OX.どうか彼女に微笑みを
いまいる自分のことを確認しよう。
トップは詩織、点差は三万九千。親は玄武の清水。
六回戦、最終局。
止まない雨の音が俺のことを笑っている。
できることはすべてやった。いまさら後悔したって仕方がない。
三回戦、上家がアガった役満も、四回戦で朱雀牌を抱えた天馬が詩織の四暗刻単騎へ放銃して引きずり降ろした。
それきり清水と導師はガタッとツキを落とした。上家と下家は組んでいるのだから当然だ、一蓮托生、すでに勝負の場にはいない。
だが、詩織は単騎だ。
あいつは闘うことを望んでいる。俺を殺す気でいる。
その殺意が、いまは心地いい。
そうだ、殺してみろ。あとほんの少し、喉元に食い込んだその刃を押し込めれば俺は死ぬ。
いま、俺の前に伏せられた十四枚。
この配牌ですべてが決まる。
圧倒的な点差。ダブリーだろうと五面張だろうとアガれば負ける。俺がトップを取り、詩織をラスにしない限りは……。
それなのに。
どうしてだろう。笑ってしまう。楽しくて仕方がない。
全身から汗が噴出し、目の奥が焼けるように痛み、いまにも星空色の卓になにもかもぶちまけてしまいそうなのに。
ああ、そうだ。
俺は、いま命を燃やしている。
それを感じるから、楽しいのだ。
これは生命の無駄使いだ。愛と正義と秩序に対する大冒涜だ。
詩織だけじゃない、世界そのものが俺を殺そうとしている。
運命が目障りなこの俺を始末してしまおうとしている。
ああ、そうだ。
俺とてめえらは、最初からそういう関係。
だが忘れるな。
俺の一撃は自分も死ぬが、
てめえらも殺す一撃。
死んでもいいが、
道連れは必ず連れて逝く。
手牌を開ける。
一三五九(4赤5)45 青青白中発
深く深く息を吐く。
なにかを悟ったような細く長い、熱い吐息。
よし。
いこうか。
紙島詩織は圧倒的大差の上に立っていた。
積み上げ、積み上げ、積み上げた、詩織のリード。
それはひとつひとつの段差が血の滲むような苦痛からできていた。誰の、というのではない。この卓にいる四人全員の熱い血潮と凍る恐怖。頂への道は全員に開かれていた。
いま、詩織が、もっとも天へ近い場所にいるだけのこと。
(あたしは正しい――――)
(いつだって正しかった)
(だから、これからも)
(絶対に負けない)
すでに勝負は天馬と詩織のサシ。他の二人に勝ち目はない。案山子も同然。せめて勝者に慈悲を乞うために場を荒らさない無風であろうと努めるのみ。
無様だ。詩織は嫌悪のあまり、二人の顔を見ることさえしない。
手を組んで自分と天馬を陥れようとした結果がこのザマか。恥を知るといい。
最後まで闘えなくなったなら、いっそその場で自決しろ。
それがこの勝負に対する礼儀というもの。
でなければ詩織の強さと正しさが証明されない。死肉と腐臭によってのみ、勝者は敗者の終わりを実感できるのだ。
いま、詩織の目の前に一匹のシマウマがいる。
傷だらけになって、もう走る余力さえ残っていない。フラフラになりながら、必死に詩織を出し抜く隙をうかがっている。牙もないくせに。
獅子になれなかった男。この男は甘さのせいで深手を負った。
五回戦、一瞬とはいえ詩織から気を逸らした。
組んでいる清水と導師をやっつけるための見えない共同戦線、それから離脱した詩織に気づかず、血の数字を削り取られた。
愚かしい。
だが、それが男のサガとも言える。くだらない意地、見栄、誇り。
そんなものは詩織にはいらない。
ただ勝てばいい。勝てば生き残れる。食べられないで済む。
いや――――と詩織はくすりと笑う。
おまえは臭くて食べられないと言われた、エサの気持ちがわかるか、馬場天馬。
草原の土と獣の肉に還ることもできずに
生きながら腐っていくけだものの気持ちが、
おまえには決して―――――――わからない!!!
詩織は手牌の中から迷わずに一枚抜き取って、卓へ打ちつける。第一打、八萬。
天馬が手牌から顔をあげた。
虚空を貫いて、二人の視線がかち合った。
詩織は妖艶に笑う。自分のチカラでヒトから奪った笑顔で、笑う。
殺してやる、これからここで、いますぐに。
皆殺しだ。誰一人として許しはしない、誰一人として逃しはしない。
この手牌で。
深く深く息を吐く。
なにかを悟ったような細く長い、熱い吐息。
よし。
いこうか。
紙島詩織は圧倒的大差の上に立っていた。
積み上げ、積み上げ、積み上げた、詩織のリード。
それはひとつひとつの段差が血の滲むような苦痛からできていた。誰の、というのではない。この卓にいる四人全員の熱い血潮と凍る恐怖。頂への道は全員に開かれていた。
いま、詩織が、もっとも天へ近い場所にいるだけのこと。
(あたしは正しい――――)
(いつだって正しかった)
(だから、これからも)
(絶対に負けない)
すでに勝負は天馬と詩織のサシ。他の二人に勝ち目はない。案山子も同然。せめて勝者に慈悲を乞うために場を荒らさない無風であろうと努めるのみ。
無様だ。詩織は嫌悪のあまり、二人の顔を見ることさえしない。
手を組んで自分と天馬を陥れようとした結果がこのザマか。恥を知るといい。
最後まで闘えなくなったなら、いっそその場で自決しろ。
それがこの勝負に対する礼儀というもの。
でなければ詩織の強さと正しさが証明されない。死肉と腐臭によってのみ、勝者は敗者の終わりを実感できるのだ。
いま、詩織の目の前に一匹のシマウマがいる。
傷だらけになって、もう走る余力さえ残っていない。フラフラになりながら、必死に詩織を出し抜く隙をうかがっている。牙もないくせに。
獅子になれなかった男。この男は甘さのせいで深手を負った。
五回戦、一瞬とはいえ詩織から気を逸らした。
組んでいる清水と導師をやっつけるための見えない共同戦線、それから離脱した詩織に気づかず、血の数字を削り取られた。
愚かしい。
だが、それが男のサガとも言える。くだらない意地、見栄、誇り。
そんなものは詩織にはいらない。
ただ勝てばいい。勝てば生き残れる。食べられないで済む。
いや――――と詩織はくすりと笑う。
おまえは臭くて食べられないと言われた、エサの気持ちがわかるか、馬場天馬。
草原の土と獣の肉に還ることもできずに
生きながら腐っていくけだものの気持ちが、
おまえには決して―――――――わからない!!!
詩織は手牌の中から迷わずに一枚抜き取って、卓へ打ちつける。第一打、八萬。
天馬が手牌から顔をあげた。
虚空を貫いて、二人の視線がかち合った。
詩織は妖艶に笑う。自分のチカラでヒトから奪った笑顔で、笑う。
殺してやる、これからここで、いますぐに。
皆殺しだ。誰一人として許しはしない、誰一人として逃しはしない。
この手牌で。
二三四五六(3556)2278
だが、と詩織は天馬を見据える。牌山に手を伸ばす天馬を見つめる。
天馬が、ここで地和をツモってしまえば、すべてが終わる。
これだけの好配牌がこちらにきているということは、向こうにも流れている可能性は高い。
ツモのみの三本五本が、最初のツモでアガっただけで役満になるのだ。なんというゲームだろう。狂っている。麻雀はバカだ。
天馬がぎゅっとツモった牌をそろそろと見ている。焦らすようなモーション。詩織は殴り殺してやろうかと思った。やつは、こっちがまさかの一撃を恐れていることを知っているのだ。
こっちは戦艦、向こうは敗色著しい負傷兵だというのに。
おかしい、おかしい、おかしい。
麻雀は狂っている。
タァン――
天馬はツモらなかった。それだけで詩織は泣きそうなほどに安心した。
これでいい。この配牌なら負けはしない。
どこからでも叩いてやる。どんな安手にしたってアガってやる。
ただアガる、それだけでいい。
詩織、第二ツモ……ざらりとした、この感触。
九索。
もちろん打(3)ピン。
二三四五六(556)22789
一四七萬、(4-7、5)ピン、2ソウ、どれを引いてもテンパイだ。
だが、青がある以上は、出アガリはリーチしかない。
ほんのちょっとだけ、嫌な予感がした。
だけれどそんなもの、吹き飛ばせるくらいでなくて、どうして生きていけよう?
嫌な予感、悪い気配。
そんなもの、詩織の人生にとっては空気のようなもの。
どこにでも充満していたし、いつだってそばにあった。
ないと落ち着かないくらいじゃないか。
詩織の瞳に、たったひとつ、過去の自分の面影を残している綺麗な瞳に活力が戻ってくる。
決めてやる。
テンパイしたら、リーチだ。
どうせ楽には生きていけない。
なら進もう。
生きるために、勝つために。
そう。
明日へ。
詩織がずっとツモ切りを繰り返しているのを見なくても、天馬は彼女が好形イーシャンテンであることはわかっていた。
これまで打ってきた流れがある。それに、この世界は俺のことを嫌っている。だから当然。
いま、やつがリーチと打ってこれないのは、俺が刻んできた、この勝負の異常が積もり積もったものの産物。
もっと早くに終わっていたはずのこの勝負に、俺がまだ残っていることへの、世界からの嫌々ながらの贈り物。嫌いなやつが年賀状を送り続けてくるので、仕方なく返さずを得ない。そんなもの。
だが、その遺産もすぐに尽きるだろう。
その前に、この牌を重ねれば……
勝つか負けるかはべつにして、俺はこの手と心中できる。
それでいい。
導師が打牌し、天馬の番。
ここで引けなければ詩織からの三面張リーチが来る。
天馬はなかなか山へ手を伸ばさなかった。
怖かった、それもある。
でも、それ以上に、名残惜しかった。
この勝負が。この情熱が、
本当に、綺麗だったから――――
それでも時は止まらない。
終わるからこそ、美しい。
人も命も俺とおまえも。
天馬は配山に手を伸ばし、
裏返しにした牌を、天馬は卓へ割れんばかりに叩きつけた。
「リィ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――チァッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
打、赤5p。
詩織が苦しげにくっと喉を鳴らしたが、その口元は、本人も気づいていない形に歪んでいた。
天馬は手を伏せる。いとおしげにその連なりを見つめる。
これが俺の最後の一撃。
奇跡のカタチを教えてやる。
天馬の洞察力が優れていたのか、それとも世界が同調したのか。
天馬のリーチ順、詩織は(5)ピンをツモってテンパイした。
二三四五六(5556)22789
(6)ピン切りで一四七萬待ち。だが、天馬の河に(6)ピンはない……。
この順目、天馬の手を読むのは簡単だ。
三萬、四筒、四索、八索、七筒、七索、八萬、八萬、一筒、五萬、赤五筒。
最初に真ん中の油っこい牌を打ち捨てて、後半に筋牌がぽろぽろ零れて、最後が赤。
典型的な赤ドラの重なりを考慮したトイツ手。
通常なら字牌単騎のチートイツだが……チートイツでは逆転までリーチチートイ+一発ドラあわせて直撃であと八飜必要。ここ三暗トイトイか国士と見るのが妥当。
しかし、三倍萬をハネマンで済ませられる牌がたったひとつある。
獣牌だ。
獣牌単騎のチートイツなら詩織の放銃でリーチチートイ赤獣獣で一発なしのハネマン、一万二千の二倍は二万四千。三万九千の差は吹っ飛ぶ。赤五索は姿を見せていない。
ではオリればどうか。なるほどリーヅモチートイ獣獣赤それに表表の裏裏で倍満。四千八千。
三万九千は縮まらない。では三萬を抜き打ちして降りてしまえ。そうしようそうしよう。
死ね。
詩織は自分の唇を噛み千切った。つうっと桃色の唇を赤い赤い血が滴る。
リーチときているからチートイツ? ふざけろ。出アガリ期待の三暗トイトイのドラ爆弾かもしれなければ、普通に国士の可能性だって消えちゃいないのだ。ふざけろ、ふざけろ!
四暗刻、単騎かもしれないんだ!
(6)ピンを持つ手が震える。打ってしまったらどうしよう。流局を目指してオリてしまいたい。きっと天馬はツモれない。そうだ、あんなやつ。
自分だって、そうだったではないか。
詩織の心臓がぎゅっと縮こまる。嫌な記憶が、忘れてしまいたい光景が脳みそのなかを乱舞する。
やられる。ここで攻めなければ、死ぬ。
「う……」
震える。こんなリードがあるのに。あんなやつ相手に。
詩織は泣いていた。
「リィ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――チィッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ダン、と詩織の魂の籠もった(6)ピンが星空に叩きつけられた。
緊張の一瞬、誰も息ができない、雨の音さえ溶けて消えてしまう静寂。
天馬はにやっと笑った。
「通るぜ」
「――――――はあっはぁっ」
詩織は肩で息していた。装束の袖でぐいっと涙をぬぐう。
袖をおろすと、妖艶な微笑を浮かべる巫女が戻ってきた。
「これであたしの勝ちだ、馬場天馬」
「へえ、そんなにいい待ちなのか?」
天馬はどこか嬉しそうに俯いている。詩織にはそれが負け犬の最後の意地に見えた。
「そう、絶対に負けない自信がある」
「そうか。じゃ、そうなのかもな」
「素直なんだね?」
「ああ、俺は正直者だよ。上手な嘘がつけなくって、こんなところまでやってきた」
「ふふ、よかったね? もう嘘をつかなくてもいいよ。君は楽になれるんだ。辛い現実、うまくいかないイマ、そんなものに悩まなくってよくなるの。そう、死ねば助かるんだよ」
「俺は死なねえ……」
天馬はスッとツモった牌を軽くなでると、かみそりのような腕さばきでそれを河へダァンと捨て放った。
三萬。
詩織はぴくりとも動かなかった。
「死なねえ理由は、生きてる方が楽しいからさ。負けたくないから生きている、そんなおまえとこの俺じゃ、いい勝負だとはいえ、わずか一手、それでも俺のが上だと思うぜ」
「ふん、そんなの、」
詩織の言葉が途切れた。
ツモった牌は、見なくてもわかる。さわれば、指先から伝わってくる。
白虎が、詩織の手に噛み付くように、おのが彫りを訴えている。
その刹那は、その生涯を通じて、もっとも紙島詩織のなかで記憶に残る瞬間となった。
ダァン――――
詩織は運命の牌を打った。天馬が、じっと詩織の指で隠れた牌を見つめている。
焦らすように、詩織はゆっくりと指を離した。
二索。
きっと、神の目さえも盗めただろう。
二三四五六(555)789 2虎
詩織は影も残さぬ超絶な小手返しで、雀頭を崩した。
流局すればチョンボだ。だが、それで天馬の逆転手を潰せるのなら安いもの。
これでいい。どうだ、馬場天馬。このわたしは死に牌をつかんでも死なないのだ。どうやって殺す? どうやって始末する? 勝負にもならない。笑い話だ。おまえなんて笑い話に過ぎないのだ。愚かな夢を、草原を走る抜ける夢を見た哀れなシマウマ。獅子に呪われ、最後は醜いけだものの糧となって死ぬのだ。
ざまあみろ。
光と風に惑いし愚か者、おのれが神に供物として造られたと知るがいい。
詩織の心を切り刻むような、天馬のツモがひとつひとつ過ぎていく。そして、最後のツモ。
天馬は目を細めて、引いてきた牌を卓に放った。
四萬――。
「あははははははははははっ!」
誰も驚かなかった。ただ、俯いて、勝ち誇る詩織に頭を垂れている。その脳と魂を捧げるように。
「ざまあみろ、ざまあみろ! おまえは愛されてなんかない! こんなときに逆転できるはずがなあい、あは、あははは、あははははははは! あたしだ! 世界はあたしを選んでくれた! 最後の最後に……あたしのことを認めてくれたんだ! なんて幸せ! なんて至福! こんなの感じたことないよ……! やっと、やっと、あたしは報われた。よかった、本当によかった、ありがとう! 感謝してあげる! おまえら全員、あたしの踏み台だったってわけ! あはははははははは! ざまあみろ、ざまあみろ! ざま――――――――みろ―――――――ははははははははははは!!!」
天馬の顔は見えない。旅の間に伸びた前髪が、彼の顔を覆い隠している。
蚊の鳴くような声が、空ろな口から流れ出す。
「ツモれよ」
「は?」
「ラスヅモ。おまえだ。まだ、俺にも目があるかもしれない」
「はははっ! この流れで? あたしは奇跡を起こした。おまえのアタリ牌を止めてやった! そのあたしが、あんたのアガリ牌を掴むはずがない。夢を見るのも大概にしろ、この恥知らず、阿呆、グズ、ゴミ、ブス、蛆虫、ヒトモドキ!!!!!」
それはいつか、どこかの誰かが、詩織に向かって言った言葉だったのかもしれない。
悲しくて切なくて、どうすることもできなかったことが、紙島詩織を、いやもうどこにもいないどこかの少女を紙島詩織にしてしまった。
天馬には、それが悲しい。どうしても、悲しみを拭えない。
それが天馬の甘さ。
そして。
それが天馬の……。
詩織が、最後の牌を卓へと打ち放った。
青龍。
国士無双なら当たる可能性はある、だが、
「ど―――――だ、見たか? 国士はもう場に一筒が四枚切れでありえな――――――い! あははは、あは、はは、ふ、くく、く、あたしの守護神、あたしの式神、あたしの味方! 最後の最後まで祝福された! 勝負はあたしの勝ちだ! あたしの式神であんたはあたしからアガれない! 勝った、勝った、あたしはあんたに勝ったんだ! 奇跡は起こらない、これは運命、世界がおまえに与えた裁きのいかづち! 死に損ないめ、いますぐその首掻っ切ってやる!」
狂ったような詩織の哄笑は止まらない。
俯いた天馬は、細く細く息をつく。
「確かにそれは俺のアガリ牌じゃない。
親の玄武もテンパイしていないだろう。
この半荘にもう連荘はもうない。だが」
天馬は顔をあげた。
その眼光の鋭さ、ギラギラと濡れ、宇宙よりも銀河よりも暗黒と幻想を秘めた瞳。
修羅の瞳に見つめられ、詩織は口もきけずに凍りついた。
鬼が笑う。
「奇跡なら、ここにある」
「え―――――――――」
カ ン
パタリ、と。
天馬は三枚の青い龍を、倒した。
呆然とする三人を前にして、かっかっかっと天馬は笑いに笑った。大口を開け、腹の底から笑いあげた。
「罪状、ハイテイでのダイミンカン、およびリーチ後のダイミンカンだ。ダブルチョンボといいてえところだが一回分で負けてやらあ」
「な、な、な」
「星辰麻雀は他人の点数を操作するゲームだ。ダメだとは言わせないぜ。てめえの式神を持ってる限りこの手牌は詩織、てめえのもんだ。チョンボもな。く、くくく、くはははははははは!」
「き――――さま」
「これが俺の麻雀だァ! さァいこうぜ、南四局零本場!
奇跡の味を教えてやる!!」
そして――
これが天馬の、強さだ。