文藝瞬発創作企画
09『カール・ピーター・ヘンリク・ダム』 作:虎政
「怒るな怒るな…カルシウム足りてないんじゃないか?」
「べーだ!カルシウムだけじゃ駄目なんですぅ!
ちゃんとビタミンKも取らないとカルシウムは定着しないんですぅ!」
「そういう意味じゃねぇよ!逸れにそれは骨の話だろうが!」
売り言葉に買い言葉。
それが俺たちの普段の会話、そして日常。
そんなある日、女が階段を踏み外して脚の骨を折った。
「お前、本当にカルシウム足りてないな…」
「うるさいなぁ!牛乳をちゃんと飲んでるよ!」
「……アレだろ?カルシウムだけじゃ駄目なんだろう?」
「うっ!?」
「くくっ…ビタミンKだろ?…アレも取らないと骨にならないんだろ?くくくっ…」
俺は笑いをこらえながら女の揚げ足を取り始めた。
「そうやって過去の話を持ち出す男は最低です!」
「バーカ、お前だってしょっちゅう持ち出してんだろうが?
折角お見舞いに来てやったのに、ふくれてんじゃねぇよ」
そう言いながら俺はお見舞いの品を袋から取り出した。
「おお!何々?お菓子!優しいなぁ!あれかな?ビタミンKだけにチーズかな?
チーズケーキかな?」
女が嬉々とした声を上げた。
「騒ぐな、卑しいな。残念ながら俺はそんな気の使い方しねぇよ。
逸れにビタミンK取りたいなら納豆くえ、納豆!」
「…やだよ。臭いじゃんアレ…」
「臭かねぇよ!納豆馬鹿にすんじゃねぇよ!お土産やらねぇぞ!
ショートケーキだぞ!イチゴ外すぞ!この野郎!」
「わわわ!ゴメンなさい!私が悪かった!だからイチゴは取らないで!」
俺は慌てる女にケーキとプラスチックのフォークを渡した。
そして二人でケーキを食べ始めた。
「しかし、お前、そんなドジなキャラじゃなねぇだろ?
流石に心配したぞ?」
「うん…なんかちょっとボーっとしててね。
でも、そうやって君が私を心配するなんて
滅多に言わないのにどうしたんだい?
逸れに今日は仕事じゃなかったのかい?」
「今日は休みなんだよ。いちいち気にすんな。このドジめ」
俺は強めの口調で返したが、自分がお見舞いに来たことに
恥ずかしさを憶えていた。
なぜなら今日は、女が階段から落ちて病院に搬送されたと聞いて
血相を変えて会社を早退し大慌てで駆けつけたところ
以外な程、けろっとしている女を見て
自分の慌てぶりを馬鹿にされるのではないかという
小さなプライド守る為にこっそりケーキを用意して現れたからだ。
「ふぅ…ご馳走様♪……お?」
女がケーキを食べ終わり何かあったのか俺の顔を見つめている。
「なんだ?」
その瞬間、女の顔が俺に近づいた。
「心配してくれてありがとう」
不意に唇が重なった。
俺は驚きのあまりきょとんとしてしまった。
「へへへぇ~、君もドジだなぁ♪クリームがついてたぞ♪」
俺は恥ずかしさを隠しきれなくなっていた。