液を、今は私のクリトリスにたっぷりと塗りつけている。そこから這い上がる性の快楽には、とても今は抗えそうにない。

「ぅあ……あっ……!」
「んー? 随分感じてるんだ。自分でも弄ってたの?」
「ぅ……そんな、こと……っん……ないです」
「へぇ。じゃあオナニーしたことは?」

 ユキの指は私に質問するときもずっと責めたままだ。今は一本の指が、クリトリスの周りに円を描くように刺激している。与えられ続ける性感に、思考はまとまらず、息も次第に上がってくる。

「一回……だけ……あぁ……ゃ……だめ……」

 中学の時に一回だけだ。夜中布団で、疼いてしまった身体の異変に抗えず、指の刺激の与えるまま、快楽を貪(むさぼ)った。以降、その後の罪悪感が怖くて、やっていない。

「どんな風に慰めたの?」
「あぅ……や……止めて……」

 言いたくなくて、快楽から逃れたくて、必死にお願いするけど、ユキがそれを聞き入れてくれる気配はない。変わったことと言えば、指の運動が、膨らんだクリトリスを転がすように、上下に動くようになっただけだ。こりこりと私の肉芽を嬲る刺激は、今まで以上に私の身体に悦楽を刻み込んでいく。意思とは関係無しに、腰が痙攣して跳ねてしまう。

「ひゃう……!!」
「ねぇ、ジュン。答えもせず敬語もなしにお願いなんて、随分じゃない?」
「っんん……! ごめん、なさ……ごめんなさい! ……だから……あっ……あっ……ぅぅ……」

 ユキの指が、一定リズムで、抗えない快楽を私に与える。頭がぼうっとしてくる。何かが、身体の中で弾けそうな、溜まったものがあふれ出してしまいそうな、そんな感覚が私を支配していく。

「ほら、どうやってオナニーしたのか言ってごらん」
「指……! 指で……っん……今触られてる……ところを……ひぅ!」
「やっぱり弄ったことあるんだ。ふふ、じゃあもっと色んな風に責めてあげる」

 ほとんど思考の回らない頭で、何とか応答するが、もう彼女の声を聞く余裕がない。恥ずかしいとか、そういうことに構っていることすら。自分の中で荒れ狂う情欲の炎に、焦がされることしかできない。口からは漏れる嬌声に歯止めは効かず、ユキの二指で交互にクリトリスを撫で上げられては、身体がぴんっと硬直と弛緩を繰り返す。そして、まだ味わったことない感覚が、徐々に身体の内で確実に膨らんでいった。

「気持ち良い?」
「ぁ……っん……はい……」
「そう、じゃあそろそろイカせてあげようかな」

 ユキが一際声を低くして囁いた。耳に吐息を吹きかけられ、敏感になっている私は、たまらずに嬌声をあげてしまった。そのまま甘噛みされ、舌を這わされ、身体をぎゅっと縮こまらせた。私のクリトリスを散々責めていた指が、今度はその付け根の辺りに置かれた。指の腹で擦りあげるようにそっと弄られると、電流が駆け抜けたみたいに、私の身体は大きく反り返した。今までよりもずっと細かく、そこを上下する指の柔らかな責めは、絶え間なく、段違いの悦楽で私を犯す。

「ふふ、可愛い。そんな気持ちいいの?」
「あっ……!! んっ……くぅ……! あ……あぁ……っんん!」

 答えられない。舌が回らない。チュクチュクと微かな水音を上げて責める指に、全ての感覚を支配されている気さえする。感じたことのない気持ち良さに、頭が真っ白になりそうだった。

「ゃ……ぁ……あっ! あっ! やだ……ぃや……ぁ――……!!!!」

 そして、高まった情感が爆発する。その瞬間には声も出せなかった。今まで何かにせき止められた感覚が、グラスに満ちた水が零れるように、急に崩壊した。激流のような快楽が、刹那に身体の芯から弾けた。その波が過ぎ去るまで、びくびくと身体が小さく跳ねて、初めての性の絶頂の余韻に浸っていた。肩で息をしても、まだしばらく収まる様子はない。その感覚がイクってことなんだと、ぼんやりと頭で思っていた。

「イケた?」

 ユキがそっと抱いて、横から顔を覗かせて聞く。後ろから抱かれているのが、妙に気持ち良い。

「……はい」
「良かった。それに凄く可愛かった。普段ツンと澄ましてるジュンが嘘みたい」

 ユキはなんだかご機嫌だ。それにしても、普段そんなに澄ましているだろうか? よく動揺したり、どもったりしている気がするのだけど。あまり人としゃべることが得意じゃなくて、静観しているからそんな風に見えたりしてしまうのか。

「ジュンこっち向いて」

 ユキの方を身体を捻って振り返ると、やや強引にキスされた。何かを求めるように、互いの舌を絡めた。少し無理のある姿勢だったけど、すぐには止めない。まだ余韻が抜けきっていない身体が、微かに疼いた。

 そしてユキの指がまだ私の秘所から離れていないことに気付く。彼女の指は私の陰唇に潜り、再度愛液に濡らされた。

「お嬢様……?」
「言ったでしょう。『たっぷり』可愛がってあげるって」
「そんな……」
「逆らえないよ、ジュン」
「あ……ぅ……っくぅ……」

 言うなり、ユキの指が私のクリトリスを苛む。一度絶頂を迎えてしまったからか、感覚が随分と鋭敏になってしまっている。二本の指の間に挟まれ、ゆっくりと上下に扱かれるクリトリスから、ずくずくと快楽がこみ上げてくる。もう、どうすることも出来ない。

「ジュンの可愛い啼き声、もっと聞かせて」

 囁く声が、すっかりあの嗜虐的な調子を取り戻している。多分こうなったらもう止められないのだろう。最も、最初から私に止める権利はないのだけど。

「あっ……ぅ……あ……あっ……!」

 たんったんっと、彼女の指が私のクリトリスを緩やかに叩く。その度に、うわずった声が出てしまう。凄く気持ちいいわけじゃないのに、鋭利な刺激に、嬌声を我慢できない。ただ、声を上げる度に、段々と頭がぼうっとして、息が荒くなっていく。

「可愛い啼き声……」

 うっとりしたユキの声が、本来の距離より遠く聞こえた。次第に強く、感覚が短くなっていく肉芽への責めに、自分でも信じられないような喘ぎ声が漏れてしまう。

「ほら、またここもしてあげる」

 ユキの指が、私の秘所から粘液を掬い取り、それを再びクリトリスに絡めた。そして、私を先に絶頂させた時と同じように、付け根を指の腹で弄り始めた。

「……あっ! や、だめぇ! それ……!」
「ん……?」
「ダメです……って……う……っ……っく……!」

 こんなに敏感になっている時に、そんな風に責めるなんて。ダメだ……。下半身から這い上がる甘い快楽に、従順に反応してしまう。これをされると、身体の制御が効かなくってしまう。それが悔しくて、せめてもの抵抗に声を我慢しているけど、それももう持ちそうにない。

「ねぇ、ジュン。これ、気持ち良い?」
「ぁ……ぁ……ぅ……はい……あぁっ!」

 口に出したら、もう堪えられなくなってしまった。ダメ。これ。本当に、また……!

「今日はジュンに女の子の悦びを身体に刻み込んであげる。一回味わったら、中々忘れられないから、覚悟してね」
「そんな……! ……あぅ……んんぅ」
「ほら、気持ち良くて、またイッちゃいそうじゃない?」

 否定出来るはずがない。私の身体は、ユキに与えられる快楽に、ただ従順に反応することしか出来ない。それを分かっていて、彼女はあえて言葉に出させようとしてるのだ。私に沈黙の権利もないと知ったまま、分かり切っている事実を口にさせて、愉しんでいる。同時に私を辱めている。そこまで分かっていても、もう私はこの悦楽には抗えない。一度覚えてしまったその感覚が、私に本能的な従属を促すから。

 これじゃあ、まるで調教だ。私という動物を、彼女の愛玩に堕とすための。

「ん……また、イキそう……です」
「いいよ、イッて」

 ユキの指が、クリトリスを上からそっと押さえつけた。もう十分そこを嬲られていた私は、それだけも果ててしまいそうだったが、彼女の加虐はそれで終わらない。ぶるぶると指を細かく振動され、身体の奥の奥まで擦り込まれるような快楽が、体中を駆け抜けていった。

 そして、あの昂揚が襲ってくる。

「……っつぅ……あああ――!!!」

 口から舌をだらしなく垂らして、私は二度目の絶頂を迎えた。決して強引ではないユキの指使いは、けれども絶対に抗えない。びくびくと跳ねる体を拘束し、今もなお、細動を続けるその指に――。

「……うあ……や……ああっ……!!」

 達したというのに、ユキの責めは一向に収まる気配がない。むしろ、私の最もクリトリスを蹂躙する彼女の指は、次第に荒々しさを増していた。

「ちょ……あぅ! や……なんで……?」
「あら? 誰が一回なんて言ったの?」
「ゃ……うそ……あ、ああ……んんっ!」

 ユキの指が、私のクリトリスにひっかっけるように曲がって、細動している。でも身体がガクガクと震えるのは、指の振動が伝わっているからじゃない。果てて敏感になっている身体が、この加虐のような快楽責めに震えている。強制的に脳に『キモチイイ』と認識させられている。擦り込まれている。この身体はこんなにも気持ち良いと。

「よく身体に教えてあげる。ジュンが私のものなんだってこと」

 震える。その言葉と。彼女の愉しそうな声と。自分の身体を制御できない恐怖と。そして何より、この快楽に。

「や……だめ……! あ、……ぁああ!」

 機械的な指の細動が、私に無理矢理一定量の性感を与え続ける。感覚を支配されている。身体を弄ばれている。犯すように嬲られて、感じてしまう。イキたくなくても我慢出来ない。こんなのを押さえ込むなんて無理だ。気持ち良すぎて、もう……!

「んんっ! ……きゃうっ……んあああ――!!!」

 反らせた身体を、びくびくと痙攣させて、私はまたイッてしまった。一瞬、意識が飛びそうになる。余韻が長い。身体の芯では、まだ止まったはずのユキの責めが続いているような錯覚がある。

 ユキは私を一度きゅっと優しく抱くと、ベッドに寝かせてくれた。体のどこにも力が入らず、私は彼女に為されるままだ。ぼんやりとした視界には、ユキが満足したような、それでもまだ足りないような、複雑な表情を浮かべていた。焦点がまだ少し合わなくて、じっと見つめていると、彼女はふっと微笑んだ。

「頑張ったね。偉いよ」

 頭を撫でられる。優しい言葉と、穏やかな表情で。労るみたいに、彼女の細い指が私の髪を梳く。そして、まるで愛しい人にするように、そっとキスをされる。

 酷い。あんなことをしておいて、人が変わったように優しくするなんて。

 これでは……これでは、穏やかな幸せのように感じてしまう。彼女に服従し、そして為すがままに弄ばれた直後だというのに。この非日常を、受け入れてしまいそうになる。

「首輪、外す?」
「……まだ外さないでください」
「ん、わかった」

 こんな姿、自分がユキのものだとでも思っていないと、とても受け入れられない。その上、最後に少し優しくされたくらいで、私は……。

「ジュン」
「なんですか?」
「可愛かったよ」
「……知りません」
「ねぇ、まだ私のもので居てくれる?」

 ユキの声のトーンが変わった。不安そうな、でも期待するような、そんな表情でまっすぐ見つめられる。

 困った。なぜだか、嫌だと思えなかった。彼女のものである自分を、私はそれほど拒否できない。少なくとも、現状の安定した生活を捨ててまで、彼女の許を離れたいとは思えなかった。

「……ええ」

 だから、短く、それだけ言った。そうしたら、今度は彼女が子犬みたいに嬉しそうな顔をするものだから、私は、なんだか色んなことがどうでも良くなってしまった。そんな顔を見せられたら、とてもユキから離れたいとは言えそうにない。

 それに、もう今日は疲れてしまった。早く休みたい。幸い今はベッドの中で、いちいち移動する必要もない。

 私は衣服の乱れを適当に直すと、ユキに最後のお願いをした。

「おやすみの許可を頂いてもかまいませんか?」
「うん、寝づらいだろうから、首輪もはずすよ。もういいでしょ?」
「はい」

 ユキが私の首輪を外してくれる。首の後ろで、金具留めされたそれを外す際、必然的に、ユキの顔が近づく。あんまり綺麗に整った顔だから、悪戯に口付けてみたくなった。そうしたら、彼女は驚いた表情の一つでも浮かべてくれるだろうか。そんな可愛い一面があるのなら、見てみたい気もする。

 ユキと一緒にベッドに潜ると、不思議と穏やかな気持ちになる。もしかしたら、外された首輪のせいかもしれないが。その息苦しさ解放されたせいか、空気すら美味しく感じてる。

「おやすみ」
「ん、おやすみ、ユキ」

 ユキはほんの軽く、私のおでこにキスをした。まだ寝ないのか、私の方をじっと見つめている。

「寝ないの?」
「ジュンが寝るまでは。寝顔も見たいし」

 私だけ寝顔を見られるのは、不公平な気がした。けれど、口にしてもしょうがないので、私は黙って目を閉じた。何より、もう今日は疲れたから。

 微睡(まどろ)みの中で、ユキの温かさに包まれている気がした。心が、鷲づかみにされそうだった。
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