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【四年前 九月 肆】

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「まずそれ止めろ」
 かくかくしかじか。漫画で言えば8文字で済むようなことを私はその何十、何百倍と言った言葉で説明しました。ここに行きあたるまでの話を。
 一通り聞いたお姉ちゃんはけだるそうに身体を倒し、椅子を軋ませています。椅子は今本来セットになっているだろう机からは離れ、ベッドに座る私と向きあえる位置。そうせずとも並んで座ればいいのですが、まだできないということなのでしょう。
 距離はまだ遠いようです。
「それってなにがですか?」
 きょとんと全く分からないこちらに対して、うんざりしたような顔を浮かべてました。
 お姉ちゃんはひとさし指を私の唇にとんとのせます。
「それはそれ、だ。その喋り方だよ。お前中学生になったんだろ? いくらなんでも気持ち悪いわ。なんかキャラ作ってるならまだ救いようもあるが、ナチュラルってのは傍から見てて痛い。あーこんなのが俺の妹だったのかよって、こっちまで気が滅入るぜ」
「そ、そんなにですか」
「おう。あと、聞く限り遊びに誘いすぎだ。毎日ってよ。うん、多分精神年齢が低すぎるんだろうな、お前」
「精神年齢……」
「いいか」
 そう言うとお姉ちゃんは一度椅子を降り、背もたれを正面に返しました。そしてその上に組んだ腕を乗せる形で座りなおします。
「いじめってのはいじめられる方も悪いなんて理屈はない。けど理由はあるんだ。いじめられていい理由は無くとも、いじめの対象に選ばれた理由は確実にな。クラスの中でなぜわざわざお前がいじめられたのか。俺のときみたいな分かりやすい理由もあれば、単にむかつくからなんていう言いがかりみたいなのもある。でもそういう言いがかりも、突き詰めれば根っこはあるもんだ。例えばその喋り方、うざいくらいの遊びの誘い」
「うざかったんですかね……私」
「俺から見ればな。一般的に言えば、だ。原因は他かもしれない。もちろん毎日遊びたい奴らだっているだろう。もし友達がそういうやつらなら困ることも無かったな。けど不運にも違った。類は友を呼ぶって言うだろ?」
「そうですね」
 相槌は打つものの、どことなく否定したい自分もまた居るのでした。
「あれはきっと、類だから友になるんだと思うんだ。つまるところ」
「でも私達初めは仲良かったんですよ?」
「だから、次第に類じゃないことに気付いちまったんだろ」
「……なんか、はっきり言われちゃうと悲しいですね」
 分かっては居ますけど。やっぱり他の人からも言われちゃうと、受け止めざるを得ないと言うか。思い過ごしだ、なんて思う余裕は消えてしまうんですね。
「はっきりも何も、事実は事実だろ。知ってようが知るまいが。まぁ、負けた俺が言うのもおかしな話だけどさ。なに、経験者がアドバイスしてやるんだ。お前は同じことにはならないだろうよ。流石に安心しろとは言えないところが頼りない所ではあるが、最善は尽くそう。なんたって俺の平穏がかかっているんだからな」
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