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第3話「その1シーン、鮮やかに」

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「私は、異性はもちろん同性も、心を開いていないと寝室には招かないよ?
 だって、数少ないプライベートルームだしね」
「あおい、さん……?」
「でも、どんなシチュエーションを用意しても、大切なのはお互いの距離感だよね」
 
 
 
 
 第3話「その1シーン、鮮やかに」
 
 
 
 
 早くも、このときが来てしまった。
 
『次はシチュエーションのことについて話すので、体験談や思い出をまとめておくように』
 
 処女には残酷すぎる内容だった。
 
 
 
「さあ、語ってもらいましょうか」
 
 前回と違い、今日はごく普通に始まった(やや強引な感じはするけれど)。
 ただ、場所が普通ではなかった。
 
「ひょっとして、これは雰囲気作りでしょうか……?」
「そんなところかな」
 
 今日はあおいの寝室……しかもベッドに並んで座っていた。
 小さな本棚が1つあるだけで、あとはちょっと大きめのベッドのみ。寝ることだけに特化された部屋だった。
 
「い、いきなり語れと言われましたも……その、テンションが上がっていない、というか……」
「うーん、それもそうかぁ」
 
 つまるところ、自分の嬉し恥ずかし体験談を話せというわけなので、それはしかたないなとあおいは思う。
 しかしそうは問屋が卸さない。カチコチと考えを巡らせ、ちょっとしたイベントを考えた。
 
「結局、シチュエーションは人物ありきだと思う」
「……そう、ですか?」
「官能小説に限らず、よくありそうな……例えば『女性が自分の部屋に男性を招く』とあった場合」
「よくあるシチュエーションですね」
「たしかに。でも、これって……
 女性と男性がある程度、仲が良くって。
 女性が男性を部屋に招くぐらいの積極性がある。
 少なくとも、これぐらいは満たしていないと起こりえないシチュエーション。まあ、経験談だけどね」
「うーん、そう、でしょうか……」
 
 アニメやゲームの知識程度しかないみひろには、どうもピンと来なかった。
 現実はそうなんだろうな、ぐらいに考えた。
 
「でも、いざこのシチュエーションで何かお話を書く場合。
 男女の感情や距離感を元に、部屋に招くというシチュエーションを考えるのか。
 女性が男性を部屋に招く、というシーンを元に、男女を考えるのか。
 場合によりけりと言ってしまえばそこまでだけど、なかなか難しい」
 
 みひろにしてみれば、そんなことはどっちでも良かった。が、何か作家的に考えるところがあるのだろう。
 
「あおいさんは、どちらがいいと思うのですか?」
「私は、前者がいいと思う。だってね……」
 
 座りなおし、あおいはみひろに向き合った。
 
「私がね、この寝室に招くっていうのも、そういうことだよ」
「え……?」
「私は、異性はもちろん同性も、心を開いていないと寝室には招かないよ?
 だって、数少ないプライベートルームだしね」
 
 あおいは手をみひろの手に重ねた。
 普段なら、それとなく拒んだ。しかし、あおいの真剣な表情、この部屋の雰囲気が、それを邪魔する。
 
「あおい、さん……?」
「でも、どれだけシチュエーションを用意しても、大切なのはお互いの距離感だよね」
 
 じぃっと、みひろの顔を見る。
 
「みひろさん」
「は、はいっ」
 
 
 
「どう? テンション上がった?」
 
 
 
「え、え?」
「即興で思いついたわりに、なかなか良いシナリオだったと思わない?」
「良かったですね」
「そりゃあ良かった。学生のころは演劇やってたし、そこそこ自信あったんだよね」
「ハハハ」
「え、怒ってる?」
「怒ってませんよ。私を怒らせたら、たいしたもんですよ」
 
 いくらあおいでも、このネタは知っていた。
 ……体中から、イヤな汗が噴き出るようだった。
 
「でもでも、前者がいいと思ってるのは本当だよ?」
「そっすか」
 
 ここまでふて腐れる担当も、いかがなものだろうか。
 
「だってさ、今どき女性が濡れていないても、ローションという手があるじゃない?」
「え?」
「え?」
「キスで濡れないんですか?」
「……キミは、なかなか感じやすいようだね」
 
 マンガとかなら、最初のキスでそれこそぐちょぐちょだったのに。
 
「で、ローションという明らかな代用品があるのに、実際は前戯や後戯まである。それは、なぜか?」
「気持ちの探り合いとかでしょうか?」
「きっとそうなんだけどね、やっぱり非効率だと思わない?
 その日の体調によっては感じにくい日もあるし、感情によっては触れられることすらイヤな日もある。
 それってさ、どれだけシチュエーションが良くっても……誕生日にちょっといいホテルを予約されても、遠距離中でひさしぶりに会ったとしても、無理なものは無理。
 シチュエーションは万能じゃない。やっぱり、人物ありき」
「そうですね」
 
 ご存知ではないところは、とりあえずうなづく程度にしておく。
 
「でもシチュエーションがなければ、お話の魅力はガクっと落ちる。うーん、ジレンマ」
「あはは」
「で、シチュエーションを語ってもらおうか」
 
 ここでふりだしに戻った。
 ずっとシチュエーションを考えているものの、今ひとつ妄想回路は動かない。
 
「まずはあおいさんのお話が聞きたいです」
「私の? 普通の話しかないよ?」
 
 これはあれだろうか。私は普通じゃない話を期待されているのだろうか。
 時間稼ぎの行動が、どんどんハードルを上げているようだった。
 
「そうだなぁ……
 キレイな、真っ白のシーツの上でね。お互い、ありのままの姿になってね。
 最初はそこに座るように、ぎゅーって抱きしめてもらって、軽くキスしあうの。
 キスの回数や頻度、それが増えると共にお互いの気分は昂ぶってくるの。
 私は、優しく寝かされて、彼が上から覆ってくる。
 軽かったキスは、じっとりと、深いものになってきて。
 手はきゅっと握ってもらって、そこからの体温がすごく優しくって。
 唇から、首。そこから鎖骨に下がって、キスされたり、舌をそわされたり。そして、あむあむ噛まれたいかな。
 こんな感じ?」
 
「なんだこの可愛いリア充はぁぁぁぁ!」と言ってやりたいところをぐっと我慢する。
 
「なんですかそれ? 体験談ですか?」
「え、うん……ちょっと恥ずかしいね」
 
 赤くなっているだろう両頬を、手で覆って隠している。
 その可愛い仕草が、いちいちみひろのツボに入っていた。
 
 この作家はステキな体験談を話せるぐらいキャッキャウフフな日々を送ってきたのだろう。それに比べて、私は……と、みひろは言い様のない怒りが湧いてきた。
 非リア充を(勝手に)代表して、ここを引くわけにはいかない。
 
 ……そろそろ本気、出しましょうか。
 見せてあげましょうか……普通じゃない、体験談(妄想)とやらを!
 
「? どうかした?」
 
 妄想回路の処理速度がどんどん上昇していく。
『学校』『放課後』『告白』。
 まだ、まだ足りない。
 
「き、キミ?」
 
 ……見つけた。
 
『無理やり』
 
「あおいさん。私は」
 
 
「学生のころ、ある日の放課後のことです。
 私は、クラスメイトの男の子に呼び出されました。
 窓からは夕日のオレンジ。その男の子の足元から伸びる影。校庭からは、金属バットがボールを打つ音。
 その男の子とはさして仲が良かったわけじゃなかったんですが……そりゃあ、期待しました。
 ……そうですね、その男の子をAくんとしましょうか。
 「みひろ、大事な話があるんだ」
 「なあに、Aくん」
 このときです。私は、Aくんに抱きしめられました。
 咄嗟のことだったので、私は抵抗できませんでした。
 ……抵抗、しなかったのかもしれません。
 「な、なに、Aくん?」
 「俺、みひろのことが好きなんだ」
 私は、もちろん驚きました。でも、でも。すごく嬉しかったです。
 返事の代わりに抱き返して……そっとキスをしました。
 「これが、返事だよ」
 やっぱり、若かったんですね……
 そのあと、日が落ちるまで、見回りの先生とかが来なくなるまで、こっそり教室の隅に隠れていました。
 何てことない世間話がおもしろくって……箸が転んでもおかしいと年頃でした。
 そして、いよいよです。人の気配が完全になくなったころ、私たちはまたキスをしました。
 今度は子供のようなキスではありません。気持ちを昂ぶらせるための、キスです。
 Aくん、興奮したんでしょうね。彼の右手が、私の体……このころから、ある程度のボリュームがあった胸に、触れていました。
 「あ、ごめん」
 「もう……えっち」
 ……でも。
 「いいよ。触って、いいよ」
 あれを、母性本能って言うんでしょうか。恋愛感情とは別に、すごく、愛しく感じました。
 「あの、さ……続き、していいかな?」
 その続きというのが何を意味しているのか、もちろん知っていました。
 でも、さすがに教室っていうのは……
 「え、ごめん……ここでは、ちょっと……」
 「少し、少しだけでいいから、さ」
 ちょっと無理に、彼は触れてきました。私は抵抗しましたが……女性は男性に敵うはずがありません。
 ですが。
 ちょっと抵抗しながら……私は、楽しんでいました。当時はMだったのかもしれません。
 そのあとは、ただ体を貪り合いました。
 
 ……と、まあ、こんなことがありました」
 
 ひさしぶりの妄想回路の酷使に寿命が縮まった(ような気がする)。
 さて、これが作家にどこまで通用するのか……
 
「…………」
「あおいさん?」
「事実は、小説よりも奇なり、なんだなぁ」
 
 よく見ると、目が潤んでいる。感動して、涙が出たというのだろうか。
 
「そんな非現実的なことが体験しているなんて……もう、それで1作品ぐらい書けるんじゃない?」
「あ、はは、ははは」
 
 言う気はなかったけれど、いよいよ「妄想でした」とは言えない状況。
 
「……ま、それはそれとして。何度も言っているけど、結局は人物ありきだから、登場人物が決まったあと、そこからまた考えようかな」
「そのほうがいいですね」
「今度は、ノーマルな体験談、用意しておいてね?」
 
 どれだけアブノーマルな人間と思われているのだろうか……
 
「あ、それと、何で肝心なところ、しゃべってくれなかったの?」
 
 それは、処女だからですよ……妄想はできても、全然リアリティが出ないんですよっ……!
 
 
 
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◆おまけ1「その1シーン、残酷に」
 
「これはある友達との話しです。あ、もちろん同性ですよ?
 私とその友達とは学生のころからの付き合いでした。
 いつも腐トークしていました。クラスメイトの男の子同士でかけ算してニヤニヤしていました。
 年賀状は、そのときハマっているマンガやゲームのカップリングのイラストでした。
 内々で同人誌っぽいのも作ったこともありました。
 大学に進学して、お互い進路が違ったので疎遠になりました。
 
 ……そうですね、あれは、大学を卒業するかしないかのころでした。
 たまたま、その友達を見かけたんです。
 
 かっこいいメンズ……彼氏さんと思われる人がいました。お手々、握っていました。
 着ている服もおしゃれでした。ところどころの小物もステキでした。スイーツ(笑)でした。
 
 私? とあるイベントのために前日入りしているときでしたよ?
 
 な、泣いてませんよ。私を泣かせられたら、大したもんですよ」
 
 
 
◆おまけ2「匿名で答えてもらいました」
 
 今日はある2人の女性に、いくつかの質問を答えてもらいました。
 匿名なので、回答者の自然な答えを知ることができるでしょう。
 名前はもちろん、答えた内容は誰にも伝わりません。
 どうぞ、自由にお答えくださいませ。
 
 
◇「攻めの反対は?」
 
「守り」
「守り」(キリッ
 
 
◇「理想の男性像を教えてください」
 
「教養のある男性がいいかな」
「ちっちゃくって、童顔で、無理やりメイドの格好をさせられた男の娘です」
 
 
◇「理想の女性像を教えてください」
 
「感情的にはならないけど、心のどこかで情熱を持つ人になりたいかなぁ」
「素直クールですかね」
 
 
◇「嬉しかった話をしてください(性的なことで)」
 
「朝起きて、恋人が隣で眠っているのは幸せ、かな」
「好きなカプが公式になったことですね。まあ、偶然ですけど」
 
 
◇「イラっとした話をしてください(性的なことで)」
 
「巨乳モノのAVを見ているところを発見したとき、かな」
「公式で逆カプになったことですね。これも偶然ですけどね」
 
 
◇「もし1日だけ性転換できたら、何をしますか?」
 
「更衣室や銭湯とか、普段立ち入れないようなところに行ってみたいなー」
「更衣室や銭湯とか、普段立ち入れないようなところに行ってみたいですね」
 
 
◇「考えうる限り、変態的な行為と言えば?」
 
「えー……恋人同士のレイプごっこ、かなぁ」
<あまりに過激な内容のため、掲載することができませんでした>
 
 
◇「恋多き人生か、たった1人に愛を注ぐ人生。どちらがいいですか?」
 
「恋多き人生かなぁ。ネタには困らなさそうだし。でも、うーん。悩む」
「え、それって二次か三次、どっちの話ですか? え、三次の話……ですか、そうですか。どっちでもいいです」
 
 
◇「攻めの反対は?」
 
「守り。これ最初の質問だったような……」
「受け。あ、いえ、守りです、守り」
 
 
◇「自分の相方について、一言」
 
「ここ数年、そんな相手いません……」
「ここ最近、アニメもマンガを見ていませんねぇ」
 
 
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